第十七話 剣姫はキレそう/刃葉は見つけたい
「ねぇ」
「何スカ?」
「増えてない?」
「そっすね」
王都北方、フォートヴ王国の城や貴族達が住まう場所で【剣姫】エス・レイドルと【疾風】エレン・アンガーは、『白夜』の構成員と対峙していた。順調に数を減らしていったが、『白夜』の証でもある白装束ではない、別の服装に身を包んだ集団が次々と現れていた。
「我等、『暗黒騎士』!今こそ王都を滅ぼす時!」
「『六華』参上、【帝王】への恨みを晴らすぞ!」
「行くぞ、俺達『ハンドレッド』が世界を支配する!」
「多い多い」
「いちいち名乗らないでもろて」
黒い鎧、華やかな和服、傭兵崩れ、統一されていなバラバラの集団が、あちこちで暴れ回っている。エスとエレンが即座に鎮圧するが数は減るどころか増えるばっかりだ。自分達【帝王】に恨みを持つ犯罪組織が、続々と向かってくる。
「直ぐに倒されるんだから来なくていいのに」
「実力差を理解していないのは面倒っすねー」
厄介だ、実に厄介。私やエレン、【帝王】ならば問題ないが他の冒険者には厳しいだろう。数も質もそこそこあるため、瞬殺するのに時間がかかる。さっさとぶちのめしてオーマを探したいのに、これでは進めない。
「死ねぇ!!」
「うるさい」
「がぁぁぁっ!?」
威勢よく飛び掛かって来たが、剣を棒きれのように振るい地に落とす。雑魚狩りの趣味はない。私が戦いたいのは強者同士での命の懸け合いなのだ。質より数のサバルトや、手柄を誇示したがるスロートとは違うのだ。
『数が増えてやがるッ、他の犯罪組織が加勢してるぞ!』
『あぁ、分かっている………誰かオーマと繋がったか?』
『無理ですー繋がりませんー』
『………通話中とも出てない、無視されてる?』
フェルス、クロス、ソフィア、ルナの声が『通信石』越しに聞こえてきた。皆が望む絶対無二の王は現れず、苛立つが募るばかりだ。
「あぁーもう、ウザい!!」
「おぉー………おっかないすよ」
元から我慢強い性格ではない、こうも思い通りにいかない展開が続けばキレ散らかすのは必然だ。その身を怒りに焦がし、目に映る全ての敵を屠ろうとする。その時―――。
「進めぇー!!」
「「「オオオオオオオオォォっ!!」」」
白銀の鎧に身を包んだ集団が、剣を掲げて犯罪者に突撃をし出した。
「あぁーアレ、王国の騎士団すね」
「遅い、本当に遅い!!」
エレンがぼんやりとした声で話すのとは裏腹に、私は感情を剝き出しにして罵倒する。国を守るのはアンタ等の仕事だろ!来るのが遅いんだよ!
「この無能共っ、さっさと来いよ童貞集団っ」
「自分の古巣に散々な言いがかりでは?」
「事実だからしょうがないでしょ!」
思い出しただけでもイライラしてきた、騎士団に入団していた私は、騎士団に女っ気がないから強姦されかけたのだ。あの時、オーマが助けてくれなかったら、私はクソデブ元騎士団隊長に幽閉されて、慰め者にされていただろう。
元騎士団副団長だったクロスも、その事実に気づいていなかったって言うんだから余計腹立つ。何が【剣聖】だ、馬鹿にしてんのか。ただでさえ相性が悪い(一方的に嫌っているだけだが)というのに。
「私の純潔は、オーマに捧げるって決めてんだよっ!」
「敵斬りながら、公の場でなんてこと言ってんすか………」
「………ところで、ずっと気になってたんだけど、アンタって女なの?男なの?無性なの?どうなの?」
「コロコロ話変わりすぎでは?………まぁどうぞ自分で考えてくださいっす」
性別不明、男にも女にも見える弓使いエレン・アンガー。出会った時は女だと思っていたが、ボーイッシュな服装を着ることが多く、本人もはぐらかすような発言を多々とり、どっちの性別か分からずにいる。【帝王】内の七不思議の一つにも数えられているぐらいには、エレンは謎の存在だった。
「………やっぱり、ついてるか確認するしかない」
「止めてもらっていいっすか!?」
剣を鞘に納めてじりじりと近づくと、エレンは両手で自分の体を抱きしめるようにして距離を取る。この状況でやる事ではないかもしれないが、今までサボっていたであろう騎士団に押し付けてやればいい。普段から仕事できないのだからいいだろう。もはや犯罪者の相手より、エレンの性別の方が気になってしょうがない。
「大丈夫よ、同性なら問題ないし。仮に男だったとしても私みたいな美少女に触ってもらえるなら光栄でしょ?」
「なんも嬉しくないし、自分で自分のことを美少女って言うのはどうかと思うっす!だ、誰かー!助けてくださいっす!痴女に襲われるーっ!?」
「人を変態女に仕立て上げるんじゃないわよ!」
「エスってセクハラ嫌いな筈っすよね!?自分がやるのは良いんすか!?」
「人にやられるのは死ぬほど嫌だけど、自分がやるのはいいの!」
「無茶苦茶だこの人!?」
涙目のエレンが身を縮めて私の手から逃れようとする………何か変な扉が開きそうだ。坂の下で騎士団が戦っているのを尻目に、ギャーギャー騒ぐ私達の下に人影が現れた。
「………何やってんだ、お前等?」
「「ん?」」
黒髪でカネサダも持っている刀を携えた赤と金のローブを着た美青年が、呆れた顔で少し親し気に話しかけてきた。
「あっ、アンタ【炎牙の杖】とこの………誰だっけ?」
「【炎杖】すっね。どもども………で、どちらさんすか?」
「お前らなー………【陽炎】、ユウト・キャレンだよ。忘れんな」
【炎牙の杖】、王国最古のクランの一つ。そこに所属する幹部【陽炎】ユウト・キャレン………あぁ、そんな名前だったけ?対して強くもないので全く覚えていなかった。
溜息を吐きつつ刀を片手にこちらに近づいてきた。そのゆったりとした動きに、地面に蹲っていたエレンの上に覆いかぶさていた私は、直ぐに立ち上がり群青色のスカートをたなびかせ剣を抜く。
「何、殺る?」
「殺らねぇよ!お前等【帝王】はどいつもこいつも血の気が多すぎる!援軍に来たんだよ!」
「だとしたら遅すぎすっね、「ヒーローは遅れてやってくる」ってウチのクラマスは言ってたすっけど、ヒーローになりに来たんすか?もう無理すっね、素質無しっす。この度はご縁がなかったってことで、お引き取り願うっす」
「違げぇよ!?そんなつもりねぇよ!さっきまで別の所で戦ってたんだよ!だから遅れたんだ!………まぁ、向こうも増えたみたいだが」
ツッコミ役から一転して決まり顔で刀を構えて、敵を見据えて自分に、私達に、敵に言い聞かせる様に宣言する。
「こっからが本当の戦いだ」
「………なんで主人公顔してるのコイツ?」
「………どちらかというと三話くらいにやられるモブ役っすよね」
「聞こえてんぞお前等!?」
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「………今更?」
王都東方、冒険者ギルドや【帝王】のクランハウスがある場所で戦っていたルナ嬢は、数が増えた犯罪者に比例するように、次々と他の冒険者が参戦しだした光景を見て、思わず愚痴る。
「まぁよいではないですか、待望の援軍ですぞ」
「………別に待っていない」
儂は目を細めて、押し返す冒険者を眺めながらルナ嬢を宥める。確かに遅いと思うが仕方がない。冒険者ギルドやクランハウスは緊急時には避難場所として使われる。避難民の救護や防衛などに人員を割かなくてはいけないのだから、遊撃に出るのは遅れて当然だ。
最も【帝王】は【雷拳】の二つ名を持つロゼ・ラリティがいるので問題ない。御屋形様に匹敵する計算能力を誇る彼女なら、必要な物資や人員を適切に排出し、幹部不在の状態でも上手くことを進めるだろう。もしもの時はロゼ嬢が出る。彼女ならこの程度の敵など倒してのけるだろう。
「戦況は覆った、今なら御屋形様を総出を上げて探せる」
「あっ」
「行きますぞ、ルナ嬢」
「うん」
決意新たに駆け出す。目指すは我等が王の座す場。『通信石』を稼働し、頼れる仲間達に呼びかけると、フェルス殿の怒鳴り声が聞こえてきた。どうやら何か揉めているらしい。ルナ嬢が速やかに翼を広げ、「先に行く」と言い残し飛んでいった。その後を追いながら、一人で駆けて呟く。
「本番はここから、今参ります。御屋形様」




