第二話 死にゲー
「いい加減にしろ、オーマッ!?」
部屋中に男の叫び声が響き渡る。その音圧に思わず耳を塞ぎ、げんなりとした顔を浮かべながら言う。
「そうは言われても………」
「毎度毎度、お前はどこで犯罪組織の居所を仕入れているんだ!?後、殲滅作戦をするなら国に連絡しろ!事後報告をするな!報告、連絡、相談!ガキでもできることがどうしてできない!?」
「………本当にいるかどうかも分からないのに、話しても責任取れないと思って」
「そう言って今まで外れた事があったか?」
このやり取りも何度目だろうか?冒険者ギルドの王都支部長―――グランツ・クォーターに呼ばれる度に説教されては、流石に気も滅入る。僕は別に間違ったことは言ってないし、悪いことしたわけでもないのに………ひどいよ。
「………いいか、オーマ。お前達【帝王】の働きは良く知っている。国に潜む悪を次々と討ち取って治安維持にも貢献してくれている、その点には感謝する」
だがな、と目を鋭くして睨みつけてくる。圧が凄いです、思わずちびりそうになるんで止めてください。
「お前達はどいつもこいつもやりすぎだっ!?アジトの壊滅まではいいが、被害が大きすぎる!」
「えっ?僕の所は何ともなかったけど」
「本アジトの話だろ、お前が隠しアジト向かわせた【剣姫】共が暴れ散らかして周辺の建物が崩れたぞ」
ふむ、成程………腰掛けていたソファーから流れるような動作で降り、床に正座し深々と頭を下げる。これぞ、ジャパニーズ式謝罪土下座、最上級の謝り方である。さぁ、これならグランツさんも許して………冷めた目で見つめてるぅ!?
「【剣姫】は建物三棟近く斬るし、【疾風】は周辺を粉々にするし、【空蝉】は騒音でクレームが入る………祭り直前に対応した俺の苦労がわかるか?」
「いや、ホント。申し訳ないっす、ハイ」
グランツさんごめんよ、一応注意はしたんだよ?暴れすぎるなって。彼等彼女等も加減はしてくれたみたいなんだよ、本気出せば今の倍以上の被害だから。というかスロートだけしょぼくない?なんだよ騒音って、日本でも起こりうる問題行動をするな、やるなら異世界らしい方が良かったよ。
開き直りも同然の考えをしていると、グランツさんの目が厳しくなった。ハイ、分かってます。しっかりと反省させてもらいます。
「オーマ、【帝王】のクランマスターであるお前には、一連の騒動の責任を取らせなければならない………結果的には正しい行動をしたお前を罰するのは、あまり気分が良くないが」
バツの悪そうな顔をしながら、一枚の依頼書を僕に手渡ししてくる。何だよ依頼って、面倒くさい。嫌々依頼書の内容を確認する。誰か適当な人に押し付けて………。
「………グランツさん、受けるよコレ」
「そうしてくれると助かる、上にも示しがつく。それと、お前んとこに碌に依頼を受けない問題児がいただろ、そろそろ受けさせろ」
「大丈夫、元からそのつもりだよ」
「………なんかまたやらかすつもりか」
その言葉に答えることなく、部屋から出てゆっくりと扉を閉める。背後から罵声が聞こえた気がするが、気のせいだろう、うん。
「終わったか」
「フェルス」
部屋を出た通路には、扉のすぐ近くに陣取っていた護衛のフェルス・モバルトがいた。槍を携え壁に寄りかかっていたフェルスは、僕の姿を見ると姿勢を正して僕の下に来た。
「ッたく、ギルドのクソ共。ボスをパシリに使いやがって………やっぱぶっ殺すか」
「しなくていいよ………」
物騒なことを言い出したフェルスを宥めながら、溜息と同時に歩き出す。後ろをついて来るフェルスと一緒に通路を歩きながら、どうしたものかと頭を悩ます。
ここは、ゲームの世界だ。
オープンワールド型のファンタジーゲーム、『Salvation of God』。
最新のゲーム機、製作に五年は費やし、名だたる著名人によって作られた音楽、グラフィック、演出、ストーリーが調和して、自由度が高く、プレイヤーの行動一つでゲーム内の内容が変わる。その年の最高傑作ゲームだと、SNS上でもてはやされ続け、誰もが期待に胸を高鳴らせた。
神ゲーになると思われた作品だったが、販売初日に大炎上した。
何故かというと、ゲームの難易度が高すぎた。
雑魚敵が強すぎる、遠距離攻撃の火力が高すぎる、装備品や報酬がショボい、被弾後に一定の無敵時間がなく起き攻めされる、プレイヤーのゲームの腕関係なしに運ゲー要素や初見殺しが多い、ボス敵が理不尽なほど強い。
有名なプロゲーマーが、一ヶ月費やして一面と呼ばれるような所をクリアできるほどの高難易度だった。プレイした人は皆、「二度とやるか」「人件費と技術の無駄遣い」「最悪の一言に尽きる」「今世紀最大のクソゲー」「金と時間返せ」など、散々な言われようだった。
僕も例に漏れずその中の一人で、思いっきり台パンをかました。二度とこんなゲームやるか、という気持ちだったがここまでコケにされて終わりにするのは納得できず、最初のボスだけでも倒そうとキレ散らかしながらやること一ヶ月半。トライ&エラーを繰り返し続け、残り体力一割少しくらいのギリギリの状態でクリアした。
その時の僕は、この地獄から解放されるのだという喜びではなく、ゲームの出来に感動していた。高名な脚本家、演出家、プログラマー、イラストレーター、声優を費やしただけあって、繰り広げられる世界観、システム、キャラクターに思わず拍手を送りたくなった。何が何でも神ゲーにするという思いが、画面越しに伝わってきた。だというのに世間には散々な評価を受けて、ネットで叩かれまくるのは悲しいことだし、勿体無いと思った。
このゲームをやりたい、そう思わされた。気が付いたらゲームを起動して、キャラクターを動かしていた。
そこからは真の地獄の始まりだった。理不尽な死、ダメージ計算おかしいだろ、なんでそんなショボい攻撃で死ぬんだよ、ス〇ランカーかよ、台パンしすぎて掌痛い、叫びすぎて近所の人にクレーム入れられた(本当にごめんなさい)、とうとう夢にまで出てきた。決して終わることのない日々に、何度諦めようかと思っただろう。それでもこのゲームにかける製作陣の熱量、最初に受けた感動を忘れることができず、挑戦し続けた。
そして、クリアした。ただのクリアじゃない、完全クリアだ。全てのルートを攻略し、収集アイテムコンプリート、隠しエンディングまで見た。五年間もかかったこのゲームを余すことなくやりつくした。達成感、解放、歓喜、悲しみ、怒り、感動ありとあらゆる感情が押し寄せてきた。
やった、やってやったぞ!本当に長い道のりだった………多分もう二度とやらない。あぁでも、完全クリアしたのなんて僕だけだし、このゲームの配信とかしてみようかな。世界初の男として後世に名を残せるかも………というか眠い、寝よ。そうしてベットで横になって目を閉じる。明日はいいことが起こりそうだなと思った。
だが次の日目が覚めたら知らない天上があった。寝ぼけているのかと、体を起こし顔を洗おうとすると見たことのない部屋の中にいた。
「は?」
慌てて外の景色を確認し、凍り付いた。見覚えのある風景、何度この大通りを通ったことか。ただそれは、あの世界での話で―――。
ここまで言えば分かるだろう、僕はあのゲームの中に『Salvation of God』の世界に名前すら登場しなかったモブキャラに転生した。異世界転生?召喚?どちらかは定かでないが、普通なら俺TUEEE展開を期待するかもしれないし、興奮して世界中冒険しようとするかもしれない。
ただ、違うのだ。この世界は、そんな上手くいかないのだ。人が容易く死に、殺され、殺す世界。僕がこのゲームをプレイして感じた内の一つに、そんな感想があった。ストーリー上仕方が無かったり、僕の行動の性で死んでしまったりした人は多くいた。その度にセーブ、ロード、ファイル保存を繰り返して乗り越えてきたのだ。
それが、現実―――。
一回のミスさえ許されない状況になってしまった、世界を救った主人公はいない、何故ならこの時間軸は本編開始七年前。
「おわ、った」
絶望、ここから数年、数ヶ月、数日もしないうちに殺される、その確信がある。肩から力が抜け、床にヘタレこんでしまいかけたその時、稲妻が頭に走った。この状況を打破できるかもしれないことが脳裏に過った。
プレイヤーを最も死に追い込んだ、ボスキャラだ。この世界のボスキャラは、理不尽の塊だ、全員がアホかと言いたくなるような性質をしている。何百回殺され、セーブし直したのか。だが、一部のボスキャラは最初から悪役だったわけではない。
この世界の話の肝となる、『邪神』によって絶望した心に触れ、闇堕ちさせる。そういった背景がボスキャラにはあった。
「まだ、原作開始前」
ならば、いける。闇堕ちしそうになったボスキャラを救えば、死の危機を回避できるし、上手くいけば仲間にして守ってくれるかもしれない。普通なら無理だが、僕には五年間もの間積み上げた経験と知識がある。
「やって、やる」
こうして絶対に死にたくない男の七年間の冒険が始まった。
「………ボス、平気か?」
「あっうん、どうした?」
「いや、なんか考え事してたみたいだからよ。なんかあったら言ってくれよ?」
「少し昔のことを思い出してただけだよ、気にしなくていい」
そして現在、どういう訳か僕はボスキャラの大半を従えてしまった………いや、何で?




