”おかし”なお店
かなりお待たせして申し訳ありませんでした。最新話を投稿いたします(投稿する場所を間違えましたので、この位置でやり直しです)。
アンジェロのスィーツバイキングのお店の噂うわさは、瞬く間にアキバ中を駆け巡った。アンジェロは、別に誰に言うでも無いし、特別に宣伝したり、反対にかん口令を布しいた訳でも無い。ただ、冒険者というものは、常に新しい刺激を求めているものである。
単に、底無しの胃袋を持つ冒険者を相手にして食べ放題の商売をするという、ある意味で酔狂、またある意味で奇特きとくな者が、これまで居なかっただけの話である。
特に、アンジェロの店の料金設定は、食べる事だけに集中すれば楽に元が取れる金額であったし、好きな物を好きなだけつまみながら、お茶をしたりだべったり出来る空間の提供と言うだけで、(大地人を含めた)アキバの住民にとっては、十分に魅力的な話でもあったのだ。
さらに、アンジェロは店内の内装はもちろん、店の外見にも1つ工夫をしていた。例えば、焼肉店やラーメン屋など、イメージが男性っぽい店というのは、女性が1人で入りにくいものである。逆に、男性が1人で入りにくい店というのも存在する。それが、こういったスイーツや甘味の店だ。
アンジェロは、そういう事も考えて、いわゆる女性らしさや女の子らしさといった、ファンシー風味をあまり全面に押し出さない風にしたのだ。アンジェロは(あくまでも自称だが)自らも男性という事もあり、そういう事にも気が回るのである。
っと言っても何の事は無い。寿司屋の出入り口(2つの店をくっつけた為、出入り口は複数ある)の看板だけをスイーツの店に取り替えて、そのまま使用しているだけである。しかし、効果は絶大であり、単独の男性客はそちら側からの入店が圧倒的に多く、新しい入り口から入店してくるのは、カップルやグループの客ばかりだった。
「いらっしゃいませぇ。4名様ですね、こちらへどうぞ」
軽食販売クレセントムーンで慣れているのか、セララはてきぱきと接客をこなしていた。少しおどおどしたり恐縮しながら、ミノリと五十鈴も接客業務をしている。
「アンジェロ、トレイのおかわりだ」
「あいよ、種類は何?」
「え~とだな、『シュトレン』だ」
アカツキに言われて、アンジェロは真っ白い筒の様なものを取り出した。
シュトレンというのはドイツのお菓子の一種で、主にクリスマスが近くなった頃に食べるものである。
「ちょっと待っててね」
アンジェロはそう言うと、今取り出したものを輪切りにスライスし始めた。長さ30cmくらいの筒を2本、2cm幅くらいにスライスすると、それをトレイに盛り付けてアカツキに渡した。
「アカツキも接客したら?」
アンジェロにそう言われたが、
「そ、それは困る。忍びというのは目立ってはいけないからな」
アカツキは少し赤くなると困った様な顔でそう言って、シュトレンの乗ったトレイを棚へと持って行った。
そんな彼女とは対照的に、てとらは実にノリノリで接客業務をこなしていた。
「は~い。4名様ご案内だよ~」
過剰とも言える愛想を振り撒まきながら、お客をテーブルへと案内している。
記録の地平線ログ・ホライズンガールズは、常に満席状態になっている店内の給仕とレジ業務をせっせとこなしていた。ただ、アカツキはどうしても接客が出来ず、もっぱらケーキのトレイの交換や、ーー有り得ない事だがーー不正(こっそりケーキを魔法の鞄に詰めて持ち帰ろうなど)を働く客が居ないかなど、店内の巡回をしている事が多かった。
それにしても、ケーキトレイの入れ替えは激しく、アカツキは短い時間で何度となく厨房とトレイの載った棚とを往復する事となった。
何せ、1人が1個のケーキを食べる度に取りに行くのではなく、あらかじめ取り皿に3~4個のケーキを抱えて、それを食べながら会話に花を咲かせている。
しかも、冒険者の胃袋は底無しで、皿にある手持ちの分を食べ切ってしまうと、また新たに3~4個程をまとめてテーブルへと持ち帰るのである。
それに加えて、今までに誰も残していないのだ。無論だが、アンジェロの作るケーキが美味しいのは当然として、楽しいおしゃべりというのは食欲を増進させる効果があるらしい。
客の中には男性の1人客も居て、黙々とケーキを口へと運んでいるのだが、そうやって少しでも時間内に1個でも多くのケーキを食べようとしている人に限って、あまり個数を食べられていないのだ。
やがて、「もう、これ以上は食べられない」というーーしかし、満足そうなーー顔をしながら、時間を余らせて退店して行くのだった。
アンジェロは、先読みして減りが早いものや調理に時間が必要なものから優先して作っていたが、現場で作る分だけではさすがに間に合わず、あらかじめ用意していたものも魔法の鞄から取り出しては補充していた。
コマンド調理が有効なら、それでいくらでも作る事が出来るのだが、今のエルダー・テイルの世界では駄目なのが恨めしい。
「やれやれ。さすがに冒険者の胃袋は凄いなあ」
そうつぶやきながら、アンジェロはどこか楽しそうにケーキを作り続けた。
火の精霊サラマンダーを使ったオーブンはフル回転状態であり、同じく氷の精霊フェンリルを使用した冷蔵庫と冷凍庫も絶賛稼動中である。
彼女は、以前にも述べたが先見の明があるのだが、そのアンジェロをもってしても冒険者の食欲というのは、予想より上を行っていた。
その勢いは、先の回転寿司の物理的消費を軽く上回るものであった。客の大部分が女性であり、別腹を持っているのもその理由だろう。
「こんな事もあろうかと、っと!」
どこかの技術者か研究者が言う様な台詞セリフを言うと、アンジェロは魔法の鞄から最も時間のかかるケ-キのストックを取り出した。
「これでしのいで、数が足りない物から優先的に作成だ!」
そう言うと、生クリームでデコレーションした生地の上に、苺をぽんぽんっと乗せてカットして行った。
普通、食事というものは、食べるか喋しゃべるかどっちかにしろと言われるものだが、それを両立させてしまうのが、主に女性というものである。
実際、アンジェロの店の客は、良く食べて良く喋って良く笑っていた。店中が、明るい女性達の笑い声で満ちている。
(こんなんで、良く人の声が聞き分けられるもんだ)
と、アンジェロは少し感心している。同時に、少しそういう環境が苦手でもあった。そして、アンジェロと同じ様な事を感じているのが、アカツキである。
元々人見知りが激しい彼女だったが、マリエールやヘンリエッタ、そして何と言ってもレイネシアである。彼女達と一緒にしばしばお茶を嗜たしなむ事で、少しずつ人と馴染む事を覚えて行ったのだ。
「アカツキさ~ん。ちょっとすいませ~ん」
ふと、ミノリの声が響いた。
「どうしたのだ?ミノリ」
空のトレイを両手に持ち、厨房へ行きかけたアカツキが、首だけ向けて答えた。
「レジにヘルプお願い出来ませんか?誰も手が離せないんです」
ミノリのその声に、アカツキの表情が固まる。
「わ、私にレジの仕事をやれだと!?」
いくら少しは人慣れしたと言っても、アカツキは人と接するのが苦手である。それを、よりにもよってレジで接客業務をやれと言うのだ。
(ほ、他に誰か……)
アカツキは、トレイを持った状態で完全に硬直しながら、首だけで周囲を見回した。
だが、ミノリが言った様に、誰も手が離せる状態では無かった。
「わ、私だってその……今、トレイを入れ替え中であってだな……」
かなり困った表情で、アカツキが口の中でもごもごと答える。
しかし、トレイの入れ替えなど、アカツキの技能スキルを使用すれば一瞬で終わる。それに比べて、テーブルへお客を案内したり、案内した客へシステムの説明をするのは、そうすぐには行かない。
(ええい、仕方が無い!)
アカツキは、覚悟を決めると一瞬で厨房へ戻ってケーキの補充をした。そしてそのままレジへと向かう。まさに風の如くスピードだった。
「お、お待たせいたしました」
いつもと違う口調と、かなり不自然に引きつった笑顔で、アカツキがレジで客の対応をした。これでも彼女にとっては精一杯の努力である。
彼女が応対した客は、イートインでは無くて持ち帰りの注文だった。
再びアカツキは風の様なスピードでショーケースから注文の品を出すと客に渡し、代金を受け取ると再び(まだかなり固い)笑顔で客に頭を下げた。
「あ、ありがとうございました」
お辞儀をしながら彼女は、
(接客というのは、モンスターと戦うよりも疲れるな)
と、思っていた。
「何だ、やれば出来るじゃないの」
厨房から顔を覗かせながら、アンジェロが言った。
「い、今は緊急性があったから、やむなく私がやっただけだ」
少し顔を赤くしながら、しどろもどろでアカツキが答える。
「その調子で、レジにも入ってくれると助かるんだけどね」
「に、二度とごめんだ」
アカツキはそれだけ言うと、また店内へと戻ってしまった。
「やれやれ、相変わらずだねえ」
アカツキの後ろ姿を見ながら、アンジェロはそう思った。
はたから見れば、彼女は小柄で実に愛らしい美少女である。それがメイド服を着ているのだから、普通に考えれば人目を引かないはずが無く、それだけで店の十分な”ウリ”になるのであるが、あの調子ではとても客寄せパンダにはなりそうもない。
もっとも、外見だけならアンジェロ自身が、それ相応の美貌びぼうとプロポーションの持ち主であるのだが、この店はそのアンジェロ本人が料理人として経営しているので、自ら客を接待出来ないのだ。
彼女の店は、延長無しの1時間制限なので待ち時間にも限界がある。その為に客の行列が途切れる事は無かった。しかしそれでも、当然ながら人の手には限度があるので、記録の地平線ログホライズンガールズだけでは、仕事が間に合わない事も多い。
よって、大地人のアルバイトも数人程度だが入れてある。ゲームの名残りのせいか、基本的に大地人は与えられた仕事でミスをする事は(あまり)無い。その上、現在は独立した存在として個人の判断でも動く事が出来るので、雇った側としても使い勝手が良いのだ。
しかも、アンジェロは気前が良いので、大地人に対して出来る限りの設定で賃金の支払いを約束した。冒険者からの報酬というのは、大地人にしたら破格である。アンジェロの店には、その為に彼らーーもっとも、採用するのは女性のみだがーーからの応募が殺到する事となった。
採用の基準は、ずばり外見ルックスである。しかし、元がNPCである彼女らは、レイネシアなどの特別な存在を除けば、多少個人差(と言うか個体差)もあるが余り代わり映えがしない。アンジェロは、ホール担当は店の制服であるメイド服がどれだけ似合うかも、審査の対象とした。
だが、大地人ーー特に女性ーーには、本来の役割によって当然ながら「主婦」や「家事手伝い」など、何かしらのサブ職を持つ者も居る。そういう場合は皿洗いや店内清掃などの裏方業務へ回ってもらう事にした。
ただし、当然だがセララは別である。彼女のサブ職は「家政婦」だが、現在はホールに出てもらっている。それに、彼女には彼女なりの魅力というものがある。それを活かさないというのは、商売戦略上で”ザル”と言うものだ。実際、メイド服のセララは、それなりに可愛らしいものである。
そういう点においても、アンジェロというのは実に抜け目が無い人物なのだった。
(う~ん、策士だなあ)
アカツキが緊張しない様に、こっそりと店を覗いたシロエは、そう思った。
投稿場所を間違えるという、実にしょうもないミスをして申し訳ありませんでした。だいぶあせって仕上げましたので、おかしい部分があれば、修正して行きます。




