第十八話 真と偽
拝啓、お母さん。お父さん。いかがお過ごしでしょうか?早速ですが一つ、言わせてください。どうやら僕はここまでみたいです。何故なら―――。
「どうしましたか?早く構えてください」
見るからに怪しい白い服を着た集団に囲まれて、今にも殺されそうだからです。
(無理ゲーだろコレ!?)
現実逃避してる場合じない!今までの人生で比べられないくらいピンチなんですけど!?どなたかー!お客様の中に、僕を助けてくれる心優しい人はいませんかー!
「………この状況でも顔色一つ変えないとは、余裕があるみたいですね」
違います、余裕なんてありません。顔色が変わらないのは天授物、『無表情』のお陰です。主人公の表情を固定するだけのゴミアイテムです。この腕輪お洒落だからって思って付けてきて。主人公に会って、動揺が伝わらないように咄嗟に使ったら表情が変わらなくなっただけです。
「仕掛けてこないなら、こちらから行きますよ」
「………本気か?僕のことを分かって言っているんだよな?」
「当然、でなければこれだけの精鋭を集めたりしません」
固まっている僕にしびれを切らしたのか、攻撃をしようとする老人にせめてもの抵抗とばかりに脅してみるが一蹴。老人が手を上げると僕のすぐ近くにいた一人が剣を振り下ろしてくる。
顔を覆ていたマスクが風で浮き上がり、一瞬だけ蒼白の顔が見えた。何で襲っている側が、そんな恐怖に染まった顔をするんだよ。僕の方がするべきだよ………ってヤバ、避けれない。ぼんやりとそんなことを考えていたら、刃は寸分違わず僕の頭を両断しようとして―――眩い雷撃に弾かれた。ただの雷撃じゃない、盾の形をした雷の障壁だ。
「なッ!?」
老人が驚いた声を出し、僕を斬ろうとした男が雷撃に弾かれて、壁に激突して意識を断った。痛そー………。
「………雷の魔法?いや、魔力を使った形跡は、まさかこちらの認知速度を上回る速さで?一体どうやって?」
な、何かブツブツ呟いてる、怖い。周りも何かザワついてるし、主人公も呆気にとられた顔してる。すんごい考えてくれている所申し訳ないんだけど、そんな考察するほどの事じゃないです、はい。
天授物『王族の盾』、一回だけどんな攻撃も防ぐ腕輪型のアイテムだ。僕の奥の手でもあり、生命線でもある。僕を襲った男はこの雷の盾に弾かれただけで、魔法とかじゃないので魔力も使っていない。完全無敵の天授物なんだけどさ、コレもう使えないんだよね。正確にはクールダウンに一日かかる。今から二十四時間、『王族の盾』は使うことができない。
因みにゲームではリアルタイムで一週間かかったし、ショボい攻撃で発動してしまうので全然強くない。装備欄を埋めるだけのゴミアイテムだった。この世界では幾らでも付けられるので付けているが………アレ、冷静に考えたらもう切り札使っちゃった?頑張れば避けられる攻撃で?
(はっ、そうだ!『通信石』で救援を呼べば………!)
懐に手を入れ天授物『通信石』、ようは電話を取り出そうとして………ないんだけど。背中に冷や汗が流れだした時、脳裏に今朝の光景が過った。『時空祭』へと出向く際、着替えとか荷造りをしていた時、フェルスが付いてくれるから武装系も最低限にしようとして………そう、要するに。
(『通信石』、置いてきちゃった☆)
馬鹿野郎ー!!電話置いて外出するとか、間抜けにもほどがあるだろうお前ェ!!自分で自分を罵倒し、今にでも壁に頭を叩きつけたい気分だが、そうは問屋が卸さない。
「原理は分からないですが、格上相手に様子見は下策でした。総攻撃を仕掛けなさい!【英傑】の首を取るのです!!」
(やっばーい!殺されるー!だ、誰か助けてー!!)
心の中で必死に命乞いをしていたその時―――光の魔弾が『白夜』全員を撃ち抜いた。声も上げることなく全員揃って倒れ伏す。攻撃されるまで、いや攻撃されても見えなかった光速の弾丸。こんな攻撃ができる人物何て数が限られて、いや一人しかいない。
「危なかったな少年達………ん?」
見るからに仰々しい白と黄色の長杖を携え、路地の奥から歩いてきた青年は僕を見て怪訝な表情をした。
「何だい、君か。オーマ、それなら助ける必要なんてなかったか?」
「あぁ、いや。助かったよユーリ」
白装束とはまた違った、一回目に入れれば謎の安心感を覚える白銀のローブに黄金のアクセントが入った最古のクランの一つ、【究極の光】の制服を着た美青年、【勇者】ことユーリ・オリングセル。【極光】(【究極の光】の略称)のクランマスターにして、この世界最強の冒険者だ。
というか、何でこんな辺鄙な場所に最強の冒険者がいるのだろうか。いやまぁ、お陰で助かったけど、こんな所にいる暇があったら、もっと激しい戦場に行くべきでは?そんなことを考えていると、ユーリの目が僕から外れて主人公を見て、驚いた表情をしていた。
「君は………」
言葉に詰まるユーリと主人公は、僕の背の後ろに隠れようとして………いや、何で?というか君達知り合い?えっ、じゃあこの世界線のルートって―――。
そんな風に目を白黒させていたら、突如影が地面を過ったのが見えた。上に目を向けると、槍を携えた獣人が躊躇いもなく、ユーリの頭に槍の矛先で突き刺そうとしていて―――えっ?
「死ね!!」
その声と共に、フェルスがユーリに襲い掛かっていた………いや、何で!?僕が驚いている間にユーリは片手を軽く上げて、槍を片手で止めていた。正確には人差し指と中指の間に挟んで止めていた、うん、意味が分からない。
空中で静止していたフェルスは舌打ちとと共に、槍を大きく振り払う。ユーリは槍から手を離しフェルスを解放する。フェルスが僕の前に地に足を着いたのと同時に、僕の後ろを風が横切った。矢だ。複数の風を纏った矢が僕を正確に避けてユーリ目がけて放たれていた。それだけじゃない、背を低くした群青色の人影―――エスが剣を片手に、ユーリに斬りかかろうとしていた。
矢と剣の同時攻撃に、ユーリは眉一つ動かすことなく、地面に長杖を突きさすように叩いた。瞬時に光の障壁が展開され、エスの剣と風を纏った矢は完璧に防がれた。障壁を破ろうとエスの剣に込める力が増したのが分かったが、少し障壁が削られて小さくなるだけで、障壁には罅一つ入っていなかった。
ユーリは破ろうとしているエスには目もくれず、先程白夜を撃ち抜いた光の魔弾を上空に向かって打ち出した。光の魔弾は鮮血の光線を相殺して撃ち落としていた。ルナだ、黒い翼を広げて空を飛んでいるルナがユーリ目がけて攻撃していたのだ。ルナは苦虫を嚙み潰したような顔をして、僕のすぐ傍まで降りてきた。エスも光の障壁を破るのは諦めて、後ろに大きく跳び僕の前、フェルスの少し後ろに着地した。
………いや、何この状況!?何で皆ユーリを襲ったの!?というか何時来た!?何でこんなにいるの!?『白夜』はどうしたの!?訳が分からずに黙って見ている事しかできない僕と対照に、ユーリは光の障壁を解いてこちらに向かって歩いてきた。
障壁に突き刺さっていた矢は、そのまま地面に落ちることなく風を纏って僕の背後に飛んでいった。後ろに目を向けると、困惑した顔の主人公と、飛んできた矢を回収して矢筒に入れていたエレンがいた。君もいたのね。というか、主人公はいつまで僕の後ろにいるの?あぁでも、こんな状況に巻き込まれたら動けなくもなるか。現に僕も動けていないし。
「やれやれ、物騒な挨拶だね【帝王】諸君?」
「うるせぇ死ね」
「せめて会話くらいはしてほしいよ、【灰狼】。だが、また腕を上げたね。【疾風】も【剣姫】も………【闇夜姫】は予想外だったけど、皆強くなっていて嬉しい限りさ」
「喧しいっす」
「アンタに言われても何にも嬉しくない、むしろ不快」
「………上から目線、止めて」
「はっはっはっはっは、コレは手厳しい」
な、何が起こっているんだろう、本当に。ユーリの言葉に皆揃って嫌悪感を隠しもしない罵倒をしたのにも関わらず、ユーリは心底嬉しそうだ。君、まさかクロスと同じM気質があるのかい?
「コレは………」
「ハァー………また面倒くさい状況になってる」
「ふむ………」
噂をすれば何とやら、戸惑った表情をしたクロスと溜息を吐いたザック、思案顔のカネサダがエレンより後ろから現れた。今王都にいる【帝王】の幹部殆ど集まってるじゃん。
ロゼは多分クランハウスにいるとしても、ゼクスはどうしたんだろう?後、ソフィアとサバルト、スロートも………ソフィアは兎も角、他の二人がいたら五月蠅いだろうし、寧ろいない方が良かったかも。
「これはこれは【帝王】の皆々様お揃いで。流石はオーマ、人望が高いな。羨ましい限りだよ。私には誰も付いて来なくて………」
目元を隠し、泣いた演技を披露するユーリ。彼の言っていることは間違っていない。王都最強の冒険者に付いていける者なんて一人もいない。それ故に【極光】のクランメンバーは誰もユーリと行動をしない、というよりできないのだ。強者とは常に孤独であることを知っているユーリは、弱者である僕を見捨てないウチの在り方が羨ましいらしい。
「ふざけたこと抜かしてんじゃねぇ殺すぞ」
「私達とオーマの実力差が離れてるのは知ってるけど、何時か追い付くって決めてる」
「フフフ、本当に羨ましい」
何か勝手に僕が追い付くって決められてるんだけど………無理だよ?この数年、怠惰な自分なりに頑張ってみたけど駄目だったよ?0に何を掛け算してもね0なんだよ、これは世界共通の不変の真理さ。何が羨ましいんだよユーリ、僕は皆の謎の期待にいつも押しつ潰されそうで胃が痛いんだ。そんなことを考えてお腹に手を当ててると、殺意剝き出しなフェルスとエスの前にクロスが立った。
「何故貴方がここにいる、【勇者】。私達のクランマスターと何をしていた」
「何をしていたと聞かれても、オーマとそこにいる少女が襲われていたから助けただけだ」
「あぁ?」
フェルス………いちいち突っかからなくていいよ?僕が助けられたのは本当だから。とはいえ、クロスの言う事も気になる。さっきも思ったけど、何故ユーリがここにいるのだろうか。まさか僕みたいに迷子になったわけではないだろうし、一体何故?
訝しげにユーリを見ていると、周りにいた皆がいきなり武器を構えだした………いや、何!?怖いんですけど!
「武器を下してくれ【帝王】、私の部下が来ただけだ………おいで」
ユーリが片手を上げて、背後に目を向けて来るように促す………そこに誰かいるんですか?真っ暗で見えないです。『黒猫の眼』はクランハウスに置いてきたので余計に。
目を細めて何とかユーリの後ろにいるだろう人物を見ようとしていると、石畳を歩く音が少しずつ聞こえてきた。ユーリの部下って言ってたけど、誰だろうか?彼に良くついて回った部下といえば、【雷光】か【煌騎士】辺りだろうか?
そんな呑気な考えをしていたら、息も絶え絶えな疲れた様子の青年と呼ぶには若すぎる少年が現れた。
「倒せたみたいだね。よくやった」
「つい最近、冒険者にっ、なった子供にっ、課す難易度じゃないでしょうっ!?」
「なぁーに、君なら問題ないと判断したまでだ」
(……………………………………はい?)
ちょっと待って、理解が追い付かない。ただでさえ小さい脳みそがショートする。
(どういうことだ―――主人公!?)
その姿はこの世界に来る前散々見た、見続けて、共に成長した相手―――セノル・ディエス。このゲームの男性版主人公、同じ場に存在してはならない二人の主人公が揃ってしまった。




