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No Name's Awakening  作者: 大道福丸
覚醒者の王
143/160

戦う理由

「では、始めましょうか」

「そんな格好でキメても間抜けなだけだぜアスト」

 頭上にウォルガジェットのスパイウイング、風呂の中にスパイレッグを侍らせながら水風呂に浸かるキメ顔の覚醒アストにメグミは容赦なくツッコミを入れた。

 あの後一行は当初の目的通り、プロティーブル解放戦線が所有しているセーフハウスの一つにたどり着くことができた。そしてこれまでの情報整理と今後の方針を決めるために、回復中のアストがいる風呂場に雁首揃えて集まったのだ。

「オレだって不本意だよ。だけど回復も情報共有も一刻も早くやらないと」

「おれも頭ではわかってんだけど、心が一度ツッコんでおかないと先に進めないと訴えるから」

 アスト以外の一同が「そうだな」と首を縦に振った。

「まっ、これでスッキリしたし、とっとと話を進めよう」

「勝手だな……でも、言ってることは正しい。まずは……」

「自己紹介……だけど、一人を除いて、ここに来るまでに一通り挨拶は終えてるからね」

 ウォルの言葉を合図に、風呂場でポテチを貪っている小太りの男に視線が集中した。

「……あっ!今、除かれた一人ってわたしのことか」

「それ以外にないだろう……」

 風呂用の椅子に腰をかけたネイザンがしょうがない奴めとため息をついた。

「えーと、それでは……わたしは『フェデリコ・ペリーコ』。解放戦線では情報収集とか武器の調達、このセーフハウスの用意とか、後方支援という名の各種雑務を受け負っております。以後、お見知りおきを」

 ペリーコはポテチを食べる手を止めると、深々と頭を下げた。

「これでとりあえずみんなそれぞれの名前は把握したな」

「はい。では、まず……お前らがここに来た理由を教えてもらおうか」

 青き龍は眉間にシワを寄せて金色の瞳を鋭く輝かせて、本来なら故郷にいるはずの顔馴染み達を睨んだ……が。

「だから凄んだって水風呂に入りながらじゃ、カッコつかねぇから」

「ですよね~」

 また念押しされるようにツッコまれたので、眉間からも身体からも力を抜いて、プカリと浮かんだ。

「のんきな奴め。気抜き過ぎじゃねぇか?」

「ずっと緊張していたところに、お前らが現れて安心したんだよ」

「ま、確かに君からしたら、ぼくら以上の助っ人はいないからね」

「ぶっちゃけここにいる理由も、冷静に考えてみれば察しがつくしな」

「多分、お前の思っている通りだ。お前がここ、プロティーブルに発つ直前、俺にウエハラさんから連絡が来た」

「やっぱコトネさんか。オレのこと心配してたもんな……」

 出発前に見せたいつも明るいコトネの不安げな顔を思い出すと、アストは水に浮かぶのをやめて、少しだけ顔を曇らせた。

「で、そっからぼくに連絡が来て」

「当然の如くおれも呼ばれて」

「アストを追ってプロティーブルへ行こう!ってなったわけよ」

「フットワーク軽っ!つーか、よく気づかれずに入国できたな。パジェットコープの奴らはオレのことを調べ上げていたのに」

「それは……」

 リオンが罪悪感から目を逸らした。その兄の珍しい素振りといつものろくでもないニタニタとした笑みを浮かべる幼なじみを見て、アストは全てを理解した。

「ウォル……お前また何かやったな?」

「ちょっと名前やら出身地を誤魔化しただけだよ。ちなみにぼくがイチロウ・ヤマダで」

「おれがジロウ・ヤマダ」

「俺がレオドラゴ・アイスバーン」

「そこサブロウじゃねぇのかよ!!」

 アストは水しぶきを上げながらツッコんだ。

「何はともあれ、難なくプロティーブルに入国して観光を楽しんでいたわけさ」

「お前に何も起きなきゃそのまま適当にうまいもん食って帰るつもりだったんだけどな」

「だが、少し前に君が危険だって信号が送られてきた」

「こいつらか」

 頭上の蝙蝠のようなメカと、悠々と風呂を泳ぎ回るカエル型メカをアストは指差した。

「大正解。ぼくの開発したスーパーメカ、その名もウォルガジェットの二体には君がピンチになった時に知らせるようにプログラムしてあったのさ」

「そんなこったろうと思ったぜ。こいつはオレの手足となって動くスパイであると同時に、オレを監視するスパイなんだろうなって」

「一応言っておくと、普段の君の一挙一動が逐一ぼくに送られているわけじゃないよ。あくまでピンチの時、緊急事態の時だけ。このウォルター・ナンジョウ、プライバシーを尊重できる思いやり溢れる人間さ。あと君が普段何やってるとか興味ないしね」

「本当、お前は最高の幼なじみだよ」

 感心したような、呆れたような複雑な感情を抱きながらアストは吐き捨てるように言うと、視線をドン引きしている解放戦線の面々に戻した。

「こっちの話は終わりました」

「なんだかヤバ……凄い友達だな……」

「こいつを含め、他のみんなも普段はあれですけど、こういう時には誰よりも頼りになるんで、皆さんの話を聞かせてくれませんか?」

「その話については興味ありありだしね」

「ならば……お話ししましょうか。プロティーブル解放戦線の成り立ちと、目的について」

 風呂場の空気は一気にシリアスなものに。アストを始めチームカウマは皆が皆、ネイザンの言葉を一文字も聞き逃すまいと集中した。

「最初は我らもプロティーブル再建にパジェットコープが大きく関わることに何の疑問も不満も抱かなかった」

「内戦になるのを止めてくれたんですもんね」

「あぁ……だが時が経つに連れてその権限は我らの想像を越えて大きくなり、次第に不安を感じ始めた」

「それで解放戦線を……?」

 アストの言葉に、ネイザンは首を横に振った。

「さすがにそんな曖昧なことで動きはせんさ」

「なら……」

「きっかけはたまたま耳にした噂話だった。この国で身寄りのない者や、金に困っている者が次々と姿を消していると」

「それって……」

「心当たりがあるか。移動中に君もこの国で聞き込み紛いのことをしていたと話していたものな」

「はい。確かに……」



「それよりもこの写真の人知らない?最近連絡がつかないんだ」

「パジェットコープの真の目的は世界中の人間をエヴォリストにすることだよ。そのための研究材料として身寄りのない人を拐っているんだ。本当だよ、陰謀論じゃないよ」



「いくつかそういう話をしてくれた人も……」

「もちろんおれも最初から鵜呑みにしたわけじゃない。だが、調べてみると実際に忽然と姿を消す住人がパジェットコープが来る以前よりも増えているみたいだった。彼らが来たことで治安が回復しているはずなのに何故か」

「それで今度こそ解放戦線を」

「その時は名前もなかったが、異変に気づいた者達が自然と集まって情報交換をするようになった。そしてある時、そこにいるペリーコが思いきって本社ビルのコンピューターに侵入して、重大な情報を掴んだ。ペリーコ」

「はい」

 ペリーコは残り少なくなったポテチの袋をポケットに突っ込むと、背中に隠し持っていたタブレットを出し、指でちょいちょいと操作してから、アスト達に見せた。

 ディスプレイに映っていたのは灰色の鱗と金色の鬣を持つ四足歩行の巨大オリジンズであった。

「これは……?」

「特級オリジンズ『ソロンラブル』。アルトゥルによって捕まえられたこのオリジンズは本社ビルの地下に閉じ込められ、そこに行方不明になっていた住民が送り込まれていた」

「「「!!?」」」

「それってまさか……!?」

 事態を察し驚愕するアスト達に、ネイザンは残念そうに頷き、彼らの考えていることが正しいと肯定した。

「君達の想像した通り、パジェットコープはこのソロンラブルにプロティーブルの住民を攻撃させ、エヴォリストとして目覚めさせようとしていた」

「昔はそういう方法で人為的にエヴォリストを作ろうとしたこともあったっていうけど……」

「現代では非人道的、非効率的ってことでヤクザでもやらないよね」

「イカれてるぜ……!!」

「あぁ、人として終わっている」

「その通りだ。だが、奴らはそれをやり続けた。そのためにプロティーブルに介入してきたんだ。好き勝手するために」

「わたしが更に調べた結果、エドガー・パジェットの目的はエヴォリストの覚醒条件を突き止めることらしいね。で、それがわかったら、安全安心で自分もエヴォリストに」

「そのために、そんなことのために何人もの罪のない人を犠牲にするつもりなんだ……!!」

 怒れる青龍は水の中で拳を握りしめ、震わせた。

「我らの目的は奴らの罪を白日の下に晒し、プロティーブルの実権を取り戻すこと。そのために最近は証拠探しとソロンラブルの解放を狙って本社ビル襲撃を考えていた」

「アストくん、君は六覚星の最後の一人には会いましたか?」

「いえ、名前だけしか教えられてません。確か……」

「ジーノ・ラ・マルーカ」

「そう!そんな名前!」

「そのマルーカこそがソロンラブルを守る番人なんですよ。わたし達もそのことと名前しか知りませんが、彼はずっと本社ビルの地下でオリジンズを守り続けている」

「だからあの時いなかったのか……」

「あと基本的にフーグラーも本社に常駐している」

「我らの作戦はビルに残ったのが、その二人だけになった時に襲撃するというもの。フーグラー本体はただの人間だし、数さえ集まらなければカリギュアもそこまで怖くない」

「マルーカに関しては何もわかってないから、恥ずかしながら当たって砕けろって感じで」

「一応、奴を倒すことではなくソロンラブルの解放が目的だから、数さえ送り込めればなんとか……などと楽観的に考えていた」

「で、そんな中、エドガーがほぼ護衛もつけないでいるという情報が入った」

「で、それをオレが返り討ちにしたってわけですね」

「「「うん」」」

「知らなかったとはいえ……すいません……」

 アストは水風呂に顔を沈めるくらい深々と頭を下げた。

「気にするな。今、考えてみるとあまりに我らに都合が良すぎた。きっと君と戦わせる、もしくは今日のアジト襲撃に参加させるために我らに悪印象を与えるエドガーの作戦だったのかもしれんしな」

「更に言うと、ソロンラブルや人為的にエヴォリストを作れる方法を確立させようとしているってことがわたし達にバレたのも、あっちの目論見通りなのかも。六覚星を引き立てる悪役になってもらうために」

「だとすれば我らはずっと奴らの手のひらの上に……」

「「「……………」」」

 重苦しい空気が風呂場を支配した。解放戦線の後悔と自責の念が渦巻き、息をするのも億劫になるほどの……。

「お、終わったことを気にしても仕方ないですよ!!それよりもこれからのことを考えましょう!!」

「……そうだな」

「個人的に気になるのはアストくんをわざわざカウマからスカウトした理由です。仲間に取り入れたいならもっといい方法が……というより、かなりやり方が稚拙な気が……」

「アルトゥルの言動からして、オレを仲間にしたいのはできればって話だけっぽいし。一体何のためにオレを……」

「そりゃあ血だろ」

「血か…………え?」

 アストを始め、全員の視線がメグミに集中した。さらりと確信を突いたメグミに……。

「メグミ……今、お前なんて……!?」

「だから血だろって。エヴォリストを自由に作りたい奴がお前に、アストに接触してくるなんて、血が目的以外あり得ねぇだろうが」


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