第九話 早速騒ぎ
めっちゃ遅れました!すみません!
日が沈む頃、無事に俺は王都に辿り着いた。
「ようやく着いたか……」
ここまで来るのに、俺は一切の休憩をしていない。魔物に襲われることもあったが、昔とは違い、魔物の強さも弱くなっている。でも疲れたものは疲れた。だから立っているだけで息が上がる。
しかし、疲れと同時にここまで来れたという喜びも感じている。
剣だった頃には感じ得なかった不思議と感覚が冴え渡る感覚だ。
「流石に……疲れた」
フラっと道の真ん中で倒れそうになったが意志の力で疲れを捻じ伏せる。
今ここで倒れても、俺を助けてくれる人はいないからだ。
「あと少し……頑張るか……」
その言葉と共に、俺は王都の中心部に向かって歩き出した。
街を歩く人々の顔は、にこやかで幸せそうな顔だった。
「この笑顔を守る為にキーナは戦っていたんだなぁ」と言うことを考えながら歩いていると、目の前の男と肩がぶつかってしまった。
「あ、すみません……」
反射的に謝るが、その男は「チッ」と舌打ちして、歩き出してしまった。その男の腕には蛇の輪が彫られていた。
「……感じ悪いな」
小さく呟く。
だが、すぐに気にするのをやめた。
今はそれどころじゃない。
とにかく休める場所を……。
そう思って歩き出した、その時だった。
「……あれ?」
俺は、腰に違和感を覚え、手を当てる。
見ると、無い。
「……っ!マジかよ」
袋が、ない。
神父から渡された金貨。
そして、地図。あの地図はこわ
全部入っていた袋が――消えていた。
さっきの男の顔が、頭に浮かぶ。
「……あいつか」
思考が一気に冴える。
疲れなんて、一瞬で吹き飛んだ。
周囲を見渡し、人混みの中を見分ける
遠くに、見覚えのある背中。
あの時ぶつかった男が、人を押しのけるように進んでいる。
その手には、見覚えのある袋。そう、あの袋だ。
「……待て」
低く呟く。
俺は瞬間的に地面を蹴り、男に向かって走り出す。
やはり、体はまだ重い。
だがそれでも、俺は行かなくてはならない。
人々の足元をすり抜ける。
肩がぶつかり、「痛ってぇな!」と罵声が飛ぶ。
そんなものは、今はどうでもいい。
ただ一点だけを見据える。
(逃がすわけ、ねーだろ!)
男が振り返り、俺と目が合った。
「っ!クソが!」
顔が歪み、暴言を叫ぶ。
そして、走り出した。
だが、遅い。遅すぎた。
俺は一気に距離を詰め、男の腕を掴む。
「おいおい、返せよ」
低く言う。
男は振り払おうとする。
「離せっ!」
だが、その動きは甘い。
体勢を崩した男は、そのまま地面に倒れ込んだ。
そのままの勢いで、男の背中に馬乗りになる。
そのはずみに、袋が音を立てて転がる。
俺はそれを拾い上げて、中身を軽く確認する。
――ある。
全部、無事だ。
「……よかった」
小さく息を吐く。その時だった。
「何してやがる!」
周囲から声が上がる。
気づけば、人だかりができていた。
倒れた男と、袋を持った俺。
状況だけ見りゃ、どっちが盗人か、分からない。
男がニヤリと笑った。
「そいつだ!」
男に俺は指を指される。
「俺の金を盗んだのはそいつだ!」
ざわっ、と周囲の空気が変わる。
視線が、一斉に俺へ向いた。
「……は?」
思わず声が漏れる。
兵士が一歩前に出る。
「君、その袋を――」
「まあ待て」
幼いような声が、その場を割った。
人混みが左右に割れる。
現れたのは、豪華な装飾のローブを身にまとった少年だった。
年は俺より少し上ぐらいだろうか。*ハレは子供バージョンね。
だが、纏っている空気が違う。
後ろには取り巻きらしき数人がその少年を囲っている。いかにも“貴族”といった雰囲気だ。
「何の騒ぎだ?」
少年はつまらなそうに周囲を見渡す。
倒れている男と、袋を持つ俺を見ると、すぐに状況を理解したらしい。
「……ふん」
鼻で笑った。
「なるほどな。盗人が捕まったか」
男が勝ち誇ったように叫ぶ。
「そうなんです!私はただーー!」
「黙れ」
一言だった。
それだけで、男は言葉を詰まらせる。
少年はゆっくりと俺に近づく。
そして、上から見下ろす。
「お前、平民だな?」
答える気にもならない。
ただ黙って見返す。
少年は俺の格好を一瞥し、一点に視線が止まった。
「……剣?」
次の瞬間、口元が歪む。
「ははっ!...…」
取り巻きも笑い出す。
「今どき剣とか、マジかよ」
「どこの田舎だよ」
少年は肩をすくめた。
「魔法も使えないのか?」
軽蔑の色が、はっきりと浮かんでいる。
「だからそんなくだらないことをする」
袋を顎で示す。
「盗みでもしないと生きていけない、ってか?」
――完全に、俺が犯人扱いだ。
(……こいつ)
少しだけ、苛立ちが湧く。
だが、その時だった。
「――そこまでにしなさい」
落ち着いた声が、場を制した。
全員の視線が、一斉にそちらへ向く。
長いローブを着た男が人混みの前に立っている。歳は三十代前半と言ったとかたらだろうか。
落ち着いた雰囲気と、鋭い目。その目を覆う丸渕の眼鏡。
ただ立っているだけなのに、周囲の空気が変わる。
兵士がすぐに姿勢を正した。
「バイロン様……!」
その一言で、場の空気が固まる。
男ーーバイロンは、ゆっくりと俺達に歩み寄る。
倒れている男、そして俺を見る。
「なるほどね……状況は理解した」
短く言う。
そして、俺の手にある袋に視線を向けた。
「すまないがそれを、見せてもらってもいいかな?」
俺は黙って袋を差し出す。バイロンは中を確認する。
金貨と地図。
そして、推薦状。
それを開けた瞬間、バイロンの手がぴたりと止まった。
「……これは」
空気が、変わる。
バイロンの目が、驚きに見開かれる。
「君」
ゆっくりと、俺を見る。
「この地図……どこで手に入れた?」
さっきまでとは違うドスの効いた声だった。
俺は短く答える。
「当然、もらった」
バイロンは推薦状の下に書かれた文字を指でなぞる。
そこに記されていた文字は、ダイルゼン=ライツ。恐らくだが、神父の名前。
「……なるほどな」
小さく呟く。
そして、周囲に向けて言い放った。
「この件は終わりだ」
ざわめきが広がる。
男が慌てて叫ぶ。
「な、なんでだ!そいつが――」
「違うよね?」
一言で遮る。
バイロンは冷たい目で男を見下ろした。
「盗んだのは――君でしょう?」
空気が、凍りついた。
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