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僕が綴る物語  作者: ハルハル
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破章 14 それぞれの意義

 思ったよりも衝撃はなかった。いや、ほとんど衝撃はなかった。目を開けると地面すれすれを浮いていた。さらに目を凝らすと、徐々に僕の下の空気が形を成した。


「アイアスか?」

「やぁ。ギリギリでしたね」


 僕はゆっくりと地面についた。そしてその隣にアイアスはぐったりとしてへたり込んでいた。

起き上がろうとして力を込めると、体に激痛が走った。地面に激突して、即死になる事は避けられたけど、確実に体には多大なダメージが残っていた。頭からは血が流れて、手足もかすかに震えた。


「動かないほうがいいですよ。上空約十メートル以上を飛んだんだ」

「やっぱり、僕はまだ生きているのか」

「まだ…ね。でもこのままだと死にますよ」

「そうか。じゃあ病院にいかなきゃ…。翠さんは?」

「あそこでまだ、戦ってる」


 顔だけ向けてアイアスが指す方向を見る。そこにはケルベロスと対峙する君がいた。


「地面にぶつかりそうになったとき、僕よりも先に翠さんがいたんだ。君を受け止める気でいたみたいだ。それは流石に止めて、僕が君を止めた。それを見て翠さんはまた泣き出した。そのまま『私は行くよ』と言って戦いにいったんだ」

「何で…、何で止めなかったんだ!いくら翠さんが強くてもあんな化物相手に…死んじまう!」

「きっと翠さんは後悔したくなかったんだろう」

「後悔?」

「彼氏を守れなかった。そんな後悔はしたくないんだろう。

 君を守りたくて、戦っているんだ」

「!」

 守るだって?何で君が僕を守ろうとするんだ。逆だろ。僕が君を守らないと。

 『君は私にとって、願いを叶える、王子様だ。』

「王子様が姫様に守られてどうすんだよ!」

 昔からお姫様は王子様に守られるって相場は決まっているのに、決まっているのに!

「体が、動かない」


 指一本、毛ほども動かなくなってしまった。たかが、一人の人間の体だ。動かなくなって当然。それでも、守らなきゃいけない人を前に動けないって、どういうことだ。


「無理して、動こうとしないほうがいい」

 ふざけんなよ。このままじゃ翠は死んでしまう。

「アイアス、頼む。翠を助けてやってくれ」

「…僕には、出来ない」

「何でだよ。天使だろ。助けてくれよ」

「僕はもう天使じゃないんだ」

 そう言って、額の痣を見せた。

「僕は今、下級悪魔の一人なんだ」

 額にあるのは、五つの十字の傷。堕ちた天使の烙印だそうだ。

「僕が君達と初めて会ったとき、僕の指名は有木翠の抹殺だった」

 アイアスは留まることなく、淡々と話し始めた。

「本来、悪魔の力を持った人間は、誰であろうと消えて貰わなければならないのです。そして、それを行うのが僕達天使の役目。人から、悪魔と呼ばれるわけですよ」


 殺すのが目的。


「何で、殺さなかったんだ。殺さなかったせいで、お前は悪魔になったんだろ」

「本当のことを言えば、殺すつもりでした。そのつもりで、手紙を出した。しかし彼女はほとんど悪魔の力を使わずに、さらには君を愛していた。殺せませんよ。だからせめて、これから起こる事だけ伝えて後は道なりに進めばいいと思っていたんだけど」

「代償か…」

「そう、『不幸』と言う代償。まさか僕が君達の元に『不幸』を持ってくる嵌めになるとは思ってもみなかった」

 二、三回軽く笑って、再び真剣な顔になった。

「下級悪魔は、中級、上級悪魔には逆らえない。下手をすれば僕が操られて、あちら側につくかも知れない。そんな、状態では僕は手出しは出来ない」

「役立たずだな」

「そうですね」

 再び笑う。そして再び真剣な顔になる。

「でも、あなたなら彼女を助けられる。僕の力を、貸してあげます」

 僕は、必死に記憶を探り起こして、思い出した。人と悪魔の力の移動。

「出来るのか?」

「ええ、出来ます。僕の力をあなたに貸して、あなたには彼女を救ってもらいます。せっかく僕が堕ちてまで殺さなかったんだから、せめて生きていてもらわないと」

「わかった。力を貸してくれ。代償は何でもいい」

 何だろう。アイアスの血は喉に負担を感じさせないほどスムーズに、とてもおいしく飲み干せた。


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