別れの序曲
お待たせいたしました。お話の続きをお送りいたします。今回もまとめて投稿いたします。
アンジェロが作った1000個以上の寿司は、凄まじい勢いでシルバーソードのメンバーの腹へと収められ続けていた。
頃合いを見計らうと、アンジェロは酒場の厨房で追加の寿司を握り始めた。
「驚いたな、マジであんたが作ってたんだな」
寿司をつまみながら、それを見たウィリアムが言った。
「まあね。ここへ来る途中で食材も調達済みさ」
アンジェロは、中でもホタテ・カニ・ウニ・イクラなど、北海道ーーエッゾ帝国ーーならではの新鮮な食材を惜しげも無く投入して、シルバーソードの面々に振舞った。
「くぅ~、たまらん。何を食っても美味え!」
「あれも美味えし、これも美味え!」
最早、箸なんて誰も使っておらず、早い者勝ちの争奪戦の様であった。それでも折角の寿司を台無しにしない様に、メンバー達は食べ方には(それなりに)気を使っていた。
そうして彼らは、歓喜のうちにアンジェロの作った寿司を全て平らげた。
「ふう……、食った食った」
「旨かったなあ。この世界で初めて食った寿司が、こんなに旨いなんて」
「ああ、やっぱり俺達って日本人なんだなあ」
シルバーソードのメンバーは、口々にそんな事を言い合っていた。
ちなみに、初見の人物の心を掴むのに、一番手っ取り早いのが笑い(=ジョーク)と手土産(主に食べ物)である。
短時間のレイド戦で、イマイチまだアンジェロという人物を測りかねていたシルバーソードのメンバーは、これでアンジェロを完全に受け入れる事が出来たし、アンジェロも気楽な付き合いが出来る様になった。
アンジェロは、以前に初見のこのキャラクターでも、お笑いによって三日月同盟と馴染む手法を使ったし、今度は食べ物で同じ事をしたのである。
人心を掌握するのに際して、アンジェロ(のプレイヤー)に極めて優れた才能があるのを、シロエは天才だと評している。
いわゆる「人たらし」なのだが、歴史上の人物の「豊臣 秀吉」や「徳川 家康」などと違い、全く他意が無くて、素直に仲良くなりたいが為に心を砕くのが、アンジェロという人間である。
シルバーソードのメンバーは、アンジェロが作った寿司と共に、その友好の意思も腹の中に一緒にしまい込んだのだった。
次の日から、アンジェロはウィリアム率いるシルバーソードの面々と一緒に、巨人レイドの攻略にかかった。
アンジェロの実力を認めたウィリアムは、その事情--単独で無ければならない理由--も鑑みた上で、1パーティーと同等かそれ以上の戦力と考えて、大規模戦闘の配置を決めた。また、その事に関して、すでに誰も異議や疑問を口に出す者は居なかった。
初日の短時間戦闘では、十分に満足な成果を挙げられなかったが、これからは毎日たっぷりと時間をかけて、巨人との戦いをする事になる。
シルバーソードが戦う巨人レイドゾーンは、通常エリアと同じでオープンフィールド状態--言うなれば自由参加大規模戦闘区域--なので、参加出来るレベルや人数には何の制限も無いし、パーティーである必要もなかった。その為、アンジェロの所持している魔剣の制約には何も引っかかる要素が無い。
しかし、これからは出て来る巨人もさらにレベルが上って能力が強化されたり、特殊攻撃や魔法を使って来る様になるので、ウィリアム達も本気で戦う様になる。
「大丈夫だとは思うが、これから先は俺達も大変だから、あんたの事まで見ていられなくなる。悪いが何かあっても自己責任で何とかしてくれ」
ウィリアムはアンジェロにそう言ったが、
「問題無いさ。むしろ、そっちこそあたしに泣き付かないでくれよ?」
そう返されて、
「はっはっは、違いねえ。女に頼る様になっちゃあ、俺達も終わりだぜ」
聞くなり、ウィリアムは大笑いした。
エリアの奥に行くと、エッゾ帝国--北海道--という土地の特徴柄、氷(つまり雪に関係した)属性のモンスターが自然と増える事になる。
そして、何も巨人レイドだからと言って、出現するモンスターも巨人だけとは限らない。熊や狼などの動物系や、精霊も出現する。
こういった、登場するモンスターにある程度の種類の幅が設けてある事は、プレイが単調にならない為に重要な事だ。
アンジェロは、1人配置されたエリアで、出て来るモンスターを片っ端から斬って回った。狼や熊や巨人でさえも、アンジェロの前では同じ雑魚であった。
あまりにも高すぎるアンジェロの攻撃力の前では、HPの数値は意味を成さない。「頼みの綱」を発動すれば1回、それじゃなくても2回殴れば、アンジェロに倒せないモンスターは存在しないのだから……。
1回の攻撃で倒せない場合、当然ながら敵も反撃して来るのだが、アンジェロにはいずれのカテゴリーにも含まれない、オリジナルと言っても良い個人技能を備えている為、まともに攻撃を喰らう事はほとんど無かった。
それに、ダメージを受けたとしても、守護戦士の特性「スカーレットナイト」でダメージ吸収を行い回復してしまうので、実際には無傷に等しかった。
襲って来る巨大な熊は、その鋭い爪の付いた巨大な手の一撃を交わして袈裟懸けに斬って捨て、白い毛皮の狼は、かかって来るすれ違い様に胴体を真っ二つに断ち切った。
氷の精霊に対しては、放たれる氷の魔法をかいくぐりながらアンジェロは斬りかかり、強烈な一撃を食らわせると、氷の精霊はまるでガラスの様に砕け散った(精霊種のモンスターは、元々物理攻撃に弱くてHPが低い)。
倒した敵から戦利品を剥ぎ取る事はせず、アンジェロはひたすらエリア内のモンスターを倒す事だけに集中した。
巨人族の振り下ろす巨大な拳や棍棒を見切って交わしたり、時には吐き出される「冷気」などの特殊攻撃や「氷の嵐」などの攻撃魔法に晒されながら、それでもアンジェロは受け持ちエリアの殲滅戦を完全な単独プレイで戦い抜いた。
両側に角の付いている鋲打ちされた兜をかぶり、巨大な斧と盾を持った巨人のモンスターで、口からは凍える様な吹雪を吐いたり氷属性の魔法を使う、レイドボスとまでは行かなくともそのエリアの中ボス程度のモンスターが出現した。
アンジェロは、直接のダメージ以外の凍結などのバッドステータスを全て無効化してしまうので、広範囲に及ぶ凍結の息や氷の嵐の魔法なども、それらの特殊効果や受けるダメージを無視して最短距離で斬りかかった。
氷の膜がアンジェロの身体の表面を覆おうとしても、それは一瞬で弾けて消えてしまう。同じ様に、アンジェロの足にへばり付く氷の塊が、その動きを止めようとして大きくなろうとしても、やはり瞬時に砕けてしまうのだ。
凍結による行動の阻害や移動速度低下などのマイナス効果は、この様にアンジェロの持つ魔剣の効果により、ことごとく防がれる。
元々冒険者の肉体は、外部からの刺激による痛みの感覚に対して、かなり鈍感と言うよりも頑強になっている。凍て付く様な冷気や氷の嵐でも、それ自体に寒さを感じる事はあまり無い。
同じ様に、灼熱の炎の魔法を喰らったり、目も眩む様な電撃に晒されたりしても、それ自体を苦痛に思う事はさ程に無いのだ。
ただし、痛みを感じないからと言ってHPの低下に気が付かないと、知らないうちにお陀仏なんて事があるので、回復手段が無い場合、自分のHPには常に気を付ける必要がある。
その点において、豊富なソロプレイの経験があるアンジェロには、全くと言って良い程に落ち度が無かった。
もっとも、危機を感じるまでにHPが低下する様な事自体、アンジェロにはあまり経験が無いのだが、それは圧倒的な戦闘力により、危機に陥るまでに戦闘を終わらせる事が出来るせいでもあった。
実際、アンジェロはこの中ボスとの戦いにおいてもHPが半分を切る様な事は無く、多少足元が悪いのが問題だったが、守護戦士にしては身軽な動きでダメージの高い直接攻撃は上手く回避し、特殊攻撃や魔法はそのまま正面から殴り合う事で、時間はかかったが終始安定した戦い運びをして、1人で始末をつけたのだった。
やがて数日が経過して、ウィリアム達のメインパーティーがレイドボスを倒したらしく、巨人レイドの攻略も一通りが終了した。
無事にレイド攻略を終えたシルバーソードは、ギルドへ戻って慰労会と言う名のどんちゃん騒ぎの大宴会を始めた。もちろんアンジェロも参加しており、今度は料理人として再びその腕を振るっていた。
「しかし、結局最後まで1人でこのレイド攻略を戦い抜くなんて、恐れ入った姐さんだな」
酒の入ったジョッキを持ちながら、シルバーソードの誰かが言った。
「ああ、しかも単に強いだけじゃなくて、稀に見るいい女だし、飯も美味いと来ている。言う事無えよなあ」
それに続く様に、アンジェロの作った寿司をつまみながら、別の誰かがそう漏らした。
少し離れたテーブルでは、巨漢の格闘家らしい男が、ぶつぶつ言いながら1人で酒を煽りつつ、料理をつまんでいた。
(それにしたって、またしても「記録の地平線」かよ……。あの女がちったあ美人で腕っぷしが強えのは認めてやるが、この飯だってうちの奴が作るのに比べたら……ま、まあ悪くはねえけどよ……)
言いながら、2つ同時に寿司を掴むと口の中で何回か噛み、それを酒で押し流す様に飲み込んだ。
アンジェロは、その美貌と抜群のプロポーションに加え、何より圧倒的な強さでもってシルバーソードのメンバーのハートを掴み、次に料理の手並みを披露する事で、メンバーの胃袋をもがっちりと鷲掴みにしたのだった。
今や、シルバーソード全体が、アンジェロにぞっこん状態になっていた。
「なあ、あんたさえ良かったら、ずっとうちに居てくれねえかな」
宴会が終わってからウィリアムが言うと、
「その申し出はうれしいけど、あたしはもう『記録の地平線』のメンバーだからね」
アンジェロはそう言って、その申し出をやんわりと断った。
「そうか、そいつは残念だ。うちの連中は、すっかりあんたにイカれちまったみたいでなぁ。それに、もう美味い寿司が食えなくなると、みんながっかりするぜ。もちろん俺もだけどよ」
ウィリアムは、そう言うと頭をかいた。
劇中の巨人レイドについては、原作で全く触れられておりませんので、想像で書いています。おかしい所がありましたら、どうぞご意見を寄せて下さいます様にお願い致します。なお、どこかで見た様なキャラクターがちょろっとだけ出ていますので、解る方はニヤリとして下さい。




