2-41 天使に首ったけ?
「はーい、みんな並んでねえ」
とりあえずはアイスのお時間だ。
奴もアイスを配る御手伝いをしている。
合間に子供の頭を撫でているし。
私は子供達に向けて、にこにことアイスを差し出しながらも、私の右斜め後ろあたりで、そっと私の御機嫌を窺っているらしい草色のそいつに向かい、さらっと言葉を投げつけておいた。
「後できっちりとお話は聞かせていただきますからね~」
声こそは穏やかな物だが、明らかに決意と詰問を含んだその内容に、奴は困っているようだ。
だが、どうやら奴自身も、ここから何もなかった事にして逃げ出していく選択肢はないらしい。
「アメリーっ、監視者の方は?」
「はい、依然としてご健在というか、更にもう一つ増えましたね。
これははっきりした内容です。
多分どこかの治安機関の物ですね。
もう官憲に嗅ぎつけられてしまいましたか。
面倒な事になりました」
さりげなく、軽く周囲に視線のみを巡らせる感じにしてみたが、さっぱりわからない。
なんとなく見られているような空気は感じられるのだが、それも監視されていると聞いているからわかる程度だ。
何も聞いていなければ、私には監視の存在など知覚できなかっただろう。
「これ、何かの犯罪に当たるのかしら……」
「いえ、こんな事は聖女様の孤児院慰問に当たりますから、推奨こそされ通常なら特に問題などまったくございませんが、その結末が無事に終わるものかどうか、現在の情勢と場所柄が問題となっているのでございましょう。
別にサヤ様のせいではないのですが、こうなると我々も撤収が難しい状況でありますので非常に困ったものです」
「うーむ。アメリ的には、どういう落としどころがいいと思う?」
「なんといいますか、この孤児院なるものの防衛がなされる結末が望ましいかと。
防衛という言葉を用いるのもおかしい状況なのですが。
ここが狙われているわけではないので、ただの巻き添えという事になりますから。
なんといいますか、結論から言ってしまえば世間体的にどうという話なのですが。
まあそれ以外にも」
アメリは言葉を一旦区切って、その草色の奴に目線を走らせた。
「あれが一番問題だよねえ」
もう、子供達に他のお菓子なんかも配ってしまって、私もその子達の隣に陣取っていた。
もう、おやつタイムだもんね。
子供は、ざっと二十名くらいか。
この無残なスラム街の片隅に捨て置かれた、更に一際報われない一角。
そんな場所にいる子供達に対して、卑しくも神獣なる物が心を砕いたって、そうおかしくはないのだが。
そもそもこいつらは別に神様の御使いとかいう物ではないらしい。
第一このゴンスって、そういうキャラだったっけ?
今までの言動からして、私的には甚だ疑問に思うのであるが。
私は子供達の中でも一番年嵩で落ち着いていそうな子のところへ行き、そのお隣りへ座った。
今の私の格好は一種の半鎧みたいなものだけど、ジャケットは回復士のためのものなので、そう厳つい格好ではない。
頭の防護兜は脱いでいるし。
むしろ、元々回復魔法士は人助けをするタイプの職業なので、さほど威圧感のあるスタイルはしていないのだ。
そして、アクセサリーとして可愛らしいチュールを抱っこしているし。
そして意外な事に、チャックが子供達を上手にあやしていた。
意外な特技だ。
今までに、そういう任務もあったのだろうか⁉
あのまるで、どこのクトルゥー神だみたいなデザインをしているくせに、何故か小さな子供に群がられているし。
ここではあの子もポピー二号的な扱いなのだろうか。
「ねえ、君。名前は?」
「アブール」
「私はサヤだよ。
ここの責任者をしているような大人の人って誰かいる?」
「そんないいものがいるくらいなら、ここもこんな事にはなってやしないさ」
「そうか。
あのサラスールって、いつから来てたの?」
「サラスール?」
「あの草色で二足歩行モフモフの、通称名ポピーとやらの事よ。
略すとサルっていうんですって。
もうちょっといい名前に出来ないのかしらね。
まあ本人がそう名乗っているんだから仕方がないんだけど」
「ああ、あいつは今日来たばかりだよ。
よくわかんないけど、あんたが連れてきたチビ、アンジェラがいつのまにか連れてきてたんだ。
俺は面食らったんだけど、他のチビどもがな」
ああ、懐いちゃったのね。
この子達の事は人間の大人だってそう顧みないだろうから、優しく構ってくれるのなら草色のモフモフでもいいってか。
その辺は、さすが異世界だな。
アンジェラというのは、さっきのあの子か。
確かに天真爛漫な子なんだけどな。
地球風に言うと、アンジェラは確かエンジェルみたいな名前だったか。
しかし、一体何故、あのモフモフが。
あるいは私が勘違いしているだけで、もしかしてあの天使様に懐いているのは、あのモフモフの方なんじゃ。
天使に首ったけ?




