結末2
リギルがいた場所で泣き崩れるクロノ。そんなクロノの肩に手を置いた私は、優しい口調で声をかける。
「最期以外は気に食わなかったけど、リギルの言う通りよ。アンタが……このアルカディアの王よ。ヨハネス国王の意思を継ぎ、誰もが理想だと思う国へ私たちを導いて」
中々顔を上げられなかったクロノだが、私は彼の肩から手を離し、背後で膝をつく。
「義兄であるリギル様を手にかけた罪は重いと自負しています。罪滅ぼしというわけではないですけど、私は……ミーナ・アリスト・ミストレーヴはクロノ・アルカディアを王と認め、一生かけて支えることを誓います」
クロノはゆっくりと顔を上げ、背後にいる私に目を向ける。目に浮かべている涙を拭い、土を握りしめてゆっくりと立ち上がる。
「……暴走する義兄様を止めてくれて感謝します。ミーナ・アリスト・ミストレーヴ。貴女は罪と仰いましたが、今回の件は不問とします。ですが……アルカディアの王として、貴女に頼みがある。私は必ず……このアルカディアを皆が理想と思う国にしてみせます。だが、力不足であることは理解しています。だから貴女の力を……ミストレーヴの借りたい。お願いします」
「喜んでお貸しします」
クロノが私に手を差し伸べ、私は彼の手を取り、ゆっくりと立ち上がる。
『ミーナ様〜』
遠くからソフィアたちが手を振りながら私に駆け寄り、空からジークと父に肩を借りながら舞い降りる母が、私に笑みを見せてくる。
「みんな……ありがとうね」
全員に深々と頭を下げ、母が私の肩に手を置く。
「ミーナちゃん。よくやったわ。母として誇りに思うわ」
母から褒め言葉をもらい、素直に嬉しかった私はニッコリと笑みを浮かべる。
笑みを浮かべた瞬間、私とジークたちが纏っている青い炎が消え、元の姿に戻る。その時、私の視界が霞み、バランスを保てなくなった私は地面に向かって体を倒す。
ジークたちの声が微かに聞こえていたが、だんだん遠くなり、完全に聞こえなくなる。
そして……私の視界は真っ暗になる。
◇◇◇
ジアスが作り出した空間で結末を見届けていたヒビキは大きく背伸びをする。
「うーん……アルカディアが崩壊する危機は去ったみたいね」
「しかし……我孫ながら、恐ろしい力だ。力を扱うことができたとはいえ、これは警戒するべきか」
「何言ってるんですか。ジアスさんのお孫さんが無意味に力を使うはずがないじゃないですか」
「しかし……」
食い下がろうとするジアスだったが、ヒビキの笑みを見て、口を静かに閉じる。
「家族が信じないで、誰があの子を信じるんですか?仮に国や世界があの子の敵になっても、ジアスさんたちはあの子の味方になってあげなきゃいけませんよ」
「うむ……」
言葉を返すことができないジアスを見て、クスクスと笑うヒビキはジアスに背を向け、空間に穴を開けた。
「もう行くのか? ジークくんに会わなくてもいいのか?」
ヒビキは背を向けたままジアスに言葉を返す。
「……会いたいですよ。でも、今は出来ません。今のあの子には……」
外の世界で倒れているミーナを抱えるジークを見て、ヒビキはニッコリと笑みを浮かべる。
「私以上に大切な人を守るのに必死みたいだし、過去の存在である私は……邪魔な存在よ」
「……そうか。達者でな」
「ええ」
ジアスはそれ以上ヒビキを止めることはせず、ヒビキは開いた穴の中に消えていく。
「全く……私たち吸血鬼含め、鬼というのは勝手なものだな」
◇◇◇
重い瞼をこじ開けた私は、何もない真っ白な空間で横たわっていることに気づく。
「……あれ? ここは? 私は……一体」
「ようやくお目覚め?」
声が聞こえた左方向に目を向けると、そこには笑みを浮かべたヒビキさんが立っていた。
「ヒビキ……さん?」
体に力を入れ、やっとの思いで上半身を起こした私は、再度ヒビキさんに目を向ける。
「私は……どうしてここに? さっきまで王宮の敷地で……」
「ここは貴女の意識の中よ。以前、あの方が来た時よりは明るい場所に変わっているけどね」
「私の意識の中? あの方? 一体どういうことですか?」
ヒビキさんは私の背後に目を向け、視線が変わったことを察した私も背後に目を向ける。目を向けた先に赤い球体が現れ、私は目を細める。
「何……あれ?」
「ミーナ・アリスト・ミストレーヴ。光栄に思いなさい。紅神竜・フレイア様が直々にお話ししたいと仰ってるよ」
私の視線は完全に赤い球体に釘付けられ、体を動かそうにも力が入らず、姿勢を正すこともできなかった。
『構わない。そのままで良い』
赤い球体から聞き覚えのある声が聞こえ、私は目を見開く。
「その声……もしかして、私に暴走している時の映像を見せてくれた……」
『その通り。お前に欠如していた記憶を見せ、自分自身と向き合う試練を与えたのは……この我、フレイアだ』
以前は声だけだったけど、この赤い球体からは不思議な力を感じる。
『礼を言わせてくれ。我が創造したアルカディアを守ってくれて感謝する。そして、姿を見せぬことを許してくれ』
「お礼を言うのなら、姿を見せてもらいたいものね」
姿を見せてほしいと口にした瞬間、ヒビキさんが高らかに笑い、私は目を細める。
「ミーナ・アリスト・ミストレーヴ。残念だが、フレイア様がここに姿を現すと、現実世界にあるお前の体は消え去ることになる」
「消え去る? どういうこと?」
『我は神竜。神の名を冠する存在だ。我の姿を見ることが許されるのは、死を受け入れた者と我に忠誠と体を預けた者だけだ。故に、お前に姿を見せることはできない』
「なるほど……タダでは姿を見せてくれないわけね。アルカディアを救ったっていうのに」
『返す言葉もない。しかし、我の姿を見るために、お前が消えることはない。お前には待っている者たちがいるだろう?』
「待っている……そうね。大切な家族や友達が待っているわ。だから、姿を見るのは次回にしてあげる」
『フフフ……やはり面白い奴だ。お前こそ、アルカディアの……いや、イクセプトの希望となる存在だ。時間を取らせたな。またいつか会おう。我はいつもお前を……お前たちを見守っている。行くぞ。ヒビキ』
「はい。またね。ミーナちゃん」
ヒビキさんと赤い球体が風景と同化しようとした瞬間、フレイアが私に言葉を残す。
『おっと。言い忘れるところだった。あの世界に残したフレイアの雫。幼き王の手中にに収めてくれ』
ついでに頼み事を押し付けられて少しむかついたが、完全に気配が消え、私はため息をつきながら、瞼を閉じる。
「はいはい。全く……好き勝手言ってくれる神様ね」
軽く笑みを浮かべ、深く息を吸い込んだ後、私は現実の世界に意識を戻す。
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