20.麻薬王サルタン
クラリス・ルナは一気に加速して、ケアスの大気圏を突破した。
宇宙の暗闇の中で遠くの花火のように、戦闘地域が見えた。
「アルテミス、あの戦場のど真ん中に光速跳躍してくれ」
クラリス・ルナはものの1秒も経たないうちに、サルタンファミリーとアポス軍の間に割り込んだ。
アポス軍は8隻の軍艦のうち6隻が大破していた。
一方、サルタンファミリーの10隻の艦はほとんど損傷がない。
この艦隊は、サルタンが麻薬の金をつぎ込んで買い漁った最新鋭の装備を備えていた。
戦場に漆黒の船体に死神のマークを付けたクラリス・ルナが突如出現したのを見て、ギルバード皇子と麻薬王サルタンは、
「キャプテン・ジョーカー!」
と同時に叫んだ。
レオンはまず、ギルバード皇子に向かって、
「ギルバード殿下、手出しは無用です。これはオレの喧嘩です。下がっていてください」
といきなり通信した。
ギルバード皇子は、
「キャプテン・ジョーカー!いくらお前でもこの数に敵うはずがない。無茶だ!」
「いいから下がっていてください。オレの彼女に手を出したんです。許すわけにはいかない」
そう言うとキャプテン・ジョーカーは通信を切った。
「アルテミス、操舵を渡せ。オレがやる」
クラリス・ルナの操舵を握ると、クラリス・ルナのAIであるアルテミスに間接的につながる。
アンドロイドAIのアルテミスの胸がトクンと鳴ったことに気が付いた。彼女と呼ばれたのがうれしいらしい。
クラリス・ルナはサルタンファミリーの艦隊に機首を向けた。
そこで、サルタンが乗る大型戦艦に向けて、通信を発信した。
髑髏の仮面をつけたレオンが大型戦艦の船橋の大型スクリーンに映し出された。
「サルタン、おまえは許さない!」
「それはこっちのセリフだ!キャプテン・ジョーカー、貴様だな、俺様の工場を潰しやがったのは」
「ああ、オレだ」
「見てみろ、アポス軍だって俺様の最新鋭の艦船にまったく敵わないんだ。お前1隻で何ができる?宇宙の塵となりやがれ!全艦砲撃開始!」
8隻の宙賊船からクラリス・ルナ目掛けて、レーザー砲の光の筋がいくつも折り重なって伸びていった。大きな爆発が起き、見事に命中と思われたが、クラリス・ルナのシールドがすべてのレーザー砲をはね返していた。
「何だと!」
サルタンは驚いて目を見開いた。あれだけのレーザー砲を浴びて無事であるはずがない。しかし、キャプテン・ジョーカーの艦はまったくの無傷だ。そんなはずはない。最新鋭の艦を揃えている。レーザー砲も銀河連邦軍が使う最新型のものだ。それも8隻分のレーザー砲を浴びたのだ。信じられない。
「サルタン、上には上がいることを知るがいい」
レオンはクラリス・ルナを一気に加速させた。そして、追尾型のミサイルを次々と発射した。
ミサイルは、宙賊船の駆逐艦クラスを次々と大破させていった。1艦に4,5発のミサイルが命中している。
「よくも子分たちを!許さん!」
サルタンは、怒りに満ちた真っ赤な顔をしていた。
さらに、大型戦艦や巡洋艦からのレーザー砲は、ひらりひらりとかわして1発も命中していない。
そもそもレーザー砲は、照準を決めるのに3秒くらいはかかる。3秒あればクラリス・ルナはすでに狙ったところにはいない。
それに引き換え、クラリス・ルナのレーザー砲は、面白いように当たる。これはキャプテン・ジョーカーが手にしたビーム銃と同じような操作をして、レーザー砲を砲撃しているからだ。これはアルテミスのAIがあってこそ初めて可能となる。
ギルバード皇子は、大破したアポス軍艦の乗組員を救助しながら、キャプテン・ジョーカーの戦いぶりに目を丸くしていた。あれは戦闘艦ではない。あの動きは戦闘艦ではできない。あの動きは戦闘機と同じ動きだ。
すでに、サルタンファミリーの手下の宙賊船は、駆逐艦5隻は全滅していて、巡洋艦も4隻大破し、残り1隻となっていた。その艦もいま大破した。あとはサルタンが乗る大型戦艦だけだ。
ギルバード皇子は、キャプテン・ジョーカーの凄さを実感した。これじゃ捕まらないはずだ。
敵に回すとこれほど恐ろしい奴はいない。
サルタンが乗る大型戦艦級の宙賊船に、キャプテン・ジョーカーから通信が入った。
「残るのはお前の艦だけだ。手足をもぎ取られていった気分はどうだ」
「キャプテン・ジョーカー!」
10年だ。10年かけてここまで宙賊船団を大きくしたのに、たった1隻に全滅させられた。
逃げるしかない。光速跳躍の準備はできた。
「キャプテン・ジョーカー、次は必ずお前を殺す」
とボス・サルタンは捨て台詞を吐き、光速跳躍した。大型戦艦は一緒で姿を消した。
サルタンの大型戦艦級の宙賊船は、ケアスの裏側に突出した。これで一安心だ。
「畜生!キャプテン・ジョーカーめ」
サルタンは拳を握りしめ、机を叩いた。
その時、サルタンはひらめいた。自分が相手をする必要はない。
あいつを葬ってくれる奴がいればいい。
そして、部下に銀河連邦軍に緊急通信をいれるように指示した。
「こちら銀河連邦軍です。どうしましたか?」
「緊急事態です!いまキャプテン・ジョーカーに襲われています。ケアス星のすぐ近くです。すぐに救援をお願いします!」
サルタンは、いかにも怖がっているような声色で、銀河連邦軍に通報した。これで、キャプテン・ジョーカーも終わりだ。
そのとき、艦橋にいた部下が叫んだ。
「ボス!キャプテン・ジョーカーが追ってきました!」
「何だと!」
光速跳躍に入れば、行先などわかるはずがない。なぜこいつは俺様がここに跳躍することが分かったんだ。サルタンは背筋が寒くなった。こいつはやっぱり死神だ。
それは、跳躍寸前にアルテミスがこの宙賊船をスキャンして、跳躍する座標を読み取ったからだ。もっともそんなことは知る由もない。
キャプテン・ジョーカーから通信が入った。
「大破した子分の艦を見捨てて、自分だけ逃げるとは最低の男だな」
「きさま!」
「地獄で会おう」
クラリス・ルナから25インチレーザー砲が発射され、大型戦艦級の宙賊船を貫いた。宙賊船はすさまじい閃光をあげて、粉々に爆発した。
それから数日後、レオンとアルテミスは、スコッティ夫妻としてアポスの次期皇帝の任命の式典に参加していた。
式典は、アポス城の中庭で行われていた。
ちょうど宵闇が迫ろうとしていた時刻だ。
レオンは、麻薬工場を破壊し、サルタンファミリーを壊滅させたあと、次の惑星に向かう光速跳躍直前で、カトリーヌ皇女から式典の招待を受けた。ママと呼ばれたアルテミスがぜひ参加したいと願ったので、正体を明かさないことを条件に参加していた。
ルドルフ第1皇子は、フレデリック・ベルリオーズのカトリーヌ皇女の誘拐および麻薬組織のダニエル・ベルトンとの関係が明るみに出て失脚した。
その結果、皇帝陛下は、ギルバード第2皇子を次期皇帝として正式に指名した。
式典にはカトリーヌ皇女も参加していた。レオンとアルテミスを見つけると、すぐに近寄ってきた。
「参加いただきありがとうございます」
「オレみたいな宙賊なんかが来るところじゃないが・・・」
とレオンは頭を掻いた。
カトリーヌ皇女の後ろに軍服を着たマリーがいた。
その姿を見て、レオンはギョッとした。
「きみは麻薬捜査官では・・・」
「いえ、それはあの時だけです。正式にはアポス軍特殊部隊の隊長です。キャプテン・ジョーカー」
「ここで、その名前は出さないでくれ」
マリーがふふふと笑うと、横からカトリーヌ皇女が、
「そして、ギルバード皇子の許嫁です。もうすぐ私のお姉さまになります」
レオンは妙なことをしなくてよかったと安堵した。かなりお転婆な皇帝妃になるだろう。
それからレオンとアルテミスは皇帝陛下に挨拶をした。
皇帝陛下は、車椅子でかなりやつれてはいたが、眼光はすさまじいものがあった。
「スコッティ夫妻よ、この度はカトリーヌを救出してくれたことを心より感謝する。また、アポスの軍をサポートして、宙賊を退治してくれたとのこと、その栄誉を称えたい」
「ありがたき幸せ」
と、レオンは畏まって答え、皇帝陛下の前に跪いた。そして勲章が授与された。
レオンは小声で、
「アルテミス、この勲章はいくらで売れそうか?」
「真ん中の石はルビーですね。まあ2000万クレジットくらいでしょうか」
「今回の稼ぎはこんなもんか」
「宙賊から奪ったレアメタルのほうが、高く売れそうですよ」
「そうだな、マクラーレンの爺のところにでも売りにいくか」
二人は顔を見合わせて笑った。
その式典に、軍服の一団が参加者をかき分けて現れた。
「何事だ!式典の最中だぞ」
ギルバード皇子はその一団に向かって声を荒げた。
「銀河連邦軍第六部隊の司令官マクシミリアンです。この宙域にキャプテン・ジョーカーが現れたとの緊急通報があり、駆け付けたところであります」
「キャプテン・ジョーカー?そんな奴は見てないな」
とギルバード皇子はとぼけた。
レオンはアルテミスと後ずさりしながらそっと会場を出た。
「通報は間違いありません。通信の映像の後ろに確かにキャプテン・ジョーカーの艦が移っていましたから」
「それはアポス帝国からの通信ではないな」
「しかし、式典を襲われる可能性も・・・」
「わが帝国にも軍隊はある。そんな奴が現れたら、私が自ら対処する。行きたまえ、ここは静粛な式典の場だ」
「しかし・・・」
そのとき銀河連邦軍の部下の一人が空を見上げて、
「キャプテン・ジョーカーだ!」
と叫んで指さした。
そこには漆黒の死神のマークを付けた宇宙戦艦が悠々と飛行していた。
「全員、戦闘艦に戻れ!キャプテン・ジョーカーを逃すな!」
銀河連邦軍の一団は駆け出して行った。
それを見たギルバード皇子は、笑みを浮かべ、
「騒がしい連中だ。お前たちが敵う相手じゃないのに・・・」
そのとき、キャプテン・ジョーカーの艦から大砲が撃たれた。
そして、城の真上でお祝いの色鮮やかな無数の花火が広がった。




