第二十八話 もーどーにでもなれー
「話はここに来るまでに構成員共に聞きました、面倒な状況になっていると」
眼鏡の位置を直しながら、椅子に座るドルラス。僕の目を見つめながら、無表情を貫くドルラスにクロスが親し気に声をかける。
「良く戻って来たね。嬉しいよ、ドルラス」
「黙れ無能、口を閉ざせ間抜け」
「はっはっはっはっは!相変わらずだな君は」
「アンタ、ここ最近かませ犬役になってきてない?」
「ウオーッ!ドルラスッ!後で俺と勝負しろッ!」
「急に叫ばないでよサバルト………さっきまでは静かだったのに」
「確かに、珍しく雄たけびをあげませんでしたな。何か変なものでも食べられましたか?」
「ザック、カネサダ。それはだな、サバルトは会議中、このスロート・カフライドとじゃんけんをしていたから大人しかったのだ」
「会議中になにやってるんですか!」
「いやでもロゼー、それで静かになっていたならいいんじゃないですかー?」
「………急に皆しゃべるじゃん」
「うるせぇよテメェ等!いい加減黙れ!!」
「さっきまでほぼ一人で話してたお前だけには言われたくないと思うぞ………?」
うーん、まさしく混沌、パート2。たった一人増えただけでこんなにも騒がしくなるのか、ウチのクランは。フェルスの一喝もあって一先ずは収まるが、グランツさんに指摘された通り、エスとかザック辺りが「お前には言われたくない」って睨んでる。
ちょっと前まではグランツさんとクロスに揃って歯向かっていたのに、共通敵がいなくなると息が揃わなくなるんだね君達。少しでも仲良くなってるって思った僕がバカだったかもしれない。
「まぁいいや、それでドルラス。何か言いたいことがあるんじゃないかい?」
「えぇ、閣下は今、この脳内が筋肉で支配された馬鹿の中から指揮官を任命しようと為されている。その認識で宜しいでしょうか」
「いちいち罵倒しないと話せないのかテメェ………!」
「アンタ、鏡って知ってる?」
青筋を浮かべて拳を握りしめるフェルスに、エスが小さな声で茶々を入れる。
「んーまあ、そんな感じだね。最初はクロスに任せようと思ったんだけど………」
「「「絶対嫌だ」」」
「コレだからね」
断固として拒否する幹部陣に苦笑する僕は、溜息すらもう出ないのか腕を組んで下を向いている疲れた様子のグランツさんに心の中で謝罪する。ごめんよ、中々纏まらなくて。この後仕事もあるだろうに付き合ってくれてありがとね。部屋にいる全員の顔を眺めていると、ドルラスは立ち上がり右手を胸において宣言した。
「閣下、その任。このドルラス・ラドンクに任せて頂きたい」
「えっ?」
驚きのあまり声を漏らしてしまうが、それは僕だけじゃなく皆も目を丸くしたり、眉間にしわをよせたりと似たか寄ったかの反応をしていた。
「ドルラス、君は指揮を執るのが好きじゃないよね?」
「えぇ、その通りです。この突っ込むことしかできない戦闘狂共の指揮をするなど、理性を持たぬ獣と対話をするのと同等。そのような間抜けな存在に成り下がるなど、御免被ります」
おぉ………めっちゃいうじゃん。見るからにわかる、フェルスがそろそろ暴発しかねない。委縮してしまう程の殺意をその身に浴びても、顔色一つ変えずに淡々とドルラスは話す。
「ですが、それ以上に救いようのない塵屑共に、閣下の威光が汚される方が我慢ならない」
「「「!!」」」
我慢できずにフェルスが飛び出す、その一歩手前、ドルラスから告げられた事実に誰もが目を見開いた。席から立ち上がりかけたフェルスに視線を向け、ドルラスは鋭利な目で座るように指図した。フェルスは不承不承といった具合で乱暴に座った。
「フェルス、貴様の考えは理解している。閣下に冤罪を擦り付ける者共を始末したい気持ちも。だが、閣下の美しい手を、あのような連中の為に汚す必要はない」
「………ならどうするつもりだ、クソ眼鏡」
「決まっている、王の露払いは配下たる我等の仕事。先遣隊には閣下を陥れようとしている者が少なからず付いて来る。そこで見せつけろ、閣下を、【帝王】を敵に回すことがどれほど愚かなのか」
眼鏡のレンズが光を反射し、文字通り目を光らせたドルラスは、傲岸不遜な王の言葉を代わりに軍師として、一騎当千の将に下知を下す。
「他の奴等の手を借りるまでもなく、蹂躙する。その光景を見た誰もが思うだろう、【英傑】オーマ・グライアンドはこれ以上の強さなのか、我々は眠れる虎の尾を踏み、龍の逆鱗に触れたのかとな」
大広間が沈黙した。サバルトやスロートさえも黙りこくった。静寂が支配する中、僕はドルラスに拍手を送りたい気分だった。言語化が上手すぎる僕が同じこと説明しようとしたら、絶対どこかで言葉に詰まる。
スラスラと淀みなく話すドルラスには、話す内容が物騒なのは兎も角として、思わず引き込まれる力があった。こういう人がリーダーとか向いているんだろうなぁ………今後の演説みたいなのにはドルラスに一任しよう。そんな風に考えていると、フェルスが無音の世界を破ってドルラスに問う。
「………テメェ、この僅かな時間でそこまで考えたのか」
「いや、違う。この策は私が考えたのではない。全て閣下の思惑だ。私はそれを代弁したまで」
………えっ?突然僕の方を見て話しだすドルラスに反応が遅れた。ドルラスはどこか光悦とした声色で語る。
「自らに振りかけられた冤罪さえも、陥れようと算段する阿呆さえも、己の名声を高める為に利用するその柔軟な思考。誰も真似できない、まさに真の王。閣下に敵う存在など、過去現在未来古今東西に至るまで、世界の何処を探してもいないでしょう」
「ッ!?本当なのかボスッ!!」
えっ、知らん…何それ…怖…そんなこと考えもしなかったんだけど。僕はただクランマスターの座をみっともなく守ろうとしていただけなんですが。ヤバいどうしよう、何か信じられない者を見るかのような目皆して見てくる。どうしよ、とてもじゃないけどそんなことないって言えない雰囲気だ。
「………さ、流石だねドルラス。君の言う通りだよ」
僕が言いきった瞬間、瞬く間に大広間が驚愕の声で包まれた。ごめん、場に流された。この状況で違うとは言えなかったよ、意志の弱い僕を誰か罵倒してくれ。この光景をつい数十分前の自分に見せてやりたい、何が「完璧な作戦、我ながら天才だと思う」だ。真の天才はこっちだよ馬鹿。
だけど、助かった。ドルラスのお陰で、僕は「何もせずに食っちゃ寝しているだけの男」にならずに済んだ(実際その通り)。自分の愚かさと馬鹿さ加減に自己嫌悪に陥っているとドルラスは頭を下げて告げた。
「もう一度申し上げます、閣下。一時的に貴方様の代わりを務めさせて頂きたい。この戦闘狂共を纏め上げ、戦果を持ち帰ると約束します」
「………」
どうしよ、任せていいのかな………うん、いいや。任せよう。なんかもう、疲れちゃった。色々考えることが多過ぎて、思考放棄したい。それにドルラスなら問題ないだろ、何回か僕の代わりに指揮してたし。
「分かった、ドルラス。君に先遣隊の指揮官を任せる」
「その任、拝命します。必ずやご期待に答えて見せましょう」
「期待してるよ………皆も、ドルラスの指揮に従うように。いいね?」
幹部陣を見渡すと、不服そうではあるが文句を言うことはなかった。どうやら、一応は納得してくれたらしい。一先ず『白夜』の件は片付いたし、次の話をするとしよう。ずっと大広間にはいたが誰にも触れられず、本人も会議の雰囲気に呑まれて冷や汗を流していた少女に声をかける。
「アインス、こっちにおいで」
「あっ、はい!」
トコトコと急ぎ足で僕の隣に来たアインスを手で指し示しながら、この場にいるメンバーに紹介する。
「知っている人もいるだろうけど、改めて紹介しよう。彼女の名前はアインス・ディエス、今日から【帝王】に入ることになった新米冒険者だ」
「アインス・ディエスと申します。ふ、不束者ではございますが、ご指導ご鞭撻のほどお願いします!」
勢い良く頭を下げるアインスに、幹部は拍手を送る―――ことはなかった。カネサダやクロス辺りは微笑みを浮かべてはいるが、他のメンバーは歓迎するような感じではなかった。
誰一人声が上がらないことにアインスは、頭を下げているので顔は見えないが戸惑っているのが目に見えて分かった。大広間に流れた微妙な空気感を変えようと、僕はなるべく明るい声色で告げた。
「彼女に指導役を付けたい、誰か立候補してくれる人はいるかい?」
僕は自分が危険な目に遭わない様に、ボスキャラの闇堕ちを防いできた。そのことを後悔はしていないが、一つ気がかりなことがあるとするならば、この世界の主人公、セノル・ディエスの強化イベントを潰してしまったことだ。
ボスキャラと戦い、死んで、クロノスの時の力で復活し、再び挑む。『Salvation of God』はそうやって進んでいくのだ。この原作が崩壊した世界でセノルが、死んで時間を巻き戻す力を持っているかは不明だが、ボスキャラとの戦いをなくしてセノルが成長する機会を消してしまったのは事実。どうやって主人公を強くするのか考えていたが、アインスがいた。
アインス・ディエスは本来の主人公、セノル・ディエスではないものの、世界を救う男と血が繋がっているのだ。冒険者の素質はきっと誰よりもある筈。極論、世界を救うのは主人公と同じくらいの強さを持っていればいいのだから、セノルじゃなくてもいい。
【極光】に入って僕の手の届かない所に行ってしまった不確定要素のセノルよりも、闇堕ちを回避して正義(?)の仲間になったボスキャラを使ってアインスを強くするのが一番、僕は昨日寝ながらその結論を下した。
アインスは最終的に、【帝王】の幹部全員を倒せるようになってもらいたいので、等しく全員から指導される必要がある。誰か後輩を指導するやる気がある人はいないかと呼び掛けたが、この様子ではいなさそうだ。しょうがない、何となく分かってはいたことだし、予定通りカネサダに指南をしてもらって―――。
「オーマ、私がやる」
「えっ?………あー、分かった。頼むよエス」
誰もいないと思っていた中、右手を挙げて自分がやると言ったエス。予想もしていなかった人選に対応が遅れてしまったが、エスは気にすることなく席から立ち上がり、アインスの前まで歩いていく。
「………宜しく」
「は、はいっ。よろしくお願いします!」
ぶっきらぼうに挨拶をするエスに、アインスは若干怯えつつも返事をする。うーん………不安だ、どうしようもなく不安だ。後でストッパー役としてカネサダと、万が一死にそうな目に遭っても問題ないようソフィアにも付いてもらうよう頼んでおこう。
「んじゃまぁ、僕から言いたいことはもうないけど、他に意見やら共有しておくべきことがある人ー?」
その後、ちょっとした意見交換をして何回目かも分からない帝王会議は幕を閉じた。
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「おい」
「なんか用、フェルス」
「どういう風の吹き回しだ、あのガキの御守を引き受けるなんざ」
「別に………ただ、生意気な女は、ちゃんとクランの先輩として、お姉さまが躾けてあげないと」
「………お前」
「分かってるわよ………でもね、この醜い感情を止めることは出来ない」
「………壊すなよ」
「善処はするわ」
薄暗い思いを胸に【剣姫】は鞘から刃を抜き放った。




