後始末
今回は、対人戦闘です。時代劇でいうところの殺陣の部分になります。なお、この話でこの章は最後になります。
名残り惜しそうなシルバーソードのメンバーに見送られて、アンジェロはススキノを離れた。しばらく歩いてから馬に乗り、それから飛竜で一気にアキバまで帰るつもりだった。何せ、ススキノに拠点が変更されてしまったので、帰還呪文を使う事が出来無い。
ススキノが見えなくなるくらいアンジェロが歩くと、前方に1人や2人では無い多数の人影が見えた。
「よお、姉ちゃん。今お帰りかい」
良く見ると、そいつらはアンジェロがススキノに来た時に絡んで来た連中だった。
「やれやれ、最後にろくでもないものに会わせてーーっと言うよりも遭わせてーーくれるじゃないか」
アンジェロは額に手を当てると。首を振りながらうんざりした表情でそう言った。
「抜かせ。その綺麗な顔をキズモノにされたくなかったら、おとなしく言う事を聞きな」
そう言うと、連中は下卑た笑いをした。
「おっと、ここは街中と違って対人戦闘可能だからな。この人数を相手に何とかなると思ってねえだろうな?」
男の1人がそう言った。
良く見ると、相手は10人以上は居る様だ。職業やレベルも様々な者が混じっている。しかし、今は戦闘用の装備をしているとは言え、素手のアンジェロに軽くひねられる程度である。強さ的にはあまり高レベルの者は居なかった。所詮は、シルバーソードの統治の網を抜ける様な小悪党の寄せ集めでしかない。
「やれやれ。良くもまだこんなに害虫野郎が残っていたもんだね。ウィリアムに後で報告しておかないと……」
アンジェロがぼやくと、
「へっへっへ。それは神殿を出てから自分でするんだな」
そう言って、連中はアンジェロを囲んでその包囲網をじりじりと狭めて来た。
「おやおや。よせばいいのに、あたしにちょっかい出そうってのかい?」
言いながらアンジェロは、魔剣「無敵の刃」を抜いた。
「おい。この姐さんは俺達とやる気らしいぜ。野郎共、神殿に送る前に、身動き出来ねえ様にしてからたっぷりと可愛がってやるか」
男の1人がそう言うと、輝く鎖がアンジェロの足元に向かって伸びた。「付与術師」の使う「アストラルバインド」だ。
しかし、その魔法の鎖はアンジェロに届く直前に消滅してしまった。
「な、何だと!?」
魔法をかけた男が驚いている間に、アンジェロはその男に駆け寄ると斬り付けた。悲鳴を上げる暇も無く、付与術師の男はただの一撃で無数の泡となって消えた。
呆気に取られる男達に、
「そっちが売って来た喧嘩だ。先に手を出したのもそっちだし、あたしは正当防衛って事さ。覚悟はいいかい?売られた喧嘩は買うのが礼儀なもんでね」
アンジェロはそう言い放つと、近くに居た男達に斬りかかった。
「く、くそう!」
金属製の鎧を着た守護戦士と思われる男が、「アンカーハウル」を発動した。本人はそれでアンジェロを足止めしたつもりだったが、相手が余りにも悪すぎた事を、この連中はまだ認識出来ずに居た。
そもそも、PC同士の戦いでは、一撃でケリが付く事などほぼ有り得ず、大抵は双方がHPを削り合うものなのだ。多少のレベル差では、早々簡単にやられたりはしない。1人が即死した時点で、アンジェロの攻撃力の桁が違う事を、まず察するべきであった。
「それがどうしたってのさ」
アンジェロは、そう言うと守護戦士の男に向き直り、ただの一撃で斬って捨てた。いかなアンカーハウルと言えども、使用者が死んでしまえば何の意味も無い。
「ば、馬鹿な……」
それを見て、男達は明らかに動揺したが、すでに後の祭りだった。
一応だが、その間に妖術師と思われる別の男から、稲妻が放たれてアンジェロを直撃した。さすがのアンジェロも、ほぼ必中である魔法--これは、向けられた懐中電灯の光を避けられるか?と同じ意味である--を回避する事は出来無い(ただし、抵抗してダメージを減らす事は出来る)。
多少マシなダメージではあったが、アンジェロは手近の男に斬り付けると、その男も一撃で斬り伏せて「スカーレットナイト」の効果でダメージを吸収するとHPを回復してしまった。
次に、格闘家が「ワイバーンキック」で襲って来たが、
「何だ、あんたは。それで格闘家だって言えるのかね。とんだお笑い草だ」
そう言い捨てると、突っ込んで来た男を軽く交わし、着地してからの「ライトニング・ストレート」も軽い動作で避けた。
男は他の技も使って来たが、驚いた事にアンジェロはその全ての攻撃を防御せずに、見切りと身体の動きで避けてみせた。
「ち、ちくしょうめ。どうなってやがる!?全くかすりもしねえ!」
驚く男に対して、
「さて、もう使える技は無いな。再使用可能時間も考えずに、馬鹿みたいに技を使いまくった結果だ」
そう言うと、アンジェロは片手で男の胸倉を掴んで持ち上げ、そのまま地面へと叩き付けると、足で滅茶苦茶に蹴りまくった。
「てめえの技など、受ける価値もありゃしないんだよ」
アンジェロはそう言うと、芋虫の様にうずくまった男を踏み付けて仰向けに地面へ固定し、逆手に持った剣で地面ごと串刺しにした。
「ひいいっ!」
貫かれる瞬間、恐怖で目を見開くと、哀れな悲鳴を残して男は泡となって消えた。
「やれやれ。あたしを棒立ちの案山子か何かと勘違いしてたのかね。お粗末な腕だ」
言いながら、アンジェロは地面に突き刺さった剣を抜いた。
アンジェロのプレイヤーは、本物の格闘家である。現在のメイン職業が守護戦士とは言え、ゲームの中でしか技を使った事が無い様な人間に、現実戦闘で負けるはずがない。
次に、物理ダメージに定評のある暗殺者が向かって来た。素早い連続攻撃に、アンジェロは防戦一方に見えた。
しかし、相手の打ち込みを適当にいなしているだけであり、攻撃自体は全く命中させていない。アンジェロのプレイヤーは剣術の心得もあるので、素人がやたらめったに武器を振り回すだけでは、勝てるはずも無いのだ。
基本的に、ゲームであるエルダー・テイルでは、余程プレイヤーがお粗末な攻撃(命中率や成功率の悪い行動)を仕掛けないか、運が悪くて命中判定をミスったりしない限り、モンスターはあまり積極的に攻撃を避けない。モンスターへの攻撃は、当たる事が前提だからだ。
なので、冒険者としてその職業と何の関係の無い人間でも、攻撃自体を当てる事にはそんなに苦労しない。
なぜなら、現代世界には重厚な鎧を身に纏った守護戦士なんて居るはずも無いし、魔法なんてものも存在しないからだ。
これらの職業に経験が必要だと言うのなら、誰もなれやしないし出来やしない。だから、当然だけど殆どの冒険者は、それぞれの行動には不慣れであり、成功して当たり前の攻撃が通用するモンスターと、何とかまともに戦う事が出来るのだ。
しかし、アンジェロは違った。現実世界でも、格闘術と剣術に覚えがあるこの稀有なプレイヤーは、素人同然の攻撃など、まるで意に介さない。
冒険者とモンスターは違うのである。多少ばらつきはあるものの、全てが数値で構成されたモンスターは、能力に関しては全く個性が無い。例えるなら、同じレベルで同じ種類のゴブリンが100匹居るとしても、その全てがほぼ同じ能力値であり、戦えば大体が同じ結果になると見ていい。
しかし、冒険者の場合、100人の守護戦士が居るとして、例え全員の装備とレベルが同じでも、その能力までが全て同じとは限らない。もちろんそれは数値だけの話では無い。冒険者の中身であるプレイヤーの個性が違うからだ。アンジェロのプレイヤーは、戦闘に関してはこの世界では恐るべき手練れなのである。
「あんたの相手も飽きた」
アンジェロはそう言うと、下からすくい上げる攻撃で暗殺者の武器を跳ね飛ばし、あっさりと剣でその胸を貫いた。
そして、次にやって来た盗剣士が、細身の剣の二刀流で攻撃を仕掛けて来たが、アンジェロは特有の足さばきで回避したりカウンター技で反撃すると、わざと剣を平たく持って、相手の手首をピシャリと打った。思わず剣を取り落とした相手に片手で魔剣を突き付けると、
「全然なってない。踏み込みも剣の振りも全部甘いんだよ。てめえは剣士に向いてない」
そう言って、両手に持ち直した魔剣で袈裟懸けに斬って捨てた。
「くそっ!有り得ねえっ!」
「こ、この女、化け物かよっ!?」
男達は完全にパニック状態に陥っていた。何せ、継続ダメージを与えるものも含めた弱体魔法や行動阻害魔法など、いわゆる「デバフ(対象にマイナスの付与効果をもたらすもの)」の効果が全く無い上に、いくらレベル的に劣るとは言え、完全装備でHP満タンの守護戦士を即座に討ち取る相手なんて、見た事も聞いた事も無いのだから……。
さらに、物理攻撃職の攻撃を全く寄せ付けず、あまりにも簡単に倒してしまったのだ。もう相手には盾職も物理アタッカーも居なくなってしまっていた。
盾役が存在しないので、後衛職は安全に魔法を使用する事が出来ず、打たれ弱い魔法職は一方的にアンジェロに斬られるだけであった。もっとも、数が頼りなだけで、強さ的には大した事の無いこの連中の内で、アンジェロの一撃に耐えられる者など居ないのであるが……。
しかも、相手の集団(ハーフレイド相当)には、神祇官や吟遊詩人と言ったサポート職が全くおらず、単純な火力や戦闘性能しか見ていない偏った編成だったのも、集団の瓦解を早めた原因だろう。いかに優秀な回復職である施療神官と言えども、死んでしまった相手には治療呪文は効果が無いからだ。もっとも、治療呪文はHPが残っていて生きている相手にこそ効果があるのであって、即死してしまえば何の意味も無い。そして、蘇生に必要な時間を、アンジェロが与えてくれるはずも無い。
見る間にごろつき連中はその数を減らし、やがて最後に残ったごろつきの頭らしい男が、アンジェロに向かって何か言いかけたが、
「ま、待て。俺達が悪か……」
その口が全てを語る前に、「黙れ」と一言だけ言い、アンジェロは面倒くさそうにその男を片手で持った魔剣の剣先で突き刺した。
男が輝く泡になって消えるのを見ながら、連中がばらまいた(ゴミの様な金額の)金貨と(拾う価値も無い様な)アイテムに囲まれて、アンジェロはたった今別れたばかりのウィリアムに、念話でごろつき共の事を伝えていた。
アンジェロは、落ちている金品には目もくれないで馬を呼び出すとそれに乗った。回収されない金貨やアイテムは、一定時間が経過すると電子の海に消える。つまり消滅するのだ。
ゲームだと、この様にPKにやられて死んでばらまいてしまった金貨やアイテムは、仲間が居れば回収して後で返してくれる事もあるが、何らかの理由(強盗が目的では無いなど)でPKも取らなかったり、回収が間に合わない場合は消えてしまうのだ。
なお、モンスターに倒された場合は、金品をばらまく事が無い代わりに経験値を一部消失したり、所持金(あくまでも、手持ちの分だけである)が減少するなど、いわゆる「デスペナルティ」を受ける。
だからこそ、冒険者は銀行などの施設を利用したり、アイテムにロックをかけるなどして、喪失しない様に対策するのである。
アンジェロは、エッゾ帝国の南端まで進むと、そこで飛竜を呼び出して乗り、一気に海峡を渡ってアキバを目指した。
(あっちーーシロエ達ーーは上手くやったかな)
空中で飛竜を操りながら、アンジェロはそんな事を考えていた。
モンスターとの戦闘ではありませんので、おかしいところや気になる部分がありましたら、どうぞご意見をお願いします。
次回からは新章へと突入します。




