デート
ノアが飛行機で1時間のフライトをしてアメリカに降り立った。空港を出ると無人のドローンタクシーに乗る。
『お客様、ようこそオレゴン州へ。行き先はモニターでご入力ください』
タッチパネルのモニターにダウンタウンと入力した。ドローンタクシーが浮かび上がり移動を開始する。
『細かな行き先の指定がなければパイオニア・コートハウス・スクエアを目的地とさせていただきます。尚、移動中の目的地変更も可能となっています』
「だいたいその辺りでいいよ」
ノアは窓の外の景色を眺めながら自分が育った街とはずいぶん違うなぁと感じていた。15分ほど経って公園に着いた。
「今、着いたよ。レナータいる?」
スマートフォンでレナータに電話を掛ける。
「キャハハッ♪さて私はどこでしょーか?」
意地悪にも居場所を教えてくれない。きっとどこかの陰から見ているはずだ。
「いや、わからないよ。だって初対面だからね。キミがピンク色の髪でドレスでも着ていない限りは・・・いた」
ピンク色の髪にドレスを来た美女が公園の入り口に立っていた。
「おまたせ、ホントにアバターと一緒じゃないか?」
「あら、ノアのほうもそのままじゃない。自画像をそのまま3Dキャプチャしたの?」
どうやらアバターと瓜二つな者同士だったらしい。安心感と既視感がある。
「じゃあさっそくレナータにポートランドを案内してもらおうかな」
「ええ、いいわ。ショッピングモールに行きましょう」
ふたりが向かったのはショッピング街になった場所、昔は倉庫しかないような場所だったそうだが今は観光地として賑わっている。大手スポーツブランドもたくさん入っているようだ。
「僕の街にはこういうショッピングモールが存在しないんだ。とても新鮮だよ」
「全部、ドローンが物を配ってくれる街って言ってたわね。だから、ノア君はひきこもり体質なのね」(苦笑)
「言ったなー!なんだよ、もう!」
ショッピングモールで追いかけっこをするノアとレナータ、まだ10代のふたりは陽気に笑って遊んでいた。
レナータがいきつけのお店を紹介した。雰囲気が良くて店員さんの愛想もいい。
「すごくイイお店だね」
「昔はよく家族で来ていたの。今はひとりだけど・・・」
少しだけレナータが寂しそうな顔をした。
「そうなんだ・・・思い入れが深いんだね。また一緒に来ようよ」
「ええ、そうね」
SSBRが『ANGEL DESCENT計画』なんて始動していなければ、こんな幸せな生活がずっと続いていたのに・・・。ノアの心の中で何かメラメラと怒りが込み上げていた。
「次はどこへ行く?」
レナータがノアに行きたい場所を訊ねた。
「そうだなぁ、映画館とかまだあるの?前にV-HABで見てたぐらいだからないよね?」
「映画スポットならあるわよ」
「なにそれ?」
「じゃあ行ってみよっか♪ひとりじゃ行けない場所だから♡」
何か意味深なことを言ってるように感じたが気のせいだろうか・・・。
レナータの車で30分ぐらい走って街を抜け、山道をどんどん進んで行く。辺りの道が険しくなって断崖絶壁が現れてきた。
「おいおい、こんなところに映画スポットなんて本当にあるの?」
「あら、私が信じられない?」
「信じるよ、お菓子とジュースも買っちゃったし後戻りはできない」
「到着するまで食べちゃダメよ」
車が到着した場所は山頂だった。僕たちの車以外にも既に何台かそこに停まっていた。なぜか妙に揺れてる車もある。
断崖絶壁の壁にはプロジェクターで映し出された大きなスクリーンがあった。
ノア「これって無料なの?」
レナータ「音声なしなら無料、音声つけるなら有料。スマートフォンでそのまま決済できるわ」
レナータがスマートフォンを取り出して、決済を済ませた。車についているデッキとスマートフォンをBluetoothで接続してスピーカーの音量を上げた。
5ドルで映画が見放題らしい。
「ちょうど今からサバイバルホラーが始まるところね、お菓子って何買ったの?」
レナータが僕の膝の上に乗っている袋を漁り始めた。(おいおい、どこに手を置いてるんだよ)
僕が映画を観るときに飲むのは決まって炭酸飲料だ。レナータはレモンティを選んでいた。スナックはポテトチップスやチョコクッキーがある。あと辛いスティック。
車の狭い空間で見る映画、それもホラー映画はより恐怖心を煽る。太陽の光を遮る断崖絶壁がある場所がまさかこんなデートスポットになっているなんて夢にも思わなかった。
恐らく僕が住んでいる街より、こっちのほうがセンスがいい。先進的で何もない無機質な街で生まれ育って、そんなことにも気づかなかった。
世界はまだまだ色褪せてなどいなかったんだ。
怖い場面でレナータがノアに抱きついた。ゲーミングウェアじゃなく、生身のレナータの温もりを感じる。髪の毛からイイ香りがしてソワソワしてしまう。
前に観たホラー映画よりも怖かった。お菓子を食べるのも忘れて映画に見入ってしまった。
「ふぅー終わったね」
レナータがレモンティを飲む。
「これで終わり?それともまだ他の映画も観れるの?」
「ええ、観れるわ。夕方から深夜までずっと映画は流れてるの」
「そうなんだぁ、いいなぁ、この場所が気に入ったよ」
ホラー映画の次はラブストーリーだった。刺激の強い映画の後に刺激の少ない映画になると少し物足りない感じがする。それはレナータも同じだったようだ。
「なんか眠くなってきたわね」
「僕も今、同じこと思ってたよ」
「じゃあ何か刺激的なものを使っちゃおうか?」
レナータがダッシュボードから取り出したのは青いNeon Dustだった。
「えっ?それ新薬のほう?」
「バカね、そんなわけないでしょ。レイヴパーティに参加したときに買ったの」
ふたりでNeon Dustを服用した。体の奥から熱を帯びてくる、この感覚はクセになる。とくにこんな美女と薄暗い車の中にいると変な気にもなる。
ノアがレナータの肩に手をまわしてキスをした。彼女は目を瞑って、それを受け入れた。
胸を触っても何の抵抗もない。
「いいの?レナータ」
「うん」
ふたりはイチャイチャして1時間が経った。ふと時計を見てノアが我に返った。
「21時だ。そろそろ帰らないと・・・」
「あー、ほんとだ。空港まで送るね」
「ありがとう、助かるよ」
ふたりは実際に会って、より親密な関係になっていった。空港でもふたりは抱き合ってキスをする。
「今日は楽しかったよ、レナータ」
「ほんと楽しかったね、次は私がカナダに行く番ね」
「ああ、この街ほど賑やかではないけど僕の街は良いところだよ」
ふたりが別れを惜しみながら離れていった。
仮想現実ですぐに会うのに、それとはまったく違った感覚がずっと心に残っていた。
https://note.com/hiroumimetavarse/n/nbf107f60af21?app_launch=false
画像はnoteに置いてあります。




