2-42 悪魔聖女の従者は万能です?
「ここ、屋根ないんだね」
「御覧の通り、まともに壁すらないよ」
「御飯は?」
「くれる奴はいないから、自力で稼ぐさ。
まあ立派で真面な仕事なんて一度もやった事はないよ。
そんな物にはお目にかかった事もないしさ」
「そうか。
あたしも仕事というほどの物はした事ないよ。
この街へ来るまで、身分証も持たない流れ者だったしね」
「え、マジで。
だって、あんな立派な馬車に乗って、なんか凄い格好をしているじゃんか」
「まあ、流れ者だけに流れでね。
これ見てよ」
私はその子に、胸に下げた立派な神聖聖女徽章を見せてやった。
彼は目を丸くしている。
そして沈黙した。
「なんか、私って聖女様なんだってさ。
私、普通の女の子なんだけどね」
少年は少し口籠るような感じで再び話しかけてきた。
「……偉い人がここを壊しに来たの?
俺達を追い出して」
「馬鹿ね。
偉い人がここなんかに構う訳がないじゃない。
屋根がなかろうが、壁がなかろうが、あんた達がどうなっていようが、王都の偉い人達は誰も気にしないよ。
みんな腫れ物に触るようにしているだけ。
空気と同じ扱いよ」
お陰様で、この仮にも聖女と呼ばれているような私が、現在ムカつきまくっているわけなのですが。
「そうか、そうだよな。
なるほど、お姉ちゃんはポピーを連れて帰るために来たんだね」
「まさしく、その通りなのですが、あの大馬鹿者がどうやら帰りたくないらしいので」
「へえ、なんで?」
「たぶん、あんた達がここでこんな風にしているからよ。
何か御世話をしたいんじゃないの?
何の気まぐれなのか知らないけど、碌に能もないくせにね。
頭が痛くなっちゃうわ。この私の枕の分際で」
「あれが枕なの」
「そうよ。とってもモフモフな奴。
まだ一回も使っていないんだから」
「確かにモフモフだね。
僕らなんか枕なんて使わないけど。
布団すらないしね」
「じゃあ、今度プレゼントしてあげる」
「その前に屋根が欲しいな」
「あっはっは、でもあの壁は危ないから壊した方がいいわね。
そのうちに崩れるわよ。
屋根の前に土地を開けて、土台からなんとかしなくちゃ。
ここは誰かの土地?」
彼は首を振った。
「ここじゃ、力の強い者がすべてを手に入れるんだ。
だから僕達には、この廃棄されて誰も使わない壁だけの場所しかないんだ」
「大丈夫。
曲がりなりにも床みたいな物はあるじゃない」
「確かにねー」
そうか、力がすべてか。
ねえ、凄い力というか権力があるという触れ込みの神聖聖女徽章様。
あんた、ちょっとだけ活躍してみる気はある?
「ちょっと、私行ってくるわ」
「え、どこへ?」
「すぐそこよー。
すぐ戻ってくるから」
「へえ?」
そして、私はあの子供と一緒に無心に遊んでいるモフモフ野郎を除く、聖女パーティをかき集めた。
「全員集合」
「何です、サヤ様」
「アメリ、連中の場所はわかるかな。
例の第四勢力の連中」
「ああ、それならチャックの方が的確に探せると思いますが、あいつらをどうすると。
あれは放置しておいても実害はないかと思いますが」
「だって人手は欲しいじゃないの」
私はそう言ってから、ここの場所を見回すと、最後に子供達を見つめた。
そして、神聖聖女徽章をアメリの目の前に掲げて陽光に煌めかせた。
このお日様の光だけは、ここスラムの子供達にも平等に降り注ぐ。
彼らを打ちのめす風雨や雪なんかも。
アメリは一瞬呆れたように眉を寄せたが、次の瞬間には大爆笑した。
「あっはっはっは。
やっぱり、サヤ様は面白い。
じゃあ今から人間狩りに行きますか?」
「いやね、アメリ。
人聞きの悪い事を言わないでよ。
ただのボランティアさんの募集よー」
『本官といたしましては、彼らに構うのはあまり得策ではないと考察いたしますが、聖女サヤの常時明後日の方向を目指し続ける熱意と行動には感服するというか、個人的には大変興味があると告白しておきます』
「あははは、ありがとう。
じゃあ、連中の捕獲は君に任せていいかな。
我が忠実なる魔物騎士チャックよ」
『お任せを。
彼らは現在、ここより百メートルほど離れた場所にて、当方を監視するためにスラムの住人に擬態中。
四名、いや少し離れた場所で排泄行為中の一名を入れて五名グループです。
捕獲までの所要時間は三十七秒ほどだと、本官は聖女サヤに予告しておきます』
「あ、待って。立ち小便中の奴に関しては……」
もういなかった。
「ああ、間に合わなかったか」
そして彼は速やかに戻ってきた。
五名の獲物をきっちりと拘束して。
『申し訳ありません。
四名を捕らえるまでに二十三秒、五人目を捕えようと思えば、三十二秒で可能でしたが、思ったよりも彼の小便のキレが悪かったために少し待たねばならなかったので予告よりも十秒ほど余計にかかってしまいました事を、本官は聖女サヤにお詫びいたします』
「あはは、チャックご苦労様。
あんたって本当に出来ない事はないんじゃないの。
ようこそ、アースデン王国官吏の諸君。
この聖女サヤの招集に快く応じてくれた事に、この神聖聖女徽章の威力を持って大いに感謝する!」
私のドヤ顔に少年アブールは呆れ顔をし、アメリは輝くような笑顔でもって答え、チュールは嘆息し彼らの事を憐れんでいるようだった。




