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case012:SOS


~3階・応接間~


 豪華なソファとテーブルが置かれた応接間。

 そこに、20代と思われる金髪と茶髪の男が座っていた。

 組員とともに屋敷達が部屋に入ると、2人は勢いよく立ち上がった。

「お疲れ様ですっ!!」


「こいつらが、隣のビルからで起こった事件について知ってるうちの若い衆です。あとはこいつらから聞いてください」

 組員は軽く頭を下げて、部屋を後にした。


 かしこまって直立する若い衆。

 屋敷が“失礼する”と言って座るが、シサイとマリリンはソファの後ろに立ったままだった。


 そのため、若い衆2人は座っていいのかどうか迷っていると、屋敷が着席を促した。

「悪いな。時間をもらって」


 屋敷の言葉に若い衆は“とんでもないっす”と全力で手を振った。


「話してくれるか? 昨日の夜中、となりの廃ビルで何が起こったのか」

 若い衆2人は顔を見合わせると、金髪の方が答えた。

「はい。俺たちが直接見たわけじゃないっすけど、聞いたことをお話します。俺は斎藤といいます。こっちの茶髪が輪島です」


「俺と輪島は昨日の夜中2時過ぎくらいに、ここの5階で寝ようと思ってました。昨日は事務所当番だったんす」


「2人ペアなんすけど、当番交代してから、5階で布団敷いて寝ようと思ってたら、急に“あー”みたいな男女の声が聞こえたんす。なぁ?」

 斎藤は輪島に同意を求めると、輪島は頷き、話を続けた。

「はい。なんつうか……最初はコーラス隊みたいなのが練習してんのかと思いました。なんか“叫んでる”と“ハモってる”の間みたいな声が聞こえて」


 輪島は険しい顔で続ける。

「窓から隣見たんすけど、隣のビルの窓は閉まってて、中は見えませんでした。そんで、斎藤が“うるせえぞ”って言ったんすけど、声は止まらなくて」


「そんで、それが3分くらい続いたと思うんすけど、突然、“カハっ”みたいな、なんつうのか、咳なのか何なのか何かを吐き出してるような声が聞こえたんす。そしたら声は止まって……隣のビルの窓に内側から赤いものがビシャって付いたんす」

 2人は当時のことを思い出したのか、沈黙した。


 斎藤は軽くため息を吐くと、話を再開した。

「それから、アニキに連絡して、どうしたらいいか聞いたんす。そしたらオヤジとも話合って、うちが何も関係ないなら警察に通報した方がいいだろうってなって、俺が匿名で通報したんす。通報したのが俺ってのは警察にはまだ言ってないことっす」


「なるほどな。そのあとそのビルの近くで誰か見たりしてないか?」


「すみません、俺らそのあともずっと事務所にいたもんで、外は見てないんすよ」


 すると、シサイも彼らに質問をした。

「キミたちの仲間も被害者の中にいたそうだケド、なぜかワカル?」


「そいつは俺たちよりも若いやつで、藤本っつうんすけど、オヤジが言うには、SNSで金をくれるってやつとメッセージのやり取りしてたらしいっす」


「その相手はワカル?」

 シサイの問いに、斎藤は自身のホログラムを表示させると、SNSのアカウントを見せた。


「命の調律師?」

 そのアカウントには、“あなたの命をきれいな音色へと調律します。金、異性、仕事、勉学、困ったことがあればなんでもDMください”と記してあった。


「藤本は、金に困ってたぽいっす。ギャンブルで借金作っちまったとかで、金が要るとか言ってたんで」


 マリリンは口元に手を当てて考えこんだ。

「命の“調律師”ねえ……アメリンに聞いたら何かつながるかも?」


屋敷は立ち上がると、2人に礼を言う。

「助かったよ。ありがとう。また聞くことがあるかもしれん。そのときは協力してくれ」


 斎藤と輪島はまたも勢いよく立ち上がる。

「は、はい! オヤジが良いと言えばもちろん協力させてもらいます!」



~2階~


「饅頭もあるんすけど、いかがすか? お茶のおかわりはいかがです?」

 組員から手厚いもてなしを受ける雨宮、風祭、嵐司。3人とも、屋敷は一体どういう関係なのだろうと不安になっていた。

「だ、大丈夫です……ありがとうございます……」


 その時、階段につながるドアが開く。屋敷達が聴取を終えて下りてきたのだ。

「組長、助かりました。ありがとうございます」

 組長は立ち上がると、軽く頭を下げた。


「いえ、園田のオヤジの指示ですから。当然です」

「おかげで進展が見込めます。では失礼します」


 屋敷が“行くぞ”と言って出入口へと向かうと、組長含めた組員たちは一斉に深々と礼をした。

「ご苦労さまです!!!」


 事務所を後にする特務隊。

 雨宮はマリリンに恐る恐る小声で尋ねた。

「花園士長……これってまずいやつですか? 癒着……? グレーな交際……?」


 マリリンは雨宮に笑顔を向ける。

「あくまで調査の協力者だから、大丈夫だよ♪」

 雨宮は不安そう“大丈夫かな”とつぶやく。


「それよりアメリンさ、今回の事件は音楽関係者が関与してるかも」

「音楽関係者?」


「犯人は“命の調律師”ってのを名乗ってて、悲鳴もコーラスみたいだったんだってさ。アメリンは音楽関係に明るいから何かわかったら教えてよ!」

 音楽関係に明るいといっても、クラシックコンサートを聞きに行くくらいで音楽界隈のことを知っているわけではない。

「まあ……なにかわかることがあれば……」

「お願いねっ!」



 帰宅途中、雨宮はマリリンから言われたことを思い出していた。

「調律師……」

 調律師と聞けば、やはり唄に詰め寄っていた老人、時雨が思い浮かぶ。


 雨宮は、一般人の唄を調査に巻き込んでいいものか迷っていた。

 すると、彼女の通信ホログラムが起動した。

「唄さん……?」

 それは唄からの着信だった。

 彼女は一瞬躊躇うが、応答することにした。


『こんばんは。雨宮さん、突然すみません。相談したいことがあって、少し会えませんか?』


「いいですよ。私も……実は聞いてみたいことがあるので……いつがいいですか? 場所も言ってくれれば行きますよ」

 

『今夜10時にこの前のカフェ前でどうですか?』


「わかりました。夜なので気を付けてくださいね」


 電話を終えた雨宮は、何かあったのだろうか、という気持ちと、これでよかったのだろうか、という不安でいっぱいだった。



~午後10時04分・カフェ前~


 雨宮が待っていると、唄が走ってやってきた。

「すみません、遅れてしまって……」

 唄は息を切らせながらも、遅刻してしまったことを謝った。

「いえ、大丈夫です。私も今来たところですし」

 唄が息を整えるのを待ってから、雨宮は本題に移った。


「それで話というのは?」

 唄は少し沈黙すると、ゆっくりと話し始めた。

「実は……最近連続で発生している破裂事件なんですけど、犯人に心あたりがあって……」


「えっ!?」

 雨宮は驚きのあまり大きな声を出してしまい、とっさに“すみません”と口元を手で覆った。


「あの……前に私の師匠だったって言ってた“調律師”の時雨先生っていたでしょう?」

 時雨と聞いて、雨宮は“やっぱりそうか”と顔を曇らせた。


「実は、今日遅くなったのも先生の監視をかいくぐってきたからなんです……」

 唄は胸の前で両手を握り合わせると肩を竦めた。


「先生はちょっと趣味の悪い……というか、ちょっと怖い音楽性を持っていて…人の叫ぶ声とかをネットで集めて、それで曲を作っていたんです……」

 彼女は恐怖からか、体が震えている。


「私、レッスン前に先生の部屋に勝手に入ったことがあって、表示されてたホログラムを見たら、曲の生成ツールがあって……それに悲鳴で作った曲があったんです……」


「そのときは“人からもらった”って言ってたんですけど……それを私の両親に言ったら、先生のレッスンは外されて……一切関わりを持つなって」


「両親が警察に通報したのか、先生は警察署に連行されたみたいで、私の両親も話を聞かれていました」


「それから一切会うことはなかったんですけど……今回の事件があって、私なんとなく、時雨先生が関係してるんじゃないかって思って調べてたんです」


「そしたら、先生もそれに気づいたのか、私の行動を監視するようになったんです。それどころか、両親のコンサートにまで……」


「警察にその話は?」

「言ってません……まだなんの証拠もないので……」


「多分私を……」

 震える彼女の手を雨宮は優しく包み込んだ。

「わかりました。私がなんとかします」

 雨宮はそう言い切った。


「い、いいんですか……? こんな突然……」

「もちろん。実はこの事件について、私も唄さんに聞きたいと思っていたんです」

「えっ?」

「あまり詳しくは言えませんが、今回の犯人は音楽関係者の可能性もあって、それで音楽界に明るい唄さんに何か情報をもらえないかと思っていたんです」


「そうだったんですね……助かります……」

 安心したのか唄は少し顔の緊張が解けたように見えた。


「それがまさか、犯人に限りなく近い人の情報が得られるなんて。ありがとうございます」

 雨宮は手を離すと、唄に対して頭を下げる。その姿に、唄は穏やかな笑みを浮かべた。


「かっこいいですね。特対庁の方って。強くて、自分を持ってて……私もそうなれたらなあ」

「強くなる必要はないですよ。あなたにはあなたにしかできない特別なことがあるんですし」


 雨宮のその言葉に、唄は両手を包み込むように握ったまま、話を続けた。

「実は昔、通り魔事件を見たことがあるんです。まだ小学校2年生の時でした……」

 唄の息は荒くなる。


「最初は私、笛系の楽器を誰かが吹いたんだと思いました。そのとき私、ピアノだけじゃなくてフルートとかもやってたから」

「そしたらそれは悲鳴で、女の人が刺されてて……他にもどんどん刺されていって……!」

 唄のこれは大きくなっていき、鼻息も荒くなっている。

「それでっ……!」


 唄が声を張り上げた時だった。


「唄さん……大丈夫。大丈夫だから」

 雨宮は唄を抱きしめた。


「それに唄さんも十分強いと思いますよ。特対庁に来てほしいくらいです!」


「そんなことありません。私は今もあの時のことを思い出すと、こんなふうに感情を抑えられなくて……」

 唄は俯いて胸の前で手を握り合わせる。


「でもお世辞でもうれしいです。特異能力が発現したらお世話になろうかな?」

 唄は冗談めかして笑顔を見せた。


「これ、お守りです。通り魔事件にあった時から、身を守ってくれるように持ってたものです。これがあれば雨宮さんのことも守ってくれるから」

 そう言って唄はトートバッグに括り付けられたお守りを取り外すと、雨宮に手渡した。


 “御守り”と刺繍された綺麗な紫の袋。家柄を表すように艶があり高級そうなものだった。

「それじゃあ……そろそろ帰らないと。両親にも黙ってこっそり出てきているので……」


「近くまで送りましょうか?」

「いえ、大丈夫です。特対庁の人と会っているのが先生に知られるとまずいですし」


「わかりました。じゃあ、気をつけて」

「ありがとうございます。何かわかったらまた連絡しますね」

 雨宮は去っていく唄の背中を見て、決意を新たにした。

「早く調査しなきゃ……!」

 

「もしもし、夜分に申し訳ありません、屋敷隊長。実は……」

 雨宮は唄から聞いたことについて、約20分にわたり屋敷に細大漏らさず報告した。


『わかった。時雨を朝イチ任意で呼ぼう。今から庁舎に向かう。鞠子と風祭にも声をかけておく。雨宮も庁舎向けしてくれ』


「了解しました。これから向かいます。


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