第三話 海の踊り子
ガラス越しに見える巨大なメインプールで、蒼い体躯を踊らせるイルカたちが鮮やかな放物線を描いていた。
「お見事ーっ! パチパチパチ……って、遊んでる場合じゃないんだよ!」
臨海ベイエリアにある「市立水族館」。 デッキブラシを手に、プール脇の観覧デッキをゴシゴシと掃除していた知花樹 水雲は、ハッと正気に戻って再び腰をかがめた。
「今日のバイト代、時給1100円×5時間で5500円……リューグーからの収入も最近はすくないけど、稼げる時はマジで稼げるからやめられないんだよな...」
水雲はふと手を止め、水面で跳ねるイルカの姿を目で追った。 頭に浮かんだのは、かつて幼少期、自分が育った児童養護施設の図書室で繰り返し読み耽った古い絵本『イルカの冒険記』の一節だった。
(広大な海をどこまでも自由に泳いで、みんなを笑顔にする海の人気者…。イルカってやっぱ、いつ見てもすげえな)
胸のポケットから、チリンと小さな電子音が響いた。 手のひらサイズの玉手箱から、[ウラシマ]がひょっこり顔を出す。
『モズク様。手を止められてから12秒が経過いたしました。きちんと業務に専念してください。』
「細けえな! ちょっと余韻に浸ってただけだろ!」
『ずっと疑問なのですが、モズク様の「金への執着」は、単なる強欲のそれとは波形が異なって見受けられますが..』
「おいおいウラシマ、AIの癖にプライバシーの侵害だぞ」
水雲はエプロンで汗を拭った。
「いいんだよ。俺がガッツリ稼げば稼ぐほど、あいつらに美味いもん食わせてやれるんだからな。よーし、今日も気合入れて清掃完了させるぞ!」
夕方、清掃を終え、閉館間際の大水槽エリアへと向かった水雲は、巨大なアクリルパネルの前にポツンと佇む一人の男の背中に目を留めた。 漆黒のロングコートに身を包み、不気味なほどの静寂を纏って深海魚の群れを見つめている。
「お客様ー、申し訳ありません。そろそろ閉館のお時間となっており」
水雲が声をかけると、男はゆっくりと振り向いた。 引き締まった顔立ち、氷のように冷たい眼光。敵組織「マリアナ」の幹部、ヴォルカだった。だが、今の水雲にはただの「変な客」にしか見えない。
「……海の可能性は無限だ」
ヴォルカは水雲の呼びかけを無視し、低く静かな声で呟いた。
「陸の浅はかな人間どもは、この広大な青が持つ真の『力』も『深淵』も知らず、ただ表面で戯れるのみ……。真の主が誰であるかも忘れてな」
「は……? なにポエム語ってんだあいつ……?」
首をかしげる水雲の顔を、ヴォルカは射るような目で見つめた。一瞬、その瞳の奥に邪悪な光が宿る。
「……フン。つまらん面だ」
ヴォルカはそれだけ吐き捨てると、黒いコートを翻して暗がりの中へと立ち去っていった。
「なんなんだあいつ……気取りやがって。まあいいや、早く着替えて帰ろ!」
水族館からの帰り道。夕暮れの橙色が残るアーケード商店街を、水雲は軽やかな足取りで歩いていた。
「さて、今日の夕飯は何にするかな……スーパーのタイムセールで半額の惣菜でも.....まあそもそも売れ残ってたらの話だけど」
バチバチバチッ!!
突然、頭上の街灯が激しい火花を散らして弾け飛んだ。
「きゃあぁぁぁぁっ!?」
「逃げろ! なんだあれは!?」
買い物客たちの悲鳴が響き渡る。 商店街のアーケードの天井近く、宙を浮遊しながら無数の半透明な触手を蠢かせる影[機海獣クラゲ型:(ジェリーサンダー)]だった。
「グガガガガッ! 電力……吸収……破壊……!」
クラゲ型が触手から青白い電流を放つと、店舗の看板や自動販売機が次々と爆発し、黒煙を上げる。
「チッ! また出やがったなドブドブ野郎!」
水雲は即座にアーケードの物陰に滑り込んだ。 ポセイドリンクを取り出し、ポセイドバックルへ装填! ポートコネクトを左腕に装着し、[シャークシップ]をソケットに叩き込む!
「変身!!」
[サメテルSHARK!ポセイドシステム•コード:マリン]
駆け巡る蒼い水流! 藍色とシルバーの重厚なアーマーを纏い、ポセイド:マリンへと変身を遂げる!
「ポセイド:マリン! 地上に住む、海の覇者って、待て待て待て!!」
マリンは飛び出しかけて、急ブレーキをかけた。 目の前のアーケードには、高級和菓子屋やアーケードの強化ガラス屋根、果物屋の棚がズラリと並んでいる。
「ここで派手に暴れたら、また葵ちゃんに何百万も損害賠償を請求されるじゃねえか!! 俺の歩合給が木っ端微塵になる!!」
『モズク様、極めて賢明な判断です。被害額を最小限に抑える戦術を推奨します』 「よし! 広いところへおびき出すぞ!」
マリンは爆発的な脚力で跳躍すると、飛行するクラゲ型の目と鼻の先へ飛び上がり、その鼻先(?)を思い切り引っ叩いた!
パコンッ!
「グガッ!?」
「へいへい! こっちだドブクラゲ! 美味い電力なら外にたくさんあるぞーっ!」
マリンは挑発しながら、クラゲ型の電撃を紙一重で回避し、商店街のアーケードから臨海公園の広い空き地へと、美しいまでの手捌きで誘導・移動させていった。
広大な臨海公園の空き地。
「よし、ここなら思いっきり暴れられるぜ!」
マリンが振り返り、サメベースの鋭いキックをクラゲ型に叩き込もうとした――その時だった。
「そこまでよ、野蛮人」
不意に、上空から凛とした女性の声が降ってきた。
「え?」
マリンが仰ぎ見ると、夕空を背景に、公園の照明塔の上に立つ一人の女性のシルエットがあった。 身に纏うのはリューグーの制服。防衛組織「リューグー」第5隊隊長―汐崎 優だ。
優は鋭い眼光でマリンを射抜くと、腰から専用のポセイドリンクを取り出した。
「機海獣の排除は、リューグー正義の使命。ハンターの勝手にはさせないわ」
優はポセイドリンクをバックルへ装填! ベルト帯が出現して腰に巻き付くと、ベルト左側からイルカの飾りがついたブレスレット――「ショーコネクト」を取り出して左腕に装着。腰のカラビナから[ドルフィンシップ]を外し、ショーコネクトへセットした!
『READY…… SHOWTIME! DOLPHIN 』
優の頭上に黄色いリングが出現。
そして優がイルカ型のレバーを華麗に倒す!
「変身」
『JUMPING TIME!!ポセイドシステム-コード:アクア』
ザザーッ!
眩いライトブルーの水光が空間を舞い、優の頭上に出現したリングを通り優を包み込む。優の全身にしなやかで流線型のライトブルーとホワイトの装甲が装着され、イルカの尾鰭を思わせるバイザーと肩アーマーが形成された。
ポセイド:アクア降臨!
「な、なんだあいつ!? リューグーの新しいポセイドか!?」
呆気にとられるマリンに向かって、アクアはイルカのように軽やかなステップを踏み、両手をかざして華麗にポーズを決めた。
「ふふ...あなたが海の覇者なら、私は地上も舞う、海の踊り子!」
「勝手に海の踊り子とか名乗ってんじゃねえ! こいつは俺の獲物(歩合給)だぞ! 横取りすんな!」
「黙りなさい! 機海獣の回収は隊長である私の管轄よ!」
ギャーギャーと言い争いながら、二人は同時にクラゲ型に向かって飛び出した!
「グガガガッ! 障害物……まとめて撃破……!」
クラゲ型が体をくねらせ、無数の半透明な触手を地面へと突き刺した。
バチバチバチバチッ!!
「なっ!?」
次の瞬間、クラゲ型を中心に、周囲数十メートルの地面全体に激しい高圧電流が網の目のように駆け巡った! [グランド・ショック]――地面そのものを巨大な電磁波帯へと変える広範囲攻撃だ。
「くっ……電撃が地面を伝って……!」
「キャッ!?」
爆風と電流に煽られ、マリンもアクアも感電して動きを封じられてしまう。 クラゲ型は宙で優位に立ち、高笑いするように触手をバチバチと打ち鳴らす。
「くそっ、宙に浮いてる上に地面全体に電気を流されたら、近づけねえ……!」
『モズク様。地面の電流密度が上昇しています。このままでは20秒以内にアーマーが過熱停止します』
「なんとかして奴の電撃を遮断するか、逆流させるしか……待てよ! 逆流!?」
マリンの頭の中に閃光が走った。
「地面に電気を流してるってことは……地面に直接、超強力な衝撃波を打ち込んで電流の波を押し返せば、そのまま回路を逆流して奴に直撃するんじゃねえか!?」
『論理的には可能です。ですが、そのためには一撃で地盤を揺るがすほどの極大打撃力が必要となります』
「任せろ! 俺のストックに最高のがあんだよ!」
マリンはポケットから、[ハンマーシャークレコード]を取り出すと、ポートコネクトへ叩き込んだ!
ガチャンッ!
『RECORD CONNECT! HAMMERHEAD SHARK!』
マリンの右腕の装甲が重厚に再構築され、巨大な鋼鉄の鎚「ハンマー・ブレード」が実体化・装着された!
「行くぜぇぇぇッ!」
マリンは爆発的な脚力で跳躍! 空中で重厚なハンマーを頭上高く振りかぶった!
「砕け散れぇぇぇッ!!」
ドガンッ!!
渾身の力で叩きつけられたハンマーが、公園の地面を力任せに打ち砕く! 激しい地響きとともに、強力な物理衝撃波が地中を伝って波及! 地面を駆け巡っていた高圧電流の波が衝撃波に押し戻され、触手を通じてクラゲ型の体内へと怒涛の勢いで逆流していった!
バチバチバチバチズガガガガガッ!!
「グギャアアアアアアッ!?? 電流が……逆流……!?」
自らが放った超高圧の電撃をダイレクトに浴び、クラゲ型は激しくスパークして完全な麻痺状態へと陥った!
「今ね! 」
アクアは軽やかな舞のようなステップで地を蹴ると、音波のリングを幾重にも展開! そのリングを潜り抜けるたびにスピードを極限まで加速させていく!
『SONIC RING DELTA KICK!』
「ハァァァァッ!」
アクアは死角からクラゲ型の間合いへと一瞬で潜り込み、音速を超えた華麗な連続キックとパンチのラッシュを叩き込んだ! ドカカカカカコンッ!と打撃音が鳴り響き、クラゲ型が上空へ打ち上げられる!
「トドメだッ!」
マリンが追撃のジャンプ! ハンマーを込めた強烈な一撃と、アクアの急降下キックが同時にクラゲ型のコアを貫いた!
チュドォォォォォンッ!!
夕暮れの空に大爆発が巻き起こり、機海獣クラゲ型は跡形もなく粉砕されたのだった。
爆発の煙が収まり、公園の芝生の上に、コロンと音を立てて転がり出た物体があった。 カセットテープ型の破損レコード2つだ。
変身を解除した水雲と優が、同時に駆け寄る。
「よしっ! レコード2つ回収...」
「待ちなさい。これはリューグーの正式な戦果よ。私が回収するわ」
優が水雲の手をパシッと遮った。水雲は目を丸くして叫ぶ。
「おいおいおい! 地面にハンマー叩きつけて奴の電気を逆流させたのは誰だと思ってんだよ!? 俺がいなきゃお前も丸焦げだったんだぞ!」
「でも、トドメを刺したのは私よ! あなたみたいな賞金稼ぎ(ハンター)にリューグーの貴重な資質を渡せるわけないでしょ!」
「なんだとぉ!? 俺にはこれからの生活費がかかってんだよ!!」
ギャーギャーと額を突き合わせて言い争う二人。 ウラシマがホログラムで溜め息をつく。
『モズク様、および汐崎隊長。このまま不毛な口論を継続されますと、日没どころか日の出を迎えてしまいます』
二人は「チッ」と同時に舌打ちすると、睨み合ったまま1つずつレコードを手にした。
「……フン。今日はこれくらいにしてあげるわ。次は全額回収するから覚悟しておきなさい!」
優は髪をファッと揺らすと、爽やかに去っていった。 水雲はその背中に向かってべーッと舌を出す。
「なんなんだあいつ! カッコつけやがって……! まあいいや、1つでも回収できれば御の字だ!」
そしてそのレコードは[イワシ]として復元され、3万円でリューグーに売却された。
すっかり夜の闇に包まれた街の外れ。 古びた門柱に「児童養護施設 あおぞら園」と書かれた木製看板が掲げられていた。
私服に戻った水雲は、人目をはばかるようにして園の裏口から敷地内へ入った。
「水雲くん? どうしたの、こんな夜遅くに」
事務所のドアが開き、優しい顔立ちの園長先生が顔を出した。 水雲は少し照れくさそうに頭を掻きながら、ポケットから厚みのある白い封筒を取り出して差し出した。
「園長先生。これ……今月分の寄付金です」
封筒の中身は、10万円の現金。 水雲が日々のバイト代と、ハンター業で命を懸けて稼ぎ出した貴重な金だ。
園長先生は封筒を受け取ると、申し訳なさそうに眉をひそめた。
「水雲くん……毎月毎月、こんなにたくさん……。本当に大丈夫なの? あなたの生活は? 無理をして働いてるんじゃないでしょうね?」
「へへっ、大丈夫ですよ! バイトも順調だし、たまに…ちょっとした臨時のボーナスが入るんで! 子供たちに美味い肉でも食わせてやってください!」
水雲は満面の笑顔で親指をグッと立ててみせた。
「じゃ、俺はこれで! また来ますね!」
手を振りながら、夜の道を軽やかに走り去っていく水雲。 その背中を、胸ポケットのウラシマが静かに見つめていた。
『モズク様。10万円の寄付により、モズク様はまたギリギリ生活に戻りましたね』
「うるせえよウラシマ」
水雲は夜空を見上げ、ニッと笑った。
「これでいいんだよ。あいつらの笑顔が見られりゃ、また明日からガッツリ稼ぐ力が湧いてくるってもんだ」
街灯の光を浴びながら、水雲はポケットの手をギュッと握りしめた。
「待ってろよ……次もガッポリ稼がせてもらうぜ!」
海の覇者の明日は、まだまだ忙しくなりそうだ。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!
ついに本格登場したポセイド:アクア(汐崎 優)!
「金さえ稼げればいい」というフリーター精神全開の水雲と、強い正義感を持つ優。正反対な二人の噛み合わないドタバタな掛け合いや、戦いの中で少しずつ深まっていく関係性に、ぜひ今後もご注目ください!
ちなみに、フリーメモ欄には「水雲たちが現在所有しているアイテム・レコードの所有状況」をリアルタイムでまとめています。「今水雲たちはどんなレコードを持っているんだっけ?」と気になる方は、ぜひ覗いてみてくださいね。
それでは次回、『イルカは哺乳、サメは魚類』でお合いしましょう!
1. ショーコネクト
ポセイド:アクア(汐崎 優)が使用する腕装着型の専用変身器。
形状・デザイン:
左腕に装着するブレスレット型で、イルカをモチーフにした飾りがついた専用レバーが搭載されている。
特徴・相性:
イルカなど「海生哺乳類系」のオーシャンシップと非常に高い相性を持ってる。
※変身の流れ※
①「ポセイドリンク(アクア)」をバックルカバーに装填し「ポセイドバックル」状態にして腰に装着。
② 左腕に「ショーコネクト」を装着。
③ 腰のカラビナから「ドルフィンシップ」を外してショーコネクトにセット。
④ 待機音に合わせて、手前のイルカ型レバーを倒すことで「ポセイド:アクア」へ変身完了。
2.レコード(Record)
基本仕様:
カセットテープ型の形状をしており、内部に海洋生物の能力・属性データと莫大なエネルギーが封入されてる。
エネルギー源・金銭的価値:
リューグー本部の全システムや基地の電力を賄うほどのエネルギー源となり、機海獣を撃破した際にドロップするため、水雲が回収してリューグーへ売却することで彼の主要な収入源(一攫千金の手段)となっている
例:タラバガニレコード→一個15万円、マダコレコード→一個4万円
レア度の基準:
レコードのレア度は「純粋な力の強さ」ではなく、「内部に内蔵されているエネルギー量の多さ」によって決定される。
ドロップの法則:
倒した機海獣の種類によって落ちる能力の系統が偏ることもあれば、全く関係ないデータが手に入るランダム性もある。
復元システム(ウィリア担当):
機海獣からのドロップ直後は破損・封印状態のため、リューグー本部の「復元システム」を通すことで初めて実用化・売却が可能になる。
耐久限界とリスク:
内部の磁気テープには耐久限界があり、戦闘で使いすぎると「テープが焼き切れて復元不可」になるため、乱用すると金欠に直結するハイリスクな性質を持っている
【装填ルール】
現在「レコード」を直接装填して拡張利用できるのは、拡張性を持つポートコネクト(マリン)のみ。
⚫︎ ポートコネクト直接装填(フォーム拡張):
ベースとなっているフォーム(船)と系統が一致している場合のみ装着可能
(例:サメベース時にはサメ系統のレコードのみ)。
外見変化や専用武装(ノコギリザメの超振動ノコギリ等)が追加される。




