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死にゲーに転生した僕、自分だけでも助かろうとしたらボスキャラたちに好かれた………いや、何で?  作者: オク
第三章

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第三十一話 歪み

 意味が分からない。『白夜』の最高幹部、【三夜】の一人、ナハトは目の前の男からそんな感想しか出てこなかった。


「どうした?狐にでも化かされた顔をして」


 戦っているのに、舞台の上に立っているかのような感覚。まるで物語の一幕にいるのではないかと錯覚を起こす。今まで感じたことのない状況に、思うように動けない。


 芝居じみた足取りで歩いて来る、【空蝉】スロート・カフライドに、生まれてこの方一度たりともなかった恐怖………いや、得体のしれない何かと相対している戸惑いを覚えた。


「来ないなら、こちらから行くぞ?」


「ッ舐めるなァ!!」


 大剣を横なぎ一閃、それだけで【空蝉】は血の花を咲かせる筈、少なくともこれだけで数百人は屠って来たのだ。だが―――当たらない。


「ッ!?」


 いや、正確には当たっている。当たっているのだ。ただ、手応えがない。人を斬ったような感覚も、吹き飛ばしたような感覚もない。手に残るのは人の抜け殻でも斬ったような―――。


「もう飽きたぞ」


「クッ!?」


 背後から聞こえてきた声に、振り返りざまに大剣を振るう。当たれば死ぬ、その筈なのに死なない。まるで蜃気楼のように消え失せる。嫌な汗が顎を伝い、呼吸が荒くなる。


「最高幹部だからと言うから期待していたのだが………その程度だったか」


 頭上、天井に座りこむ【空蝉】。床に足を着かずに欠伸さえしていた男は、大きな失望を含んだ目線で見下ろして来た。ゆったりとした動きで天から地へと落ちた【空蝉】はナイフ―――いや、あれはクナイか。


 極東と呼ばれる島国に、忍びと呼ばれる盗賊《シーフ》や暗殺者《アサシン》と似たような存在だったと覚えている。


「お、お前ェッ!正々堂々戦え!!」


「何を言っている、私程堂々と真正面から戦うものなどいない筈だが?」


「な、何を言うか!忍びの術で俺を騙して―――」


 血を吐いた。先の言葉を続けられずに、血反吐を石畳にまき散らす。クナイが腹部に刺さっていた。一つだけではない、三本も腹に深く入っていた。


「貴公、この私を、あの卑怯者共と同じにするか」


 生気の失った目。今の【空蝉】はまるで生きる屍だと、死にそうなのにそんなことを思った。【空蝉】の手が震えだし、爪が食い込んで血が流れだした。


「私は、俺は、このスロート・カフライドは違う。アイツ等とは違うんだ、オーマが、生涯を捧げるのに相応しいキングが言ってくれたんだ。間違いない、そうだ。俺は何も間違っていない。間違っているとしたら、それはこの世界だ」


 ブツブツと譫言のように独り言を繰り返す。人が変わったかのような姿に【空蝉】に付いてきた騎士団も後ずさりしていた。一体【空蝉】にどういった過去があるのかは分からない。ただ、一つだけ分かるとすれば。


「そうだ間違っているのは世界。だからこそ、この俺が、スロート・カフライドとオーマ・グライアンドが世界を変えるのだ。天もそうするべきだと微笑んでいるに違いない」


 俺は、決して触れてはいけない逆鱗に触れてしまったのだ。最後に見たのは、漆黒に染まったクナイが、鮮やかな赤へと変わった瞬間だった。





 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――






「な、何で………何で私が押し負けるのよ!!」


 地下に用意した戦闘場で、最高幹部【三夜】の一人、ユオは意味が分からないと叫んだ。負ける通りなどなかった、確実に勝てる算段だった。にも関わらず、地面に倒れ伏している自分の姿に吠えることしかできなかった。


「………危なかったかも、少し前までの私だったら負けてた」


 うつ伏せの自分を見下しているのは、他ならない相対していた憎き相手。【闇夜姫《ナイト・クイーン》】ルナ・ヴァイア。かつては魔人族最強と名高かった吸血鬼、その女王の素質があると言われた少女に敗北した。自分よりも年下に負けた屈辱はある。だがそれ以上に、何故この圧倒的に有利な状況で負けたのか、疑念しか生まれない。


「どうして太陽の下でそんなに動けるのよ!」


 『白夜』のボス、ノクスから渡された天授物《アーティファクト》、『空の統治』という宝珠。効果は天候操作、例え地下世界であろうとも制限時間や操作可能な範囲はあるが、架空の空を生み出し、太陽を生み出すことも、雨を降らせることも可能なアイテム。


 『空の統治』を活かし吸血鬼の弱点である日光を的確に突いた、水の魔法で流水をぶつけた、銀製の武具で対抗した。効き目が薄いことは知っている、だが吸血鬼にとっては致命的なのは事実。少なからずダメージは入るし、自分ならば倒せると踏んでいた。


(だけど―――)


 結果は惨敗。最初は押していた、間違いなくこっちが優勢だった。だが、次第に押し返されて血の光線の前に崩れ落ちた。


(認められるものか………ッ!)


 まだだ、勝ち筋はある。ここの直ぐ近くに私の部隊がいる。この生意気な幼女を痛めつける為の一騎打ちを邪魔されないよう、今は騎士団の相手をしているが、あの程度の連中なら間違いなく勝てる。私が直々に鍛え上げた精鋭部隊なのだ、その部隊と『空の統治』さえあればいける。今は何としても、この天授物を奪われないように抵抗を―――。


 氷獄。心身を凍らせる寒気が押し寄せてきた。戦闘場に繋がる通路の一つから、氷の魔法が放たれて、私の部隊が凍り付けにされているのが見えた。愕然としてその通路を見ていると、騎士を引き連れたエルフが現れた。


「あっ、ルナ。って何でここ、こんなに明るいの?」


「………多分、天授物だと思う」


 魔導書を片手に、倒れ伏している私のことなど、どうでもよさそうに【闇夜姫】に話しかける。【闇夜姫】も私のことなど気にせずに答えた。無視された、この【三夜】のユオが。というか、待って。そんなことよりも、気になることがある。


「あ、アンタ………一体どこから!さっきまで気配はなかったのに!」


 このエルフは知っている。【詠魔】ザック・イルフィー。【帝王】の幹部で、私と同じ魔導士《メイジ》の青年。稀代の魔法使いち評される彼が、その身に宿している膨大な魔力に、この私が気づかない訳がない。


「潜伏魔法使ってただけだけど」


「う、嘘付くんじゃなわよ!潜伏魔法なんかで隠れられる訳ない!魔導士の私が断言してやる!」


「叫ばないでよ、うるさい………サバルトじゃないんだから」


 エルフ特有の長い耳を押さえながら、溜息を吐くと【詠魔】は目の前で魔法を使って実践して見せた。


「ほら、この通り」


「う、嘘ッ………」


 言葉を失った。完全に消えた、目の前にいる筈なのに声をかけられても姿を認知できない。唖然としている私に追い打ちをかけるように、【闇夜姫】が【詠魔】に問う。


「………それってオリジナル?」


「そう、闇と光属性を応用して創った。魔力消費激しいし、乱発できないけど」


 姿を現し、淡々となんでもないように語る【詠魔】に、今度こそ私は放心してしまった。魔法の創設なんてそう簡単にできるものではない。ましてや、彼は魔法の詠唱をしていなかった。無詠唱、魔導の極致に辿り着いた者のみに許される技術。


 私でさえ、まだ習得できていないのだ。圧倒的に有利な状況で戦っておきながら、【闇夜姫】には負け、【詠魔】には魔導士としての格の違いを見せつけられた。勝てるわけがない、こんな化け物共に。完全に戦意を失った私は、そのまま意識を手放した。





 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――






「あっ、気絶した。どうしよ」


「………始末する?」


 血の鎌を生み出したルナは、ユオの首に刃を向けながらザックに聞く。ザックはゆるゆると首を振り、答える。


「いや、捕虜にしとこう。あくまで僕等は『白夜』を捕まえに来たんだから………それに、他の皆は普通に殺し回ってるだろうし、僕等だけでも一人くらいは捕まえないと、オーマに失望されるのは御免だ」


 事実だった。フェルス、サバルト、スロートの三人は、既に『白夜』の構成員の多くを討ち取っていた。国家転覆を狙った犯罪者の生死を問われることはないと思うが、情報源を得る為にも皆殺しはしない方がいいだろう。


 オーマというストッパーがいないと、いつもこうだ。自分達のことながら、戦うことしか能のないメンバーに辟易としていると、ルナが小さな微笑を漏らした。


「………ふふ」


「どした、急に笑い出して」


「いや、やっぱりオーマは凄いなって」


 未だに地下を照らし続ける太陽に、目を細めて腕を伸ばす。


「………多分、オーマと依頼行ってなかったら、負けてた」


「あぁ、噂には聞いたけど。何、そこそんなに強いのいたの?」


 数日前、ギルドからペナルティとして、オーマがルナを引き連れて向かったと言う『月光の邸』の調査。複数の吸血鬼と魔獣が潜伏していたという事件。たった二人では手に余るように思われたが、オーマに被害が及んでしまい、ルナがそれにブチギレて皆殺しにしたと聞いた。


「………強いのはいなかった。けど、オーマが、私を強くさせようと試練を与えた。そのお陰で、私は今一度自分を鍛え直した………そうじゃなかったら、この人に負けてたかも」


「日光、水、銀。吸血鬼の弱点であるこの三つが揃っているのに勝つって………一体どんな特訓したんだか」


 というか、オーマの見通し能力の高さには脱帽だ。彼はきっと、ルナがこの女に負けると思って、ルナが自ら進んで努力するように差し向けたに違いない。今までだってそうだ。あの『邪神』云々の話も、自分達の存在に気付いていながら、敢えて聞こえるように話したのかもしれない。「現状に満足するな、より高みを目指せ」と。


「どんな頭の作りしてるんだか………」


 敵の情報を網羅し、仲間の成長に繋げるように動かす、【英傑】の十八番にして【帝王】がここまで強くなった理由でもある。一個人が処理できる脳の許容を超えている、全くもって恐ろしい。けど、だからこそ自分達が従うのに相応しいのだろう。


「………立ち話、終わり。進む」


「うん、行こう………騎士の人達、そいつ離さないでね。助けてあげたんだから、それくらいはしといて」


 縄で縛ったユオを騎士団に放り投げ、慌てて付いて来る騎士達などお構いなしに、ルナとザックは先へと進む。

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