最終話
シャフリたちが王宮で勲章を授与されているであろう時、私は自室で紅茶を啜っていた。
「……ふぅ。今日もいい味よ。ジーク」
「ミーナちゃんが美味しそうに飲んでくれるから、こっちも淹れ甲斐があるよ」
外の景色を眺めながら、私はさらに紅茶を啜る。部屋の掃除をしていたジークが手を止めることなく、私に尋ねる。
「本当に良かったの? シャフリ様たちと一緒に王宮に行かなくて?」
ティーカップを机の上に置き、外の景色を眺めたまま、私は言葉を返す。
「国民たちやクロノたちは国を救った英雄って言っていたけど、私は違うと思うの。ジーク……私はクロノの義兄を消してしまったわ。どんな理由であろうとも、他人の命、存在を奪うことは大罪だと思っている。だから私は勲章を受け取ることはできないわ。そしてジーク……アンタも同じことを思っていたでしょ?」
「そうだね……僕たち2人は、取り返しのつかないことをしてしまったからね」
「でも、選択を間違ったとは思わない。後悔もない。私たちは罪を認め、背負い続けること。ただそれだけよ」
ジークが私の横に立ち、私と一緒に景色を眺める。
「……変わったね。ミーナちゃん」
「お陰様でね。アンタこそ、来た時より柔らかくなったわよ」
「どういうことですか?」
ジークは首を傾げ、私に目を向けてくる。私はクスクスと笑ってジークの手を握る。
「機械みたいに業務をこなして、表情も崩さないで私のワガママに応えてくれたわ。でも、アンタから人間らしさを感じなかったわ。あの時までは」
「あの時?」
「私のことを愛してるって言った時よ。心の底からの声でね」
ジークと私は視線を合わせ、私たちは同時に笑みを浮かべる。
◇◇◇
ミーナとジーク以外が勲章を受け取り、王宮では盛大な拍手が湧き起こっていた。
「勇気ある4名に、今一度盛大な拍手、ありがとうございました!」
大臣が国民たちに感謝の言葉を口にしている時、クロノは個人的にソフィアたちに声をかける。
「ソフィア、サラス。私の騎士を辞めても、力を貸してくれたことに感謝する」
『クロノ様……』
「改めて2人の大切さを理解させられた。2人とも、もう一度私の元に戻ってくる気はないか?音楽団も再設立させることを約束する」
クロノの申し出に対して、ソフィアとサラスは顔を見合わせた後、笑顔を浮かべて答えを口にする。
「せっかくのお誘いですが、サラスと私は戻ることはできません」
「失礼ですが、クロノ様以上に仕えたいと思ってしまった人がいますので」
2人の答えを聞いたクロノはニッコリと笑みを浮かべて、2人の肩に手を置く。
「ある程度察していたが、2人にそこまで言わせるミーナ殿が羨ましい限りだ。時折顔を出しに行くぞ。2人とも」
『はい!』
ソフィアとサラスから離れたクロノはシオンの前で片膝をつく。
「君には謝らないといけないことがある。謝っても許されることではないが、私の義兄が君から仲間を……家族を奪ってしまった。私が力無いばかりに……このようなことに」
「国王様が……謝ることじゃ、ない。家族……仲間がいなくなったのは……悲しい。だけど、ミーナ様が僕に居場所をくれた。ミーナ様は国王様を信頼している。だから僕は、国王様を恨んだりは……しない」
シオンの言葉を聞いて、クロノは涙を浮かべそうになったが、グッと堪え、シオンに握手を求める。
「ミーナ殿は素晴らしい主だ。君が忠誠を誓う限り、気持ちを裏切ることはしないだろう。今感じている幸せが……永遠に続くことを祈っている」
シオンは表情を和らげ、クロノと握手を交わし、クロノは笑みを見せた後、シャフリの前に立つ。
「久しぶりです。シャフリ・ハル・クリスティ殿」
「あ、あああ、はいぃ!! おひぃさしぶりです!!」
未だに緊張しているシャフリを見て、クロノはクスクスと笑い、シャフリに顔を上げさせる。
「直接見ていませんでしたが、貴女のお陰で被害が最小限に抑えられたと聞いています。本当にありがとうございます」
「い、いえいえ!! ……私は、友達のために動いただけです。私1人じゃ、何も出来ませんでしたし、何をすれば良いか分かりませんでした」
「それでも、救ってくれた事実に変わりはありません。ありがとうございます」
クロノは一瞬だけシャフリから視線を逸らし、頬を赤く染めて口を開ける。
「そ、それと、これは個人的なお願いなのですが……」
首を傾げて言葉の続きを待っているシャフリの両手を握りしめたクロノは、真剣な表情を浮かべて思いを口にする。
「じ、自分はまだまだ未熟で無力ですが、力をつけて、誰もがアルカディアの国王はこのクロノだと認められたら……貴女を! シャフリ殿を妃として迎え入れたいと思っています!」
横に並んでいるソフィアたち含め、大臣たちが目を丸くし口を開け、クロノの心中を耳にしたシャフリは数秒ほど固まった後、驚きの表情を浮かべて、大声を上げる。
「ええええッ!!??」
◇◇◇
「やっぱり、ここが一番落ち着くかも」
見晴台で小鳥たちにパンのかけらを与えながら、私は口を溢す。
「小鳥さんたちもミーナちゃんが来ると嬉しそうにしているよ」
微笑みながら小鳥にパンを与えるジークにチラッと視線を向けた私は、気持ちを固め、思いを口にする。
「……ねえ、ジーク」
「ん? 何?」
「貴方……ミストレーヴの名を名乗らない?」
ジークはピタッと手を止め、透き通るような瞳を私に向けてくる。
「それって……」
「……鈍いのは変わらないね。私もジークを愛してるわ。だから、私の夫となって、ジーク・アルヴェルドから、ジーク・ミストレーヴになる気はない?」
ジークは頬を赤く染め、視線を逸らすジークを私は見つめ続ける。
「た、確かに……自分もミーナちゃんを愛しているけど……自分のような何処の馬の骨か分からない人間が、ミストレーヴを名乗るなど……」
「私はジークが良いの。ジークじゃなきゃ、こんなこと言わないわよ。それに、素性なんて関係ない。種族なんて関係ない。主従であっても構わない。それがこの屋敷の主、ミーナ・アリスト・ミストレーヴの考えよ」
ジークは数十秒ほど視線を逸らしたまま沈黙し、私はジークを見つめ続ける。ようやく私と視線を合わせ、ジークは深呼吸をした後、笑みを浮かべる。
「ミーナちゃんが望むなら、喜んでミストレーヴの名を名乗らせてもらうよ」
理想の答えが返ってきて、私は無意識にジークに抱きついていた。
「今日から貴方はジーク・ミストレーヴよ」
「はい! ……いや、うん! ミーナちゃん!」
「それと……これは必要ないからね」
ジークと初めて会った時、強制的につけさせた白い手袋。その手袋を外し、丸めてベンチにソッと置く。
「これでジークは私の手の温かさを、私はジークの手の温かさを知ることが出来るね」
「そうだね」
至近距離でお互いを見つめ、頬を赤く染めながら交互に口を開ける。
「半分人間で半分吸血鬼の君を」
「最高に完璧な執事の貴方を」
『幸せにします!』
こんにちは!伊澄ユウイチです!
長きに渡って連載していた「半分人間で半分吸血鬼の私に、最高に完璧な執事がつきました」が完結しました!
今まで閲覧してくれた方々には感謝の言葉しかありません。皆様のお陰で無事に完結することができました!
正直、納得度で言えば7割くらいかな?って思っていますが、自分自身、初めての完結なので、やりきった感があります笑
また機会があり、皆様が続編を望まれているのであれば、執筆するかもしれません笑
最終話まで見て、面白かった!楽しませてもらった!という方は評価や感想を送っていただけると嬉しいです!
本当に長い間、お世話になりました!
ありがとうございました!
それではまた次の作品で!




