case033:事件の行方
「レギオくん、君ハ能力を持っていまセンカ?」
突然の問いにレギオは固まった。しかし数秒して変わらぬ声色で答えた。
「いえ、ありません」
「ナラ、能力検知に協力シテくだサイ」
シサイは足元から検知機材を机上に出した。
「嫌です」
「なぜでスカ?」
「関係がないからです」
「そうデスカ」
シサイは無理に勧めようとはしなかった。
能力検知器を静かに机の横へ戻す。
「拒否する権利はありマス」
レギオは少しだけ肩の力を抜いた。
「君は関係ないと言いまシタ。なら、本来は受けても問題ないはずデス」
その一言で、レギオの表情がほんの僅かに固まる。
「……」
「どうして拒否するのデスカ」
レギオは答えない。
それでもシサイも急かさなかった。
1分ほど沈黙が流れると、レギオは口を開いた。
「……弁護士を呼んでください」
その答えに、後ろの女性警察官が思わず顔を上げる。
小学六年生の口から出る言葉ではない。
「弁護士、デスカ」
「はい」
「誰に教わりまシタ?」
「ドラマです」
即答だった。
シサイは小さく頷く。
「レギオくん」
「はい」
「一つだけ、確認させてくだサイ」
シサイはそういうと、一直線にレギオを見た。
「弟さんは、こう話していマス」
レギオは一瞬体をびくつかせるが、顔は上げなかった。
「一発目の銃声が聞コエ……それカラ、お母さんが大きな声デ何か言ってイタ。そして、二発目」
レギオの鼻息が荒くなる。
「君は、お父さんがお母さんを撃ち、その後、自殺したと言いまシタ」
「……はい」
「なら、一発目のあとに、お母さんの声は聞こえまセン」
レギオは静かに答えた。
「弟が間違えたんです」
「そうかもしれまセン」
シサイはあっさり頷いた。
「子どもは怖い時、記憶が曖昧になることもありマス」
レギオは少し安心したように見えた。
「ですが」
シサイは続ける。
「君は昨日も今日も、一言一句同じ説明をしていマス」
「怖い出来事だったノニ、一度も順番を間違えなカッタ」
「君だけが、正確ダ。暗記みたい二」
シサイは別の資料を開いた。
「児童相談所職員が殺さレタ日、警察署から拳銃が盗まれマシタ」
資料は動画で、シサイは再生ボタンを押した。
「その時、入口の自動ドアが勝手に開いていマス」
レギオの瞳が、ほんの少しだけ揺れる。
「誰も映っていないじゃないですか」
「そうデスネ。デモ、入口の発熱検知装置が反応していマシタ」
レギオは大きく息を吸い込んだ。
「正確には、エラーを起こしていマス。髪の毛だけが検知範囲を通った時と同じ反応デシタ」
レギオは吸い込んだ空気を小刻みに鼻から吐き出している。
大きく息を吐き出せば、動揺していると思われるからだろう。
「検知範囲の最低は135センチメートル。つまり犯人は、小柄ダッタ可能性が高イ」
「レギオ君は137センチメートルでしたヨネ?」
シサイはゆっくり続ける。
「児相職員は、至近距離から撃たれていマス。存在を消す能力でもなければ、説明できまセン」
「シカモ、児相職員は、自分の財布を拾おうとして屈んだところヲ撃たれていマス」
防犯カメラの精査と、現場の状況から、自分の財布を拾おうとしていたことが判明した。
不可解なことに、彼女の後方から投げられたように突然歩く彼女の前に落ちたのだ。
まるで、わざわざ拾わせるかのように。
「犯人はアエテ、被害者をしゃがませて、頭を撃ってるんデス。なぜでショウ?」
「さあ」
レギオの声は小さい。
「君の右手の親指」
レギオの右手へ視線が落ちる。
「根本を怪我してマスネ」
レギオは意図を理解したのか、即答する。
「料理です」
「そうデスカ?」
「料理です」
少しだけ声が強くなる。
シサイはその言葉を噛み締めるかのように何度か小さく頷いた。
「慣れない人が拳銃ヲ撃った時の反動にヨル傷に似ていると思っただけデス」
レギオは顔を上げない。
「では、最後に一つダケ」
その言葉に彼は拳を握り、体をこわばらせた。
「君は、お父さんが犯人だと言いマス」
「……はい」
「では、お父さんの能力は何デスカ?」
レギオの呼吸が止まる。
父の能力は風。存在を消す能力ではない。
拳銃を盗むことも、人混みで至近距離から姿を消して撃つこととも繋がらない。
その矛盾に、レギオ自身も気付いていた。だからこそ、能力の話題を避け、能力検知も拒否した。
「レギオくん、君は賢いデス」
その言葉に嘘はない。彼は同年代の子と比べて、知能が高いことは明らかだった。まるで大人のように頭が回る。
しかし、彼の心はそうではなかった。
「だからコソ、この嘘は苦しかったでショウ」
レギオの息は荒い。
「ワタシは、もう分かっていマス。児童相談所職員を殺したのも、お父さんとお母さんを撃ったのも」
10秒ほどの沈黙ののち、レギオが静かに言った。
「もう、隠せませんね」
レギオは揺れていた表情を一変させ、堂々としていた。
「僕が父と母を殺しました。このままだと、弟と妹にも全てを押し付ける虐待に発展すると思ったからです」
その様子を部屋の外のマジックミラーから見ていた捜査本部の捜査員は、すぐさま幹部への報告へ向かった。
「ソレは……本当デスカ?」
自供してもなお追及してくるシサイに、レギオはしどろもどろになった。
「な、なんでですか? 本当でしょ? あなた達が欲しかった自白ですよ? もういいじゃないですか」
「イヤ、まだワタシは納得できナイ。君ハ……」
そこまで言ったところで、部屋のドアが開く。
入ってきたのは風祭と、若手刑事だった。
若手刑事は“変わります”と言って、シサイに退室を促した。風祭も部屋の外から手招きしている。
シサイが室外に出ると、風祭は小声で言った。
「未成年を、しかも12歳をあまり長いこと取調べるな、と捜査本部の幹部が言ってるようです」
「能力検知もやるなとのことです。子供への権力行使を本気でビビってるみたいです」
“自供は取れたんだから終了しろ”ってのが上の、特に警察側の判断です。
「デモ……まだあの子は何かを抱えテル……!」




