case038:協力依頼
~特対庁・特務隊執務室~
「4件目?」
マリリンは自席でニュース映像を見ながら眉を寄せた。
『警視庁によりますと、逮捕された男は容疑について――』
画面には、事件が起きたイベントホールが映っている。
ストレッチャーが搬送される映像。規制線。集まる報道陣。
『「犯行時のことを覚えていない」などと話し、容疑を否認しているということです』
「……また記憶ないって妙ですね」
風祭が呟いた。
「ちょうどいい」
屋敷が資料を持って執務室に入ってくる。
「屋敷隊長、うちも捜査しろってきてるんですか?」
雨宮が立ち上がって屋敷に問うた。
「ああ。警視庁から協力依頼だ」
屋敷が机の上へ薄いファイルを置いた。
マリリンが手に取る。
「特異感情能力による精神干渉の可能性……」
「協力依頼来たとこなのに準備が早いですね」
マリリンはわざとらしく拍手している。
「警察からの協力依頼よりも前……2件目くらいから、上から執行一課の方に捜査指示が下りてたらしい」
「今回被害を受けたアイドルグループは、眞壁景子の事務所のものだ。お前ならその意味分かるだろ」
マリリンは少し表情を曇らせるが、すぐに笑顔に戻る。
「ですよねー」
被害を受けたアイドルグループは眞壁景子の事務所の所属だった。
約30年前、一世を風靡した2人組のアイドルグループ“DAY☆NIGHT Girls”。
眞壁はその1人、日野サニーとして活動しており、もう1人の月野ルナは現特対特命大臣の舟木涼子だった。
つまり、何かしらの力が特対庁を動かしたのだろう。
「全員薬物の簡易検査では陰性。現時点で犯行を説明できるものは出てない」
「精神疾患ハ?」
シサイも表情を曇らせている。
「四人とも確認されてない」
マリリンはホログラムの資料のページをめくった。
1件目は18歳。被害部位は左頬。
2件目は20歳。被害部位は左の目元。
3件目は17歳。被害部位は左の口元。
4件目は19歳。被害部位は左頬。
「……左ばっか」
「ああ」
「しかも景子さんとこの子ばっかり」
マリリンはホログラムをスワイプして閉じた。
「で、とりあえず今のところは警視庁から能力鑑定だけ頼まれただけなんでしょ?」
一宮は悠長に紅茶を飲みながら屋敷に尋ねる。
「いや」
屋敷の顔が微妙に険しい。
「特対庁として正式に捜査協力に入る」
「最近警察もうちをよく頼ってくれるようになったもんだわ」
皮肉混じりに言う一宮に、風祭が続いた。
「こういうのって、まず総務の対外連携あたりで調査してからじゃないんですか? 現在進行形事案以外はそうですよね?」
「本来ならな」
屋敷が椅子へ腰を下ろす。
「さっきも言っただろ。DAY☆NIGHT Girlsの1人がやってる事務所が被害に遭ってる。ならもう1人はなんだ」
「現・特対特命大臣、舟木涼子……」
マリリンそう言って沈黙する。
そして、ものすごく嫌そうな顔をした。
「表向きは『社会的影響の大きさを考慮』だそうだ」
「うわぁ……腐ってんなぁ、国家権力」
マリリンは大きなため息をついた。
「その国家権力側のお前が言うな。で、特務対がやるように言われた理由だが……」
「IRI♡USの元人気アイドル、花園マリリン様がいるからだろ?」
嵐司はマリリンを顎で示した。
「人気元アイドルね? いまも人気だから」
マリリンの鋭い視線が嵐司を貫く。
「で? なんで私なんです? まさか同じ事務所にいたからとかいう適当な理由じゃないですよね?」
「現場経験あり、広報・交渉もある程度できる、面識がある」
屋敷の答えにマリリンは椅子の背もたれへ身体を預け、しばらく天井を見る。
そして身体を起こした。
「まあ、公務員だからやりますけど」
「いけるのか?」
「景子さんが育てた子たちが、四人も顔切られてるんですよ」
彼女の声から、いつもの軽さが少し消えた。
「ちゃんと止めないと」
屋敷は何も答えなかった。
「明朝9時。警視庁で合同会議だ」
「了解」
ホログラムの資料にあった古い写真。
DAY☆NIGHT Girls。
笑顔の日野サニーこと眞壁景子。
その隣で、同じように笑う現大臣の月野ルナ。
まだ、サニーの顔に傷がなかった頃の写真だった。
マリリンはその写真をしばらく見つめると、小さくつぶやいた。
「犯人……まだ見つかってない」




