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ログホライズン外伝if ~1人で行う世界制覇~  作者: 夜の狼
番外編 ~西へ……~
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ミナミへ向かって

今回で、番外編は終了です。

 さて、イガの街を救ったアンジェロに残されていた、次に解決するべき問題とは何だろうか。まず、「悪魔の檻(あくまのおり)」に拉致(らち)されて来た冒険者は30人程も居て、その全員がレベル60以下なのだった。それ以外でイガの街に封じ込められていた者達は、監視が無くなって自由になると、喜んで各自が好きな場所へと散って行った。

 そして、囚(とら)われとなっていた者の中には、この街で知り合ったそういった格上の冒険者に付いていった者も居たが、それが出来無い者達をどうするか、それが問題だったのだ。

 このままイガに留まる者も居るかと思い、アンジェロは悪魔の檻に強制的に加入させられていた者達に聞いてみたが、誰もこんな嫌な目に遭った場所には居たくないというのが本音だった。

 そして、まだレベルが低いうちに誘拐されて来た為に、人脈(ネットワーク)構築も、ほとんどが同じ境遇のギルドメンバー同士で、助けを頼める者や迎えに来てくれる様な知り合いも居なかったからだ。

(まあ、やるしか無いだろう)

 アンジェロはそう思うと、イガから出たいという希望者の人数を数えた。すると、合計で24人になった。人数的には6人パーティーが4つ出来る計算になる。次に、そのメイン職を見て内訳(うちわけ)を考えた。

 多少レベルやメイン職が不揃いではあるものの、各パーティーの中心としてまず1人づつ回復役を据(す)えた。それを基点にして前衛を配置して行き、中衛、そして後衛と加えて行く。

 そうして、出来る限りレベルと戦力を均(なら)したパーティーを4つ作ると、アンジェロはミナミへ向かうキャラバンを編成した。

 イガからミナミへ向かうルートは、ほとんどが森林や山岳地帯であり、出現するモンスターも野生動物に近いものになる。また、純粋なモンスターでは無いが、野生の原生生物の中にもモンスターとして扱われる種類がある。狼や猪、鹿や熊、そして鳥や巨大化した昆虫に節足動物、爬虫類(はちゅうるい)などが戦う相手である。

 アンジェロの中のプレイヤーは、極めて優秀な作戦の立案と、それを遂行(すいこう)する能力を持っている。自らは後方であまり動かずに、4つのパーティーの動向をしっかりと掴んで、的確な指示を飛ばしていた。

「はい、第1パーティーの守護戦士(ガーディアン)。ターゲット管理が甘い。第2パーティーの妖術師(ソーサラー)、火力上げ過ぎ。それじゃ君に敵の目が向くでしょ。第3パーティーの施療神官(クレリック)も、回復急ぎ過ぎだよ。もっと徐々にしないと。いきなり大回復したらヘイト上るよ。第4パーティーは、回復中の第3パーティーを援護して、近寄るモンスターを引き受けて」

 そんな感じで、指揮というよりは指導に近い形で戦闘を続けながら、アンジェロの率いるキャラバンはミナミを目指した。

 驚いた事に、アンジェロは自分がパーティーやレイドを組まなくても、各パーティーの戦力を大体だが把握しており、1戦闘毎の流れが読めるのだった。これが、茶会の参謀補佐の実力である。


 基本設定として、モンスターはレベルの下限がそれと戦う冒険者に対してー5レベル以下の違いなら、倒して経験値が入る様になっている。もちろん、それ未満や逆にそれ以上ならば得られる経験値も上って行く。しかし、レベルが上って行くに連れて、当然ながらモンスターも強くなる為に危険度も増大する。

 低レベルの頃ならば多少の無茶も許されるが、冒険者としてのレベルが上って行くと、自分と同程度のレベルのモンスターになれば、倒すのはかなり難しくなり、5レベルも上るとお手上げ状態になる。

 それをカバーするのが、パーティー、ないしはレイドといった集団戦闘である。ここは主要な街道から外れているので、その分安全度が低い。

 以前に、記録の地平線(ログホライズン)のミノリやトウヤ達若輩組が、「魔法の鞄」の作成クエストの為にアキバから西進するのに使用した街道は、いわゆる東海道でありメジャーなルートであったせいか、あまりレベルの高いモンスターは出現しなかった。街道沿いではレベル20より若干高い程度で、少し奥まった場所でも50を越える様な事は無かった。

 しかし、きちんと街道として整備されていない、イガ付近のモンスターレベルは30~50程度とそれよりも高く、さらに街から離れる程にモンスターのレベルも上ってくる。現在では70レベルくらいのものが出現する様になっているのだ。

 それに対して、キャラバンの平均レベルは50くらいである。1パーティーで戦うには、少しばかり荷が重い。なので、模擬(もぎ)レイドの様な形で集団戦闘を行いつつ、ミナミを目指しているのだ。

 けれど、経験値を別にして考えると、現在このキャラバンにはアンジェロという最高にして最強の顧問が同行しており、安全度という点では他に比類無きものであった。

 なお、似た様なものだがシロエの「全力管制(フルコントロール)戦闘(エンカウント)」に比べると、アンジェロの「それ」には明確な違いがあった。シロエの「全力管制(フルコントロール)戦闘(エンカウント)」は、通常戦闘では言うに及ばずだが、その真価を一番発揮するのは、常にぎりぎりの状態の戦闘においてである。それに対して、アンジェロの指揮能力はこちらの戦力に余裕がある時において、その圧倒的優位さを利用するものだ。

 つまり、シロエはダンジョンやレイド、それにボスなどの局地戦に特化しており、アンジェロは広い視野でのザコ殲滅戦に特化と、明確な違いがある。強敵との戦いにおいて、あらゆる手段を用(もち)いながらぎりぎりのセーフラインを保つ事で決して損害を恐れず、緻密(ちみつ)な作戦を組み立てて最後に勝つ=クリアーを目指すのがシロエであり、いかに消耗を抑えながら、合理的により多くの戦闘を行うかがアンジェロである。

 もし仮に、同じ戦力を率いてシロエとアンジェロが戦ったなら、序盤から中盤はアンジェロが優位に立つが、終盤で戦局をひっくり返す可能性があるのはシロエである。それが両者の違いだ。


 ただし、現在の目的はレベル上げでは無い。この24人の中級クラスの冒険者で構成されたキャラバンレイドを、安全にミナミの街まで連れて行く事。これだけである。

 なので、アンジェロは意図的にモンスターを挑発して呼び寄せる様な行為はしなかったが、そもそも、レベル100などという馬鹿げた強さの冒険者に絡んで来るモンスターなど、ほとんど存在するはずがなかった。

 しかし、意図的にモンスターを呼び寄せる様な事などしなくても、日頃から全く冒険者が存在しない手付かずの地域(エリア)である。野外フィールドと言ってもモンスターの密度は必然的に濃くなる。そのせいで、こちらから探しに行かなくても、黙っていても次から次へと一行目掛けてモンスターが襲って来るのである。

 いくら24人というフルレイド態勢でも、相手になるモンスターのレベルは、時に20以上もそれと戦うパーティーの平均レベルより上になる。1戦ごとの消耗はあまり大した事が無くても、それが何十回と続けば、自然とHPやMPの回復が追い付かなくなるし、矢弾や装備の消耗も激しい。

 幸いな事に、元から存在している野生の生物がベースとなったモンスターは、まとまった数の集団で行動するものが少ない(集団で社会生活を営む、狼などのイヌ科の生物や蜂や蟻などを除けば、群れで狩りをする熊や猪、それに爬虫類や節足動物が居るだろうか)。もしこれが一度に何匹も群れを成して襲って来たら、とてもこのキャラバンレイドでは対応出来ず、アンジェロが全て相手をする事になっただろう。

 アンジェロは、モンスターとの遭遇(エンカウント)が一瞬途切れた時を狙って、

「それじゃ、後はあたしに任せて」

 と皆に言うと、それまでの沈黙を破り、たった1人で出現するモンスターを全て倒してしまった。もっとも、これまでに危険と判断した時には迷わず援護の手を差し伸べた事もあるが、これは普通の狩りなどの戦闘とは違うので、アンジェロの指揮や統率能力に落ち度がある訳では無い。

 なぜなら、普通レベル上げなどの狩りの獲物には、自分達と同じかせいぜい5レベル程度高いモンスターを対象にする。長時間安全で安定した戦闘を継続的に行うのに、それが最も適した方法だからである。

 はっきり言うと、現在の戦闘状況は明らかなオーバーワークであり、ここまで安定した行程を進めている事について、逆にアンジェロの手腕を誉めるレベルである。

「さあ、これで大丈夫。今のうちに休憩したり修理をして態勢を整えておいて」

 アンジェロはそう言うと、さらなる安全の為に周囲の警戒へ行ってしまった。

「凄え……。一体あの人って何者なんだ……」

 持っている剣を支えにして、へたり込んだ1人が息を整えながら言った。

「何者だっていいわ。少なくとも、私達を助けてくれているのは間違い無いし」

 荷物から水筒を取り出してその中身を飲みながら、別の誰かが言った。

「まさか……、神様(=GMか運営の人)って事は無いよね?」

 ぽつりと漏らされた言葉に、

「それこそ、本当にまさかだぜ」

 そう言いながら、また別の誰かが笑った。

「でも、たった1人でギルドを丸ごと1つ潰しちゃうなんて、神様じゃなければ無理かも」

 今はパーティーに入っているマルンがそう言うと、

「何だか、戦いの神様みたいだね」

「と言うより、戦乙女(ワルキューレ)って感じ?」

「戦乙女かあ……。そう言えば、強いだけじゃなくて綺麗(きれい)な人だよねえ」

 その言葉に、

「まあ、俺達にとって見れば、確かに戦乙女かもなあ」

 誰かが、頷(うなづ)きながらそう言った。


 イガからミナミーーつまり、伊賀地方から大阪地方までーーは、現実の世界だと50kmを少しオーバーするくらいである。ハーフガイアプロジェクトのセルデシアだと、30kmに少し足りない距離だ。健脚な者なら1日とかからずに辿り着く事が出来る。

 しかし、道中は平坦では無くて厳しい山岳地帯と森林地帯が合わさった地形であるし、モンスターだって出現する。普通に歩いても1日で到達する事は難しい。ましてや、24人もの人数で編成されたキャラバンレイドであり、さらにまだ不慣れな部分が多い中級冒険者の集団だ。その行軍速度が遅くても仕方の無い話である。

 けれど、決して遠足や物見遊山的なものではない。この行軍では、特に戦闘による経験値の獲得が大きい。わずか足掛け2日程の、およそ旅とは言えない短い期間であったが、キャラバンのメンバーは、皆それぞれがイガを出る時に比べると、著しい強化をされていた。

 もちろん、単純にレベルやスキルの話だけでは無い。アンジェロから教わった様々な事柄も、彼ら・彼女らにとっては、とても大事で貴重な経験だった。

 アンジェロは、キャラバンがミナミ入りする直前に、メンバー全員に向けて現在ミナミが置かれている状況を懇切丁寧(こんせつていねい)に説明した。

 ミナミでは、「Plant(プラント) hwyaden(フロウデン)」というギルドが、事実上の一党独裁統治を行っており、必ずしもそのやり方は万人が受け入れられる状況では無い事。

 もしミナミで今後暮らすつもりが無いなら、Plant hwyadenが勧誘の形を借りた強制入会を迫って来る前に、早々にミナミを立ち去る事。

 アンジェロは、そういった事を説明しているうちに、少し複雑な心境になっていた。なぜなら、Plant hwyadenの中核を形成している幹部の「カズ彦」や「KR」は、茶会時代の馴染みの顔でもあったからだ。

 そして、彼らがアキバに対して必ずしも好意的、あるいは友好的な態度や行動を取る可能性が保証されない以上、短い時間ではあるが自分が面倒を見て育てた将来有望な人材が、ミナミに流入してPlant hwyadenに加入する事は出来れば避けたかったからだ。

 アンジェロは、それらも鑑(かんが)みた上で、もしミナミを去って関東方面--アキバの街--へ行くならば、自分が口を利いて上手く取り計らう事を約束すると、紹介状の様なものを各自に一筆啓上した。それら紹介状の宛名は、はた迷惑な事にシロエであったが、おそらく彼が一番上手くやってくれるだろうという推測からだった。

 こうして、イガからのキャラバンは無事にミナミの街へと到着した。一度に大勢が街へ入ると目立つ為、街の入り口でキャラバンを解散すると、小人数に分かれてミナミへと入った。

 キャラバンのメンバーが、それまでの事のお礼を言おうとアンジェロを探したが、その姿はすでにミナミの雑踏の中へと消えていた。

 アンジェロは、キャラバンのメンバー達に、なぜ自分がミナミを目指しているか、最後までその理由を語る事は無かった。

番外編、いかがでしたでしょうか。お楽しみいただけたのなら幸いです。なお、ご意見がありましたら遠慮無くどうぞ。

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