第四十四話 宴はすぐそこに
喚声が一帯に響き渡る。金属が衝突する激しい音、魔法の爆撃が轟く戦場。【帝王】対『白夜』を筆頭とした犯罪組織の対決。戦況は―――【帝王】が押されていた。
「チィッ!?」
「何なんだ、コイツ等!?」
東では一糸乱れない突撃を前に舌を弾いて防ぐ、西ではいくら斬っても倒れない、不死身のような生命力を見せる者達に驚愕する。
「どうした、さっきまでの威勢は!」
「このッ………!」
「さっさと倒れてくださーい!」
構成員だけでなく、【帝王】が誇る最大戦力である幹部の面々も苦戦していた。ロゼの雷を纏った拳も、ソフィアの杖も空を切り、相手に、『神の使徒』であるペトロに一切攻撃が当たらない。そんな中、カネサダは一人後方から戦況を見定めていた。
(彼の者の持つ異能、『時の流れ』………想像以上に厄介。こちらの攻撃が何一つ通らない)
斬撃、殴打、打撃、魔法。現状試せる方法で何度も攻めたが、どれも当たることはなかった。干渉不可、その癖向こうからは一歩的に攻撃できる………コレはアレか、あの御方が仰っていた「ワンウェイはクソ!はっきりわかんだね」というやつか。
『わんうぇい』とやらの意味は不明だが、恐らくは一方的に攻撃できる、される状況のことを指していると思われる。今の我々の状態と同じ、確かにこれは苛立たしい。
(それも問題ですが………)
一歩後ろに下がっているが故に気付く。ロゼとソフィア、【帝王】の構成員の動きが明らかに精彩を欠いている。単純な疲労ではない、仮に疲れているのだとしても、ここまで遅くなったりはしない筈だ。
一度出た疑問は尽きない。何故、一部の騎士団が反逆行為を働いているのか、何故、外に設置されている砲台が静止しているのか。注意深く、戦況を見極める。
(紅目の騎士団が揃って裏切り行為、砲台から出ている雷………故障ではない、まるで無理矢理押さえつけられているかのような………)
「余所見していていいのか?」
思考を巡らせているカネサダに茶々を入れるよう、ペトロが大鎌で首を取ろうとする。
「えぇ、問題ありませんとも」
背後からの不意打ち、絶体絶命の一時であってもカネサダは一切動じなかった。振り向きざまに刀で弾く。下からの打ち上げをもろに受け、胴が隙だらけになる。致命的な弱点を見せたというのに、ペトロもカネサダと同じように動じなかった。
刃が腹部に食い込み、上半身と下半身が泣き別れ―――とはならない。ここでも『時の流れ』が働く。干渉不可の力、どれだけ隙を見せても意味などない。
(そう、儂の斬撃など無意味………ですが)
弾かれた時、ペトロが苦虫を嚙み潰したような表情を見せた。ペトロからどれだけ攻撃しようとも、【帝王】は反応して防ぎ、当たらないとは理解していても反撃する。ペトロの大鎌の腕は一流には及ばず、精々二流が良い所だ。【帝王】の幹部は勿論、一般構成員であっても負けることはないだろう。
(異能の力に胡坐をかき、武術を極めなかった。人の身にあまる強大な能力に酔った、と言ったところでしょうか)
少なくとも深手を負うようなことはないだろう………だが、『時の流れ』という無敵の力がある以上、無視することはできない。苦戦気味な構成員の戦いに加勢して、下手に寝首をかかれるような真似は阻止したい。誰かがペトロを抑え込まなくてはならないのだが………。
(戦闘職の幹部がいない)
ロゼも、ソフィアも冒険者という括りではあるが、二人の役職は内政官と回復術師だ。自分のような戦いを本懐としているのではない。どちらも後方支援、誰かを支えることこそが彼女等の本領。
あの二人では、ペトロを完璧に抑え込めない。現に先程、敵対勢力を注視していたカネサダの元にペトロは奇襲してきた。戦力不足、『白夜』のアジトに幹部の多くを送ったつけが回って来たか。
(策はある。あの者の動きから仮説が立てられたが、実行するには少々危険な賭け。失敗すれば………いや、ソフィア嬢がいれば問題ないか?だが………この状況を覆すには、せめてあと一人でいい。特級の戦力がいれば―――)
「いるわよ、ここに」
突風と共に聞こえてきた声、勢いに乗ったままペトロに斬りかかったが、案の定すり抜ける。相手に当たると確信しての特攻だった為、着地のことを考えていなかったようだが、即座に受け身をとって態勢を立て直す。
「エスー、どこにいっていたんですかー?かっこよく登場したかと思えば、最後で半減どころかマイナス行ってますけど………まぁそんなことどうでもいいです、貴女がいなかったお陰で、あのクソカスゴミクズが調子に乗ってうぜぇんで、とっとと始末してくれませんー?」
「それだけ殺意が溢れすぎてるのに、平静を装えていると思っているアンタにびっくりよ………で、何アレ?」
今までどこにいたのか。【王城】に残っていた幹部、【剣姫】エス・レイドルが参戦した。誰よりも先にエスに駆け寄り、言葉の節々から感じる殺気を醸し出すソフィアに辟易とした態度のエス。ロゼとカネサダもペトロを警戒しながらエスの元へと行く。
「エスさん、その恰好は………」
「あぁコレ?獣臭い女と殺り合ったら思いのほか苦戦してね。このざまよ」
彼女の服装は所々破れており、血が流れた跡が見える。どうやら、一筋縄ではいかない相手と戦っていたらしい。傷は治療したのか、完璧に埋まっているので戦闘に支障はないように見えるが、【剣姫】をここまで追い詰めるとは、一体どんな敵と相対していたのだろうか。新手の出現を前に、威嚇するように大鎌を向けるペトロを見て、エスは盛大に顔を顰めた。
「エス嬢、あの者は―――」
「『神の使徒』………違う?」
カネサダが説明するよりも先に、エスが正解してみせた。エスの言葉に三人は少し驚いたが、納得した。エスの傷痕は自分達が苦戦している相手の同胞が負わせたものだと。
「………まさか、アンデレは負けたのか?」
「えぇ。ボコしてやったわ」
「そうか………負けたのか」
自分と共に神託に従い、【王城】に来ていた筈の仲間の敗北を知り、流石のペトロも堪えたのか、神に尽くした者を弔うように目を伏せた。
「………気に食わない女だったが、あれでも同士だった。敵討ちは果たす」
同じ『神の使徒』を屠った者の援軍に、つい先程まで浮かんでいた嘲笑の笑みを消し、真剣味を帯びた眼で睨むペトロを前に、カネサダ、ソフィア、ロゼは構え直すが、エスはのんびりとした態度で、抑え込めない歓喜をを含んだ声色で告げた。
「いや、無理でしょ」
「『神の使徒』を殺したから勘違いでもしたか?この俺を倒せる訳がない。アンデレと違い、俺に干渉できる訳が―――」
「あーいいから。そういうの」
ペトロの言葉を被せたエスは、視線をフロントにある階段に向けて言い放った。
「私達の最強が来たんだもの。アンタに、アンタ達に勝ち目はない―――傾聴なさい、【帝王】よ!偉大なる御方からの御言葉よ!!」
額を汗で濡らした【帝王】も、ペトロも、騎士団も、犯罪組織も揃って、エスの指し示す方向を見る。そこにいたのは、冷徹な眼で上から見下ろし、宝石のような輝きを見せる槍を突き刺した青年だった。
その姿に、忠誠を捧げた王に、エスも、カネサダも、ソフィアも、ロゼも、【帝王】に所属する冒険者は一斉に跪いた。敵に囲まれていようが関係ない、彼の言葉を聞くには最大限の礼を尽くすべきなのだから。大いなる王、オーマ・グライアンドは頭を垂れる【帝王】の面々を一頻り眺めて、口を開いた。
「王命を下す―――疾く蛆を片付けろ、戦士共」
「「「はっ!!」」」
王の命を受けた忠実な配下達は、声を揃えて恭しくその任を拝命した。始まるは、真の帝王達の宴だ。




