物心ついた時から……
「ウォル、メグミに……兄貴まで……」
ここにいるはずのない友と兄の登場にアストはただただ驚き、彼らの背中を見る視線を行ったり来たりさせた。
「詳しい話は後だ。つーか、いつまでそのままでいるつもりだ?眼球じゃなくて身体を動かせ」
形の変わったナイティンが大きくなったランスの切っ先を動かし、早くその泥から抜け出せと促した。
「そうは言うけど、意外とこれしつこく――」
パキッ!パキッ!パキンッ!!
「――て!!?」
「な!!?」
覚醒アストがほんの少し力を込めると、今までが嘘のように簡単に泥が砕けた。まるで真冬の朝、水たまりの表面に張った氷を踏み砕くように。これには技を仕掛けた覚醒レスコットも目を見開いて驚いた。
「この感触……っていうか肌寒いし」
アストがこの現象の犯人に視線を送ると、氷龍と化した兄がこちらを見ずにピースしていた。
「情けないね。ぼくやリオンさんが手助けしてなかったら、高々エヴォリスト二人に負けていたなんて。カウマのブルーディーファンは今頃泣いているよ」
「いや、お前来たばかりでわかんないだろうけど、あの二人結構強いんだって」
「どうだか。今の君はこの程度のことにも気がつかないほど動揺してるからな~」
「オレが気づいてない?」
「ルビー」
「ハイハイ。マルチランチャー出します」
イクライザーの手に長大な銃が召喚されると、それを頭上に向けた。
「エネルギーたっぷり吸収させてもらったからおもいっきりやろう」
「んじゃ、マルチランチャー、パワーショットセットアップ。ロックオンも完了済みっす」
「ご苦労。というわけで発射」
ドシュウン!!
放たれた弾丸のあまり速くない動きで夜空へと昇っていき……。
ボゴオォォン!!
何かを破壊した。空に荒々しい花火が咲き誇ると、少し遅れて地上にパラパラと機械の残骸が落ちて来た。そして……。
「ありゃりゃ気づかれちゃったか」
遠く離れたパジェットコープの本社ビルで、通信が切れ、画面が真っ黒になったヘッドマウントディスプレイを見て、フーグラーがへらへらと笑った。
「これは……」
「結構な高さから監視されていたよ。普段のアストならきっと気づいていた。少なくとも今のテクニカルな君なら間違いなくね」
「そうか……オレは自分が思っているより疲弊していたのか……」
アストは肉体、そして精神の消耗を幼なじみの指摘でようやく把握すると、それを少しでも回復させようと軽く深呼吸した。
「……もう大丈夫だ」
「やる気満々なところ悪いけど、ここはぼくらに任せてもらおうかな」
「フッ……」
ウォルはマスクの下で不敵な笑みを浮かべた。そして彼の隣のメグミも同じ顔をしている。
「ちょうどバージョンアップしたイクライザーの力を試したいと思っていたところだ」
「おれのスーペリアナイティンもかなりヤバいぜ!奴らもお前も腰抜かすかもな」
「わかってるのか?相手は戦闘型エヴォリストだぞ。例え新型と言えど、特級じゃないピースプレイヤーがそう簡単に勝てるとは……」
「アスト、本気でそう思う?」
「あぁ、オレの正直な意見だ」
「さっきあいつらのこと結構強いって言ってたけど、それも本気か?」
「本気も本気。っていうかオレのやられっぷりを見ればわかるだろ?言わんせんなよこんなこと」
「そうか、本当に強いのか……」
「………」
「………」
ウォルとメグミはこちらを警戒して、迂闊に手を出せずにいるダドリーとレスコットをまじまじと観察した。
(改めて見るとピカピカ光っている方はなんかオーラを感じるな)
(あの細い枝みたいな奴は一見弱そうだけど、それが逆に不気味。底知れないものを感じるぜ)
観察し終えると二体のピースプレイヤーはお互いの顔を見て、力強く頷き合った。
「確かに言われてみれば強そうだ」
「だが、それでこそ相手にとって不足無し!」
「「リオンさんのな!!」」
「え?俺?」
急に話を振られ、自分を指差しながら困惑する氷龍の後ろに二体のピースプレイヤーはそそくさと移動した。
「お前ら……」
「よくよく考えてみたらV4は一部のピースプレイヤーに刺さるように、特殊なシステムを組み込んだマシンだった。エヴォリスト相手は一切想定してない」
「せっかくの新型の初陣、勝利で飾りたい。だから、確実に勝てる奴以外とはおれは……戦わん!!」
「言ってて恥ずかしくない?」
「「全然!!」」
アストの幼なじみはメンタルに関しては最強であった。
「というわけでリオンさん」
「お願いします!!」
「参ったな。俺も別に自信あるわけじゃないんだが」
「何を仰います!どこぞの世間知らずはカウマ最強はブルーディーなどと宣いますが、真の最強はあなたじゃございませんか!」
「その通り!リオンさんに比べたらブルーディーなんてただの雑魚!!」
「おい、雑魚は言い過ぎだろ」
「その口ぶりだと、自分が負けてるのは認めるんだね」
「そこはまぁ……兄貴はオレが物心ついた時から、最強だったから」
「アスト……」
照れくさそうにそう語る弟に、兄はほぼほぼ同じ照れくさそうな顔をしながら、一歩前へ出た。そして……。
「お前らにそこまで言われたらやるしかないな。あいつらは……俺が倒す」
ダドリーを見据え、レスコットにもちらりと視線で牽制しながら、ゆっくりと構えを取った。
「急に出て来たと思ったら、べちゃくちゃと下らないことを喋って、最終的にはおれ達を一人で倒すだと……舐めるのも大概にしろよ!!」
ダドリーはリオンのあまりにマイペースでふざけた態度に激昂した……が。
「そう思うんなら、さっさと仕掛けてくれば良かったじゃないか。ビビって手を出せなかった癖に」
「うっ!!?」
(その通りだ……俺やダドリー氏が動く素振りを少しでも見せると、あの兄ムスタベとやらが睨みを利かせて……手を出したくても出せなかった……!!)
威勢のいいことを言っているが、ダドリーはすでに精神的にはリオンに屈していた。突然現れた情報のない敵の援軍というのを差し引いても、氷龍の醸し出すただならぬ雰囲気に気圧されて、今の今まで動けずにいたのだ。
「くそ!兄弟揃っておれの心を逆撫でしやがって……!」
ダドリーは苛立ちで身体を震わせながら、ちらりとレスコットに目配せした。
(ここでビビって何もしなかったらおれ達は何も変わらない!)
(ええ……何よりムスタベ氏の首を持って帰らなければ、アルトゥルに今度こそ……!)
(あの人に比べれば、こいつなんかちっとも怖くねぇ!お前と一緒なら尚更だ!)
(やりましょう……我ら二人で弟だろうが、兄だろうが倒して見せましょう!!)
敗北の経験と恐怖の記憶が信頼と連帯感を強め、ただの同僚でしかなかった二人を真のタッグへと変えていた。アイコンタクトだけで二人はお互いの気持ちと、氷龍への仕掛けについて共有する。
「てめえらだけは絶対に許さねぇ……このおれの力で消し飛ばしてやる!!」
覚醒ダドリーは手のひらを突き出してビームを出す……フリをした。
(今だレスコット!!)
(おう!!)
ドロッ!ボッ!ボッ!!
ダドリーに注意を引き付けてる間に、覚醒レスコットが再び泥の鎧を纏ってからの泥団子発射!石よりも硬く固められた泥の塊が無防備のリオンの横顔に……。
パリン!!パリン!バゴォン!!バゴォン!!
「「!!?」」
泥団子はリオンには当たらなかった。こちらを一瞥もしない彼の顔にあと少しというところで突然砕け散ったのだ。
(一体何が起こった!?奴は何を……!?)
「不意打ちならもっと上手くやれ。その程度の攻撃じゃいくらやろうと俺に触れることさえできないぞ」
「どこまでも生意気な!ならばその言葉が事実かどうか試してやる!!」
ボッ!ボッ!!
自棄になったように泥団子再発射!しかし実のところそれは演技でレスコットは冷静であった。
(見極めてやる……この攻撃でお前が何をしたかこの目で見極めてやる!!)
レスコットは全神経を集中させて事の成り行きを注視した。
パリン!!パリン!バゴォン!!バゴォン!!
(氷か!!)
彼の目は捉えた。発射した泥団子の前に立ち塞がるように氷が出現し、それと衝突することで攻撃が防がれたのだと。よく見ると砕ける泥の欠片にまみれてキラキラした氷の破片も一緒に落ちている。
「ダドリー!氷だ!!奴の能力は地下で見た気温なんちゃらと同じ氷!だから!!」
「おれがやるべきってことだな!!」
能力を知らされるとダドリーは一転して強気になった。氷ならば自分の高熱を伴うビームの方が分があると。
「ウラァッ!!」
ビシュウッ!!
そうとわかれば臆することはない!意気揚々とダドリーは今度こそ本当にビームを発射した!
「氷鱗片」
対する覚醒リオンは再びビームの軌道上に氷の破片を生成したのだが……。
ジュウッ!!
一瞬で熱によって溶かされてしまった。
「さすがに無理か」
そうなることを予想していた覚醒リオンはめんどくさそうに回避運動を取る。
「うおっ!!?」
「ヤバヤバ」
「危な!!」
後ろにいた弟達も流れ弾に当たっては堪らんと慌てて散開した。
「はっ!やっぱ氷じゃおれの攻撃は防げんよな!!ビビって損したぜ!お前はおれの敵じゃない!お兄様よ!!」
ビシュウッ!ビシュウッ!ビシュウッ!!
完全に調子を取り戻した覚醒ダドリーは両手のひらから交互にビームを連射した……が。
「ふん」
ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!!
リオンは淡々と作業をこなすように、かなりの余裕をもって躱していく。
「あの弟にして、この兄ありって感じだな。逃げ足が速い!!」
「口を動かす暇があるなら手を動かせ。そんなのろまな攻撃じゃいつまで経っても俺に当てることはできんぞ」
「なるほど……口も兄弟揃って悪いんだな!!いいぜこの野郎!!この世界から蒸発させてやるよ!!」
ビシュウッ!ビシュウッ!ビシュウッ!!
挑発による苛烈さを増す攻撃。しかし、これも氷龍には当たらない。というか……。
(ふむふむ。速度はこれくらい、軌道も特に癖がないな。タイミングを読み易くて助かる)
リオンは悠々とダドリーのビームを観察していた。そんなことができるのはかなりの実力差がある場合のみ。つまりは……そういうことだ。
(もうデータは十分かな。あとは実際に試して……)
ズブッ!!
「ん?」
「よし!!捕まえた!!」
氷龍が着地すると、今までと違う感触を足裏に感じた。柔らかく冷たいまるで泥に包まれたような……いや、実際に泥に足を突っ込んだのだ!ビームに夢中になっている間にレスコットが息を潜めて敷いていた泥の絨毯に足を!
「これはしてやられたな」
グヌッ……
「うお、気持ち悪」
あまり動揺している様子のない覚醒リオンは田んぼでするように軽く足を引き抜こうとしたが、その泥は普通のものよりも遥かに粘性が高く、執拗に足にまとわりつきそこから逃げ出すことを決して許してくれなかった。
「ナイスだレスコット!!」
「ダドリー氏!今です!!」
「おう!!」
覚醒ダドリーは完全に動きを止めた氷龍に狙いを定めて……。
「消えろ!くそ兄貴!!」
ビシュウッ!!
躊躇うことなくビームを発射した!一筋の光は大気を焼き焦がしながら、真っ直ぐとリオンに迫る……今まで見てきた通りの速度と軌道で。
「氷鱗鏡」
パキン!!
「「!!?」」
覚醒リオンはビームの軌道上に先ほどよりも大きく、表面がその名の通り鏡のようにピカピカと輝く氷を生成した。それで……。
「角度はこれくらいで……OK」
ビ!ビシュウッ!!
「な!!?」
「なにいぃぃぃぃぃッ!!?」
ビームを反射した……レスコットに向かって。
ビシュウンッ!!
「――ぐわあぁぁぁぁぁっ!!?」
「レスコット!!?」
反射されたダドリーのビームが相棒に命中!泥の鎧をかなりの量、消し飛ばした!リオンがビームを観察していたのはこれをするためである。
「ドンピシャだな」
パキパキン!!
「ほっ!!」
「ッ!!?」
足元にまとわりつく泥を凍らせて粉砕、脱出!そしてそのままいまだに混乱状態にあるレスコットへと走り出す!
「くそ!行かせはしない……!!」
ダドリーはそれを阻止しようと、再び手のひらを移動する氷龍に向けるが……。
パキ……
「――ッ!!?」
覚醒リオンの周りに衛星のように細かい氷が出現すると、また同じように反射されてしまうのではないかと思い、攻撃できなかった。
今、目の前に現れたものにそんな力ないのに……。
(氷鱗片。よく見れば最初に難なく消し飛ばしたものだとわかるだろうに。観察力不足だなピカピカ)
「くそ!?おれは……」
「その結果がこれだ」
ガキン!!
「「!!?」」
「氷龍領域」
一瞬でリオンを中心に地面に氷が広がっていき、そのままレスコットの足まで到達、ガチガチに根を張るように凍らされ、地面に張り付けにされてしまう。
「意趣返しのつもりか!!兄ムスタベ!!」
「別に。たまたまだよ」
そしてさらにその上を覚醒リオンはスケート選手のように滑り、スピードアップ!あっという間に近接格闘の間合いに入り込んだ!
「まずはお前だドロドロ」
「くっ!!?だが!!」
ドロドロドロドロドロドロ……
レスコットの意思と強い防衛本能に反応して、身体から特製の泥が止めどなく溢れ出すと、先ほどビームで消された部分が補填された。
(これで打撃は従来通り無効に……)
安堵するレスコット。今までならこの状態になれば、殴りかかってくる相手ならばもう安全安心だった。
しかし、今回の相手は残念ながらリオン・ムスタベだ。
「はあッ!!」
バギィン!!
「………へ?」
淡い希望は脆くも崩れ去った。打撃に触れると同時に泥は凍らされ、衝撃吸収能力を失い、普通の鎧、いや普通のものよりもかなり簡単に破砕されてしまう。
「そんな!?この俺の泥が!?打撃を無効にする俺の泥が!!?」
「運がなかったな。俺は打撃を無効にするのを無効にするのが、大の得意だ」
ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ!!
白く凍結した黒い泥がパンチを受ける度にパラパラ飛び散る!為す術もなく、どんどんと鎧は削られていく!
「……お兄ちゃんが有利に事を運んでるんだから、もっと嬉しそうな顔しろよ弟くん」
「そうなんだけど、トラウマが……」
アストは今のレスコットのように自分の打撃無効技を氷によって無効化されて、ひどい目に会わされたことを回想し、まさに背筋が凍る思いをしていた。
「はっ!!」
バギィン!!
「ッ!!?」
そんなことを思っている間に覚醒レスコットは泥を完全に剥がされ、そのみすぼらしい枯れ枝のような真の姿を再び晒していた。
「俺は……俺は……やっぱりダメなのか……!!」
「よくわからんが、この結果は相性が大きい。気にする必要はないぞ」
「兄ムスタベ……」
「お前が気にすべきは俺の弟をいじめたことだ」
ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン!!
「ぐぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
殴る!殴る!殴る!殴る!殴る!
右で左で、上から下から斜めから!覚醒リオンは悲痛な声を上げるレスコットを容赦なく殴って殴って殴りまくった!
「はあぁぁッ!!」
ドゴォン!!
そしてある程度打って満足したところでフィニッシュ!吹き飛ばされた時には、すでにレスコットの意識は無くなっていた。
「まずは一人。残るはピカピカ!!」
一息つく暇もなく動き出す氷龍!相も変わらず優雅なスケーティングで宙に浮くダドリーの下へと向かう!
「よくもレスコットを!!」
ババババババババババババババババババッ!!
覚醒ダドリーは普通にビームを一本放ったのでは反射されると思ったのか、無数の細かい光弾をばら蒔いてきた。
「アイスウォール」
ガギィン!!ババババババババババッ!!
「何!?」
しかし、それは全て突如として目の前に現れた巨大かつ分厚い氷の壁によって防がれてしまう。さらに……。
「はっ!!」
ダッ!ダッ!ダッ!!
氷龍はその壁、自ら生成した氷の壁を駆け上がり、空中へ!ダドリーの目の前まで跳んできた!
「くっ!?おれの領域に踏み込んでくるな!!」
反射的に拳を繰り出し、迎撃するダドリー。
バギィン!!
「――ッ!!?」
しかしそれは新たに生成された氷に、氷龍片によって阻まれてしまう。
「何でおれはまた……」
「二人がかりで弟一人に勝てない奴が、兄に勝てるはずないだろ」
そうぶっきらぼうに言い放つと、覚醒リオンの右手のひらに冷気が渦巻いた。肉体ではなく、心を凍らせる冷気の渦が。それを……。
「心凍滅却」
ドォン!!
「――が!?」
ダドリーへと叩き込む!掌底が放つ衝撃と冷気は胸から肉体の奥に染み渡り、ダドリーの憎悪と闘志の炎を凍らせた。
戦う意思を失ったダドリーは覚醒形態から人間へと戻り、地面へと落下していく。
「イクライザー!キャッチしてやれ!!」
「わかってます――」
ドサァァァァッ!!
「――よっと!!」
こうなることを察知していたイクライザーは落下地点に滑り込んでダドリーをキャッチ。アスファルトにグロいアートが描かれることを防いだ。
「戦闘型のエヴォリストの自分には敵はいないとか思ってたんでしょ?でも世の中、上には上がいるもんさ。喧嘩売る相手は選ばないと」
「…………」
「って、聞こえてないか」
イクライザーの手の中でダドリーは虚ろな目をして虚空を見つめていた。心を凍らされた者はこうなってしまうのである。
「改めて凄いなお前の兄貴は」
「あぁ、いつだってあの人はオレの上にいる」
兄の圧倒的な力を目の当たりにし、嬉しいやら自分の未熟さを痛感させられて悔しいやらで複雑なアスト。
そんな彼の脳裏にもう一人の自分の遥か上にいる存在、カウマの無敵龍と呼ばれた自分を完膚なきまで叩きのめしたヤービッツの姿が過る。
(兄貴ならもしかしたらアルトゥル・ミチュカにも勝てるかも。心凍滅却さえ当てることができればあるいは……)
そこまで考えると、ふと妙な胸騒ぎを感じた。
(本当にそれでいいのか?本来関係ないはずの兄貴に丸投げして?あの悪魔の相手をオレがしなくても……このざわつく気持ちはただの私怨か、それとも虫の知らせなのか……)
「アスト」
「………」
「アスト!」
「うおっ!?兄貴か!?」
思考の迷路の奥底に迷い込みそうになったが、兄の声で弟は我に返った。
「兄貴かじゃないよ。なにボーッとしてるんだ」
「悪い悪い。少し考え事してて」
「ったく。それよりもこれからどうするんだ?というか、今どんな状況なんだ?」
「その説明は……」
「彼らの紹介が終わってからにしようよ」
声をかけてきたイクライザーの方を向くと、親指を後ろに差してムスタベ兄弟の視線をさらに誘導してきた。
その先には車の横に降りたザットが大きく手を振っていた。
「だね。まずはあの人達と、解放戦線と合流しよう。これからどうするかは……その後だ」




