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第三章

 神之森の入口付近には(かん)之洞という字の土地があった。神之洞にはその名の通り洞窟があって、その傍らに古い、古い神社がある。山岳信仰の研究対象になっている重要文化財で、平安時代の書物にこの神社のことについて書かれた記述があるから、当時すでに存在していたらしい。ここに所蔵の青銅の鉾と楯は中国渡来のもので、日本で言うと弥生時代以降にもたらされたらしい。ということは、弥生時代にはすでにここにあったと言うことかも知れない。はっきりしないのである。建物は平安期に一度焼失したという記述が当時の書物に残っている。

 神之洞の名前の由来になっている洞窟、いわゆる「御隠れの洞」については誰も畏れて近づきたがらないから、詳しいことはわからない。この名は、とある龍神さまが天災から村を守るために、生贄に一人の少女をご所望になり、その少女とともにこの洞に消えたという伝説がある。以来この地区は不思議と天災に無縁の土地であって、その話が現代まで伝わっているという。一説にはこの洞窟は神奈川県の鎌倉までつながっているという話である。以前一度、テレビ局が霊能者を同伴して取材に来たが、霊能者は洞の入口で突然異様な叫び声を上げて昏倒してしまい、町内の救急病院に運び込まれたが、残念な事に未だに意識は戻らず、現在も植物人間として入院している。ハイビジョン・カメラでも長時間撮影をしたのだが、その時のモニターにはちゃんと映っていたのに、本社に戻って編集に取りかかったところ、カメラをチェックしてみて、ディレクターは我が目を疑った。何も映っていないのである。そこにあるのは真っ暗な画面だけであった。


 その後、ある傍若無人な県議会議員が、国有地である神之森の樹を伐採してほしいと、自ら陳情に行った。大臣、副大臣、官僚のトップに袖の下の土産を持たせて、国の事業として、神之森の約四割の土地の原生林を伐採する計画が立案され、両院で可決された。

 事件はその後である。明日から伐採に取りかかるという前夜、議員は入浴中に気が変になり、雄叫びを上げて、全裸のまま家を飛び出し、近くの片側二車線の幹線道路を渡ろうとして、大型トレーラーに撥ねられた。病院に搬送されたが、救急病棟で死亡が確認された。それにしても普通ではありえない奇怪な事件で真相は結局わからなかった。

 それでも翌日、作業は予定通り始まる段取りとなったが、いざ作業員二十名がそれぞれチェーンソーを手に、伐採にかかろうとすると、どういうわけかどれもエンジンがかからない。新品のチェーンソーなのに妙だなと思ったが、それでは仕方がないから鋸で伐ろうとすると、瞬間、作業員がみな雷に打たれたような顔をして震えだした。相次いで救急搬送されて手当てが早かったためか、一命をとりとめたが、急病の原因はまったくわからなかった。彼らの身体には何の異常もなかったのである。

 しかし、ほんとうに恐ろしいのは後日談である。件の伐採未遂事件のあと半年以内に二十名のうち十二名が前触れもなく自殺めいた事故死。それも尋常な死に方ではなかった。運転中にドアを開けて車から飛び降り対向車に撥ねられたり、信号待ちの車の列に時速百五十キロで突っ込んだり、ビルから飛び降りたり、線路にわざと落ちたりした。共通するのは遺書を残さず誰もがみな幻覚を見たような言動をして事故死や自殺に至っているのである。さすがの政府もこれには驚いて、社の宮司に御祓いをしてもらい、土地に宿る精霊を慰めようとした。しかしその神事も功を奏せず、他の八名もその後の三年足らずの間に全員が相次いで亡くなっている。結局そんなこんなで伐採計画は頓挫してしまい、現在に至っている。

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