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case021:尾行

YouTubeで特対法解説動画を始めました


 戻ってくるマリリン。

 風祭たちが視線を向ける。

「どうでした?」

 風祭が問うと、マリリンは肩をすくめた。

「芳しくはない……かな」


「遺体なし。カメラ全滅。位置情報は山行ってからの海」

 指を折りながら数える。

「それで“事故死”」


 雨宮が舌打ちする。

「ふざけてるでしょ」

「しかも……」

 マリリンは続ける。

「最初はちゃんと殺人で動いてたみたいだけど、途中で上に止められた」


 風祭の表情が引き締まる。

「警察の上層部ですか……」


 雨宮は顔を怒りに染めて言った。

「ほぼ確定ね」

 マリリンが頷くと、そこでやっと嵐司が口を開く。

「遺体がないのに、事故死にする理由は一つです」

 淡々とした声。

「“見つからない方が都合がいい”」


 全員が、そちらを見る。

 嵐司は続ける。

「死体が出れば、検視が入る。傷も、薬物も、何もかも出る。だから、出さない」


 雨宮が低く呟く。

「……消されてるってことか」

 マリリンは軽く息を吐く。

「だとしたら、相当デカいな~」


 雨宮が顔をしかめる。

「終わってますね」

「終わってるのは“クソ野郎側の処理”だけ」

 マリリンは言う。

「私たちの事件自体は終わってない。むしろ、これからって感じ」


 風祭が問う。

「屋敷隊長には?」

「まだだね~……もう少し、特対庁が介入できそうな情報を掴もう」


 風祭が頷く。

「定金合同会社、ここを起点に動くべきですね」


「だね~」

 マリリンは顎に手を当てる。

「ただ、その前に――」

 視線を上げる。

「相手の能力、知っておきたい」


 雨宮が不満そうに言う。

「行ってからでもよくないですか?」

「戦闘になったらどうするの?」

 即答だった。

 マリリンの表情は、風祭達3人の主任を束ねる現場指揮官としてのものになっていた。


「ちょっと待ってて」

 マリリンは再び歩き出す。今度は完全に敷地の外へ出る。通信ホログラムを開く。


「もしも〜し」

 声のトーンが一気に軽くなる。

『どうしタ?』

 蓼瀬シサイの声。


「タデっちにお願いがあってさ〜。今近くにタイチョーいる? イエスかノーで答えて」


『Yes』

 短い返答。

「じゃあさ、今から言うこと聞いとくだけでいいから」

『まだいいって言ってないヨ』

「あ! 今君に与えられた言葉はイエスかノーのみなのだよ!?」

 軽く流す。


「特対法違反絡みの調査で、まだ正式に報告上げる段階じゃなくてさ〜」


『ノー』


「まぁまぁ、そう言わず。ワダ ソウタ、49歳。定金合同会社の代表。こいつの能力と詳細、ちょうだい」

 断りながらも、シサイはすぐにメモを取る。


『……メンドクサイことしてるネ』

「ありがとう♡」


『まだ引き受けてないヨ』

「大丈夫、タデっち優しいから」

 短い沈黙。


『……また連絡スル』

 ため息混じりの声。


「さっすが〜! じゃ、よろしく〜!」

 通信を切ると、マリリンは振り返る。少しだけ、表情が締まる。



「調査依頼出しといたよ〜ん」

 マリリンは風祭たちに言う。

「能力が分かり次第、作戦立てて動こうか」


 雨宮が腕を鳴らす。

「やっとですね」

 そのときだった。嵐司が、ぽつりと呟く。

「……急いだ方がいい」

 全員がそちらを見る。


「理由は?」

 マリリンが問うと、嵐司は即答した。

「半グレが連続で殺されてる。それが、この手帳と繋がるなら、こいつらも“消されてる”可能性が高い」

 風祭の目が鋭くなる。

「つまり、定金側も動いてる?」

「わからん、警察なのか、半グレ同士なのか、こいつらに恨みを持つ者か」

 嵐司は顔を伏せた。何か気持ち悪い違和感があった。

 マリリンが口角を上げる。

「いいね、アララン。その通りかも」

 マリリンは軽く手を叩く。

「じゃあ、場所だけ見に行こっか。その間に情報も来るでしょ」


 雨宮は真剣な表情になる。

「偵察ですね」

 嵐司は何も言わない。ただ一つだけ。頭の中に残っている。

 “いなくなった”

 その言葉だけが、妙に引っかかっていた。


 都市部の外れ。住宅街と、少し荒れた空き地が混ざる境界。川沿いに並ぶ家々の中に、それはあった。


「……ここですか?」

 雨宮が眉をひそめる。


 少し離れたところから定金合同会社を見ていた。

どこにでもあるような一軒家。外壁は少し色褪せているが、特別古いわけでもない。

 看板もない。ただの民家にしか見えない。


「定金合同会社、登録住所はあれで間違いないですね」

 風祭がタブレットを確認しながら言う。


「会社っていうより……普通の家じゃないですか」

「そういうのが一番タチ悪かったりするよね」

 マリリンが小さく言う。


 不用意に近づかない。それがこの世界の常識だった。

「人気は……」

風祭が周囲を見回す。

「ある」

 嵐司が即答する。


 一瞬、全員の視線が集まる。スナイパーをやっているだけに、視界は広い。物をとらえる能力も高かった。

「……動いた」

 視線の先。玄関のドアが、わずかに開くと、中から一人の男が出てくる。


 スーツに短髪。着こなしは雑。歩き方は蟹股で、社会人とは思えないほど肩で風を切るように歩く。

 どこか場違いな空気。

 男は周囲を見回すと、歩き出す。

 その背中を、全員が目で追う。


「……どうします?」

 風祭が問う。

 マリリンは少しだけ考えた。まだシサイからの情報はない。

「尾行しよっか。あいつがビンゴなら、“繋ぎ役”の可能性あるかもだし」


 男は迷いなく歩いていた。先ほどと違って、周囲を警戒する様子はない。

 風祭たちは通信ホログラムを起動させると、距離を保ったまま、左右の道に分かれて、無言で追う。


 人通りはそれなりにある。尾行には適した環境だった。やがて男は大通りに出る。ズボンのポケットに両手を入れ、チンピラのように肩を揺らして歩いている。

 近づいて見ると、彼はツーブロックに、金色の腕時計。高級ブランドのスーツと、いかにも怪しい恰好だった。


 人の流れが一気に増えると、その中に紛れ込むように、自然に歩く。

「見失わないようにね」

 マリリンが小さく呟く。その瞬間だった。


 嵐司は一瞬目を細める。

 チンピラのような男は、対向から歩いてきた中年の男とわずかに肩がぶつかった。

 少し猫背。年齢は五十手前。どこにでもいそうな、目立たない男。


「おい! どこ見て歩いてんだ! あぁ? 肩折れちまったよ」

 立ち止まるチンピラ。風祭達も、通り過ぎないように、各々店を見るふりなどをして距離を取ったまま立ち止まる。

 平謝りする中年の男性を詰め続けるチンピラ。


『反抗しなさそうな男にわざとぶつかって金巻き上げようっての?』

 雨宮が無線ホログラムで言うと、風祭が答える。

『典型的な反社ですね』


『みんな、とりあえず停留で。動き出したら、私が最初に歩きだすから』

 マリリンはそう指示を流す。


 チンピラたちの周りに人だかりができ始めると、彼は何かを中年男に唸って、歩き始めた。


 その数歩後ろから、次は帽子をかぶった女性らしき人物ががチンピラに何か声をかけている。黒いスカートに黒いヒール、カーキ色のジャケットのようなものを羽織っている。OLだろうか。


 チンピラが振り返ると、帽子の女性は財布を手渡した。チンピラはというと、まじまじと財布を確認すると、少し手を上げて、また歩き始める。


『財布落としてたんですかね?』

 風祭は尋ねると、雨宮が反応した。

『そうかも』

『いや……』

 しかし、嵐司は、チンピラの不自然な行動に目を凝らした。

 チンピラは、財布を開けて現金を取ると、道の端に寄って、財布を投げ捨てた。

『あれ、さっきぶつかったおっさんの財布じゃねえすか?』

『悪いやつだね~、窃盗の前もたくさんあったし、あいつがワダかもね』

 チンピラは、すでに人混みに紛れかけている。


「行くよ」

 マリリンが言う。全員が動き出し、嵐司も尾行を再開する。

 彼が道の端を見ると、投げ捨てられた財布はなくなっていた。


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