ジュウイチ話 レベル5への挑戦/2
「白火球」
先輩が白い火球を飛ばす。エンティティは気にせず先輩に突っ込んでくる。体に直撃し、回転して掻き消そうとする。だが、炎が消えない。痛みを感じているのか、イルカみたいな声で叫んでいる。すると、エンティティの体が変形する。だんだんと歯が鋭くなり、体が細くなった。厄介な能力だ。
「白焔アルクス」
先輩は矢を飛ばして射抜こうとするが、
「何!?」
先ほどの三倍ほどのスピードで、回転しながら回避して、突進してきた。先輩が反応しきれていない。
「ネストボンバー!」
咄嗟に体から炎を出したように思えた。エンティティは噛み付く寸前で、方向を変え、急ブレーキ。再び先輩目掛けて突進。
「炎陣・爆裂」
目の前に陣を作り、後ろで弓を構えている。エンティティは陣を回避して上昇。上から噛みついてくる。
「やばっ」
瞬時に足から炎を噴射させ避けるが、左足の指が喰われた。血を流している。あとコンマ一秒遅れていたら丸呑みだった。運良く足から噴射した炎がトラップに当たり、爆発。それがエンティティに直撃。先ほどよりダメージを与えられている。傷の治りが遅い。速度と攻撃力を上げた分、耐久力と再生力が下がったか。
それでも致命には程遠いようだ。
「くっ…速い」
痛みを気にしている暇はなさそうだ。即座に右手で傷口を焼いて止血し、下にいるエンティティに追撃する。
「極小白色矮星・二連」
二つの小さい球でエンティティを貫くこうとしている。エンティティが正面を向いた時、一つがこめかみを掠める。そして、もう一つが目に直撃。その瞬間、奇声を上げながら、変形して元に戻る。
その隙に、先輩は矢を打っている。背に当たるが炎は数秒したら消え、目も再生していた。
俺たちは互いに離れないように、固まっている。ここまでの状況を目を鷹の目に換え、離れた位置で見ている。先輩を手助けしようとしても、足手まといになるだけだ。すごくもどかしい。
先輩が手に炎を纏わせ、足から炎を噴射させ、接近。エンティティもそれに応じるようだ。遠距離戦はやめて、正面衝突でケリをつけるらしい。
「お前は、もう慣れた!」
先輩はこのエンティティに対応し始めた。腹に攻撃を当て、エンティティからの攻撃は回避。また攻撃を当て、回避。どんどん追い詰めている。
分が悪いと思ったのかエンティティはまた変形する。なんと、その最中に先輩は溜めの体勢に入る。
「終わりだ、白焔一閃・地獄」
数十体のエンティティを一掃したあの攻撃を繰り出す。それが見事に直撃した。爆発音で水が振動し、肌が揺れたように感じた。水が蒸発して、先輩達が見えない。視界が晴れ、今度こそ勝ったと思った。
だが、そこにいたのは、先輩からの攻撃に耐え、再生しているエンティティ。体は五倍、再生も通常状態より速い。先輩は、まだ動けないようだ。
「まずい…」
動きが遅いながらも大きいためリーチがある。大きい口が先輩を飲み込もうとする。
「来た」
手を前にして矢を放つ。口の中に入った。エンティティは悶えている。それを見て先輩がタイニーシリウスを作り、放つ。
「極小白色矮星・最大数」
五十を超える球がエンティティを襲う。その全てが直撃するが、すぐに再生する。またエンティティは変形して元に戻る。
お互い睨み合って、攻撃を始める。両方ともパフォーマンスが落ちているのが分かる。
「奥義、太陽神」
先輩の体が炎で揺らめいている。怪我は再生していた。数秒の沈黙。この状況で先に攻撃を当てたのは、先輩。エンティティの額に拳を当てて、爆発が起こる。先ほどよりもダメージを与えられている。それでも、再生スピードはまだ早い。再生を終えると、先輩に体当たりして来た。
「効かないな」
エンティティが先輩の体に当たると、反射的に後ろにひっくり返ったように見えた。体には火傷ができた。先輩はまた炎を放出する。エンティティはこれを軽く避けて、体から棘状の物体を数百個作り出し、発射する。
「白焔」
手からエンティティを飲み込む程の炎を吹き出した。爆発と蒸気が晴れた後に見えた光景は、炎で棘を全て焼却して、エンティティの体の大部分を焼き尽くしていた。少しずつ再生している。
先輩が追撃を入れようと、先ほどの攻撃を再び繰り出す。炎がエンティティを包み込んだように思えた。視界がよく見えるようになると、一面には水以外、何もなかった。つまり、エンティティを倒した時の光がない。背筋がヒヤリとしたのと同時、先輩の背後に途轍もない速さで泳ぐエンティティが見えた。エンティティは先輩の十メート前方で停止した。巨体を更に縮め、細長い魚雷のような形態へ変わっていく。
「ちっ、こいつ…」
エンティティはまだ生きていた。縦横無尽に駆け巡っているせいで、先輩の攻撃が全然当たらない。心配しながら先輩を見ていると、急に俺たちの方へ向かって来た。
「方向転換!」
エンティティは向きを変え、反対方向に進んで行った。先輩が急いで俺たちの所へ向かって来ていた。エンティティが視認出来ない程のスピードで泳いでいるせいで、見失ってしまった。先輩は過呼吸になっていた。すると、体が通常の状態に戻って倒れてしまった。葵は慌てて先輩の体を支える。葵は辺りを確認して、西尾さんに声をかける。
「西尾さん、壁を設置しましょう」
「ああ」
「巨大な鉄壁」
「岩石の要塞」
葵と西尾さんが、鉄の壁と岩の壁を作り出す。
「俺が何とか時間を作る。その間に持ち直してくれ」
山守さんが、前に出て、いつエンティティが襲って来てもいいよう構えている。その時、真上からエンティティが壁を突き破って入って来た。姿は元に戻っている。
「方向転換」
俺たちが丸呑みになる寸前、山守さんがエンティティの向きを変え、何とか攻撃を阻止する。また、こっちに来て、方向転換。この繰り返しが続く。
「体力が保たん!早く何とかしろ!」
「こうなったら、道連れでも倒すしかなさそうね」
時間がない。でも、決定打が不足している。今動けるのは四人。俺、葵、美桜、西尾さんだけだ。山守さんは、限界が近い。中島さんは戦闘に向いていない。先輩は戦闘不能。
どうする?この局面で逆転できるアイデアは…
「葵、西尾さん。俺と美桜があいつを倒します。だから、遠距離からの防御は任せました」
『了解!』
「巨大な鉄壁」
二人の返事聞いて、俺と美桜はエンティティにそっと近づく。視界は葵が設置した壁で封じているため、エンティティは俺たちを認識していない。
「行くぞ、美桜」
「ええ、任せて」
「限界だ、頼む!」
後ろで山守さんの声が聞こえた。失敗できない。美桜はサイドに行き、俺は真正面からエンティティを迎え打つ。目眩しでも何でもいい。何か違う事をしなければ。
「やってやるよ!!」
腕をライオンの腕に変換させ、炎を放つ。やつと同じくらいの大きさの炎で、威力は櫻井先輩に比べて圧倒的に低いが、これでも今の俺に出せる最大火力だ。
炎が直撃する。エンティティは顔面の体積を大きくして、俺の攻撃を最小限に抑えた。けれども、俺の狙いはそれではない。エンティティのサイドで美桜が静かに立っていた。
(今だ、やれ!)
美桜の瞳を見て、気持ちを込める。
「遅進早打」
一気に加速して、破壊的なパワーを生み出す。エンティティは叫び声を上げながら吹き飛んだ。衝撃が水を伝ってこちらまでやってきた。今回みたいな敵は美桜とは相性がいいはずだ。めちゃくちゃ効いている。エンティティはそのままの体勢で、全身から棘を発射して来た。けれど、瞬時に俺たちの前に壁が設置される。
(ナイス、葵)
エンティティはもう一度棘を発射しようとしたが、その前に、西尾さんがエンティティの発射部分を岩で覆う。その結果、詰まって発射できなかった。ありがたい。
「超速打破!」
美桜は、凄まじい速さでエンティティを攻撃を当て続けている。確実に効いているはずなのに、全く倒れる気配がしない。もしかしたら弱点は、体のもっと奥にあるのかもしれない。エンティティは反撃することなく、一方的に攻撃を受けている。
「いけるぞー!」
その状況を把握して、右腕を一角獣にする。更に炎を纏わせ、攻撃性を増幅させる。美桜がダメージを与える隙に、体を貫く。エンティティは口を開けて、俺を飲み込もうとして来たが、西尾さんが岩を詰め込む。左手で右手の角を支え、目を閉じて集中する。そして、水中の抵抗を無視しながら、距離を詰める。
さぁ、反撃開始だ。




