第十五話 剣聖は守りたい
「やれやれ、困ったものだよ。まったく」
「その割には嬉しそうだけど」
「そうだね、その通りだ」
王都南方、教育機関が建立されている場所で二人の男がいた。物語に出てくるような騎士の鎧に身を包んだ男、【剣聖】クロス・レイリウス。魔導士のローブを着た少年エルフ、【詠魔】ザック・イルフィー。どちらも【帝王】の幹部であり、一騎当千の強者として知られている。
「今まで顔色を窺われて生きてきたからかな、こうして直球で言われると嬉しいんだよ」
「………オーマが、「クロスはドMかも」って言っていた意味分かったかも」
顔をほころばせるクロスに思わず溜息を吐くザック、一見日常会話にしか聞こえないが、この二人今も戦っている途中だ。『魔法学園』にいたザックと、偶々南にいたクロスはそのまま合流し、共闘する流れとなっていた。
クロスが剣を振るえば五人が倒れ伏し、ザックが魔法を放てば十人が沈む。たった二人で既に三十人以上は倒している。その姿に、『白夜』の構成員は恐怖を覚えた。
「流石、また魔法の腕を上げたね」
「よく言ううよ、剣士としても魔導士としても完成されている魔法剣士さん」
ザック・イルフィー、魔法種族としても知られる亜人族と呼ばれる種族、エルフの少年。その中でも幼少期から優れた魔法の才能を持つ少年として知られていた。誰もが褒め称える功績を残しているが、彼はその称賛を良しとしない。真の傑物を知っているから。
前衛で剣を振りながらクロスは魔法を行使している。彼こそ伝説とさえ称される職業、真の魔法剣士なのだ。本来、剣士でありながら魔法を極めたり、魔導士でありながら剣を極めたりすることは出来ない。その道の頂点に君臨するには、才能も運も高いレベルでなくてはならなく、加えて途方もない努力の末に到達できるのだ。
それ故に魔法剣士になれるのは一握りもいない。目指す者も多いが、剣も魔法も中途半端になってしまい、器用貧乏扱いされる不遇職とでも言うべき役なのだ。
だが、この男は―――クロス・レイリウスは違う。魔法の才、剣術の才、どちらも最高峰のレベルで位置し、幼少期から厳しい鍛錬を重ね続けた彼こそ、真の魔法剣士なのだ。
「クロス、知ってると思うけど。僕は君が嫌いだ」
「あぁ、知ってるよ」
「………そのすまし顔が余計苛立つ」
ザックはクロスのことを嫌ってる。見た目良し、性格良し、人として完成している完璧青年のクロスは民衆からの人気が高い。そんな彼を嫌うのは、【帝王】の幹部達くらいだ。理由は幾つかあるが、ザックが嫌う理由は、自分の株が奪われている事。
魔導士としてはザックの方が優れている―――が、それもほんの少し。一歩だけ先に行っているくらいだ。扱う魔法の種類は自分の方が上だが、魔力の総量、練度の差は対してない。自分がこの域までこれたのは、才能だけじゃない。苦しい努力の末に辿り着いた極地なのだ。
それなのに、才能一つで踏み超えようとするクロスを嫌わないのはおかしいだろう。魔導士として優れているのならまだいい、悔しいことこの上ないが、納得できる部分もあっただろう。だが、彼は剣士としても優れているのだ。ふざけんなと言いたくなるのは、ザックだけではない。
「君と似た理由で、エスにも嫌われているからね」
「そりゃそうでしょ、【剣姫】の立場奪われてるんだから」
「私は女性ではないけどね」
「そういうことじゃないッ」
エスから見ても、自分と同等の剣士であるクロスのことを蛇蝎の如く嫌っている。他のメンバーも自分の得意分野に追い付く可能性を持っているクロスにあまりいい印象を持ってはいない。
「オーマ絶対至上主義のフェルスとかからしたら、オーマに最も頼りにされているクロスに嫉妬するだろうしね」
「それも知ってるさ、私の存在が気に食わないことも………ただね」
クロスは剣に雷魔法を撃ちこんで、剣に雷を纏わせる―――魔法剣を生み出し前方に勢いよく振り下ろす。雷の斬撃が宙を走り、それだけで逃げようとしていた『白夜』の構成員は全滅した。死なないよう威力と範囲を調整した上での斬撃、あの一瞬で高度な操作をしてのけたクロスは、清々しい顔で言った。
「この【帝王】は、私にとって居心地がいい。オーマに頼られることも、君達に邪険にされることも全て」
【帝王】こそ自分の居場所だと言うクロスに、ザックは溜息を吐くことしかできない。クロスの持つ力は嫌っているが、人柄は嫌ってはいない。根がいいのは間違いないし、オールマイティとして知られている彼が頼りになるのも事実だ。嫌いだけど嫌いではない、自分でも面倒くさい感情だと思う。
それにザックは、【帝王】は知っている。クロスさえも上回る力、知性、才能を兼ね揃えた完全無欠の王を。あの人に比べたら、自分達など赤子に過ぎないだろう。
「………ところでさ、さっきからソフィアが救助要請出してるけど、放っておいていいの?」
「………アレばっかりは、どうしようもない。オーマでさえ手を焼いてるんだからね」
ポケットに入れている『通信石』から、ひっきりなしに「誰かー、あの暴れん坊達と一緒とか無理なんで変わってくださいーい」と告げられているが、無視するしかない。自分達も嫌なのだ、ソフィアには悪いが、犠牲になって貰おう。




