祭りの熱気
更新が遅くなって申し訳ありません。今回は一気に4話投稿です。それと、この章は今回の話で終わりです。次回からは新章へと突入いたします。
そんなこんなで、アンジェロの店はやがて初日の閉店を迎えた。なお、営業時間は昼の11時から途中一度休憩や準備時間などを挟んで夜の8時までだそうだ。
アンジェロ自体は冒険者なのであまり疲労は感じないものの、食事は取る必要があるしトイレの問題などもあった。それに、雇っている大地人の事を考えるとーー途中で休憩時間は用意してあるもののーー、あまり長時間の営業には無理があったからだ。
アンジェロがギルドへ帰ると、メンバ-がホールに集まっていた。
「ねえねえ、皆さん。お祭りの最終日は、こんな事をやるみたいですよ~」
てとらが、1枚のチラシを皆に見せた。それには、
「第1回ミスアキバコンテスト 参加者募集」
と書かれてあった。
「ねえ、誰か出ませんか~?あ、もちろんボクは出場しますけどね~」
てとらはそう言って、大いに乗り気である。
「ミスコンねえ……。あたしにそんな暇は無いよ。寿司屋が忙しいから」
いかにも勘弁してくれと言った感じで、アンジェロがそう言った。
「え~、アンジェロさんは出ないんですか~?」
それを聞いて、てとらがものすごく残念そうに言った。
「そもそも、冒険者は基本的に美形だらけだよ。票が割れまくると思うんだけどな」
アンジェロがそう言うと、
「そこは、アイドルというボクの舞台ですよ~」
てとらがそう言って、キラキラのエフェクトが付いたキメポーズをした。
「あ~、はいはい。もう勝手にやって」
それを見てアンジェロは、うんざりした様なげんなりした様な表情で言った。
「何ですか、何ですか~。その投げやりな態度は~。あ~、もしかしてボクが出場すると優勝しちゃうから、うらやましいんですか~?」
てとらがしつこく絡むので、しまいにアンジェロは魔剣に手をかけて、
「……斬るよ?」
と言って、てとらを黙らせた。実際にてとらが出場すれば、それなりに票が稼げるとは思うのだが、ルックスはともかくとしてスタイルが残念すぎた。
その点、アンジェロは美貌と言いプロポーションと言い、ほとんど完璧に近いキャラクターである。ギルドメンバーは、アンジェロが身近な存在なので最近ではすっかりそれに慣れてしまって忘れているが、これ程外見が美しくて魅力的なキャラクターは、滅多に例を見ない。
大体にして、元々がゲームであるエルダー・テイルの世界では、いわゆるアニメ顔のキャラクターというのが多い。
年齢が高めに設定されている美形キャラクターでも、大なり小なりどこかデフォルメタッチされた部分を含んでいるのだが、ことアンジェロに限っては、あまりそれが無くてリアル系美女の顔立ちをしているのである。
その点でも、アンジェロは目立っているのだ。
「ミスコンか……、はぁ~」
五十鈴が、ため息混じりに言った。彼女も決して自分のキャラクターを不細工に作ったつもりは無いが、あまりにもルックスが平均すぎた。
「アカツキさんは、出ないんですか?」
ミノリにいきなり話を振られて、
「わ、私はそういう人目に晒される様な場には出ない。忍びが目立つ訳には行かないからな」
アカツキは、しどろもどろでそう答えた。
「そうですか」
ミノリがそう言うと、
「そういうミノリちゃんは出ないの?」
五十鈴に言われて、
「えっと、その……。私はあまりそういうのは好きじゃないから……」
と、今度は自分が慌てて答えた。
「それにしても……」
「ん?」
ミノリのつぶやきに、アカツキが聞き返す。
「アンジェロさんって、本当に綺麗ですよねえ。スタイルも凄く良いし。本当に、あれで中の人が男の人なんでしょうか」
ミノリがそう言うと、
「全くね。私も時々本当に男性なのかって思うわ。もっとも、確かめる方法は無いんだけどさ」
五十鈴が同意して言った。
「おやおや、レディ達。一体どうしたんだい?」
「ミノリ、何話してんの?」
ルディとトウヤが話に割って入って来たので、
「ガールズトークの邪魔しないでよね~」
と、五十鈴が少し不機嫌そうに言った。
「ははは。もしかしたら、背中にチャックとかあったりしてな」
今までのやり取りを聞いていた直継が、笑って茶化す。
「ひどいな、あたしは宇宙人じゃないよ。何なら確かめる?」
アンジェロが笑いながらそう言ったので、
「どれどれ……」
っと、直継が言った瞬間、
「がふっ」
という彼の悲鳴と共に、アカツキの膝蹴りが彼の顔面に入った。
「主君、この変態に膝蹴りを入れてもいいだろうか?」
「だから、入れてから言うな!」
赤くなった鼻を押さえながら、直継が言う。
「おいおい、セクハラ被害者の本人を差し置いて、先に突っ込みを入れないでよ」
アンジェロがそう言いながら、再び魔剣に手をかけたので、
「わ、ちょっとタンマタンマ!それシャレにならないから!」
と、直継が慌てて両手を前に出してぶんぶんと振った。
「綺麗な薔薇には、棘がありますにゃ」
と、にゃん太が言った。
(棘どころか、ヤマアラシの様な針の固まりだけどね)
シロエは、心の中でそう思った。
「当たり前だけど、このキャラクターも本物だよ。ただ、どうもね……」
アンジェロが少し口ごもったので、
「どうかしたんですか?」
とシロエが聞くと、
「いやさ、どうも最近だけど、心まで女性になり始めている様な、妙な気分になるんだよね~」
そうアンジェロが、片目を閉じて頭を掻きながら言った。
しかし、シロエ達は最初に出会った時から、言葉遣い以外はあまり違和感を感じていない。もっともそれは、元々はRPGが「役割を演じるゲーム」という為、アンジェロの中の人(=いわゆるプレイヤー)が、意図的に女性らしく振舞おうとしていたせいもある。
つまり、当初は本人もアンジェロというキャラクターを演じていたのだが、最近では女性が地になって来つつあるという事なのかも知れない。
けれど、そういう性別のギャップが埋まりつつある事例は、すでにロデリックが研究をしており、実際にキャラクターと実際の性別が違っていても、徐々にキャラクターの側に近付いている報告がされている。
「冗談じゃないよ……」
アンジェロはぽつりと漏らした。このまま身も心も女性になってしまうのは、さすがにちょっと勘弁してもらいたい。
元に戻った時に、今度はそれで困ってしまう。一応だが、今は男性としての自意識があるので、あえて役作りというかキャラ作りをしているーー女性らしさを損なわず、それでいて完全な女性にならない様に、あえてアネゴ調でしゃべっているーーのだが、これが今度は地になった時に元の男性にふと戻った場合、いわゆるオネエ系になってしまうかも知れない。
いわゆる”男の娘”である「てとら」はともかく、シロエ達も含めてほぼ大多数の冒険者は、自分の現実性別=キャラクターの性別である。その為に性別のギャップに悩む冒険者は、元々かなり少ない。
それならアカツキと同じ様に、「外観再設定ポーション」を使えば良いと思うだろうけど、自分のキャラクターに愛着がある者は、そう簡単にキャラクターを変えようとは思わない。
特にアンジェロの場合、かなり細部にまでこだわって作られたキャラクターである。愛着だけではなく、このキャラクターで無ければならない「味」というものもあるのだ。
「まあ、いざとなったらロデリックさんが色々と研究しているみたいですし、相談してみると良いかも知れませんよ」
シロエはそう言ったが、アンジェロは自分のキャラを変にいじる気は無い様である。いじると言っても、それはある意味で元に戻すだけなのだが、それでは別キャラの意味も無くなってしまう。
「あたしはこのままでいいよ。メインは別にあるんだから、無理に元に戻す必要も無いし」
アンジェロは、シロエにそう言った。
「ですな。そんな美人がオッサンに戻ったら、もったいないだけだぜ」
直継が相槌を打つ。
「全くさ。どっちもオッサンなんて、何の為に気合い入れて別キャラを作ったのか意味が無いよ」
それを聞いて、腕組みをしながらさらにアンジェロが頷く。
「ともかく、あたしは”そういうキャラ”じゃないんだ。店が忙しいし、とても余興に参加している時間なんて無いよ。どっちみち、営業中だからあたしは店を抜けらんないからね。あたしが居なくなったら、一体誰が寿司を握るのさ?」
アンジェロはそう言うと、結局ミスコンには不参加を表明した。
祭りの2日目以降も、すっかり寿司の味を覚えてしまったアキバの住人達は、冒険者も大地人もひっくるめると、こぞって連日アンジェロの店へと押しかけて行列を作った。
それに対応すべく、アンジェロは従業員の数を増やして対応にあたった。大地人としても、仕事が増えるのは大歓迎であったし、まかないとして特別に出されるアンジェロの寿司が賞味出来るので、とても喜ばれた。
もっとも、アンジェロは例のアイテムのお陰で、作れる食べ物が非常に限定されてしまう為、それしか出来無いのであったが……。
現実世界の回転寿司の様に、スイーツなども流して寿司の隙間を埋めようかとも考えたのだが、アンジェロが作れるスイーツは、別にここじゃない他の店でも食べられるし、今の所アキバで寿司が食べられるのはこの店だけなので、余計な水を差したくも無かった。
(ここでしか食べられない、自分にしか出来ない物を提供したい)
アンジェロはそう考えていたので、自ら考えたその案を撤回した。しかしその結果、仕込みの量が必然的に増えてしまい、初日に比べると1時間程余計に時間が必要になってしまっていた。
何せ、寿司というのは大量生産に向かない。この世界には、寿司の酢飯だけを握る機械が無いので、いくらアンジェロが早握りをしても、作れる数には限界があった。
もっとも、店に出す全ての寿司を仕込みで作る訳では無い。営業しながら握るのが当然であり、これは間に合わない時や休憩時のストックに使うのである。それに、仕込みの大半はネタ作りだ。
何より、アンジェロは茶碗蒸しや味噌汁などのサイドメニューを作れない。握り寿司、巻き寿司、いなり寿司、ちらし寿司、とにかく寿司と名が付く物限定なのだ。
一応ではあるが、寿司職人の技術にはネタ作りも含まれる為、寿司ネタに使う物であれば厚焼き玉子や切り身なども作る事が出来る。
逆に言うと、ネタに使わないーー使えないーー物は作れない。それがアンジェロの寿司調理における制約である。
例えば、切り身を皿などに盛り付けてお造りにしようとすると、「例のアレ」になるのだ。単に魚介類を切っただけでは料理にならないが、盛り付ければそれは一品料理として成立するからである。
もちろん、ネタのままであれば食べる事は出来る。皿に盛る前の状態なら、そのままつまんで口に入れれば、食事として成立する。それはある意味で、シロエ達がこの世界に来た最初期に、調理前の素材--例えば果物など--なら、誰でも味があるままで食べられるのを発見したのと同じ理屈だ。寿司ネタは素材の扱いだからだ。厚焼き玉子は、生卵を調理してあるもののそれだけでは素材扱いである。皿に盛って出すと、卵焼きとして料理になってしまう。
言うなれば、それは「認識」の違いである。調理して素材を作るのと、調理して料理を作るのとでは、微妙にニュアンスが異なる。
アンジェロは、作った素材をうかつに「例のアレ」にしてしまわない様に、割と細かく気を使って仕込みを続けていた。




