case029:防犯カメラ
夜。
テレビの中で、キャスターが言う。
「本日、都内で児童相談所職員が銃撃され死亡しました。警察は能力犯罪の可能性も視野に入れて特対庁と合同で捜査を進めています」
画面が切り替わる。
「また、被害者が担当していた家庭の一つとして、現在ネット上で炎上している“家族系YouTuber”の存在も注目されています」
その言葉と同時に、動画が流れる。明るい音楽。笑顔の母。
『海外だと、これ普通なんですよね〜』
長年外国で暮らしていた帰国子女だという母親。次の場面では金髪の父。
「日本って、すぐ虐待とか言うからさ」
笑う弟妹。そしてその後ろで食器を運ぶ長男。皆笑っている。
一通りニュースが流れ終えたところで、緒方が声を上げる。
「警察からですけど、警察が紛失した拳銃と犯行に使われたものが一致したみたいです」
資料がホログラムに映し出される。
「これがめんどうな別件か」
風祭は神代中央署の刑事達が言っていたことを思い出した。
「弾丸の種類が合致したとのことです」
緒方の説明に、一宮は呆れたように笑った。
「紛失した拳銃で殺人か〜、大失態だね。いろんなお偉いさんのクビが飛ぶよ~」
「紛失は交番の警察官のものですが、返却したのは防犯カメラでも確認できているそうです」
緒方はホログラム画像をスワイプさせながら続ける。
「なら誰かが警察がたんまりいる中から盗んだってことですか? どんだけザルなのよ」
雨宮は小馬鹿にするように鼻で笑った。
「明日、一宮と雨宮でそっちの拳銃の方を当たらせる。いいな、一宮、雨宮?」
雨宮は大きく頷き、一宮は気の抜けた声で“あいよ”と答えた。
「シサイ、風祭、一宮、雨宮は明日から神代中央署に詰めてくれ。あっちの運用で頼む」
「わかりまシタ」
「じゃあ、今日は上がってくれ」
屋敷の指示から2時間後、特務隊の面々は2人を除いてすでに上がっていた。
「帰らんのか?」
デスクに残り、食い入るように報告書に目を通すシサイ。
屋敷は彼の机に缶コーヒーを置いた。
「ありがとうございマス」
シサイは軽く礼をして、プルタブに指をかける。
「いただきマス」
一口コーヒーを含み、視線を落とすシサイ。
「シサイ……」
「大丈夫デス。ご心配いりまセン」
屋敷の言葉を遮るように言った。
「タダ、最悪の結末にならないカ、気になっているだけデス」
シサイは再度コーヒーを飲む。
「最悪の結末か……だからこそお前に任せた」
「わかっていマス。これはワタシがやるべきデス」
彼の手には力が入り、缶は少し凹んでいる。
「あぁ……だが、無理はするな。今日はもう帰れ。奥さんがいるだろう」
時刻はすでに午後11時過ぎだった。
「タイチョーも帰ったらどうデス? 待っている人はいないんデスカ?」
その言葉に屋敷はシサイな背中を軽く平手打ちした。
「お前……ブラックジョークが上手くなったな……」
数秒の沈黙の後、2人は小さく笑った。
「帰りマス。ワタシには妻がいますカラ」
シサイは立ち上がって、鞄を持つ。
「やっぱりお前、一緒に泊まってけ」
「失礼シマース」
執務室に1人残された屋敷は缶コーヒーを飲み干した。
「俺にもいたんだけどな」
〜神代中央署・小会議室〜
「すみません、こんな小汚い部屋で」
一宮達を案内した神代中央署員は頭を下げる。
「ほんとに小汚い」
雨宮は心の声が大音量で漏れていた。
「相談室ってキレイな部屋あるんですけど、奥の席あたりにある配線のカバーがつまずきやすくて危ないんでこっちにしました……すみません」
中にはすでに警視庁本部監察課の職員2名が座っていた。
紛失事案を内部の不祥事として調べているのだ。
監察課職員に促され、席に着く特対庁の2人。
「署への不審者の侵入はあったんですか?」
一宮は紛失した拳銃について、監察課の警察官に尋ねていた。
「一般人は入ってきてますが、拳銃保管庫には行っていませんし、不審な行動も無く署を出ています」
「なら、署員はどうなんです?」
雨宮は神代中央署の警察官によるものと睨んでいたため、語気は鋭かった。
質問というより、詰問だ。
「署員についても防犯カメラで不審な行動がないことは確認済みですし、立ち会いの幹部複数が異常なかったことを証言しています」
「どうだか……」
雨宮は納得いっていない様子だった。
「ただ……」
「紛失前……昼前に一度だけ、自動ドアの開閉がありました。防犯カメラでは誰も映っていないのですが、勝手に開いたんです」
「ただの誤作動か、デカめの虫とかじゃないんですか?」
警察側の言うことを何一つ信じていない雨宮。彼女の態度はどんどんと不躾になっていく。
一宮は肘で雨宮を小突くと、咳払いをして尋ねた。
「その映像、見れます?」
ホログラム上で動画を再生すると、警察署内部から出入口を見下ろすように正面から捉えた映像が流れる。
自動ドア。来署者や警察官が通るたびに両端にドアがスライドする。ドアの前でセンサーが反応して、ドアが開き、通り過ぎた後、5秒ほどして自動で閉まる。至って普通の自動ドアだ。
数人の来署者、警察官が通った後のことだった。
閉まっていたドアが、勝手に開く。
「あ、開いた……誰も映っていませんね」
雨宮は“ほんとに開いた”と言わんばかりに目を丸くしている。
そして12秒後にドアは閉まった。
「虫でしょ。ちょうどセンサーに当たったんじゃないですか?」
「そうやってすぐ決めないの。このドア、センサーの反応から何秒後に開閉するって分かりますか?」
一宮は雨宮を注意すると、監察職員に尋ねた。
職員達は顔を見合わせて、積み上がった資料の下から自動ドアの説明書を取り出すと焦ったようにめくり始めた。
1分ほど経って、センサーの説明ページを指差しながら一宮達に提示した。
「センサーが物体を感知しなくなってから5秒後に閉まります」
一宮は少し考え込む。
「でも、開いてから10秒以上経ってる。虫が反応しただけなら、5秒後には閉まるんじゃない?」
「虫がセンサーに止まってたんじゃないですか?」
雨宮の指摘に頷きながらも納得がいっていない様子の一宮。
その可能性ももちろんあるが、それでは腑に落ちない。
一宮は動画を何度も戻したり再生したりを繰り返して違和感の原因を探る。何度も繰り返す彼女に雨宮がため息をついた時だった。動画を巻き戻すため、再生のタイムラインバーを操作しようとした瞬間、画面左下付近で小さく赤色の何かが点滅しているのが目に入る。
「これは?」
一宮が指差すと、雨宮や監察官達も目を凝らした。
それは自動ドアを通って署内入口に置かれた機械のようなものだった。
監察官は眉間に皺を寄せて考え込んでいる。署に入った時のことを思い出しているのだろう。
「これは……体温計ですね。入口で発熱を検知する……」
その言葉に雨宮は反応した。
「じゃあ……!」
「雨宮、入口行くよ」
そう言って小会議室を出ていった一宮を、雨宮と監察官達は急いで追った。




