第三十二話 邨カ譛?
「「「ウォオオオオオオオオッ!!」」」
勇ましい雄叫びが地下に轟く。騎士団と『白夜』の衝突、剣戟があちこちで起き、血と汗が飛び交う戦場。数の利では『白夜』が勝るが、戦況は先遣隊の圧勝だった。理由は、前衛、中衛、後衛の将の質。
「ぬんッ!!」
「グハァッ!?」
前線で暴れるのは、我等が騎士団の団長、カリバー・ダクルタ。鋭い大剣の斬撃が、鎧の上から敵を両断。大柄で巨大な武器を振り回す姿は、敵は恐れを覚え、騎士団は頼もしさを感じる。そして、流石と言うべき獅子奮迅の働きを見せる団長に、負けず劣らず、下手したらそれ以上の働きを見せる二人の戦士がいた。
「紅蓮之剣!」
炎を纏った一振りを振り下ろす、それだけで敵部隊の一角が燃える。中衛を担うのは、【剣聖】クロス・レイリウス。時には剣士として敵と切り結び、時には魔導士として魔法で牽制、時には魔法剣士として敵部隊を瞬殺する。
まさにオールラウンダー、前衛も後衛もたった一人でこなせる万能。あの【英傑】オーマ・グライアンドが、「もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな」と評した噂は、本当だと思わされる程の活躍を見せていた。
「動くな間抜け共、等しく蹴散らされるなら足並みを揃えろ阿呆」
後衛、傲岸不遜な物言いで黒い武器から鉛玉を撃つ―――拳銃と呼ばれる武器を構えた、【秀才】ドルラス・ラドンクは弾丸を乱発する。乾いた音が連鎖するように鳴り響く。
明かりが少ない暗い中、一寸たりとも違えることなく、敵の額を撃ち抜き、武装を破壊する、騎士に指示を下しながら行う、神業とでも称するべき正確無比な援護射撃を前に、騎士団は身震いをした。
冒険者風情の指示など聞けるかと、突出して傷を負った者も【帝王】の二人の回復術師が即座に傷を埋める。私、アリオンも口惜しいことこの上ないが、その一人だった。最も私は他の連中と違い、重症と呼べる程のものではなく、軽い傷ではあったが、助けられたからには後で礼を言わなくてはならないだろう。
「お、のれ………ッ!」
最後に部隊を率いて現れた『白夜』の最高幹部【三夜】の一人だと言う、デムと名乗った男が、カリバーとクロスの斬撃の前に膝から崩れ落ちた。倍以上の敵に死傷者ゼロという快挙を成し遂げた、騎士団は勝鬨を上げて健闘を讃えた。
「休息一分、即座に済ませろ」
ドルラスから冷徹な声色で告げられ、冷めない熱気に盛り上がる騎士団に、文字通り水を差した。思わずジロリとドルラスを睨むが、当人はどうでも良さそうに鼻を鳴らす。「この程度で満足するな、無能共」とでも今にでも言いそうな態度に、騎士団が食ってかかる。
「何だその態度は【秀才】!確かに貴方の活躍は凄まじかったが、それもひとえに我等の働きがあってこそ、違うか!!」
騎士団が前で盾になったからこそ、活躍ができたのだと発言する騎士に、その通りだとばかりに私を含めて同調する騎士団。それに対して、ドルラスは蔑みの目を向けるだけだった。
「………無能はやはり群れても無能、か。騎士団長、貴様どんな教育をしているんだ。ここまで能無しを放置するとは、私の思い違いで貴様も無能だったか」
「お、お前!団長を侮辱するな―――」
騎士の言葉に被せる様に、叫喚が聞こえてきた。何事だとばかりに、すぐさま鞘から剣を抜き放つ騎士団が通路で見たものは―――魔獣に追い掛け回される『白夜』の構成員だった。
思考が、固まる。何故、連中が魔獣に追われているのかに疑念が生じ、脳に空白が生まれた。手違い?誤って魔獣を開放してしまった?そんな疑問は、考えもしなかった発言で解き明かされた。
「こ、この身ッ!あの方の為、『白夜』の為にー!!」
特攻。その単語が脳内に浮かんだ。
「ま、まさかアイツ等!?」
自分達のもとに魔獣を呼び寄せる為、自らの身を犠牲にした死兵。仲間が魔獣に喰われるのもお構いなしの突撃に、浮足立ち、その場から逃げ出そうともう片方の通路に向かおうとすると、そっちからも同じ集団が押し寄せてきた。
挟撃、挟み撃ちにして自分達を押しつぶそうそうとする為だけの人道に反した作戦に、騎士団の動きが止まる。そんな中、【剣聖】と【秀才】は目を細めて、別々の道へと躍り出た。
「悪いが、君達とまともに相手するつもりはない―――燃え尽きろ、龍王烈火斬!!」
【剣聖】は、先程放った紅蓮之剣よりも上位の炎属性の魔法剣、二連撃の紅斬が飛び、『白夜』の構成員と魔獣に揃って爆撃を与えた。『白夜』の構成員の声帯が燃え、悲鳴を上げることもできず、魔獣と共に焼死体へと変わっていった。
「去ね」
腰につけ備えてあった二丁の拳銃―――ここにオーマがいたら、サブマシンガンと呼ぶであろう拳銃をドルラスは引き抜き、連射。先頭を走っていた『白夜』の心臓を撃ち抜き、走った勢いのまま前に倒れ伏す。魔獣は倒れた『白夜』のことなど目にもくれず、死体を踏み抜き、こちらに向かって突撃する。
それに対し、ドルラスも駆けた。魔獣の群れへと自ら向かう自殺行為に、静止の声をかける間もなく、魔獣の目を、足を撃つ。視界と足を潰された魔獣は痛みに動きが鈍る、その隙を見逃さずに果敢に前に出た。サブマシンガンを乱射、球が尽きたら懐から回転式拳銃取り出し、心臓を的確に射殺した。
圧倒的だった。絶体絶命の、迫りくる死に対して【剣聖】も【秀才】も回復術師二人も、【帝王】は何一つ怯むことなく、打ち破って見せた。呆然として見る事しかできないアインス達に、カリバーは話しかけてきた。
「よく見ておけ、お前達」
「団長………」
「アレが、【帝王】………冒険者の中でもトップの実力を持つ奴等だ」
【帝王】の誰もが付けている、王冠と槍がモチーフにされた【帝王】の紋章を見つめ、腕を組んでしみじみとカリバーは語った。
「お前達は冒険者のことを知らなすぎる、奴等程しぶとく粘り強いものはいない。特に【帝王】は【英傑】オーマ・グライアンドの為ならなんだってするし、あの男に付いていく為に限界を何百回も超える。その執念が、意志が、他の誰よりも強い。だからアイツ等は、他の追随を許さないくらいに強いんだ」
それをお前たちに知ってほしかった、と締めくくりカリバーはクロスの元へと向かった。漸く分かった、何故今回の任務が、自分達のような若手ばかり集められていたのかが。団長は、冒険者を下に見ていた自分達がいつか大怪我しないように、目の前で【帝王】の強さを見せることで、冒険者に喧嘩を売ることが如何に愚かなのか。
「…………………クソッ」
無意識の内に、小声で悪態を付いていた。自分の認識の甘さ、それを否定できない現実に嫌気が差す。今なら分かる、もし仮に【帝王】に喧嘩を売っていたら二秒で瞬殺されていた。目の前で散っていった魔獣と同じように。
「死兵などふざけた真似をして………反吐が出る」
返り血を一つも浴びることなく苛つきながら戻ってくる【秀才】に、騎士団の誰もが顔を強張らせる。固まって動けない自分達を一瞥もすることなく、【秀才】は懐から『通信石』を取り出して連絡を取っている。
「流石の攻撃だったが、何も魔法剣、しかも上位の技で倒す必要はなかったのではないか?遠距離から魔法を撃つだけでも良かっただろうに」
「敵が自爆装置を持っていることを懸念したんだ。どの程度の威力か分からないし、一撃で全て葬る火力が欲しかった」
団長と親し気に話しながら戻ってくる【剣聖】は、『通信石』での会話が終わった【秀才】の元へ行く。
「ドルラス、どこだ」
「ここで構わない」
「威力は」
「中の下」
互いの健闘を讃えることもなく、即座に交わされる会話。何が起きているのかもわからずに見ていると、クロスは剣を掲げた。魔力が剣に収集され光の柱が放たれた。
「光輝之剣!」
光の柱は天井を貫き、瓦礫が落ちてきた。下手したら生き埋めになるかもしれない愚行に、思わず叫びそうになって踏みとどまる。団長の語った言葉が脳裏に過り、声を出せなくなった。
そのまま黙って動けずにいると、光が収まった。ここだけでなく、もう一つ上の天井を突き抜け、その先も続いていた。頑丈で分厚い石畳をたった一つの技で破ったことに驚いていると、穴が開いた天井から続々と何かが降って来た。
「つまんねぇ罠だったな」
「どんなおもてなしがあるのかと思ったが、大したことはない。そう、このスロート・カフライドにかかれば!」
「ウォオオオオッ!敵はッ!後何処にいるッ!!」
「もう大体倒したんじゃない?」
「………誰が来ても変わらない」
【帝王】は、傷一つなく、疲労した気配もなく、好き勝手言いながらこの階層に到達した。床が撃ち抜かれていたのに、動揺した様子も怒りもなく至極当然だとばかりに堂々としていた。【詠魔】が降りてきた床に風魔法を放ち、【帝王】を追って来ただろう騎士団は、小さな悲鳴を上げながらふわりと着地する。
「私の魔法剣に巻き込まれなかったようで良かったよ、皆。ドルラスが『通信石』で連絡をしていたとはいえ、心配はあったからね」
「誰がテメェのどんくさい攻撃に当たるか、失せろクソ剣士」
微笑を浮かべている【剣聖】に【灰狼】が食ってかかる。聞こえてきた会話の内容は、とても信じられないものばかりだった。『通信石』で仲間の在り処を連絡していた、ここまではいい。だが、仲間を巻き込む可能性がある中、魔法剣を放ったというのは耳を疑う。あの威力の魔法剣を受けたらただじゃ済まないのに、平気な顔をしている【帝王】に恐怖を覚えた。
(無茶苦茶だ―――)
【帝王】の会話の内容から推測すると、アイツ等は最初の落とし穴をわざと受けた。全ての罠を理不尽な暴力で乗り越え、『白夜』の思惑を踏み潰した上で、このアジトを攻略しようとしたのか。まともじゃない。
どれだけ自分の腕に自信があったとしても、敵の術中に嵌ろうとするなど、普通じゃない。危険は回避するべき、子供さえ分かる当たり前に引っかかった。呆然と見ることしかできない自分達に、【秀才】は見下しながら話してきた。
「阿呆共が。貴様等の物差しで我々を測るな、愚物共」
聞くに堪えない罵倒、ほんの少し前までなら突っかかっていたのに、言葉が出なかった。喉から言葉が出ずに口を開いては閉じるを繰り返すばかりだった。
「真正面から、堂々と道を阻むものを潰す。それが【帝王】のやり方だ。あの方に従う我等には、それしか許されない」
あの方と聞いて、直ぐにその名が浮かんだ。【英傑】オーマ・グライアンド。初めてだった、顔も姿も知らない青年に恐れを抱くのは。背後で誰かが尻もちをついた音が聞こえた。戦場で腰を抜かすような者を、平時なら叱責しなければならない場面だが、責めることができない。何故なら、自分も似たようなもので、後何か一つきっかけがあれば同じようになるからだ。
「潜り抜けてきた死線の桁が違う。分かったなら黙っていろ」
淡々と告げられたその言葉に反論することができなかった。降りてきた騎士団も同じようで、誰一人として【帝王】に歯向かうことは出来なかった。ドルラスの言葉の通り、口をつむいで付いて来る騎士団を、カリバーは目を細めて見ていた。
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「なんだ………コレはッ!?」
『白夜』のアジト最下層の最奥。まるで王の間のような場所でふんぞり返っていた『白夜』のボス、ノクスは天授物『監視の水晶』を通して観ていた光景に、叫ばずにはいられなかった。
「ふざけるな………何故、何一つ上手くいかない!!」
仕掛けていた罠は、最速の脚を持つ狼に走るだけで突破された。
捕えていた魔獣は、狂気の笑みを浮かべる男の快楽に利用された。
ナハトは忍びに、ユオは吸血鬼と魔導士に、デムも死兵も魔法剣士と銃士の前に倒れ伏した。
地の利はこっちにあったし、誰もが万全な状態だった。にも関わらず惨敗。殺すどころか、あのすかした【帝王】の顔を、少しも歪めることができなかった。それどころか、アイツ等の発言。
「正面から打ち破るだと………ッ」
罠があることも、不意打ちされることも分かった上で突っ込むと言うのだ。意味が分からない、そんなリスクを負って進むなど正気の沙汰ではない。だが、効果はてきめんだった。もう、戦意が湧き上がらない。椅子の上で俯き、頭を抱える。
(打開策が、何も思いつかない)
罠も、魔獣も、対人も、どれも通用しなかった。どれだけ新たな策を講じようと、あの化け物共に足蹴りにされる未来しか見えない。
(勝てない―――)
敗北の二文字が思考を支配した。逃げ道はない、降伏するか?いや、無駄だ。【帝王】は敵対したものには容赦しない。今までも多くの組織が潰されて来たのだから。決して助かりはしない、無惨に、惨たらしく殺される。
裏切者の存在がいても、意味がない。アイツ一人じゃ勝てっこない。こんなことなら、別動隊など派遣するんじゃなかった。攻めにかまけて守備が疎かになっては意味がないじゃないか。
「見通しが、甘かった………」
甘く見ていた。冒険者が、【帝王】がどれだけ理不尽な存在なのかを。油断。傲慢、高慢になっていた。乾いた笑い声が木霊する。壊れた笑いだ、現実を見れずに、そのまま絶望に押しつぶされそうになって―――。
「――――――――――――――――――――――――――――――――」
声が聞こえた。神の声だ、救済の声。愚かな己を救ってくださる、偉大なる声。神託に従い、裏切者へと通話する。どうやら彼も同じで、神託を授かったようだ。特別な天授物を授かったらしい。
「グエヘへっへヘヘっへへッ?」
おかしな笑い声が、聞こえる。誰だ、一体誰が―――あぁ、自分だ。自分が嗤っている。何もおかしなことじゃないのに、どこかで理性が「正気に戻れ」と叫んでいたような気がした。
「驍ェ逾槭↓縲∵髪驟阪?縺輔l縲√※窶ヲ窶ヲ窶ヲ逅??縺後?縺ェ縺上↑??」
何を言っているのか、分からない。けど、不思議と心地いい気分だった。




