表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/40

case032:大人びた子供


 次に意識が戻ったのは全てが終わった後だった。

 破裂音で耳が聞こえなくなった。

 1分くらいで音が戻った。


 父さんと、母さんはおでこから血を流している。

 

 喋ってないのに、声だけは、まだはっきりと聞こえる。


「誰が父さんだ、気色悪い」

「ほんと……なんで産んだんだろ」


 それが愛する両親から出た言葉だった。



 我に返ったレギオは動き始める。

 すぐに頭を回転させて、どうすべきかを考えた。


 父の手に拳銃を握らせた。


 急いで2階へと上がる。

 弟と妹の部屋の前で、尋ねた。

「ラクス、アリアン、大丈夫?」

 部屋のドアを開け、震えて抱き合う弟と妹を抱きしめた。



 銃声が聞こえたという110番通報で警察が駆けつけ、レギオ達は保護された。


 神代中央署の捜査本部と特務隊もすぐさま駆けつけ、現場鑑識や、事情聴取、検死が行われた。


 父、母とも死因は拳銃による頭部外傷と判断された。

 レギオは警察から簡単な質問を受け、それに答えると、すぐに祖父母のもとへ送り届けられた。


 事件の概要はこうだ。

 一階で父と母が喧嘩をし始めたため、レギオが弟と妹を2階の部屋にあげてから、一階に戻り喧嘩の仲裁をしたところ、父が拳銃を持ち出し、母を射殺。その後父は拳銃で自殺。


 レギオ達は子供だったため、翌日の午前に司法面接という形で、事情聴取を受けることとなった。


 レギオの面接をシサイも見ていた。

 女性の警察官が、レギオに優しく尋ねる。

 レギオの答えは昨日と同じものだった。


 次に弟のラクスの司法面接。見慣れない部屋で緊張していたラクスだったが、女性警察官の優しい問いかけに、徐々にスムーズに答えていった。

「パンって音がした」

「ママが大きな声で何か言ってた」

「そのあとまたパンて音がした」


 妹のアリアンは、怖がって何も喋ることができなかった。


 この結果をもって、シサイは確信することとなる。

 

 その日の午後、シサイはレギオから話を聞くこととなった。

 14歳未満であるため、罪を犯していても刑罰は課されないが、更生へ向けた事実確認という位置付けだ。


「はじめまシテ、レギオくん」

 巨漢のシサイは、レギオが怖がらないように深く頭を下げた。

「オジサンは、特対庁のタデセシサイと言いマス」


 レギオは椅子に座ったまま、丁寧に頭を下げ返した。

「甲斐礼義王です。よろしくお願いします」


 声は落ち着いていた。

 昨日、両親を亡くした小学六年生の声としては、あまりに整っている。

 同席している女性警察官は、痛ましそうにレギオを見ていた。児童相談所の職員も、机の隅で記録用の端末を開いている。

 ここは取調室ではない。

 神代中央署の一角にある、子ども用の面接室だった。壁には淡い色の掲示物が貼られ、棚にはぬいぐるみも置かれている。

 だが、レギオはその部屋に似合わなかった。


 似合わないように振る舞っている、というのが正しかった。

 背筋を伸ばし、両手を膝の上にそろえ、表情を崩さない。大人に見られたい背伸びした子どもではなく、大人として扱われることが当然だと思っているような姿勢だった。


 シサイは椅子を引き、レギオの正面に座った。

「今日は、昨日のことを確認したいだけデス。無理に話さなくてもいい。疲れたら休めマス」

「大丈夫です」

 即答だった。


「では、昨日の夜、おうちで何があったか、もう一度話してもらえマスカ」

「はい」


 レギオは、昨日と同じ話をした。

 母と父が喧嘩を始めたこと。

 母が、自分は父の子ではないと言ったこと。

 父が激昂したこと。

 レギオが弟と妹を二階に上げたこと。

 一階に戻るとさらに言い争いがひどくなっていたこと。

 そのあと父が母を撃ち、その後自殺したこと。


 言葉に淀みもなく、詰まらなかった。

 順番も、表現も、昨日の簡易聴取とほとんど同じだった。


 後ろに控える女性警察官が児相職員と目を合わせて小さく頷く。


 この話だけを聞けば、筋は通っている。

 托卵を知った父親が逆上し、妻を殺し、自ら命を絶った。

 世間も警察も、そういう物語を好む。分かりやすいからだ。


 シサイは口を挟まず、最後まで聞いた。

 レギオは話し終えると、小さく頭を下げた。

「以上です」


 以上。

 小学6年生の子供の、両親の死を説明した最後の言葉が、それだった。


「ありがとうございマス」

 シサイは礼を言った。

「とても分かりやすい説明デシタ」


「ありがとうございます」

「レギオくんは、賢いデスネ」

「いえ」

 レギオは目を伏せる。

「僕がしっかりしないといけないので」


 シサイは、机の上に置かれたレギオの手を見る。

 右手の親指の付け根には、キャラクターの絆創膏が貼られていた。

 昨日、子どもたちの簡単な聴取をした時にも見た。

「右の親指の付け根、どうしたんデスカ?」

 

 レギオは左手の平で右手の親指を包んだ。

「料理で切っちゃって、恥ずかしいです……」


「料理デ……大変デスネ。まだ子供なノニ」


「子供じゃありませんよ。しっかりしないといけませんから」


「しっかりしないといけない、と思っているのデスカ?」

「はい」

 レギオはキョトンとした目で即答した。


「どうしてデス」

「弟と妹がいるからです」

 レギオはまたも迷わず答えた。


「父と母は、あまり家庭のことに向いていませんでした。僕がやらないと、家が回らなかったんです」

「家が回らナイ?」

「はい」


「それは、大変デシタネ」

「慣れています」

 その答えも早い。

 シサイは、レギオが質問の意味を理解して答えているのではなく、答えを用意しているのだと感じた。

 よくできた答え。叱られない答え。大人が感心する答え。


「お父さんとお母さんを、恨んでいましたカ」

 女性警察官が少しだけシサイを見る。


 踏み込みすぎではないか、という目だった。

 だがシサイは視線を動かさない。

 レギオは静かに答える。

「はい」

「どうして」


「僕を家政婦のように扱っていたからです」

 また、整った言葉だった。


「それに、このままだと弟と妹も同じようになると思いました。だから嫌いでした」

 レギオは初めて、ほんの少しだけ間を置いた。

「良くないことですが、父が、母を殺して、自殺したことも、正直せいせいしました」

 それでも声は崩れなかった。


「児童相談所の職員を殺した件にツイテハ?」

「それはわかりません。多分父がやったことですから」

 同席者の空気が固くなる。

 女性警察官の指が端末の上で止まり、児相職員が息を呑む。


 特対庁のこの蓼瀬子再という男は、おそらく、児相職員と甲斐夫婦を殺害したのが、この12歳の子供だと疑っている。

 そういう驚きだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ