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死にゲーに転生した僕、自分だけでも助かろうとしたらボスキャラたちに好かれた………いや、何で?  作者: オク
第三章

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第四十話 あの人そこまで考えてないと思うよ

 アンデレは、敬虔な信者だ。生まれてきてから、『神の使徒』となることが決まっていたことを、アンデレは知っていた。神の声が幼少期の頃から聞こえる『神の使徒』は、特別な力を与えられた。


 人によって違うが、アンデレは『時間加速』という特別な権能だった。自らの時を加速し、ありとあらゆる存在を置き去りにする最強の力。この力で神の言葉に従い、様々な者達を真正面から屠って来た。


 流石にあの男………同じ『神の使徒』であるペトロの持つ『時の流れ』には勝てないが。それでも、負けはしなかったし、勝利を常に収めてきた。だが今、その当たり前の勝ちが取れそうになかった。


(攻撃が、通らない!!?)


 前、後、右、左、上、下、ありとあらゆる方向から連撃を振るう。『時間加速』を使った私の攻撃を避けられた者なんて、ただの一人もいなかった。相手の死角外からの乱打を撃ち続けるも、その全てが槍に防がれる。矛先で牽制され、柄で受け止められ、石突で弾かれる。


(意味がっ、分からないっ!!)


 何故、音速に匹敵する一撃が止められる。優れた動体視力を持っているだけでは説明がつかない。この力、まるで我等が主と似て―――そこまで考えて、槍から感じる神力に気が付いた。『神の使徒』にしか気づけないであろう、小さき神の気配に。


(この槍、間違いない。あの御方に歯向かった反逆者共《神》の遺品!)


 あの御方に反抗し、滅ぼされた神々の遺産物―――天授物《アーティファクト》だ!天授物は、あの御方に敗れた神の所有していた力が、武器や装飾品となり流星のようにこの大地に降り注いだ、まさしく星の残骸とでも言うべき遺物。


(神の権能が備わった武具!原理は違うが、恐らくは私の『時間加速』と同じ異能!だから私の攻撃が見切れるのか!)


 同じ条件だとしたら、私は負けるが―――どうやらそんなことはなさそうだ。何故なら、向こうからの反撃がない。この男は、終始防御しかできていない。恐らく、私の攻撃を防ぐことで精一杯なのだろう。ならば勝てる、これほど強力な天授物には間違いなく制限時間が存在する。今は文字通り、耐えの時間だ。


(勢いはこちらにある、このままいけば勝てる!)


 だけど何故だろうか。時間をかければ負けることは、相手が一番分かっている筈なのに。この男の顔にはどうして焦燥がない?何か勝機でもあるのだろうか?無表情、感情を感じさせない冷徹な視線を前に、私は形容し難い恐怖を生まれて初めて覚えた。






 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――






 何が起こっているのか、正直さっぱり分からない。目の前を人影がブンブン飛び回っているのは何となく分かるが、それ以外は何も分からない。ただ、強いて言うなら―――。


(死ぬ!体が引き裂かれて死ぬ!!筋肉の破壊音が聞こえる!!?)


 体中から悲鳴が上がって、今にでもバラバラになりそうだ。どうしてこうなっているのか、それは僕が握っているこの『帝王《キングス・》の槍《ランス》』の仕業だ。『帝王の槍』の能力は、『絶対迎撃』。使用者に危害を加えるものを、一分間絶対に弾き飛ばすというものだ。この力を使っている間、僕はまさしく無敵になれるんだけど………。


(問題はっ、使用者の負担を何一つ考えないこと!!)


 幾ら肉体が壊れようが、『帝王の槍』は止まらない。人間を超えた速度で腕を動かし続ける。そのせいで脆弱な僕の体は、一瞬で壊れてしまう。一応、回復用の天授物を持ってはいるが………今の状況では使える訳がない。完全に、僕はこの身の丈に合わない強大な力に振り回されることしかできない。


(とはいえ、『帝王の槍』を使っている以上、少なくとも傷を負うことはない。だけど―――僕の方からは一切、反撃ができない!)


 『帝王の槍』はあくまで、迎撃しかできないのだ。相手の攻撃を弾くことしかできない、後手に回らざるを得ない、一分間という制限時間付きの防御専用の武具。このままじゃ、僕は間違いなく負ける。ならばどうするか?決まっている―――。


(エスーっ!!お願いだから助けてー!!)


 必死にエスを見つめて助けを求める。今の僕は、声を出すことも辛い。何だかんだ長い付き合いのエスなら、僕のこのSOS視線に気づいてくれる筈だ!情けなくとも、僕はエスに救助要請を出し続ける。


 だが、エスは何一つ動かなかった。僕を見ずに、後にいるであろうアインスを見ているのであろう。どうやら、僕みたいなモブよりも、ネームドを気にしているらしい。そりゃそうだ、同じ状況だったら僕も美少女を優先する。いつもなら、素晴らしいと拍手を送ってあげたいけど、流石に今は無理だ。


 もう『帝王の槍』の使用時間も終わりを迎える。焦った僕は、痛みを堪えて助けを求めた。


「立て!顔を上げろ!(助けてくださいお願いします僕にできることならなんでもします!)」


 『明鏡止水』のバカヤロー!お前のせいで…僕は…僕の…僕の体はボドボドだ!言いたいこと何一つ喋ればいポンコツめ(仕様です)!てか、僕の顔『無表情《ポーカー・フェイス》』のせいで懇願の表情とかできないし!


 なんで僕は、思いつきでアレコレ使ってしまうんだよ!バカなのか、お前は馬鹿なんだな!知っていたよクソったれ!いやでも、あの時使っていなければ思いっきり吐いていただろうし………って、やばいやばいやばいやばい!もう『帝王の槍』が切れ―――。


「さ、させない!」


 背後、僕の後ろにいた筈のアインスは、声を震わせながらも前に出た。僕はアインスの姿を見て―――絶句した。


「私が………相手です!」


 白銀の輝きを纏った少女は、フクロウのような痣を刻んだ右腕で剣を手に取り、勇ましく踏み込んでいった。






 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――






 目の前に広がる激しい攻防を、私は見守ることしかできなかった。何が起こっているのか、まるで分からない。動きは………本当に辛うじて見える。『神の使徒』を名乗ったアンデレという狐の獣人が、縦横無尽に駆け回り拳を振るう。一撃一撃が、まさしく必殺。私如きでは、掠るだけで死に至りかねない。


 そんな死神の猛攻を、オーマさんは顔色一つ変えずに受け流していた。彼が持つ、美しくも恐ろしい三ツ又の槍を棒きれのように振るい、見事に防いで見せた。まさに、神業だ。


(初めて会った時は、なんだか頼りない人だな、本当にこの人があの有名な【帝王】のクランマスターなのか、って思っていたけど………大きな間違いだった)


 強敵相手に一歩も引かず、互角以上の戦いを見せる彼こそ、高名な冒険者、【英傑】ことオーマ・グライアンドなのだ。強者としての振舞いを見せ、果敢にたちむかっている、だけど―――。


(どうして、攻撃しないんだろう)


 オーマさんはアンデレの攻撃を弾くだけで、反撃をしようとはしなかった。確かに、勢いはアンデレにあるが………彼女の攻撃に完璧に反応できているオーマさんなら、打ち負かすこともできるだろうし………どうして?


 その時、私をずっと見ている師匠………エス・レイドルの視線に気付いた。震えた眼を絶えずに私に向けてくる彼女の真意は一体―――。


『オーマの考えを読み取れ!それができなければ、ここにいる資格はないんだよっ!!』


 ふと、彼女につけてもらった鍛錬の時に言われた言葉を思い出した。確か、そんなことを言っていて―――脳に電流が走った。知略に優れた【英傑】の思考と同じ領域に入るなんて無茶だと思っていたが、今の私にはそれが求められる。それができなければ師匠の言う通り、私は本当にここにいる価値がなくなる。


(師匠………ごめんなさい)


 貴女は私に冒険者の才能がないと言っていた、それは疑いようもなく間違いないことだ。厳しい言葉をかけて、私の心を折ろうとしていた。その言葉に怒りを覚えて、歯向かおうとしていた。だけど、貴女は私が立ち上がることを信じていた。そうじゃなきゃ、あんなふうに見つめてきたりしない筈だ。


(変わるんだ………今ここで!)


 私の可能性を信じてくれた、師匠にも申し訳が立たない………信じる?もしかして、オーマさんも同じ?


(私が殻を破ると信じてくれている?)


 私が自らの脚で立って、反逆の狼煙を上げることを信じている………だから、攻撃することなく、私を守るように仁王立ちして攻撃を防ぎ続けている。


(やっと分かった)


 どうして、【帝王】の人達がここまで一個人に………オーマ・グライアンドという人間に思い入れをしているのか。この人は、まさしく希望の象徴。どれだけ絶望的な状況であっても、前を向かせてくれる存在。まさに【英傑】、王に相応しい人物だ。だから、私もその光に続かないといけない。


(そう思っているのに………)


 足が、震える。恐ろしい敵に立ち向かわなければならない、その現実に心が逃げ出す。頭では分かっている、今ここで立たなければ私は今後、何も出来なくなるって。だけど心が叫ぶ、「逃げたい!」って。


 実際、私は何もできない。もしここで立ち向かっても、オーマさんや師匠………他の【帝王】の人達のように、特別な才を持たない私が戦いに加わったとしても、犬死にする未来しか見えない。間近にある死への恐怖に、押しつぶされそうになって―――。


「立て!顔を上げろ!」


 火花が散る戦場で、彼の咆哮を聞こえてきた。その顔に焦燥はない、冷酷な目線で、非情な王のように私に戦うことを脅迫しているかのようだ。だけど、不思議とその言葉に恐怖は覚えなかった。


 だって、彼は私が立つことを信じて守ってくれているのだから。言葉ではない、行動でそのことを証明しているのだ。もし私が下手な真似をしても、彼は守ってくれるのだと。こんな修羅場にいるもにもかかわらず不思議と安堵し………再び恐怖に襲われた。自分が死ぬ恐れではない、これは………失うことの恐怖だ。


(現実は非情だから)


 幾らオーマさんが強くても、理不尽の暴力に襲われ、死ぬこともあるだろう。【英傑】を殺すことは不可能に等しいが………私は、この世は不確定要素に溢れていることを知っている。もし、今にでも『邪神』と呼ばれる存在が襲ってきたら?その時、私は何ができる?何一つ抗うことが出来ず―――兄を奪われるのか?


(嫌だ………絶対に嫌だ!!)


 お兄ちゃんを『邪神』なんかに取られたくない!オーマさんが傷つくところを見たくない!師匠が血に染まる姿なんか想像もしたくない!だから私は―――。


(強くなるんだ!今、ここで!!)


 震える足を叱咤激励し、立ち上がる。その時、首からぶら下げていた古びたブレスレッドが輝き出し、右腕にフクロウのような痣が発現していることを、私はまだ気づいていなかった。剣を構えて、一人の戦士として戦いに望みに行ったのだから。

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