ジュウ話 レベル5への挑戦/1
二週間後。
家に帰って、ベッドに寝転ぶ。ふぅ、今日のレベル4攻略は疲れた。美桜も最近調子がいい。櫻井先輩と美桜のおかげで、ハートリンクはさらに成長している。俺は寝巻きに着替えて、ベッドに入った。
明日は、初のレベル5攻略戦か、緊張するなぁ。
仰向けになりながら、目を瞑り、眠りにつく。
んぅーん。何だ…ここは、橋の上?
周囲を見ると、雲が多い青い空、高速道路程の広さを持った橋の上に、立っていた。地面はコンクリートではなく、石。それ以外のものはない。少し進むと、見覚えのある人物がいた。
そいつはフードを被って俺の前に立っている。これは、間違いなくゼノスだ。
「おーい、ゼノスだろ!」
「…」
ゼノスは無言でこちらを見ている。フードからちょっと見えたが、目の色は、深緑色だった。近づいて話しかける。
「久しぶりだな、なんか言えよ」
長い沈黙。少し空気が、重くなったように思えた。
「……お前は、私の能力を使いこなせていない」
「え?それって…」
聞き返そうとしたが、ゼノスは俺の横を通り過ぎて、どこかへ歩き出した。振り向いて後ろ姿を見る。
そこで夢は終わり、目を覚ました。頭がぼんやりする中で寝起きの体を、頑張って起こす。
「夢か、何だってんだ、『私の能力を使いこなせていない』って」
ゼノスの真意は分からない。とりあえず着替えて、リビングに行く。机の上に母が作った料理があった。ご飯、味噌汁、野菜炒め。普通の朝食だ。母は食器の片付けをしている。椅子に座って、
「いただきます」
そう言って、一口食べた。いつも通り美味しい。右隣を見ると父がいない。先に家を出たんだろう。もう、この風景が当たり前になってしまった。左隣にあるテレビをつけると、ニュースがやっていた。
「続いてのニュースです。昨日、午後二時頃、アメリカで違法能力者が、民間人に攻撃する事件がおきました。」
物騒な事件もあるもんだな。エンティティだけじゃなくて、人も厄介ということか。
「幸いにも、世界ランク1位、アリシア・エンジェルハートが鎮圧したため、死傷者はゼロ人です。違法能力者は、英語ではない言語で話していて、移民の可能性が高いとみられています。続いてのニュースです…」
顔全体が整っていて、ストレートで血のように赤い髪、二重で黄金色の目。身長も周りの男と同じくらいだ。一目見て明らかに異質だと思った。カメラに向かって手を振っている。どんな人だろうな、いつか会ってみたい。そう思いながら、飯を食べる。スマホを見て、今が、午前の八時半であることを確認して、ご飯を食べ終わる。
玄関で、いつものコートを着て、靴を履く。
「行ってきます」
「いってらっしゃい」
後ろで声を聞いた。扉を開けて、走り出す。今回ディメンションは、東京都青梅市にある。電車で向かう。
数時間後。
ハートリンクのメンバー全員が集合場所についた。ディメンションは渓谷にあり、紫色で、東京タワーぐらい縦に長かった。今回は別のパーティとも一緒に攻略する。チーム名、青森猛襲隊。文字通り青森で活動する三人パーティだ。リーダーの山守さん、左にいるのは、中島さん、右にいるのは、西尾さん。メンバーはこんな感じだ。
「初めまして。ハートリンクの代表、須貝 葵です。よろしくお願いします。」
「青森猛襲隊代表、山守です。よろしくお願いします。」
互いに挨拶を済ませて、早速、扉の前に立つ。ドアノブはなく、そのまま押すタイプだ。
「綾人と美桜と俺が前衛。山守さんと中島さんは中衛。あと二人は後衛の編成で行きます」
『了解』
「それでは行きますよ。セーフゾーン」
俺たちの周りに結界のようなものが貼られる。これが中島さんの能力だ。自分が味方と判定した者の周りに、有害な気体や液体の侵入を防ぐ効果がある。これは事前に聞いていた。そして扉を開ける。入った途端、下に引きずり込まれるように沈んだ。今回の舞台は水中らしい。あっという間に下へ下へと降りていく。全員が離れないようにしている。結界のおかげで水中でも呼吸ができる。
「全員、戦闘準備!」
全方位から、サメ、シャチ、イルカなどに似たクジラ並みにデカいエンティティが襲ってきた。先輩と西尾さんが迎撃体制に入る。
「地獄の炎」
「岩石砲」
白い炎と岩がエンティティに当たる。水中なので効果は薄いようだ。この結界は直接的な攻撃は防げない。この戦いは中島さんがいなくなったら終わる。必然的に守る必要がある。
葵が急いで泳ぎ、山守さんと中島さんのもとへ向かった。
「二人とも、この盾を持ってください」
「ありがとう」
「助かる」
二人に盾を持たせて、横で警戒している。一方俺たちは、
「美桜!そっち!」
「はっ!ありがとう」
接近してエンティティを倒していた。ライオンと鳥は相性が悪い。だから、一角獣で相手するしかない。肘から下を、一角獣の頭に変形させる。頭部は白く、気高い一角獣を思わせた。
迫ってきたエンティティを貫く。
「食らえ、角三穿」
体に穴が空いたがまだ動いているので、追加で三連撃をお見舞いする。ようやく、くたばって、光を放った。浴びる暇もなく、他のエンティティが襲いかかってくる。
「私の攻撃もくらいなさい!遅進早打!」
遅くなってから、速度を一気に上げ、拳を打つ。中々に高威力の技だ。一撃でエンティティを倒した。いい感じに成長を感じられる。
一体一体が、レベル3のボスエンティティと同じ強さを感じる。これは、久しぶりに骨が折れそうだ。
一方葵たちは、
「逆鱗の盾!」
「方向転換」
エンティティが別方向を向く、それに反応しない葵じゃない。
「巨大な鉄壁・圧縮」
エンティティを圧殺する。血飛沫が飛び、光を放つエンティティ。それを浴びながら、迎え打つ。
「方向転換」
幸いにもエンティティは、動きが遅い。これなら隙がでかい大技でも対応できる。さらに、山守さんが二体同時に、方向転換して、共食いさせた。
先輩達は上で、エンティティと戦っている。
「みんな!俺の方に来て!」
その合図を受け取り、先輩のところに行く。その間にエンティティに妨害されたが、それらを撃墜して、たどり着く。
「下がって、これ以上は、みんなが消耗するだけだ」
下を見ると、数十を超えるエンティティが迫ってきていた。
「これぐらいなら、丁度いい。白焔一閃・地獄」
「不壊の盾」
次の瞬間、巨大な熱線がそこにいたエンティティを全て焼き尽くす。葵が俺たちの前に盾を作り出し、守る。そして、鼓膜を破るような大爆発が起きた。視界が晴れた時には、エンティティは全て光になって蒸発していた。全員で膨大な光を浴びる。
「えぐ、これが先輩の本気…」
口からそう溢れた。どれだけ強くなっても、この人に近づける気がしない。俺以外の人も唖然としている。
「どういうことだ、まだ、戻されない?」
中島さんが下を見ながらそう言った。この海はどれだけ深いのか、想像もつかない程全く底が見えない。先輩が何も言わずに考えているようだ。
「もしかしたら、まだボスが現れていないのかな?」
「先輩、それはどういう事ですか?」
葵は不安そうな表情で質問した。
「いやぁ、なんか弱すぎる。さっきのエンティティ達」
「もしかして、まだ、現れていないの?」
違和感は、最初はほんの僅かだった。水が重い。いや、違う。流れていない。
ついさっきまで、無数のエンティティが暴れ回っていたはずの水中が、急に静まり返っていた。波も、渦も、何もない。ただ、沈黙だけが広がっている。
「……おかしい」
思わず呟いた瞬間。足元を、何かが撫でた。
いや、水だ。ただの水流。けれど、その動きが妙だった。一定の方向へ、ゆっくりと流れている。まるで、何か巨大なものに、引き寄せられているみたいに。
「みんな、下がってください」
葵が言い切る前に、気づく。
遠くの暗闇。何も見えないはずのその奥で、水が歪んだ。圧が変わり、音が消える。そして。
「ん?し——」
西尾さんの言葉を遮るように下から、巨大なサメのエンティティが物凄いスピードで迫ってきた。
「巨大な鉄壁!」
壁を設置して、迎え打とうとするが、スピードを維持したまま、豆腐を食べるように壁を噛み砕いた。俺たちはバラバラに離れて回避するしかなかった。葵と中島だけが一緒にいる。
「極小白色矮星・十連」
エンティティは、先輩の技を危険と判断したのか分からないが、回転しながら九発の球を回避した。当たった部分は、僅か五秒で修復され、エンティティは、先輩の方を睨みつけている。痛覚がないようだ。
「白焔アルクス」
先輩が弓と矢を生成し、迎え打つ。エンティティは回避しないで高速で迫ってくる。俺たち存在を、認識していないように無視していた。先輩は噴射した炎をエンティティに当てながら回避する。
「全部、効いていない」
エンティティはわざと当たったんだろう。脂肪が厚すぎて、並の技は通らない。かと言ってタイニーシリウスみたいな高火力の技は避けられる。こいつは間違いなく知性がある。今までで一番の強敵。先輩以外は何も手出しできない。
俺たちは、ただ見ていることしかできないのか。レベル5は、先輩以外、手を出せない。そんな化け物だった。




