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死にゲーに転生した僕、自分だけでも助かろうとしたらボスキャラたちに好かれた………いや、何で?  作者: オク
第二章

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第二十五話 『Salvation of God』

 『Salvation of God』は女神が主人公を導き、悪意をばら撒く『邪神』とその手先達(ボスキャラ)を倒して世界を救うという話だ。一見よくある王道なストーリー展開だが、実際の所は違う。


 『邪神』と呼ばれるものは存在しない、全て作り出された架空の神だった。いや、この表現は少し違う。『邪神』は確かにいた、そう主人公のすぐそばに。主人公を導き続けた女神―――時の女神、クロノスが全ての元凶だった。


 ボスキャラ達の闇堕ちも、主人公の身に降りかかる災いも、ネームドキャラ達の死も、全てあの女神が裏で糸を引いていたのだ。何故そのような真似をしたのか、そう問いただした主人公にクロノスは答えた。「ただの暇つぶし」だと。


 このゲームのタイトル、『Salvation of God』はGo〇gle翻訳や様々な翻訳サイトで日本語訳してみると『神の救い』という意味になる。当初は、神が主人公を導き世界を救うから、そのタイトルになったのだと思った。


 だが、実際は違った。主人公を操作してプレイするゲーマーを、自分が作った世界で遊ばせて悶え苦しむ様を嘲笑う性根の腐った、退屈な女神にとっての救いだったという事だ。僕達が当たり前のように使う、セーブやロードも時の女神の力によってできていた事であり、時々話される攻略ヒントも、渡されるクリア報酬も、何もかも自作自演。全てがマッチポンプなのだ。


 その事実を初めて知った時、様々な感情が体中を巡った。騙されていた事への怒り、信じ切っていた味方に裏切られた悲しみ、まさかのタイトル回収に対する興奮、ついに現れたラスボスとの対決の高揚と緊張。一言では表せないあの感情を、僕は一生忘れないだろう。


 だからこの世界の住人になってしまった時、何よりもその女神を恐れた。フォートヴ王国、時の女神クロノスを崇め奉る大国、その王都はクロノスの遊び場でしかない。物語の主要な舞台が、敵の掌の上なのだ。


 僕の命はあの女神の思うがまま、いつあの性悪に殺されるか不安で不安でしょうがなかった。今思えば、この世界に迷い込んだ時から、もっと慎重に行動するべきだったのかもしれない。だが、いつ来るか分からない出来事よりも確定している出来事―――ボスキャラ達の闇堕ちを防ぐべきだった。だから僕は自分のやったことを後悔していない。寧ろ誇らしく思う。


 懸念していたクロノスも、これといった動きを見せてこなかった。最初の内は警戒していたが、何もアクションせずにいたので、ボスキャラの闇堕ちを防いだことによって、原作が大きく変更された影響でクロノスがいなくなったのかと思っていたが………どうやらそんなことはなかった。


 時の女神クロノスは、セノル・ディエスに付き纏っている。最初アインスに会った時、彼女にクロノスがついていると思ったが………あの時の会話で確信した。


『………理由なら言っただろう―――女神の御意志だ』


『兄が「女神様からの神託」だと言って、王都に旅立とうとしたので付いてきた』


『どっちも女神の御意志らしい。前者二つは兎も角、後者は納得いかない』


 これまでの情報とゲームの知識を結び付けると、クロノスはセノルを選び、アインスと離れさせた。お兄ちゃん大好きっ子のアインスを、セノルの口から拒絶させることで彼女の闇落ちでも狙ったか………あのクソ神の考えそうな事だ、反吐が出る。最も、その計画は失敗に終わったみたいだが。


 兎も角、僕はその事実をアインスに告げた。最も全てではない。嘘と真実を混ぜ合わせた話をした。


 セノルは『邪神』と呼ばれる存在に言いくるめられている可能性がある、その『邪神』はこの世界を遊び場にして人類を弄んでいる。僕はその『邪神』を倒す為に行動を起こしていると。全てを聞き終わったアインスは蒼白な表情でフラフラと床に座り込んだ。


「お兄ちゃんが………『邪神』の手先にされている?私との関係を断ったのも、その神の仕業?『邪神』は世界を滅茶苦茶に………」


 虚ろな目で呟くアインスと視線を合わせるように、膝を付き彼女の闇を取り除けるようにと、強い思いを込めて話す。


「だから僕は『邪神』を止める為に準備をしている」


 俯いていたアインスが僕の言葉に反応するように、ゆっくりと緩慢な動きで首を上げる。部屋の中に夕日が差し込み、僕の顔を照らした。眩しくて思わずカーテンを閉めに行きたくなるが、なんかいい雰囲気なので放置した。


 僕がアインスを連れてきた理由、一つは情報収集。もう一つはセノル・ディエスをクロノスから解放すること。時の女神、クロノスを倒せるのは他ならない主人公しかいないのだ。だが今主人公はクロノスの言いなりになっている。世界を救う存在が、敵の手の中に堕ちている………どんな鬼畜ゲーだよ。


 だから主人公との関係を、クロノスより親しくする必要ががった。クロノス以上に信頼される存在になる、コミュ障日本代表の僕には厳しくてお腹が痛かった。


 だけど、今は違う。目の前にいる少女、アインス・ディエスはセノルと家族関係にあって、見ず知らずの他人でしかない僕の言葉よりも心に響く筈だ。


「どう、して………そこまでやるんですか?どうして神に歯向かえるんですか?」


「………僕はね、この世界が好きなんだ。苦しい思いもしたし、何度離れようかとしたか分からない………けど」


 この死にゲー、『Salvation of God』を何度やめようかとしたか分からない。電源ボタンに手を伸ばして押そうとしたか。その度に、初めてゲームを起動した時のワクワクとした気持ち、初めてボスを倒した時の感動、あの気持ちが忘れられずにゲームに挑戦し続けた。何回、何十回、何百回、何千回ゲームオーバーを繰り返しても、『Salvation of God』は僕の人生を彩った最高のゲームなんだ。


「僕はこの世界を愛している」


「!!」


「だから、好き勝手暴れる『邪神』を許しておくわけにはいかないんだ………アインス・ディエス、君の力を貸してほしい。共に君の兄を救おう!」


 まっすぐと手を差し伸ばす。僕の懸けるこのゲームの情熱が、凍てしまった彼女の心を解かせるように、そんな願いを込めて。


「………『邪神』さえどうにか出来れば、お兄ちゃんを救えますか?」


「あぁ」


「………分かりました」


 アインスは僕の手を強く握りしめ(手の骨がミシミシ鳴ってる気がするが気にしない、痛みを感じるが気にしない)、立ち上がって僕の目を見つめた。碧眼の瞳と僕の眼が交差する。


「私も一緒に戦います。オーマさんと一緒に、『邪神』を倒す。足手まといになるかもしれませんが、お兄ちゃんを助ける為に、全力を尽くします」


「あぁ、宜しく頼むよ。アインス………ん?」


 待てよ、今アインス何て言った?「オーマさんと一緒に、『邪神』を倒す」って言った?


「『邪神』がどれだけ強いか分からないですけど、【英傑】の二つ名を持つオーマさんでも厳しいんですよね、だから私に………明日から鍛えないと、頑張ります!」


「あぁー………うん」


 ………やらかしたーっ!?確かに今の会話内容だとそうなるよね!僕は一度も『邪神』を倒すとは言ってないけど、そうなるわ!今の会話内容で、「僕は倒さないけど」って、ならないもん!無理だよ、不可能だよ、絶対にできないよ!


 クロノスを倒すことができるのは主人公―――セノル・ディエスだけだ。だから僕はセノルをクロノスから解放しようという意味で話したが………肝心なことを言ってない!


 ど、どうしよう。今からでもその事話そうかな。いや無理だわ、こんなにやる気に満ち溢れているアインスに水を差すような真似できない………マジでどうしよう。


 お、落ち着け、何も今すぐクロノスと事を構える訳ではない。もし決戦の日が迫ってきたら、何かしら理由を付けて皆に譲ればいい。その時にはセノルもクロノスの最悪な部分が浮き彫りになって、僕達に付いてきてくれる筈だ。


 そんな風に自分に大丈夫だと言い聞かせることに夢中になっていた僕は、扉の外からの視線に気づいていなかった。






―――――――――――――――――――――――――――――――――――――






 扉から体を引き剥がす。サバルトとスロート、ゼクス、王都不在の幹部を除いた【帝王】の幹部がルナの部屋の扉の前に集まっていた。九人も揃えば会話の一つや二つ起こるものだが、音が響くはずの廊下は静寂に包まれていた。全員、無言で立ち尽くしていたが、クロスが動くのと同時に他の面々もその後に続いた。


 重い足取りで、まるで落ち武者のように歩く。もし【帝王】を知る他の冒険者が今の彼等彼女等を見たら、椅子から転げ落ち頭を打って気絶することは間違いないだろう。


 恐れ知らずの【帝王】の幹部が、誰が見ても落ち込んでいる。今の【帝王】の姿はとても信じられるものではない。どれだけ追い詰められても戦意だけは途切れることのなかった、どれだけ苦しい目にあっても心の炎は消えることがなかった。


 だが、今の【帝王】は意気消沈していた。誰も何も語らず、それでも思いは同じなのか、幹部のみ入ることを許されている大広間の中に入った。力なく各々に割り当てられた椅子に座る。下を俯きテーブルを見ることしかできない。


 数秒後、机が轟音と共に大きく揺れた。フェルスだ、彼が机に手を叩きつけた。世界一硬いと言われている石材で作った机だと言うのに、フェルスの叩きつけた跡には罅が入っていた。フェルスも無事では済まず、手から血が流れ落ちるが痛みに悶える事なく、寧ろ自分への罰だと言わんばかりにその傷を忌々しそうに見る。


 怪我を癒す回復術師《ヒーラー》のソフィアも、フェルスを癒そうせず、自分の二の腕に爪を食い込ませていた。他の面々のやり方は様々だが、行き場のない怒りをぶつけるように自分の体を傷つける。


「………いつまでもそうしてはいられないだろう」


 そんな自傷大会に終わりを告げたのはクロスだった。手を強く握りしめ皮膚が破けている手を気にすることなく語る。いつもならクロスが喋るだけで噛み付いていたフェルスもエスも、今回ばかりは黙っていた。


「オーマの目標を、真意を私達は初めて知った………それも盗み聞きのような形だったが」


「………今までの動向に漸く合点がいきましたな」


 クロスの発言に呼応するようにカネサダが頷く。【帝王】の面々が常々悩まされる、オーマ・グライアンドの悪癖のようなもの。捨て猫を拾ってくるように人を拾ってくるのだ。自分達と同じ、世界に絶望しかけた者を。


 本来、人助けをするのは褒められるものだし素晴らしいものだ。だが、オーマに相応しい戦士に、オーマの一番になりたがる【帝王】には敵が増えるようなものであり、手放しに歓迎できるものではない。


 最も、自分達もその行動に救われたのだから、文句を言うのはお門違いなのだが。ついさっきまでは、オーマの優しさが、人の好さがそうした動きをしていたのだと思っていた。だが違った、違ったのだ。アインスとの会話で自分達の思い違いだと判明してしまった。


「ずっと、探していたんですね。『邪神』とやらを倒せる存在、自分と肩を並べられる者を」


 この場にいる者達の確信を突くように、ロゼが細々とした声で呟いた。誰もが手、腕、肩、足、差異はあるが、体のあちこちを震わせた。シバリングなどという生理現象なんかではない。それは怒り、悔やみ、屈辱などといった自身への不甲斐なさに対する感情を隠せずにいるのだ。


 オーマ・グライアンドは探していたのだ、『邪神』を倒せる者をずっと。死にかけだった、生きる理由を失くした、そんな自分達を拾って見定めていた。オーマの強者を見抜く目は確かだ。


 幹部である自分達は当然として、構成員に至るまで他の冒険者とは比べ物にならないくらい才能に溢れ、強者として相応しい実力を兼ね揃えていた者共を【帝王】に引き入れていた。故に【帝王】は王都最強のクランだと評されているのだ。


 だが、オーマの目には敵わなかったのだろう。この程度の強さでは『邪神』に勝てない、そう判断した。そうでなければ、今頃オーマは世界の真実を話していただろう。本人も言っていたではないか、「誰にも告げていない」と。それが事実だ、オーマは自分達では勝てない、足手まといだと悟って、巻き込まないように話さずにいたのだ。


「…………………………クソがッ」


 殺意に満ちた目でフェルスが唾棄する。憤怒が頭を支配し、冷静になれない。オーマに救われた日から、この身は彼の為に尽くすと決めていた。オーマの障害となるものを粉砕し、オーマの道を阻むものを穿つと。


 実際に成し遂げてきた、オーマと敵対する存在を殺した、数えきれない屍の山を積み上げてきた。オーマの威光を汚すまいと、彼の手足となって死闘に身を投じてきた。その功績が、オーマの感謝の言葉が、自分はオーマの力になれている期待に答えられていると思っていた。


 けど、違った。オーマの期待に自分は何一つ答えられていなかった。勘違いも甚だしい、何が【灰狼】だ、何が冒険者最速だ、愚民共の称賛に酔ってるんじゃねぇ間抜け。


「足りない………全然足りてない!」


 エスが勢いよく椅子から立ち上がり、大広間から去っていく。遅れた、とフェルスはエスの後を追う。二人に引っ張られるかのように、幹部が全員駆け出した。目指す場所は決まっている、地下に作られた修練所。


 クランハウスの領域全土に匹敵する広々とした空間だ。辿り着くや否や、誰もが獲物を手に取って戦いを始める。殺し合い同然の闘争、とても仲間内でやるべきではない戦い。


 だが【帝王】にはそんなの日常茶飯事だ。オーマに相応しい戦士になる、オーマの敵を蹴散らす力を手にする。その思いを胸に宿す【帝王】は決して負けない力を求める、同じクランメンバーであってもそれは変わらない。


「死ねッ!」


「アンタが死ねッ!」


「………堕ちて」


「無駄っすよ!」


「これでも喰らっときな」


「甘い」


「軽いですっ………ね!」


「行きます」


「受け取ってくれ」


 フェルスの槍が縦横無尽に駆け抜ける、エスの鋭い斬撃が四肢を断つ、ルナの血の魔弾が風穴を空ける、エレンの風を纏った矢が轟音と共に放たれる、ザックの多種多様な魔法が爆発を引き起こす、カネサダの刀が鎧の間を縫うように振るわれる、ソフィアが迫りくる攻撃を受け止め傷を癒しながら肉薄する、ロゼが雷の拳を叩き込む、クロスが魔法と剣の音色を奏でる。


 血と汗が絶え間なく飛び交い、生と死が繰り返される。決して壊れないようにと、最も硬い素材で作ったのにも関わらず石畳が容易く破片となって宙を舞う。


「ちょっ!?皆、ストップ!止まって!!?」


 【帝王】の幹部達による死合は、地下から絶え間なく生じる揺れに気付いたオーマが慌てて止めに入るまで続いた。

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