19.麻薬工場
レオンは、クラリス・ルナをケアス大陸の南端のシチリスに向けた。
まず工場を叩き潰す。これ以上麻薬で苦しむ人が出ないように。
シチリスまでは、通常航行で約15分とアルテミスから報告があった。
「アルテミス、麻薬工場を特定してくれ」
「レオン、特定も何も、ここには麻薬工場以外何もありませんよ」
「そうか、じゃあ焼野原にしてもいいということだな」
そこへ、マリーから連絡が入った。マリーには一般回線の番号を伝えていた。普段は宙港の管制塔などとのやりとりで使うものだ。この番号はこの星を離れるときには変える必要があるな。
マリーの切羽詰まった声が聞こえた。
「キャプテン・ジョーカー、ダニエル・ベルトンが逃亡しました」
「何が起きた?」
「パトカーで護送中に、交通事故が発生し、その場から逃亡したのです」
おそらく、仲間が起こした事故だろう。やっぱり、ためらわずに殺しておけばよかったのだ。
「それで?」
「非常線を張りましたが、おそらく麻薬工場があるケアスに向かうものと思われます。十分気をつけてください。ダニエル・ベルトンは宙賊団とのつながりがあります」
「マリー。そういえば、サルタンファミリーとかいう宙賊を知っているか?」
マリーは即答で、
「サルタンファミリーはこのリンドン星系で最も大きな宙賊組織です。ボスのサルタンは『麻薬王』と呼ばれ、ダニエル・ベルトンとつながっているという情報もあります。何かありましたか?」
「サルタンファミリーと名乗る男どもが、カトリーヌ皇女を襲ってきたので返り討ちにした」
「皇女を守っていただきありがとうございます」
「しかし、このアポスの警察とつながっているらしい。宙港でも襲われた」
「それは大変な相手を敵に回したかもしれません。サルタンファミリーは、宙賊船を10隻以上を抱えると言われています。アポスの国防軍でさえ宇宙戦艦は12隻で、なかなか取り締まれないのが実情です」
「心配ない。襲ってくれば返り討ちにするだけだ」
「本当にお気をつけください。カトリーヌ皇女を何卒よろしくお願い申し上げます」
そう言うと、マリーは通信を終了した。
アルテミスが船橋の大型スクリーンに麻薬工場を映し出した。
工場はかなり大きく、その周りにはカシオペア星系第9惑星で見た黄色い花が一面に咲いていた。悪魔の花だ。
よく見ると第9惑星で見たものより色が薄い。第9惑星の花は鮮やかな黄色だったが、ここは薄い黄色だ。おそらく第9惑星のほうが、純度が高いのだろう。だからわざわざカシオペヤ星系まで出向いていたに違いない。
「焼き払うぞ」
とアルテミスに指示を出した。
アルテミスがレーザー砲に手をかけようとした瞬間、
「待って!」
いっしょに画面を見ていたカトリーヌ皇女が叫んだ。
「あそこを見て!」
画面を拡大すると、花一面だと思った場所で、無数の人が働いている。
「アルテミス、あの人たちを調べられるか?」
「少しお待ちください」
アルテミスは麻薬工場のシステムに割り込み、従業員名簿のリストを見つけて、
「レオン、あの人たちは麻薬漬けにされた一般人です」
「何だって・・・」
「麻薬を譲ってもらう代わりに、労働を強いられています。それで使い物にならなくなったら、焼却処分しているようです」
アルテミスの報告を聞いて、カトリーヌ皇女は、
「ひどい!人を道具のように使っているのね・・・」
レオンは攻撃を中止するようにアルテミスに指示した。
いくらなんでも一般人を巻き込むわけには行かない。
工場を破壊しても、いずれは再稼働する。やはり元凶である『麻薬王』を始末するしかないな。
「レオン、どうします?」
と、アルテミスが尋ねるとレオンは、
「このまま上空で待機してくれ。オレがレディホークで降りて、とりあえず工場の稼働している機器を破壊してくる。それから宙賊退治だ」
ダニエル・ベルトンは、麻薬の売人仲間の宙賊船で、アポスを脱出していた。
彼が乗る護送中のパトカーにエアカーを衝突させ、彼の脱走の手助けをしたのも売人仲間だった。
「畜生!キャプテン・ジョーカーめ」
ダニエル・ベルトンは、治療して再生した両足をさすりながら、いまいましくつぶやいた。
しかし、アポスの大気圏を出たところで、アポス警察の2隻巡視艇が追いかけてきていた。
「いまいましい。このままでは追いつかれてしまう」
麻薬王であるサルタンは、ケアスの市街にあるファミリーの館で優雅に食事をしていた。
そこに、ダニエル・ベルトンからの通信が入ったと部下が言った。
「つなげ!」
食堂にあるスクリーンにダニエル・ベルトンの顔が大写しで現れた。
「サルタン、助けてくれ!アポスの警察に追われている!」
「いま食事中だ。食事がまずくなるようなことは聞きたくない」
仕方がないと、サルタンは食事を切り上げ、自ら戦艦に乗り込むと救援に行くように指示した。
「全く使えない奴だ」
サルタンファミリーから宙賊の大型戦艦1隻、巡洋艦4隻、駆逐艦5隻の10隻が出撃した。
サルタンが麻薬で儲けた金で買い漁った艦隊だ。
この戦力をみれば警察の巡視艇もおびえて逃げ帰るだろう。
アポスとケアスの中間地点あたりで、ダニエル・ベルトンが乗った船と合流した。
ダニエルはサルタンファミリーの大型戦艦に乗り込むと安堵のため息をついた。その大型戦艦にサルタンが乗っている。
そして、艦長室に向かいサルタンに会うと礼を言った。
「助かった!」
サルタンは、
「ダニエル、これは貸しだからな」
「サルタン、今回おれはキャプテン・ジョーカーにやられた。奴は麻薬工場を狙っている。気をつけろ」
「キャプテン・ジョーカー?たかが一人で何ができる?工場には50人以上の部下がいる。戦艦も3隻配置している。大丈夫だ」
「キャプテン・ジョーカーを甘くみると、痛い目をあうぞ」
「痛い目にあってみたいもんだ」
サルタンはそういうとガハハと笑い飛ばした。
追跡していた警察の巡視艇は、サルタンファミリーの10隻に囲まれた。10隻に対してこちらは2隻だ。勝ち目はない。
巡視艇の警察官は、すぐにアポス国防軍に支援要請を行った。
「こちらアポス警察、第6区巡視艇。ケアスに向かう途中で宙賊船に遭遇。宙賊船は10隻。支援を請う」
アポス国防軍の総司令官であるギルバード第2皇子のもとにもその連絡が伝わった。
ギルバード皇子はすぐさま、軍の戦艦8隻を率いて、現場に直行した。
20分ほどで現場に到着すると、すでに1隻の巡視艇は大破していた。
そして、もう1隻は宙賊船からの攻撃から逃げ回っている状況だった。
ギルバード皇子は、
「全艦、砲撃開始!駆逐艦No.2は大破した巡視艇の乗組員の救助にあたれ!」
アポス軍の艦隊は一斉にレーザー砲での砲撃を開始した。
それに対し、宙賊船もシールドを張りながら、レーザー砲で反撃していた。
あたり一面は、砲撃によるまばゆい光が広がった。
レディホークで麻薬工場のそばに降り立ったレオンは、工場に駆け寄り、ビーム銃で扉を破った。
工場に入ると、そこには大きな釜があり、麻薬の臭いが立ち込めていた。
レオンは工場の制御盤を見つけると、ビーム銃で破壊した。
ウーンと音を立てたあと、稼動していた作業機械が止まった。
「侵入者だ!」
何人かの宙賊が叫び声をあげながら、レオンに向かって銃を乱射してきた。
レオンは次々に現れる武装した宙賊をことごとく撃ち殺した。
そして、一般人の従業員に当てないように注意を払いながら、作業機械を壊していった。
大きな釜を打ち抜くと、ドロドロの液体がこぼれてきた。麻薬の原料だろう。
一般人の従業員は、麻薬漬けになっているせいかこれだけ暴れても、逃げもせずボーっと突っ立っていた。
こりゃ、それなりの医療機関で麻薬中毒の処方をしなければ治すことはできないな。
大型戦艦に乗り込んでいるサルタンのもとに、麻薬工場から連絡が入った。
「髑髏の仮面をかぶった男が侵入し暴れています。工場はすべての機械が停止し、復旧の見込みが立ちません」
サルタンはブルブルと怒りで震えながら、
「すぐに殺せ!」
と喚いた。キャプテン・ジョーカーか…
「無理です。もう味方は数人しか残っていません」
工場から悲鳴が上がった。
工場の管理には50人以上の部下がいる。それがことごとくやられただと?
工場を機能停止にすると、レオンはレディホークに乗って、クラリス・ルナに戻った。
その後ろを宙賊船が3隻追いかけてきた。駆逐艦クラスだ。
クラリス・ルナの艦橋に戻ったレオンは、
「アルテミス、偽装を解け!」
と指示した。
深紅のクラリス・ルナは漆黒に変わり、トレードマークの死神の絵柄が浮かび上がった。
「あれはキャプテン・ジョーカーだ!死神だ!」
3隻の宙賊船はあわてて機首を反転させた。
しかし、クラリス・ルナの狙いすました25インチのレーザー砲が、3隻の宙賊船をぶち抜いた。
3隻の宙賊船は、黒煙をあげながら墜落していった。
その時、アルテミスが、
「ケアスの軌道上で、サルタンファミリーとアポス軍が交戦中です」
と伝えた。
「では、宙賊退治に行きますか。アルテミス、そこに向かってくれ」




