ナナ話 条件型
一体いつ、綾奈の行方が分かるんだ。
道を歩きながら考える。先輩達にも話して情報を聞いたが、一年半前、行方不明者が数十人発生したきり、紫の目の人物は目撃されていないらしい。俺もディメンション攻略の合間に情報を集めようとしているが、全く手掛かりがない。
おそらく、あいつはかなり強い。直感でそう思っている。
コンビニに寄ろうとすると、目の前から女性が走ってくる。多分、高校生くらいだろう。俺に接近してきて話しかけてくる。顔は青ざめ、今にも崩れ落ちそうだった。
「あなた、古言 綾人さんですよね?!助けてください!」
「どうしたんですか?」
とても慌てた様子から、エンティティが出てきたのかと思った。落ち着かせるために深呼吸を促す。
「落ち着いてください」
「はぁーー、妹を、瑞稀を助けてください!」
「何があったんですか?」
彼女を落ち着かせ、話を聞く体制に入る。
「私の名前は、辰海 美桜です。さっきファイターになったばかりで…」
どうやら、新人だった。妹を助けてと言う言葉を聞き、自分の過去を思い出す。この人も俺と同じように、大切な家族に何かあったのだろう。近くのベンチに座って詳しい事情を聞く。すると、
「詳しいことを教えてください」
「18時頃だったと思います。家にいたら、突然、赤い扉が瑞稀の前に出てきて、開いたかと思ったら、黒い変な腕が瑞稀を連れ去ったんです。」
「さっそく案内してください。実物を見てみないと何も言えません。ところで、他のファイターには相談しなかったのですか?」
「しました。でも、誰も取り合ってくれませんでした…」
無理もない。人を拐うエンティティは聞いた事がなかった。だが、放っておく理由にはならない。
家に案内してもらうようにした。走りながら後をついていくと数分で着いた。家の中に入ると、リビングに案内された。目の前には確かに扉がある。レベルは2だろう。これは確かに、話を聞く方が珍しいだろう。レベル2に挑戦するのは、少し強い初心者くらいだ。だが、この都市に初心者は少ない。美桜さんは運が良い。続けて彼女が、話し始める。
「扉が出たあと、突然、目の前にF1レーサーが現れて、契約を迫ってきました」
「なるほど、そいつと契約したんですね」
「はい」
どうやら、変なコントラクターと契約したようだ。まだ、時間は経っていない。俺が攻略すればいい話だと思っていた。
「早速、攻略しましょう。予約っと」
「お願いします」
予約は承認された。それを確認して、ドアノブに触れようとするが、弾き返された。これは、ディメンションそのものが拒絶しているかのようだ。
「触れられない…?もしかして」
いつものディメンションとは違う。これが、噂に聞いていた条件型ディメンションだと気づいた。それには文字通り条件が付いていて、種類は様々ある。今回は、
「あれ…私は触れられたのに」
どうやら美桜さんしか入れないようだ。俺が入れなくて、落胆する美桜さんに話しかける。
「このディメンションはあなたしか入れません。俺が出来るのは、応援することだけです」
「そんな…無理です。私には今の生活があるんですよ、それに、まだ何も…」
そういうことか、この人は戦いとは無縁の一般人。それは、自分でやりたがらない理由にもなる。視線が揺れている。これは逃げ場を探す目だ。それでも、
「そんな事言っている場合ですか!あなたの妹はどうなってもいいんですか?!」
「…いや、でも」
沈黙の後。やがて、小さく頷いた。
「あなたにしか出来ないのですよ!今日はもう暗い、明日、俺の仲間と知り合いを連れてきます。一緒に特訓しましょう」
「はい…では、ここに来てください」
彼女はまだ不安そうだったが、それでも拒まなかった。俺は玄関を出て、帰宅する。
家族を拐われた者同士、気持ちがわかるはず、何とか戦う気力を持って欲しいと思った。家に帰ると、ただいまと言うが、おかえりはない。昔は綾奈がただいまと、言ってくれたのに。その事実が、やけに重くのしかかる。
自室に行き、グループ通話で先輩たちに相談する。
「条件型ね、かなり珍しい。俺も一回しか入った事がない」
「その時はどうでしたか?」
櫻井先輩に質問する。古参の櫻井先輩でも一回という事は、かなり稀なディメンションなのだろう。櫻井先輩がこう言う。
「ボスエンティティが変則的だったこと以外、特にないかな?ちなみに条件は一人までで、レベル3だったよ」
「すごいですね先輩」
葵がそう言った。続けて櫻井先輩が、あることを言う。
「そういえば、数年前、オーストラリアで、条件不明のレベル3ディメンションが解放されたらしい。それも、僅か十一日で。相当な死傷者が出たって」
「じゃあ美桜さんが早く攻略しないと…」
「ああ、敗北だ」
葵がそう言って心配になってきた。条件型は、普通のディメンションよりタイムリミットが短いらしい。つまり、美桜さんには余裕がない。通話を切り、今日は寝ることにした。
通話が切れたあとも、葵の言葉が頭から離れなかった。
翌日。
今日は、櫻井先輩と葵と俺で美桜さんの自宅に向かう。到着して、インターホンを鳴らすと、昨日より少し強くなったような美桜さんが出てきた。
「おはようございます。皆さん」
『おはようございます』
俺たち全員で挨拶をして、早速家内に入る。廊下を右に曲がり、リビングに入る。扉を見る櫻井先輩と葵。葵が美桜さんにある事を言った。
「昨日ファイター委員会に行ってファイターになりました」
「そうですか、美桜さん、一時的に俺たちのパーティに入りませんか?」
「…分かりました」
葵の提案に美桜さんは素直に応じてくれた。全員椅子に座り会議をする。櫻井先輩も入ってくれるのか?
簡単に自己紹介を済ませ、すぐに本題に入る。
「私は辰海 美桜です。よろしくお願いします」
「えぇ、よろしくお願いします。いきなりですが、レベル1のディメンションを予約しました。これをなるべく一人で攻略しましょう」
「分かりました」
昨日に比べて素直だ。何か心境の変化でもあったのだろうか。そう考えていると、美桜さんがある話を始めた。
「昨日、古言さんが帰ったあと、ずっと考えていました。私は、今まで瑞稀を守ってきた。だから、こんなところで見捨てたくないんです。」
「では、行きましょう、瑞稀さんを救うために」
「はい」
いい変化だ。美桜さんの覚悟を確認して、俺たちは玄関を出た。櫻井先輩が用意した車に乗り込む。
「先輩飛ばしてください」
「任せな」
その言葉と共にアクセルを踏む、車は急発進する。美桜さんと少し雑談をする。
「美桜さんは何か好きな物ってありますか?」
葵が質問をする。答えは、
「私、ホラー映画を見るのが大好きなんですよ。瑞稀と一緒に」
「い、以外ですね」
ちょっとだけ引いてしまった。葵は少し頷いている。もしかして好きなのか。そうこうしているうちに目的地に着いた。歩いて扉の前に立つ。黄色でしゃがまないと入れないくらいの小ささだった。
「行きましょう今回は俺とあなただけです」
俺の言葉を聞いて、黙って頷く。後ろで先輩達は見ている。ドアノブを引いて侵入する俺たち。中は、足元はぬかるんだ沼地。前にボスらしき、トカゲみたいなエンティティが二足歩行で立っている。美桜さんの肩を優しく叩く。
「頑張ってください、ここであなたは成長しなければならない」
「行きます」
彼女はクラウチングスタートの姿勢を取って、能力を発動する。その瞬間、目で追いつけないほどのスピードで加速した。
「う、うぁぁぁあー、何これ!?」
叫び声と共にエンティティに体当たりする。この間の出来事は三秒だった。エンティティを下敷きにして壁に激突する。下敷きにしたとはいえ痛そうだ。エンティティはまだ生きていて、立ち上がり爪で攻撃しようとする。美桜さんはまだ、立ち上がっていない。
「避けて!」
「うぁぁ!もう一回」
立ち上がって、攻撃を躱す。だが、再び能力を使おうとした瞬間、
「あれ?遅っ!」
今度は逆に減速してしまった。追撃が来る。このままでは危ないと思ったが、攻撃が当たる寸前で速度が戻り、避ける。だけど、足を滑らせて転んでしまった。たまたま、エンティティの足に足が当たって、エンティティも転ぶ、その隙に立ち上がる。
「今です!加速して急所を潰してください」
「はい!」
俺のアドバイスを聞いて、加速した。今度は迷いがない。目にも止まらない速さで頭部を殴り続ける。鳴き声を上げていたエンティティはだんだん静かになって絶命した。
「何、この光」
光を浴びる美桜さんを黙って見ていると、元の世界に戻ってきていた。
「お疲れ様、二人とも」
「大変でしたよ」
美桜さんはそういう。確かに大変だったが、収穫もあった。
「先輩、美桜さんの能力は速度を変える能力です。詳細は分かりませんが、極めれば強いでしょう」
「そう。美桜、どうだった?」
最初だから制御は上手く出来ていなかったが、それでも強いだろう。
「初めてで大変でした。でも、古言さんのお陰で勝てました。」
「それは良かった。あと、聞いてほしい話がある」
美桜さんのディメンション攻略の話を聞いて、安心する先輩。先輩が話始める。
「条件型ディメンションはタイムリミットが短い。おそらく、レベル2だからタイムリミットは明後日の18時。美桜、君には明後日の17時30分までに、強くなって欲しい」
「み、短い…もし間に合わなかったら、瑞稀は…」
「最悪の事態は防がないと。だから強くなるために、これから本部の訓練室に行く。そこで、能力の使い方を教えてあげるよ。明後日のまでに、ある程度、戦えるようになってもらうよ。」
予想より短かったのだろう、だって普通は一週間くらいだから。まずは訓練室にいくことになった。それは妥当だろう。美桜さんは落胆したのか、その場に崩れ落ちる。そんな美桜さんに葵は、
「何やってるんですか、行きますよ」
「えー、もうですか、少し休憩しましょうよー」
「そんなこと言っていたら、いつまで経っても強くなりません。」
葵は美桜さんの提案を無視して、無理矢理立たせる。果たして瑞稀さんを救うことが出来るのか。
逃げる時間はない。




