第二十三話 ぶらこんに巻き込まれた
扉をノックし、返事が返ってくることを確認して中に入る。キングベッドに座るルナと、地べたに座り込んでいるフェリス。そして椅子に自分を抱え込むように座っているアインスがいた。
「………オーマ」
ベットから身を投げ出し、トテトテと僕の方に歩いて来るルナ。若干かがんでルナの顔と高さを合わせる。
「様子はどう?」
「………少しは落ち着いた、けど」
様子を窺うようにアインスを目で追うと、完全に立ち直ってはいないようだ。見るからに落ち込んだ様子が分かる。
「………後は任せる」
ルナはフェリスの手を引き壁に寄りかかる………僕に丸投げですか、そうですか。いや文句を言えないのは分かってる。というか、言い方が悪いけど最初にアインスをルナに押し付けたのは僕なんだし。
ただね、僕はこの世界に来る前は、女の子と碌に喋れない童貞丸出しの男だったんだ。女の子と話せるだけでテンション爆上がり、ちょっと話しかけられたら「僕に気があるんじゃないか」とか考えてしまうくらいにはチョロい。
今でこそルナとかロゼとかと話すようになって、耐性はついたが僕にはまだハードルが高い………けど、覚悟決めないとな。
「や、やぁ?」
片手を挙げてにこやかに話そうとしたが、初手で分かった、誰がどう見てもミスった。なんだよ「や、やぁ?」って。どもりすぎ、尻すぼみしすぎ、何故に疑問形。
なーにが耐性が付いたじゃアホンダラァ!女の子に慣れていないにも程がるだろボケェ!自分の不甲斐なさに怒り心頭の中、アインスがおずおずと顔を上げる。
「す、少しは気分が良くなったカナ?」
後半カタカナになるという醜態を晒しながらも、必死に言葉を紡ごうとする僕の言葉にコクンと頷くアインス………もう何かいろいろ限界かもしれない。圧倒的に女の子との会話に慣れていない羞恥で死にそうだ。ただ、顔を引き攣らせてでも、聞きたいことはあるので話をしないといけない。
「き、君のお兄さんの話なんだけど―――」
「お兄ちゃんっ!」
「おわっ!?」
会話デッキが底をついて、そそくさと本題に入ろうと兄君の話をした途端、さっきまでの陰鬱さはどこにいったのか。体を投げ出すように椅子から飛び降りて僕に近づいてきた………って、近い近い近い!?
「お兄ちゃんがどうしたんですか!?いじめられてるんですか!?だとしたら助けに―――」
「す、ストーップ!落ち着いて!?」
急に捲し立てながら、今にも体が密着しそうなぐらい僕に詰め寄って来た。アインスを止めようと思わず肩を掴んで止めてしまった………コレ、セクハラで訴えらたりしないかな?などと考えていると、我に帰ったのか、アインスは自分の行動を恥じるように顔を若干赤らめて後ろに下がった。
「ご、ごめんなさい。お兄ちゃんの事になると自制できなくって………」
「あぁ、いや………」
自身の失礼を詫びるように頭を下げるアインスに、どう答えていいか分からず口ごもる僕の横をルナとフェリスが横切る。二人は同時にアインスの型に片手を置く。ビクッと体を震わせたアインスは恐る恐る顔を上げる。ルナとフェリスは二人して親指を立ててグッドし出した………はい?
「………気持ち、分かる。仲間」
「お兄ちゃんが好きな事は恥ずかしいことじゃないよ!」
何を言いはるの君達?状況が読み込めず、ローディング状態になっている僕に反し、女子三人組は盛り上がっていた。
「………おかしくないでしょうか、兄にここまで執着するのなんて」
「そんなことないよ!お兄ちゃん好きなのは私も同じだもん」
「………兄が嫌いな妹など、存在しない」
いや、いると思うよ。うん、普通にいるよ。仲が良い兄妹なんて都市伝説レベルだと思うよ僕は。
「そ、そうですかね?良かったー、私だけがおかしいんだとばかり………お二人はお兄さんの何処が好きなんですか?私はお兄ちゃんのひたむきな所が………」
「私はね、お兄ちゃんの面倒見の良い所かな?後、強い所!」
「………私はオーマの優しい所、温かい所、賢い所、強い所、面白い所、カッコいい所、可愛い所………」
な、何か「私の兄のここが凄い!」大会が始まった。僕はただアインスから主人公の話を聞きたかっただけなのに………どうしてこうなった?
後ルナ、君の中の僕の評価どうなってるの?優しい所と温かい所は誰にでも言えるっちゃ言えるけど、後半は嘘しかないよ?僕は賢くない(昔中間テストで数学三点取ったことあるし)、強くもない、面白くもない、カッコよくもないし、最後の可愛いは本当に何?僕に可愛げなんて微塵たりともないからね?
「………決めた、アインス。貴女は私達の『ぶらこん同盟』に入るべき、歓迎する」
「あっ、ルナちゃんそれ良い考え!」
はい!?なに『ぶらこん同盟』って、そんなもの作ってるの君達?突然そんな事言われて、アインスも戸惑ってるに決まって―――。
「良いんですか!?ありがとうございます!宜しくお願いします!………ところで、無知を晒すようで恥ずかしいのですが、その、ぶらこん?って何ですか?」
「………オーマ曰く、「兄や弟が大好きでしょうがない人達を指し示す言葉」らしい。私達にピッタリ」
「成程、ぶらこんですか。良い言葉ですね。教えていただきありがとうございます、ルナさん」
「………ルナでいい、歳も近いだろうし。呼び捨てで構わない」
「私も、フェリスでいいよアインスちゃん」
「ありがとうルナ、フェリス。改めてよろしくね」
全然そんな事なかったよ、寧ろ嬉々として加入を決め込んだ。一体誰だよ、この三人をこんな風にしたのは………どう考えても僕です、ありがとうございます。
本来死んでいたフェリスを救ったのは―――僕。家族に、人との繋がりに飢えたいたルナに兄になるって言ったボケナスは―――僕。本来存在しない主人公が二人いるように原作を改変したのは―――僕。この三人がブラコンになってしまったのは、全部僕の仕業だった。なーに被害者面してんだ間抜け、お前の性だろ阿保。
自分の馬鹿さ加減に辟易として、キャッキャウフフする三人を眺めていて、僕は思った………コレ僕いる必要ある?僕の事なんて三人共既に眼中にない、完全に空気だよ僕。
コレがアレか、女子のグループに混ざってしまって、自分のことなど気にせずに好き勝手に話しているのを聞く男子の気持ちか。元の世界では感じることなかった気持ちに、僕はひっそり心の中で涙を流すのだった。




