対策の対策
アストの勝利宣言を受けダドリーは今までの嘲笑ではなく、苦笑いを浮かべた。
「会った時から気に食わなかったが、今のお前のことは意味不明なアホ過ぎて少し好きになれそうだぜ。哀れで、愚かで……可哀想な奴め!!」
覚醒ダドリーは片手をテクニックアストに向け、彼への苛立ちと憎悪をエネルギーに変換、手のひらから撃ち出した!
ビシュウッ!!
「偉そうに言ったけど毎度お馴染みのぶっつけ本番……まっ、なるようになるだろ!!」
テクニックアストの行動もダドリーとほぼ同様だった。ライフルに変形させた右腕を上げ、水の弾丸を発射する。
バシュッ!!
「はっ!本当に急にバカになったな!おれのビームをそんな水鉄砲で相殺できるわけねぇだろ!」
「相殺なんてするつもりはないよ」
テクニックアストは脳裏にかつて激闘を繰り広げたイグナーツのことを思い出しながら、水の弾丸に指令を送った。
ニュッ!!
「!!?」
すると水弾は凝縮されていた水分を解放、薄く広がり、円形のレンズのような形状に形を変える。
(もう一度イグナーツのような奴と戦うことになった時を想定して考えていた策。完全に防ぐことは無理でも……)
ビシュ!
ビームが水のレンズの曲面に命中。その表面を熱で蒸発させる。しかし同時に僅かにほんの僅かだけ屈折させられてしまう。結果……。
「逸らすことはできる」
ビシュウッ!!ドゴオッ!!
ビームは命中した……一歩も動いていないアストから大きく逸れ、氷を掠め溶かしながら天井へと。
「なんだと……!?」
「ほんの僅かでも軌道を変えられればこの通り。もうあんたの自慢のビームはオレに当たることはないぞ」
「くっ!!生意気言ってんじゃねぇぞこの野郎!!だったら曲げる前に一瞬で蒸発させてやる!曲げてもどうにもならない広範囲を吹き飛ばしてやる!!」
「――!!?バカ!!やめろ!!」
頭に血を昇らせた覚醒ダドリーに悲しいかなレスコットの言葉は届かなかった。両手のひらを突き出し、そこにありったけの力を注ぎ……。
ビビシュウッ!!
一気に解放する!後先考えていないダドリーの全ての力が放出された……が。
「ブースト」
パシュ!!ドシュウゥゥゥゥンッ!!
「何!?」
命中直前、テクニックアストが身体を横に向け、いつもの状態から変化した胸部鎖骨、腰部横、膝から水蒸気を噴射、凄まじい加速をし、地面を滑るようにスライドして、あっさりビームの攻撃範囲外にエスケープした。なのでビームの戦果は今回も氷を溶かして水溜まりを作っただけ。
「攻撃を逸らせないなら避けるまでさ。で、避けた後に反撃だ」
「ならこっちももう一回……!!」
ぷるぷる……
「しまった!?」
渾身のビームを放ったダドリーの腕は小刻みに震え、追撃を放てる状況ではなかった。ここで彼はようやく自分のミスに、まんまとアストの術中に嵌まったことに気づいた。
(最初の攻撃だって避けようと思えば、避けられるはずだった!っていうか今まで散々避けてたし!あれの本当の目的は防御ではなく、大技の誘発……体力を消耗してくれれば良し、攻撃直後に隙ができれば尚良し。おれはそれにまんまと……)
「はっ!」
バシュッ!バシュッ!バシュッ!バシュッ!!
「ッ!?」
後悔と焦燥に苦しむダドリーに容赦なく青龍が水弾を発射する!水浸しの床をしっかりと踏みしめながら放たれた弾丸は真っ直ぐとターゲットに……。
「やらせん!!」
ズブッ……ズブッ……ズブッ……
「レスコット!!」
泥のエヴォリストがまたまたカットイン!その黒い流動的な身体で水の弾丸を全て吸収した!
「落ち着け!お前の能力ならいくらでもやりようがあるだろうが!!」
「ッ!そうだ……おれの力はこんなもんじゃねぇ……!!」
「わかったなら一旦退いて、態勢を立て直せ!自慢のビームが撃てるようになるまで回復しろ!!」
「了か――」
レスコットの言葉で冷静さを取り戻したダドリーは言われた通り、その場から離脱しようと、顔を上げた。空を飛ぶためにだ。しかし、そんな彼の目に映ったのは……。
「――いぃッ!!?」
レスコットが全て吸収したはずの水の弾丸だった。いや、アストは一発だけあえて大きく外して撃っていたのだ。ダドリーを確実に仕留めるために彼の頭上に向けて。
「ただ遠くから撃つだけならテクニックなんて名乗らないさ。水花火」
バシャッ!!ババババババババババババババババッ!!
「「!!?」」
頭上の水の弾丸が破裂!小さく細かく分裂すると、それらはシャワーのように降り注いだ。
「だから水など俺には!!」
水花火は覚醒レスコットには当然吸収され、ダメージを与えられなかった。しかし……。
「ぐっ!?」
本来のターゲットであるダドリーには見事に命中。咄嗟に防御したが、そのガードした腕に穴を開け、めり込んでいく。
「ダドリー氏!!」
「問題ない!表面をちょっとひっかかれたみたいなもんだ!これくらいなら戦闘続行は――」
「水針」
バババババババシュッ!!
「――なっ!!?」
テクニックアストの指令を受けダドリーの腕の内部に入り込んだ水を再変形。剣山のように細かい針へと変えて、腕を内から突き破った。
「ぐぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
「ダドリー氏!!?」
「腕が!!?おれの腕が!?」
(このダメージではしばらくビームどころか腕もまともに動かせない。それ以上に……)
「なんで!?なんで選ばれた存在であるこのおれが!?」
ダドリーは完全に我を失っているようだった。動揺し、混乱し、言ったところで何にもならない恨み言を口にし続ける。
(精神的ダメージがデカい。俺もだが、この力を得てからアルトゥルとサカタ氏以外に格上と呼べる者と遭遇してこなかった!ピンチなんて言葉とは無縁だった!!一度劣勢に立たされるとなんて脆いんだ……!!)
極限まで追い詰められたことで露呈した致命的な弱点に歯噛みするレスコット。そして戦闘中にそんなことをのんきに考えてることもまた弱さなのだと青き龍に教えられる。
「水大砲」
ブシャアァァァァァァァァァァァァッ!!
「――ッ!?」
テクニックアストは右腕のライフルの銃口に拡張!大型化したそれから凄まじい勢いで大量の水流を放出し、泥人間へとぶつける!
「くっ!?だが!!」
しかし、水ならばいくら食らっても問題ないと言わんばかりに、その身体で吸収していく!
「学習しないな!!お前の攻撃は俺には一切通じない!!」
「学習した結果がこれさ。かつてオレはあんたのようにこちらの攻撃を徹底的に防いできた奴と戦ったことがある」
アストの脳裏に甦るのはイグナーツと同じく秘密結社T.r.Cに所属していたパーヴァリ。彼との戦いは勝利したもののアストに課題を残した。
「あの時のように徹底的に対策を取られたら……だからオレはオレへの対策の対策を考え続けてきた!!」
「それがこの大量の水によるゴリ押しか!!」
「そうだ!策と呼ぶには安直だが、このやり方も対策への対策の一つ!吸収限界を迎えるまで水をぶち込むか、もしくは水の勢いでそのまま吹き飛ばす!!こんな風に!!」
バシャア!バシャア!バシャア!!
「ぐっ!?俺の身体が!?」
アストの狙い通り、泥の身体は水を吸収し過ぎて緩まり始め、そのまま水流に洗い流されていく!またその勢いも凄まじくレスコットは望んでもいないのに、ジリジリと後退していった。
だが、それでも泥のエヴォリストは自分の方が分があると内心ではほくそ笑んでいる。
(このままこの水量をぶつけられると厳しいのは確か……しかし、これだけの量をいつまでも出し続けられるはずがない!ダドリー氏のように、いずれ反動で大きな隙を晒すことに……)
「生憎、しばらく水切れはないぜ」
「ッ!!?」
心の内を見事に言い当てられたレスコットは驚愕し、息を飲んだ。
「あんたの思っている通り、これだけの量の水の放出は長く続かない」
「だったら!!」
「だから適宜吸収するのさ……外部から」
「ッ!!?」
再び驚愕するレスコット。今の言葉で理解したのだ……今、この場がこの戦法をやるのに適した場所になっていることに!
「ダドリーのビームで溶けた氷か!?」
「正解」
テクニックアストは消費した水を足裏から、水浸しの地面から吸収した。すると……。
ブシャアァァァァァァァァァァァァァァッ!!!
「――ううっ!!?」
さらに右腕の銃口から放出される水の勢いと量が上昇した!レスコットは必死に歯を食いしばって耐える……が。
「ここにはまだたっぷりと水がある。あんたの相棒が頑張ってくれたおかげで」
「くっ!?」
「もしかしたら本当にタッグを組んでいたのはオレとダドリー・モアだったのかもしれんな」
「このくそがあぁぁぁぁぁっ!!?」
アストの言葉でこちらも心が折れてしまった。
きっと本来の力を発揮していたらもっと耐えられたかもしれないのに、ボロボロになった精神に呼応するように、身体中の泥はその粘性を失い、簡単に水流に弾き飛ばされていく。結果……。
「……それがあんたの本当の姿か」
表面を覆っていた全ての泥が洗い流され、覚醒レスコットの正体、枯れ木のように細くみすぼらしい本体が白日の下に晒されてしまった。
「笑いたければ笑え!!そうさ!俺はお前と違って泥の鎧を纏っていたに過ぎない!!水そのものに変身できるお前と違って俺は……!!所詮はB級の能力者なんだよ!!」
恐慌状態に陥ったレスコットは半ば自棄になりながら、自身にこびりつくコンプレックスを叫んだ。
そんな彼に……。
「そういうとこだぜボビー・レスコット」
「!!?」
そんな彼に容赦することなくアスト突撃!テクニックから通常形態に戻りながら、一気に距離を詰めた!
「あんた自身が誰よりも自分のことをバカにしている。エヴォリストだろうが人間だろうが、自分を信じられない卑屈な人間に勝利の女神は微笑まない」
「恵まれた人間が上から!!」
「だから上とか下とかばっか言ってんなよ!!」
ブゥン!!ドゴッ!!
「――がっ!?」
殴ったら逆に折れてしまいそうな細腕を必死に振り回したが易々と躱され、カウンターのパンチをもらう。さらに……。
「りゃあっ!!」
ガシッ!バゴッ!!
「――ぐあっ!!?」
頭を掴まれ、膝蹴り!続けざまに顔面を強打し、跳ね上がったところに……。
「ラスト!!」
ドゴオッ!!!
とどめの後ろ回し蹴り!覚醒レスコットは台風の中の木の枝のようにくるくると回転し、吹き飛ばされた!
「次!!」
「ひっ!!?」
続いて青き龍が爛々と輝く金色の瞳を向けたのは戦意喪失したダドリー。テクニック特化形態を解いたので、腕を串刺しにしていた水の針は消えていたが、ダメージは甚大で、ビームを出すどころか拳さえ握れない。
「待ってくれ!降参!おれ、降参するから!!」
「もうその話は終わったんだよ!!」
「ッ!!?」
迫り来る青き龍の鬼気迫る姿が一瞬、とある人物に重なって見えた。
(こいつも悪魔……アルトゥルと同じ!!)
ガシッ!
「蒼龍剛破!!」
グイッ!!ドゴオッ!!
「――がっ!!?」
覚醒アストは穴ダラケの覚醒ダドリーの手首を掴むと、無理矢理引き寄せ肘鉄!
鋭く尖った肘が鳩尾にめり込み、内部に残っている空気を、そしてダドリーの意識を押し出した。
「あんた達は強かった。もし経験を積んでない状態で戦っていたら完膚なきまでやられていただろう。出会う順番さえ違っていたら……なんて仮定の話をしても仕方ないか」
アスト・ムスタベ、六覚星のうち二つを落とす!




