第四話 イルカは哺乳、サメは魚類
[イルカは哺乳サメは魚類]本編
「なあ葵ちゃん、ちょっと納得がいかないんだが」
リューグー基地のメインオペレーションルーム。 通信画面の前に仁王立ちした知花樹 水雲は、眉間に深いシワを寄せて水無月 葵に詰め寄っていた。
「昨日のあの女……あいつ何なんだよ! 人の獲物に横から割り込んできて、手柄もレコードも半分ぶんどっていきやがって! 俺の歩合給を邪魔する奴は全人類の敵なんだよ!」
葵はキーボードを叩く手を一度止め、呆れ果てた顔で水雲を見下ろした。
『彼女はリューグー第5隊の正式な隊長よ。勝手気ままに金を追いかけている賞金稼ぎのあなたとは立場が違うの。文句があるなら、直接本人に言ったら?』
「言えるなら言ってるっつーの! どこにいるんだよあのババアは!」
「誰がババアですって?」
ひんやりとした凛とした声が、背後から響いた。 振り返ると、リューグーの制服を隙なく着こなした汐崎 優が、肘を組んで冷ややかな眼光を水雲に向けて立っていた。
「げっ、出たな……!」
「人のことを影でコソコソ言うなんて、相変わらず品がないのね不審者。だいたい、野蛮で凶暴なサメの貴方と一緒にしないでくれる?所詮サメはただの魚類、イルカは気高く知的な『哺乳類』。どっちが上かは明白よね?」
「ああん!? 魚類を舐めてんのかオイ! 魚類の歴史の方が圧倒的に長いんだぞ! イルカなんて海に逃げ戻った陸上生物だろーが!」
「なっ……! 屁理屈を言わないでちょうだい!」
二人が額を突き合わせて火花を散らしていると、葵がパチンと指を鳴らした。
『仲良いのは結構ですけど、喧嘩はそこまで。ちょうどいいわ、二人とも。現在発生している「女子大生連続行方不明事件」の捜査のため、本部からの指示であなたたちに合同ペアを組んでもらうわ』
「「はぁぁぁぁぁぁっ!???」」
悲鳴のような拒絶の声が、オペレーションルームに同時に響き渡った。
リューグー基地内、第5隊待機室。
「あり得ないわ! どうして私があんな野蛮な賞金稼ぎと組まされなきゃいけないの!?」
優はソファにドカッと腰掛け、激しい勢いで紅茶を煽っていた。 周囲を囲む第5隊の隊員たちが、苦笑いを浮かべながら彼女をなだめる。
「まあまあ隊長、落ちついてください……」 「そうですよ、あの知花樹さんも腕は確かみたいですし……」
リューグーにおける「隊員」とは、直接戦闘を行う兵士ではない。各部隊の隊長の戦闘をサポートするための、情報解析や現場オペレーションを担う専門スタッフたちだ。 ちなみに現状、リューグーの組織内でポセイドシステムを扱える正規の戦士は、優ただ一人である。
(……第1隊も第3隊も、独自の事件を解決して本部で表彰されているわ。ポセイドシステムを持つ私が率いる第5隊が、成果を出せていないなんて……!)
優は胸の中で焦りの炎を滾らせていた。 ポセイドの力を持ちながら、手柄をあんな素人同ぜんの賞金稼ぎ(水雲)に奪われるわけにはいかない。
そこへ、葵からのデータ通信が入った。
『二人とも、事件の共通点と新たな手がかりが判明したわ』
優と、渋々待機室に呼び出された水雲が色々なデータを写したモニターに注目する。
「消えた女子大生4人の彼氏や家族に聞き込みを行いましたが……全員『連絡手段どころか、アプリのアカウントごと消えている』ことが判明しました。SNSの痕跡すら消去されているのです」
「つまり……リアルな彼氏じゃなく、最近流行りの『マッチングアプリ』で知り合った男と会い、そのまま消されたってことか!」
「そういうことです。機海獣か、あるいはマリアナの人間が、アプリを使って女子大生をピンポイントで誘い出している……」
水雲はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「なら、やることは一つだな! こっちもアカウントを大量に作って、片っ端から『お釣り』を引っかけるぞ!」
それから3日間。 水雲と優、そして第5隊のサポートチームは不眠不休で膨大な数のマッチングアプリに偽アカウントを開設し、怪しい男性アカウントとマッチングを試みた。
そして4日目の夕刻。潮見市内のウォーターフロント公園。
「……なんで俺がこの格好をしなきゃいけないんだよ」
フリルがついた可愛らしいワンピースを身に纏い、ロングヘアのウィッグをかぶった水雲が、ベンチでモジモジしながらブツブツと呟いていた。完璧な(?)女装姿である。
『水雲殿、見事な変装でございますぞ。少し背が高く、肩幅ががっしりしたおてんば娘にしか見えませぬ』
「褒めてねぇだろそれ!! アプリで一番打率が高かったのが、俺の作った『清楚系女子・モズ子』のアカウントだったからって、なんで俺が実写で出向くんだよ!」
イヤホンからは、公園の反対側で私服姿で待機している優の冷ややかな声が聞こえる。
『文句を言わないで。ターゲットを誘い出すための GET作戦よ。私も近くのカフェでマッチングした一般の男性と「偽のデート」をして周囲を警戒しているわ』
優もまた、 GET作戦(機海獣を誘き出す作戦)の一環として、 GET用のアカウントでマッチングした一般男性(事件とは無関係の一般人)とカフェのテラス席で向かい合っていた。
「あの……優さん? さっきからスマホばかり見て、僕のお話聞いてます……?」
「ええ、聞いてるわ。『趣味はサウナと投資』でしょ。……静かにして、今大事な局面なの」
「ひっ……すみません……」
一般人男性を冷酷な眼光で威圧し、放置プレイする優。
その時! 水雲が待つベンチの前に、一人の爽やかな青年が歩み寄ってきた。
「君が……モズ子ちゃん?」
「あ、は〜い♡ モズ子でぇす♡(裏声)」
「初めまして! アプリの写真通り……いや、写真以上にワイルドで素敵だね。さ、あっちの静かな暗いデッキの方へ行こうか」
「え〜♡ 暗いところ〜? スケベなんだからぁ〜♡」
男が水雲を人気のないところに誘いだし、水雲の手を握ろうとした瞬間、男の目が不気味な青白い発光を見せた!
『ターゲット補獲……生体エネルギー抽出モード……起動……!』
「引っかかったな、スケベ野郎!!」
水雲は裏声を捨て、地声で叫ぶと同時に男の手を振り払った! 次の瞬間、公園の木造デッキの床板がバリバリと粉砕され、下から巨大な影が躍り出た!
ブッシャァァァァッ!!
姿を現したのは、頭部に巨大な発光提灯をぶら下げ、巨大な口に鋭い牙を並べた『機海獣チョウチンアンコウ型 (アンコラー)』! 男の正体は、この機海獣が作り出した擬態のホログラム(擬餌)だったのだ!
『ギギギ……メス捕獲……失敗……妨害分子排除……!』
「残念ながらメスじゃねぇよ! 俺はオスだ! さて、狩りの時間だ!」
水雲はワンピースを力任せに破り捨て(下に変身用のインナーを着用済み)、ポセイドバックルを腰に巻き、左についている小箱からポートコネクトを取り出す。左腕に取り付けすかさずシャークシップをセット!
『SHARK SHIP! READY!』
「変身!!」
『サメテルSHARK!? ポセイドシステム-コード:マリン』
ポセイドマリンに変身した水雲は、すかさず戦闘体制に入った。
一方、カフェのテラス席。 イヤホンから水雲の変身音が聞こえた瞬間、優はガタッと立ち上がった。
「現れたわね……!」
「えっ? 優さん、急にどうしたの……?」
怯えるデート相手の男性など視界に入っていない優は、テーブルに千円札を叩きつけると、一言吐き捨てた。
「お会計はこれで足りるわね。バイバイ!」
「えええっ!? 置いてけぼり!?」
優は相手の男性を置き去りにし、風のような速さで水雲の現場へと脱兎のごとく駆け出した!
「頭おかしいんじゃねえの...あの人」
慌てて向かっていた優にはこの冷ややかな視線ですら気づかなかった。
「はぁ……はぁ……! 遅くなった!」
現場へ駆けつけた優は、即座にポセイドドリンクとドルフィンシップをセット!
『READY…… SHOWTIME! DOLPHIN 』
「変身」
『JUMPING TIME!!ポセイドシステム-コード:アクア』
ポセイド:アクアへと変身した優は、すぐさまマリンの隣へ並び立った。 だが、その表情は怒りで般若のように恐ろしかった。
「ちょっと金脳!! なぜ機海獣が現れた瞬間に私へ緊急通信を入れなかったの!? 単独で手柄を独り占めする気!?」
激闘を繰り広げていたマリンは、攻撃をかわしながら叫び返した。
「ハァ!? こっちは突如足元から生えてきて忙しかったんだよ! 連絡する暇なんかあるか! だいたいお前こそ、デートにかこつけてカフェでお茶しばいてただろ!」
「お茶しばいてないわよ! 捜査の一環よ! あなたの報連相がなっていないから第5隊の連携が乱れるのよ!」
「うるせぇ! 踊り子のお説教は後にして戦え!」
言い争う2人を前に、無視された機海獣チョウチンアンコウ型は頭部の提灯を激しく脈動させ、激怒した。
『ギギギ……無視……不快……! 破壊……!!』
チョウチンアンコウ型の頭部にある巨大提灯が、太陽光をはるかに上回る瞬間的な閃光『パルスフラッシュ』を全方位に放射した!
ピカァァァァァァァァァッ─────!!!!
「うあぁぁぁぁっ!?」 「キャァァァァっ!?」
フラッシュ暗闇どころではない、強烈すぎる光波によって、マリンとアクアのバイザー視覚センサーが完全に焼き切れ、ホワイトアウト状態に陥った!
「目が……目が見えないわ!? 視界が真っ白!?」
「くそっ! なんだこの眩しさは!? どこにいやがるタコ……じゃなくてアンコウ野郎!」
視界を失った2人は、気配と音だけで暗闇の中を動き始める。 しかし、これが最悪のカオスを引き起こした。
「そこだぁッ! サメパンチ!」
ガツンッ!!
「きゃああっ!? どこ殴ってるのよ金脳!! 私よ!!」
「痛ぇ!? なんでお前がそこにいるんだよ!」
「気配で動いたのよ! こっちこそ、後ろからの気配に……エイッ!」
バキッ!!
「ぐはっ!? 蹴りが顔面に直撃したぞ踊り子ぉぉッ!」
「あ、ごめ……じゃないわ、あなたが不用意に近寄るからでしょ!」
視界ゼロの中でパニックに陥った2人は、機海獣チョウチンアンコウ型を攻撃するどころか、お互いの攻撃を誤爆し合い、味方同士で盛大に潰し合いを始めてしまった!
『ギギギ……愚かな人間……退散……!』
2人がドタバタと殴り合っている隙に、チョウチンアンコウ型は悠々と海へと飛び込み、姿を消してしまったのだった。
数時間後。リューグー本部の司令室。 目が真っ赤に腫れ上がり、包帯を巻いた水雲と優が、葵の前に正座させられていた。
「……呆れて物も言えません」
葵の氷のような視線が、正座する2人を突き刺す。
「共同捜査で成果を上げるどころか、お互いに殴り合って機海獣を取り逃がし、バイザーの修復費用として『各10万円』の損害を出しました。当然、お二人の報酬および給与から天引きします」
「「ええええええっ!?」」
水雲が血の涙を流して叫ぶ。
「天引き!? 10万円天引きぃぃぃ!? 俺の貯金が削られるぅぅぅっ! 全部この踊り子隊長が後ろから蹴っ飛ばしてきたからだぞ!」
「なんですって!? あなたが変な方向にパンチを打ってきたからでしょ! 責任転嫁しないで!」
「はい静かに」
葵がキーボードをバン! と叩くと、モニターに新たな不穏なデータが表示された。
「……笑い事では済みません。水雲、あなたがマッチングアプリで接触したあの男性……ホログラムの擬餌だと言いましたが、彼が使っていた『アカウントの持ち主の本物の男性』とも、現在連絡が取れなくなっています」
「なに……!?」
水雲と優の顔からコミカルな表情が消えた。
「機海獣チョウチンアンコウ型は、捕獲した人間の生体データや姿を奪い、それを『擬餌』にして次のターゲットを誘い出している可能性があります。……つまり、一刻も早くあの機海獣を撃破しなければ、被害者は増え続ける一方です」
重苦しい静寂が司令室を包み込む。 視界を奪う強烈な光を放ち、海へと逃げ去った機海獣チョウチンアンコウ型。 そして、一向に噛み合わないマリンとアクアの不揃いな二人三脚。
試練の牙は、静かに彼らへ襲いかかろうとしていた。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!
今回は初めての前後編(2話構成)の前編でした!
マリン(水雲)とアクア(優)、本当に仲が悪いですね…。
「お金! 一攫千金!」な水雲と「任務完了! 正義!」な優。こんなドタバタな二人組に世界の命運を握られている我々地上人は、一体この先どうなってしまうのでしょうか…。
次回の後編では、二人の関係や激化する戦闘がどう展開していくのか、ぜひご期待ください!
それでは次回、第5話『鉄壁の信念』でお会いしましょう!
※アイテム紹介の段③※
ウェーブレイカー
使用者: ポセイド:マリン(知花樹 水雲)
⚫︎近接・遠距離可変型専用武器
⚫︎近接格闘用の「ウェーブソード」と、遠距離射撃用の「ウェーブガン」の2形態に変形するマリンの基本武装。最大の特徴は、変身器ポートコネクトと同様に「レコード」を装填して属性・特殊技を発動できる拡張機能を備えている点。
1. 2つの形態(可変ギミック)
ウェーブガン(遠距離):
高圧に圧縮した水圧弾を連続発射する射撃形態。
敵の牽制や距離をとった戦闘で威力を発揮する。
ウェーブソード(近接格闘):
変形レバーを操作することで、鋭い水流の刃を纏った剣へと変化。
機海獣の硬い装甲を切り裂く近接斬撃を繰り出す。
2. レコード装填システム(技・属性付与)
ウェーブレイカー本体には、最大2本までレコードを装填できるスロットが存在し、発動メカニズム:レコードをウェーブレイカーにセットすることで、内蔵された生物データをエネルギーに変換・抽出し、技を発動する!




