第二十四話 この世界は
「えーっと、話をしてもいいかい?」
「は、はい………その、ごめんなさい。完全に忘れてました」
ルナとフェリスとのブラコン会議に一区切りがついたタイミングで、僕はアインスと漸く話せるようになった。バツの悪そうな顔で頭を下げるアインスを見ながら、僕は思った。やっぱり忘れられていたなって。
いやいいんだ、僕は皆と違ってモブキャラなんだから、パッとしない顔立ちなのは当然だ。ルナとフェリスの方が記憶に残るのは必然、僕みたいな背景に同化しているモブキャラの事なんて覚えられるわけがない。
「大丈だよ、気にしてない」
「………その割には、涙ぐんでますが」
「これは古に負った古傷が痛んでいるだけだよ、気にしなくていい」
「は、ハァ………」
そうだ、別に気にしていない。決して前の世界で似たような経験を思い出して、勝手に傷ついている訳ではない。だからその憐れむような目を向けてくるのはやめてくれ、そっちの方が心にくる。
「そんなことはどうでもいいんだよ。僕が話したい事、聞きたい事は別にある―――君のお兄さん、セノル・ディエスについてだ」
アインスは一瞬、肩をビクッ震わせるが反応はそれだけに留めていた。さっきのことがあるからまた掴みかかられるかと思ったが、そんなことはなくて安心した。今は暴走を止めてくれるルナ達もいないし………いや、止まってなかったな、寧ろ助長させていた。
因みにあの二人がこの場に居ないのは、眠そうなフェリスをルナが連れていったからだ。今日は朝からお祭りを遊ぶ計画を立てて、襲撃騒ぎで慌ただしかったのに、アインスの面倒を見てくれて………迷子になって流されるままだった何処かの誰かとは違って頑張ってくれたよ、本当(白目)。
「まず、君のお兄さんを襲ってしまった事について謝罪する。僕はルナとフェルスの暴走を止めることなく静観していた。理由があったとはいえ、クランマスターとして失格だし、見ていて気持ちの良いものじゃなかっただろう………後でセノル・ディエス本人にも謝罪する。すまなかった」
「い、いえ………ルナと、フェルスさん?狼人の彼は私の為に怒ってくれたんだと思いますし、気になさることは―――」
「あの二人は君の為に怒ったんじゃないと思うよ」
「えっ?」
頭を下げて謝罪の言葉を口にする僕の姿を見て、手をあたふたとさせて気にしていないと話すが、その中で一つ今後の為にも訂正させておかなければならない事があったので口を挟む。
「【帝王】は見ず知らずの誰かに力を振るう事はしない。中にはお人好しがいたりもするが、基本的には自分の為に行動する」
「えっ、えっと………つまり?」
「多分あの二人は君の為じゃなくて、セノル・ディエスの在り方が気に入らなかったんだと思う。二人の信条に、戦う理由に反するような発言や行動をしたから………あくまで予想だけど、確信もしているよ」
流石はボスキャラと言うべきか、【帝王】の幹部は総じてエゴイストの塊。皆、自分の為にしか戦わない。僕の指示には従ってくれるがそれも完全ではなく、独断専行、命令違反を繰り返す。
それを怒るに怒れないのは、その行動が巡り巡って良い結果になったたりする。終わり良ければ総て良しというアレだ。そんなんだから僕は皆の行動を黙認せざるをえない。
そもそも、平和な世界から来た僕、死が跋扈する世界で生きていた皆、どっちの指示が的確なのかは明白だ。最初の頃は原作崩壊が起こっていなかったので、自分の知識だけでどうにかなっていたが、ここ最近は上手くいかない事が多くなってきた。
だから、もう僕が指示を出すよりも皆に任せておいた方が良かったりする………のに、何故か僕の功績になっている。皆の行動は全部僕の予定通りで、計算された結果だと。僕なんもしてない、ただ偉そうにふんぞり返ってただけ。本当に意味が分からない。
とまあ、話が大きく脱線してしまったが、ルナもフェルスもアインスの為ではなく自分の為に行動していた筈だ。
「だから気に病む必要はないし、謝る必要もない。君は「人の兄になにしてくれとんじゃボケェ!!」って思っていればいい」
「は、ハァ………」
納得いっていないような顔で、躊躇いがちに頷くアインス。君は知らないだけだよ、本当は敵対する筈だった皆の性格とか諸々を。
「それじゃあ、本題に入ろう。幾つか質問させてほしい」
姿勢を正して話そうとする僕を見て、アインスも身を引き締めていた。兄と共通している宝石のような碧眼を見つめて口を開けた。
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アインスは僕の質問に素直に答えてくれた。何でそんなことが分かるかって?それは勿論、天授物の『真実の天秤』を使っているからだ。効果は予想が付くだろうが、嘘を付くと音が鳴って教えてくれるアイテムだ。
善人なら嘘を付くと個人差はあるがあるが良心の呵責が、悪人なら噓を付くと邪な思いが生まれる。そんな人の心理を的確に見抜く事でできるのが天授物、『真実の天秤』だ。実際の問いかけの様子を軽く振り返る。
Q.セノル・ディエスとは本当に血の通った兄妹か?
A.間違いなく兄妹。少なくとも父や母から義理の兄妹とは聞いたことがない。
Q.何故この王都に来た?
A.兄が「女神様からの神託」だと言って、王都に旅立とうとしたので付いてきた。
Q.その女神について知っていることは?名前とか。
A.あまりない。名前はタイミーらしい。
Q.セノル・ディエスは何故冒険者になった?どうして【極光】に入った?どうして家族の縁を切ると?
A.どっちも女神の御意志らしい。前者二つは兎も角、後者は納得いかない。
と言った感じだった。本当はもっと根掘り葉掘り聞きたかったが、あまりしつこく聞くと嫌だろうしここら辺に踏み留めておいた。っていうかなんだよ名前がタイミーって。どっかでバイトでもすんのかお前。
(聞きたい事はある程度聞けた………ただ、どうしたものか………面倒な事になったな)
「あ、あの………この質問に何の意味が?」
思案にふける僕におずおずと声をかけてくるアインス。当然の疑問だ、どうしてセノル・ディエス本人ではなく、自分に聞くのか。一体今の質問で何が分かったのか。素直に質問に答えてくれたのだから、こちらも答えてあげたいのだが………どう返そう。ありのまま答えるべきか、嘘の事実を話すべきか………うん、決めた。
「………そうだね、嘘を付かずに話してくれた礼に話してあげたいが………コレを聞けばもう後戻りはできない。君は茨の道どころか、針と灼熱の地獄道を歩くことになる。その覚悟があるかい?」
今から話すのはこの世界の真実、物語の終盤で明かされる黒幕についてだ。この世界の住人からしたらとても信じられない話、生半可な気持ちで聞いてはいけない内容だ。僕の言葉を聞いたアインスは一度怯んだ、そして覚悟の決まった表情で見つめ返した。
「それはお兄ちゃんに関係ありますか?」
「あぁ」
「その地獄の道を渡り切れば、お兄ちゃんとまた笑え合えますか?」
「それは君達兄妹次第だが、その可能性は高い。それは保証する」
「………なら聞きます、聞かせてください!このまま何もせずに黙っているなんて絶対に嫌だ!だから、お願いします」
また兄と笑いたい、元の関係に戻りたい。その思い一心のアインスの想いを受け止め、僕は口を開いた。
「いいだろう、君に話そう。このクソみたいな世界の真実を。誰にも告げていない、僕だけが知る話を」




