ジュウニ話 レベル5への挑戦/3
回る角がエンティティに迫る。額にぶつかり、肉を削りながら前に進む。時々骨にあたり、自身の体の一部が痛くなる。奥へ奥へと進んでいき、やがて突き抜けた。振り返ると、エンティティは力なく倒れて沈んでいた。
勝利した実感がわかない。安堵よりも、嬉しさが上回る。身体中に血が滲んでいたが、それが誰の血かわからなかった。
「やったね、綾人」
「お疲れ様」
美桜の所へ行き、ハイッタチした。遠く離れた所で、葵達は合流していたが、先輩はまだ目覚めていなくて、中島さんが肩を担いで支えている。
「あれ…戻んない…」
「ねぇ、エンティティは消滅したの?」
「はっ」
慌てて振り返ると、エンティティは少しずつ再生している。完全に再生を終えると、耳を劈くような咆哮が近くで響いた。咄嗟に耳を塞ぐが、間に合わない。辺りは一瞬で静寂に包まれ、耳の奥が痛む。
エンティティはこちらを見据えて、牙を立てている。
(一筋縄じゃあ、いかないか)
やがて、エンティティは体から骨が剥き出しになり、幹のようになり、更に、目が四つに増えた。メガロドンをより凶暴にしたような見た目で、恐ろしさが肌でわかる。この状況を見て、あることに気がつく。
こいつは再生していない。場面に応じて変化しているんだ。変化の過程で欠損した部位が変わることによって、肉を埋めている。
「みんな!逃げろ!!」
その時、骨がエンティティの全身から高速で射出した。それが、凄まじいスピードで俺たちに迫る。
「巨大な鉄壁」
鉄壁が俺たちの前に展開される。骨が突き抜けた。
「西尾さん!」
「任せろ」
岩石が出現する。それが、後少しで骨が突き刺さる寸前で、防ぎ切った。けれど、休んでいる暇はない。エンティティはまた骨を飛ばしてくる。
次の瞬間、鉄壁と岩石がエンティティを囲み、逃げ道を削っていく。骨は壁を貫通して、こちらに迫ってくる。速すぎて完全には避けきれない。体を捻るが、太もも、腕、肩に突き刺さる。幸いにも、急所には当たっていなかった。
すると、美桜が体当たりして来た。痛ったと、口に出た気がしたが、自分の声が聞こえない。この状況で聴覚が潰されたのは、良くない状況だ。俺がさっきいた場所を確認すると、骨が通り過ぎるのが見える。美桜がいなかったら、あそこで死んでいた。
「ありがとう」
「え?何?」
ダメだ…美桜も耳がやられたらしい。声を出して見るが、全くわかっていない様子。それより、宙返り体勢だったため、体勢を整えた。
すると、海が震えた。感覚でわかる。このままでは危ないと。エンティティの方を見て気がついた。その肉体は、最初よりも明らかに膨張している。エンティティが突進してくる。水の抵抗を受けやすくなっているから遅い。今度はまっすぐ。
エンティティが口を開くと、巨大な牙。それが俺の右腕を引きちぎった。
「ぎぃゃあー!」
あまりの痛みと喪失感で叫び散らかす。血が吹き出して、水が赤く染まっていく。
「綾人ー!」
エンティティの動きが、鈍る。それは一瞬だった。爆発の後、海に白い衝撃波が走った。美桜がエンティティの骨が生えていない部位に拳を叩き込んでいた。巨体が大きく揺れた。間違いなく一番効いている。エンティティは骨を射出しながら、その巨体をぶつけようとしてくる。一体何が起きた…
その攻撃を全て躱し、足でカウンターを決める。よく見ると、美桜は極限まで減速していた。水の流れ、エンティティの動き、そして、周り。その全てを見極めているように思える。
これを見て脳裏に、ゼノスの言葉が蘇った。
『お前は、私の能力を使いこなせていない』
そうか。まだ、隠されてた機能があるのか。この逆境で、俺は覚醒する。流れていた血は止まり、痛みも引いた。
「修復」
電球のような光が俺の体を駆け巡る。失った腕と聴覚が戻った。おそらく一角獣の力だろう。ライオンには炎、鳥には風、一角獣には光。俺が顕現させる動物には、属性があるはずだ。ただ、光は攻撃性があるのかわからない。早速美桜に近づいて、体に触れる。
「修復。聞こえるか?」
「さっきまで、静かだったのに、急にうるさくなった」
「よかった。自分以外にも使える」
中々使える能力だ。これで攻略の幅が広がるはず。美桜を回復させている間に、葵達が遠距離でエンティティの相手をしている。その様子を見ていると、さっきからエンティティの攻撃に知性を感じない。
このままだと、全滅まで時間の問題だ。別の能力は使えないか…
身体中の血液が循環する。骨が軋む。全身が少しだけ痛くなった次の瞬間、視界が変わり、水の流れがはっきりわかるようになった。
「なに…その姿」
美桜は驚いていた。俺には見えないが、泳ぎやすい。まるで魚になったようだ。手足の感覚が今までのものとは違う。完全に別のものに変わってしまったのか。
「あれが、綾人の新しい能力か」
「綾人くんは何者だ?彼には、トップファイターに似たオーラを感じる」
素早い動きでエンティティを翻弄する。デカくなった分ついてこれていない。こいつは、変化出来ないくらいダメージを与えないと倒せない。なら、やることはひとつだけ。
「二人とも!エンティティを閉じ込めてください!!」
「何をする気だ、綾人くんは」
「あいつを信じましょう」
二人がエンティティの周りに壁を設置し、逃げ場を塞ぐ。エンティティを中心に、右側には美桜。後方では葵と西尾さんが壁を維持している。エンティティは暴れながら壁を破壊しているが、その都度補修している。その様子を外から眺めていた。
「美桜、俺がやつを内側から燃やす。だからやつの気を引いて欲しい」
「危険だよ、死ぬかもしれないし」
「このままじゃ死ぬんだ。やるしかない」
「わかったわ。このライトをつけながら泳げばいい?」
「ああ、俺のスピードについてこれるかな?」
「それはこっちのセリフよ」
簡潔に説明し、行動に移す。エンティティが中から出てきた。俺たちは左右に分かれる。エンティティは左に行った美桜に食いつく。上手くいった。俺は急旋回し、エンティティを追いかける。左右上下に移動して、攻撃を全て躱す美桜。そして、減速。
今だ。予想通り、大きな口を開けて、美桜を飲み込む。
「ぐ、うあっ、はぁはぁ」
だが、飲み込んだのは俺だ。口内を転がる。エンティティが口を閉じる瞬間、美桜は高速移動して、その場を離れる。この向きでは巻き込まれるはずだったが、エンティティが傾いた。
「はっ、戻れた」
喉を降りながら、元の姿に戻っていた。手足の感覚もちゃんとある。この状態でやることは一つ。今出来る最高火力の技を使う。
「火炎嵐!終われえええええ!!」
濁流のように炎が放たれる。熱線が四方に散り、エンティティの肉体を焼き尽くす。立てないほど揺れ、物凄い轟音が響く。炎と光が海全体に広がった。
やがて視界が明けると、元の場所に戻っていることを認識する。扉は塵になって消えた。光を浴びて、今までで一番力の上昇を感じる。
「やっと終わった」
「皆さん、お疲れ様でした」
山守さんが俺たちに向かってそう言う。ボロボロだけど、生きている。彼も疲れているように思えた。手を差し出してきたので、差し出す。握手をした手を話すと、血と汗で掌は滲んでいた。
「集まってください。修復」
光が、みんなを包んで、傷が少しずつ消えていく。
「すごいな、回復も出来るようになったのか」
「うん。まだ練度は低いけどね」
傷の修復には時間がかかる。その隙にやられたら終わりだ。その時、横で寝ていた先輩が目を覚ました。
「ううん、終わったの?」
「はい、倒しました」
「すごいじゃん。」
先輩と話していると、青森猛襲隊の皆さんが、俺たちにお辞儀をする。
「ありがとうございました」
「こちらこそ助かりました」
「いつかまた、会いましょう」
お互いに感謝をし合って、解散した。葵の言葉を聞いて、中島さんは無言で頷く。俺たちは、あの人達と反対方向に、歩いて行った。
駅について、電車に乗った。丁度、四人が向かい合える椅子に座って、俺たちは反省会を始める。
「今まで戦ってきたエンティティとは、別格だった」
葵がそう呟く。それに続いて先輩も話を始めた。
「俺なんか、後半の方ほとんど役にたてなかったよ」
「いや、先輩がダメージを与えなかったら、倒せてませんでしたし」
「私達、いつ死んでもおかしくないね」
「だから強くならないといけない」
美桜の言うとおりだ。今回の攻略で、改めて自分の非力さを痛感した。帰りの電車内はみんな俯いていて、一言も話す事なく駅まで向かっている。
ずっとそうだ。自分が強いと思えた瞬間はなかった。




