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case017:フィナーレ


「これからが、終曲“有終の美”です。お聞かせください!」

 唄が両手を上げたその時だった。


「やめなさい!!」

 雨宮が立ち上がったかと思うと、ステージ上に飛び乗った。


 そして唄に飛び掛かり床に叩きつけた。

「一宮士長! 薬剤投与の許可を!!」

 突然のことで呆気にとられる一宮だったが、とりあえず首を縦に振った。


 吐血する雨宮。彼女は苦しみながらも薬剤を唄に注射すると、続いて手錠を取り出した。


「午前10時32分! 特異能力の使用により、あなたを緊急制圧する!」


 ざわめく会場。最前列にいた特務隊も慌てて制圧に入る。


「どういうことだ。雨宮」

 屋敷ですら状況を呑み込めていなかった。


「風祭! 嵐司! 押さえて!」

 雨宮は二人に指示を出すと、唄に手錠をかけながら説明した。

「千堂唄が一連の破裂事件、千堂夫婦刺殺、時雨殺害の犯人です!」


「何かがずっと引っかかってた……! たくさん不審点はあった……!」


「それにこの曲目は1件目から4件目までの破裂事件、千堂夫婦と時雨が殺された事件をモチーフに作られてる。最後の曲は、これから奏でる曲……これから観客全員を破裂させるつもりだったんでしょ!? 答えて! 千堂唄!!」


 雨宮のその言葉に、押さえつけられた唄は目を大きく見開き、口も大きく開けて笑い出した。雑に、大きく、それでいて邪悪な笑い方だった。

 唄は少しの間笑い声をあげると、次第に静かになった。


 そして……


「離せっ! 私はこの芸術を完成させないといけない!!」

「儚い命の灯で奏でる“生”の曲を!!」

「離せえええええええええええ!! 内側から弾け飛べええええええええ!!」

 その場で大暴れする唄。


「まずいっ、薬剤が完全に効いてない…!!」

 唄を押さえる雨宮、風祭、嵐司は口から少量の血を噴き出した。


「雨宮! 薬剤は全部打ったか!?」

 屋敷が雨宮に問うと、彼女は“はい”と叫ぶ。


 このままでは、観客全員が犠牲になる可能性があった。

 難しい判断だったが、屋敷は覚悟を決めると、隊員に指示を出した。

「緊急鎮圧に移行する」

 その言葉を受けた隊員たちは一瞬動揺したが、すぐに覚悟を目に宿らせた。


 屋敷は各員に指示を出す。

「一宮! 薬剤投与後の状況はどうだ!?」

「効果微弱、隊員の被害を見るに時間経過で効果消滅の可能性あり!」


「鞠子! 飴を制圧してるやつらに食わせろ! あと私用でいいからホログラムで動画撮っとけ!」

「もう撮ってる!」

 マリリンは片手でカバンから抗能力作用のある飴を取り出すと、風祭や雨宮など唄を取り押さえる者の口の中にねじ込んだ。


「風祭! できる限り能力連発でこいつの動きを遅らせろ!」

「はい…!」


「シサイ! やれるか!?」

「…………まかせてくだサイ!」

 押さえこまれる唄に対して、蓼瀬が右手を振り上げた。


「待ってください!!」

 雨宮が血を吐きながら叫ぶ。


「隊長、私に……私にその役目を……!」

 数秒の間の後、屋敷は再度命令した。


「雨宮、対象を直ちに鎮圧しろ」

 雨宮は涙をこぼしながらも、唄から目を背けることなく、自身の能力で右手を強化した。


 その様子を見た唄は、観念したのか暴れるのをやめて涙を流す。


「楽しかった……人の音色を聞くのが……ただ楽しかったの……」


 唄の言葉に雨宮の表情は一瞬崩れるが、すぐに鋭い目つきを取り戻すと、唄の腹部を貫いた。


 一瞬の出来事だった。さっきまで優雅に音色を奏でていたのにだ。


 生暖かい液体が雨宮の手首を包む。唄の体を貫通した拳の先には、弾力のある肉片が若干残っていた。

 唄は一瞬だけ安堵したような表情を浮かべると、目から光を失い脱力した。



「課長、屋敷です。花山コンサートホール、10時34分、この前からやってた千堂唄を緊急鎮圧しました。鎮圧理由は脅威度の高い特異能力の使用及び甚大な被害の事前防止。はい、鎮圧です。32分制圧の後、34分鎮圧です。緊急制圧は雨宮、鎮圧の指揮は私です。これから戻って後追いの令状請求を私と……」


「救急です。はい、花山コンサートホールです。特対庁による緊急鎮圧です。はい、特対庁の華園院と言います。鞠子です。特務隊所属です。執行士長。腹部を貫いていて意識無しで……」


「みなサン! 落ち着いてくだサイ! 特対庁デス! 指示に従って非難してくだサイ!」


 色々な声が飛び交っていた。


 しかし雨宮の耳にはフィルターがかかったように、自分の荒い息遣いしか聞こえていなかった。

「唄さん……」



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