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ミーナと竜人族2

「ほら。口を開けて」


 昨日に引き続き、私はシオンに食事を与えるが、頑なに口を開けようとはしてくれなかった。視線も合わせてくれず、私は困り果てる。


「食べないと体治らないわよ?」


「……人間」


「え? なんて?」


「人間……嫌だ」


 未だに人間に対する憎悪があるのか、徐々に私から離れようとする。


「はぁ……どうしたら食べてくれるの?」


 シオンは視線を逸らしたまま、ポツリと呟く。


「……昨日の……方が良い」


「え? 昨日?」


「人外……の方が」


 深くため息をついた私は吸血鬼の姿に変わる薬を飲み、再びシオンに料理を近づける。


「ほら。これなら食べてくれる?」


 チラッと私の姿を見たシオンは、躊躇いながらも料理を口にし、次の一口を要求してくる。


 食べさせるのは構わないけど、毎回吸血鬼になるのは面倒ね……一体どうすれば、人間にも心を開いてくれるのかな?


 悩みながらシオンに食事を与え続け、空になった食器を片付ける。


「……ミーナ」


 シオンから話しかけてきて、私は毅然とした態度で言葉を返す。


「何?」


「料理……作ってる?」


 ヤバい……私じゃなくて、人間のジークとシャフリが作ってるなんて言ったら、何をするか分からないわ。誤魔化そうにもなんて言ったら……。


「ミーナ?」


「何で知りたいの?」


 逆に尋ねてみると、シオンは天井を見つめて、少し表情を和らげる。


「……母さんと同じ。優しい……温かい」


「味のこと?」


 シオンは首を横に振り、言葉の続きを口にする。


「味……美味しい。だけど……そこじゃない。食べる……胸が、温かくなる。作ってる……人、会いたい」


 会いたい……か。だけど、ごめん。


「私は作ってないわ。それに……今は会わせることは出来ない」


「……分かった」


 私はシオンに背を向けて、部屋から出ようとする。するとシオンが私を呼び止めるように、声を出す。


「次も……来てくれる?」


 私は背を向けたまま、シオンに言葉を返す。


「……ごめん。昼は予定があるから、人外種の従者が代わりに来るわ」


「……分かった」


 地下室の扉を閉めると、終始様子を見ていたジークが横に並んで、歩きながら話しかけてくる。


「流石に一晩じゃ、人間嫌いを克服してくれませんでしたか」


「大体予想通りよ。だけど、吸血鬼の姿にならないと食べてくれないなんて……ちょっと考えものね」


 ジークはクスクスと笑い、私は目を細めて笑っているジークに目を向ける。


「……ところで、お母さんもお父さんも帰ってきていないの?」


「はい。奥様たちは現場近くの宿に泊まっていると聞いていますが、王宮に向かった旦那様とメイド長とは連絡が取れていません……」


「そう……」


「話したいことがあるのに、話せないのはもどかしいものですね」


「べ、別に……どうしても話さなきゃいけないことじゃないし。私は、主と主を支える者として、屋敷を留守にするのはどうかと思って……」


「シオン様は、お話しする相手がもういません」


 私は足を止め、地面に視線を向ける。


 止まった私の横で片膝をつくジーク。そして私の手を優しく握り、私はジークと視線を合わせる。


「1人は辛いものです。お嬢様もよく知っているはずです。奥様や旦那様を説得するために時間を確保したのは分かりますが、シオン様の心を開かせたいのであれば、昼食も足を運んで、シオン様とお話ししていただけませんか?」


「ジーク……」


 やっぱり……ジークには敵わない。先のことを考え過ぎて、大事なことを忘れていた。


「……そうね。そうさせてもらうわ」


「奥様たちが戻られたらお伝えします。お嬢様はシオン様をお願いします」


 私はコクリと頷き、ジークは満面の笑みを浮かべる。


「それはそうとジーク」


「はい?」


「何で敬語なの? 2人っきりなのに、どうして?」


「いや……お嬢様。その……」


 ジークは私から視線を逸らし、理解できない私は頭上に疑問符を浮かべる。


「隣にシャフリ様がいますよ?」


「へ?」


 反対側に顔を向けると、そこにはニヤついた表情を浮かべたシャフリがいた。


「へぇ〜。ミーナちゃん。2人っきりだとジークさんに敬語を使わないようにしてもらってるんだ〜」


「ぎ……ぎゃああああぁぁぁぁッ!!」


 地下の廊下に私の声が響き渡り、2人は耳を塞ぐ。




 ◇◇◇




「もう安心です。ですが、しばらく安静にする必要があります」


 一晩経ち、ヨハネスの専門医から容体が安定したことを知ったエディックは、ホッと一息ついて、客間のソファーに座る。


「良かった……」


「エディック様。一晩中、父様に付き添ってもらって感謝します。お疲れでしょう? お休みになっていきますか?」


 休むことを勧めるクロノだが、エディックは首を振って断る。


「いや。これ以上お邪魔する訳にはいきません。自分は屋敷に戻ります」


「しかし……」


「自分は当然のことをしたまでです。それに、一晩経って雨も上がりました。これ以上、屋敷を留守にする訳にはいきませんので」


 クロノは眉をハの字にして、エディックを引き止めるのをやめる。


「分かった。気をつけてお帰りください」


「気遣い。恐縮です」


 エディックとカーリーは最敬礼をして、クロノの元から去る。


「……カーリーちゃん。通信バットでサロミアちゃんと連絡を取って」


「お屋敷には戻られないのですか?」


「戻る前に……会って話がしたい」

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