破章 13 格好つけ
「避けて」
君の声に反応して僕は横っ飛びでケルベロスの突進をギリギリでかわす。上手い判断が出来ず、人並みの身体能力しかない僕には、君の声がライフラインだ。それでもかわすのはギリギリになる。君は僕に合図を出しながら自分も回避行動を取る。ちなみにアイアスは姿を消して、どこかに行ってしまった。あの野郎。天使とはいえ、心は悪魔じゃねぇか。僕らは完全にとばっちりだよ。いや、全てを含めてこれが『不幸』なのか。
正面からケルベロスが突進する。僕はそれを右に向かって走ることで避ける。
「ダメだ。そっちに逃げてはいけない!」
君の声を聞いたときにはもう遅かった。
広い駐車場の中、いつの間にか僕は隅へと追い詰められていた。フェンスとケルベロスに囲まれる。隅へと誘導するなんて、犬のくせにやるじゃないか。しかし困ったな。このままじゃ殺されてしまう。
フェンスを登って逃げようか。いやいや、間違いなく登り切る前に死んじゃう。いっそのこと突っ込んでみるとか。致死率百パーセントだな。そんな事を考えていると、ケルベロスの向こう側に君の姿が見えた。走ってる。多分、僕を助ける為だとかで、ケルベロスに特攻でもかける気だろう。でも、そんな事をしたら間違いなく君が死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死んでしまう。
「死なせるわけにはいかねぇよ」
僕はケルベロスに向かって突っ込んだ。もはや自分の死を覚悟で。それでも、君を死なせるわけにはいかなかった。僕が王子様なら君はお姫様だ。
「お姫様を死なせる王子様がどこにいるかっての」
僕が走り出したのにあわせてケルベロスも突進する。ぶつかったとき、僕の体には人生初の巨大な衝撃を受けた。例えるなら走ってくるトラックに正面からぶつかったみたいな。
宙を舞う、ふわふわ、ふわふわ。
おお、ケルベロスが小さく見える。子犬くらいの大きさだ。ったく、それくらいの大きさなら可愛いものなのにな。その後ろに君が見える。僕を見上げているようだ。そのまま僕が飛ばされた方へ走ってくる。駐車場の真ん中の方へだ。だめだよ。上を見ながら走っちゃ。こけちゃう。あっ、ほらこけた。でもすぐに立ち上がって走る。やっぱり君は強いね。でも、泣いちゃってるね。あんまり泣いちゃだめだよ。綺麗な顔が涙でぐちゃぐちゃだ。それも物語には載せようか。ああ、まだ物語は完成してないんだっけ。残念だなぁ。悔しいなぁ。嫌だなぁ。
「まだ。死になくねぇよ」
僕は落下軌道に入った。目の前に水の玉がふわふわ浮かんでいく。涙だ。ぼろぼろでてくる涙だ。もう、何も考えれない。




