”おかし”な話
お待たせして申し訳ありません。お久しぶりの投稿です。今回は、また少し日常を描いた内容になっています。なお、この話が章の終わりではありません。本編はまだ続きます。
※矛盾の解消の為、一部の内容を修正いたしました。
「奈落の参道」の完全攻略を終えたアンジェロは、ギルド「記録の地平線」の仲間達と雑談をしていた。
「しかし、とうとうレベルをカンストさせちゃったんですね」
レベルが100と表示されているアンジェロに、シロエが驚きを隠せない表情で言った。もちろん、驚いているのはシロエだけでは無い。ギルドのメンバーはもちろん、アンジェロを見た人全てがそのレベルに驚きを隠せなかった。
最近だが、誰がいつ言い始めた訳でもなく、アンジェロは「魔剣のアンジェロ」の2つ名で呼ばれる様になっていた。
ただ、同時にだが「ドラゴンをも素手で殴り倒す」だの、「地獄の鬼でもまたいで通る」など、散々な言われ方をする様にもなっていた。中には、「ミノカサゴ」などと言う者も居た。「海金魚」とも例えられる様に、この魚は美しい外見と裏腹に、全身に猛毒の棘を持つからである。
さらに、様々な思惑でアンジェロを引き抜こうとする者や、反対に記録の地平線への入会を希望する者もあったが、アンジェロは絶対に移籍しようとしなかったし、シロエも無意味なギルドの増員を望まなかった。
「アンジェロ姉ちゃん、マジで凄えな。本当に”この世界”最強だぜ」
トウヤが興奮した様子で言った。
「全くだな。レベルカンスト祭り」
腕を組んで頷きながら、直継も同意する。
「それで、これからどうするんです?」
シロエに聞かれてアンジェロは、
「実は、ちょっとやりたい事があってね」
そう答えた後に、
「それと、シロエ君にも頼みがあるんだ」
と、付け加えた。
「僕に頼み、ですか?」
シロエに聞き返されて、
「うん。シロエ君にぴったりの依頼さ」
アンジェロは、不敵に笑って答えた。
それからしばらくして、アンジェロは再び生産系ギルドの最大手「海洋機構」のギルドマスター「ミチタカ」と、「第8商店街」のギルドマスター「カラシン」を訪ねていた。
本来は別々に訪ねる必要があったところ、偶然カラシンが海洋機構に居た為、その手間が省けた。この2人は、ライバルというよりも相互協力者という感じで、自然と一緒に居る事が多い。
「今度は、うちに何をやれってんだ?」
ミチタカがアンジェロに聞いた。
「寿司屋の店舗の隣を買ったんで、今度はそっちの改装をやってもらいたいのさ」
アンジェロが答えると、
「どんな風にすればいいんだ?」
ミチタカが続けて聞いて来たので、アンジェロは構想を話した。
「……それは至って普通だな。さすがに前回とは違うか」
「まあね。こういう店って、下手に奇をてらうとろくな事にならないからね」
ミチタカの言葉に、アンジェロはそう言って笑った。
「けどよ、本当にいいのか?俺としては、もったいないと思うんだがな」
ミチタカが聞くと、
「いいのさ。また必要になったら、改装し直すから」
アンジェロが答えた。
「今回の食材も、またずいぶんと偏りがあるんですね」
カラシンがアンジェロに言うと、
「まあ、店が店だからね」
そうカラシンに答えた。
「それより、時期的に入手しにくい食材については、どう?」
アンジェロに聞かれて、
「お任せ下さい。うちの名誉にかけて、頼まれた物は必ず揃えます」
カラシンは、胸を張って言った。
「……アンジェロ。なぜ私までが、この様な格好をせねばならんのだ?」
ヘンリエッタに、
「アカツキちゃん、可愛いですわ!素晴らしいですわ!最高ですわ!もう、これで私、思い残す事はありません!いつ死んでもいいですわ!」
と、テンションMAXで”もふもふ”されながらジト目になったアカツキが、恨みがましい視線をアンジェロに向けながら言った。
「私、こんな服、今まで着た事が無いんだけど……」
少し困惑した顔で、五十鈴が言うと、
「私だって初めてです」
ミノリも頷いて言った。
「わ、私、似合っているかしら……?」
セララも少し……と言うか、かなり恥ずかしそうだった。
「ええやん、ええやん。みんなよう似合ってるでえ」
マリエールが、そんな3人に対して、満面の笑みを浮かべながら言った。
「えへへ、ボクはアイドルだからね。何を着ても似合うんだよ。ああ、またこれでボクの人気は、うなぎ昇り、滝昇りだよ。も~、困っちゃうなあ」
てとらは1人で盛り上がって大はしゃぎしている。
一体何をしているのかと言うと、衣装合わせだった。全員が、ゴスロリファッションのメイド服を着せられている。
黒を基調にして、白いレースの縁取りがされ、袖を丸く絞った半袖のワンピースに、同じく服の前面には白いエプロンと、頭にはティアラを象った白い髪飾りを付けたそれは、どこからどう見てもメイドの衣装である。
スカートの丈は、膝上10cmくらいの微妙な長さだったが、それは着ている皆が恥ずかしくないギリギリといったところだ。
てとらを除いた、記録の地平線の女性メンバーは、基本的にあまりこういう女性をアピールする衣装に慣れていない、と同時に気持ち的にも抵抗があった。
なお、サブ職が「家政婦」であり、メイドに最も近いはずのセララも、実際にはこの様な服を着た事は無い。
しかし、全員拒否する事は出来なかった。なぜかと言うと、これは依頼であり、仕事だからである。
アンジェロは反則的な事に、シロエに頼むと筆写師のスキルで依頼書を作ってもらいーーシロエへの頼みとは、この事だったのであるーー、ギルドの女性メンバー(と、セララ)限定で受けてもらったのである。内容は、
「依頼 洋菓子屋の店員」
である。アンジェロが出店する予定であるスイーツ専門店の、臨時日雇い店員が仕事だった。しかしまさか、この様なフリフリのゴスロリメイドファッションの衣装を着せられるとは、誰も予想をしていなかった。
「うう、謀られた……」
何とも情け無さそうにアカツキがつぶやくと、
「制服の事までは聞いて無かったからねえ」
それに答える様に、五十鈴が言った。
衣装合わせが終わったところで、アンジェロ達はギルドのメンバーにも、そのお披露目をした。
「おう、ちみっ子。可愛いじゃないか。馬子にも衣装だな」
そう軽口を叩く直継に、アカツキがいつもの様に飛び蹴りをかまそうとするのを、
「その服でやったら、見えるぞ」
と、アンジェロが止めた。
「……う、後で覚えていろ」
それを聞いて、直継の顔面まで跳び上がりそうになるのを寸前でこらえると、悔しそうにアカツキが言った。
「アカツキ、良く似合ってるよ」
シロエが必死でフォローしようとする。
「まるで、お……」
「お人形さんみたいだ、なんて言うな」
「うっ」
天秤祭の時と同じ様に、察したアカツキにシロエは釘を刺される。
「セララち、とても可愛らしいですにゃあ」
にゃん太に誉められて、
「えへへ、ありがとうございます」
セララは顔を真っ赤にしながら、
(このまま、にゃん太さん専属のメイドになって、そしたらいつの間にか奥さん……そうなったらどうしよう!?)
と妄想を暴走させて、余計に顔が真っ赤になっていた。
「ミノリ、なかなか似合ってるよ」
トウヤに言われてミノリは、
「もう、あまりからかわないの!」
と、訳の解らない事を言い返した。
「ミス五十鈴、似合っているじゃないか」
ルディに言われて、
「そ、そうかな?」
五十鈴が、首を回して自分の姿を見返していると、
「ああ。僕の屋敷に居たメイドみたいだ」
そうルディに言われて、
(まるで、ワンコの世話係みたいだわ)
と考えてしまい、一瞬だが「首輪に付いた紐を持って、ゴールデンレトリーバーを散歩させているメイドの図」を想像してしまった。
「どうです、直継さん。フリフリですよ、可愛いでしょ」
「まあな。メイド祭りだぜ」
てとらが直継に絡む。
「でも、ぱんつは微妙に見えないですよ。やっぱり見たいですか?」
「お前なあ……」
てとらの振りに直継がいつもと同じ様に受けられないのは、マリエールが一緒に居るからだろう。
「ほんまは、シアちゃんも一緒やとええんやけどなあ」
マリエールが、少し残念そうに言った。
「仕方ありませんわ。あちらは現在大変そうですし」
ヘンリエッタの言う通り、現在レイネシアは大変立て込んでいる状況に置かれており、とても皆と一緒につるんでいる暇が無いのである。
「こんな服を着せられて、忍びとしては屈辱だ」
ほとんど騙された形になり、不満の収まらないアカツキがぼやくので、
「何言ってんの。アカツキにぴったりだよ」
アンジェロに言われて、
「だったら、アンジェロも同じ服を着たらいいのだ」
アカツキが言い返すと、
「あたしは今回『パティシエ』(洋菓子専門の料理人)なんだよ。その服じゃ仕事が出来無いでしょ。それに……」
「それに、何だ?」
「女らしい服装は、あたしは二度とごめんだ」
そう言うと、少し不機嫌そうな顔をした。以前にマリエールとヘンリエッタによって、ワンピースを着せられた事を未だに覚えているのだ。
ちなみに、アンジェロは真っ白い西洋料理のシェフの様な服を着ている。円筒形の帽子と、首に巻いた赤いスカーフが印象的だ。
さて、今回アンジェロが営業するのはスイーツのお店だが、普通の店では無くて、お1人様金貨20枚(先払い)で、1時間食べ放題というバイキング方式だ。
飲み物は別料金ではあるものの、この料金設定は冒険者にとっては破格である。何せ、その気になれば1ホール=8ピース分のケーキなど、(シロエの様に食が細かったり、甘い物が苦手で無ければ)冒険者には訳無くペロリと食べられるからである。
席は、カウンター席の他に、2人掛け、4人掛け、6人掛けのボックスシートを用意。さらに、アンジェロは隣接する寿司屋の店舗とつなげると改装して、そちらは全てを客席にしたのである。これで都合50人程度は収容出来るだろう。それ以上だと、さすがにアカツキ・ミノリ・五十鈴・てとら・セララの5人では手に余る。
本当は、もっと多く80人くらいは入るのだが、空間をゆったり取って快適に過ごせる様にしてあるのだ。
それに、持ち帰りメニューもあるので、その為のショーケースなども設置する為である。
5人は全て店内担当で、お客をテーブルへと案内するのを始め、飲み物の注文を聞いたり、お客が取るケーキのトレイを入れ替えたり、時間を告げてそのお客が帰った後の片付け、そして持ち帰りメニューの注文受けと会計を行うなど、仕事の内容は多岐に渡る。
なお、制限時間である1時間の設定には特別な砂時計を使用する。お客がテーブルに着くとセットされ、1時間で丁度砂が落ち切る様になっているのだ。これはレジで管理されており、客の目には触れない様になっている。客には時間を気にせずに楽しんで欲しいという、アンジェロの考えだった。
また、この営業スタイルには、アカツキ目当てでヘンリエッタが入り浸りにならない様に、という意図もあったらしい。
「キュートなアカツキちゃんを眺めていられる至福の時間が、1時間ぽっちだなんてあんまりですわ」
っと、ヘンリエッタが言ったかどうかは知らないが……。
アカツキ達「記録の地平線ガールズ」の魅力を、文章だけでは上手く表現する事が出来無くてすいません。ご意見がありましたら伺いますので、どうぞお気軽に。
また、ケーキの大きさですが、6号=直径約18cmを8等分したものを1ピースと考えましたので、その部分を補足すると同時に、変更いたしました。




