祭りの余韻(よいん)
今回から新章へ突入します。
さて、相変わらず祭りの最終日でもアンジェロの寿司屋は繁盛しており、アルバイトの大地人も含めて必死で店を切り盛りしていた頃、日が落ちた時分にはメインイベントとして、「第1回 ミス・アキバコンテスト」が開催されていた。
残念ながら、会場に入れる人数には限度があったので、あぶれた人達がアンジェロの店に押し掛ける為、相変わらず店は客でごった返していた。
「あ~あ、もったいねえな。ここにこんな良い女が居るってのによう」
一応、アンジェロの中身を男性だと認識しているアイザックは冗談混じりでそう言っていたが、純粋な女性では無いアンジェロは、出場するのにどうも気が引けたし、客が楽しみにしている寿司屋を休む訳にも行かなかった。
なお、ミスコンの結果として、優勝はーーある意味当然かも知れないがーー「レイネシア」であり、準優勝は「マリエール」だった(これも妥当な所だと思われる)。3位以下は発表されなかったので、それ以外の参加者がそれぞれ何位だったかは不明である。
そんなこんなで一周年記念祭は、大した問題も無く無事執り行われ終息した。結果だけ見たら大成功と言えるだろう。もちろんその陰には円卓会議を中心とした、各ギルドの街中警備などといった功績があるのも事実だった。
アンジェロの回転寿司屋も、祭りの終了と共に大盛況のまま無事に閉店を迎えた訳だが、寿司の味を覚えてしまったアキバの民ー-冒険者だけでなく大地人でさえも--からは、終了を惜しむ声が上っていた。
アンジェロは、売り上げの計算をしながらミチタカには店舗の改装費用を、カラシンには食材の仕入れ代金を払う為に、店の中で一緒に話していた。
「アンジェロさん、どうでしょう。このまま寿司屋を続けてもらう訳には行かないでしょうか」
第8商店街のギルドマスターであるカラシンは、熱心にアンジェロに対して寿司屋の継続を要請しているのだが、
「あたしは生産職人じゃなくて、元々は戦闘系の人間だからね。この店も、祭りの間だけ営業するつもりだったから」
そう返されてしまった。
「……う~ん、残念ですね」
カラシンは、落胆の色を隠せずに言った。もっとも、商売をする者が増えれば、それだけ物流も活発になるし、大地人達も職を得る事が出来るので、全てにおいて彼が自らの利益のみを追求している訳では無い。
それに、元々冒険者というのは手に専門分野の技術を持つ者が滅多に居ない。それこそ、ネットやどこかで聞き齧った程度の、にわか知識を持つ者はごまんと居るが、実際にそれらを実践出来る技術を持つ者は、ほぼ皆無だった。
これまでのアキバの発展は、ほとんど冒険者達が手探りで研究や試行錯誤を重ねた結果である。アンジェロの様に、専門の知識と技術を併せ持つ者はほとんど居なかった。その点においても、アンジェロの寿司屋は貴重なのである。
「しかし、惜しいな。寿司職人なんて、こっちの世界じゃ滅多にお目に掛かれないのによ」
ミチタカが言った。
「まあ、もしかしてだけど。ひょっとしたら気まぐれに突発的な営業はするかも知れないけどね。後、何かのイベントがあれば、またその時には出店するさ」
アンジェロが言うと、
「それじゃあ、毎日をお祭りにしちゃいますか」
それを聞いたカラシンが、とんでもない事を口走ったので、
「そりゃお前、いくら何でも無茶ってもんだ」
ミチタカが苦笑して言うと、
「ですよね、すいません」
カラシンも笑いながら頭をかいた。
祭りが終わっていつもの生活に戻ると、アンジェロは改めてアキバの街を歩き回った。元々はメインキャラクターで大災害以降ずっとアキバで暮らして来たから、今になって探検という訳では無いのだが、キャラクターが違えば見えるものも違って来る気がしたのである。
アンジェロは、しばらくぶらぶら歩いてから1つの店へと入った。そこでは下縁眼鏡とベレー帽をかぶった、ドワーフの女性が店番をしていた。種族のイメージ通りという訳では無いが、ここはアクセサリーやその他の細工品を扱う店である。
もっとも、アンジェロは単に身を着飾る為の装飾品が欲しい訳では無い。魔法の効果を持った特別な品を求めて来たのだ。
攻撃一辺倒のアンジェロは、動きやすさを重視していてあまり重厚な装備を使わない。それを補うのが、様々な魔法の特殊効果を持ったアクセサリーという訳だ。
実際、アンジェロは回避能力が上るイヤリングや、物理防御力を高める髪飾り、属性や魔法耐性を増加させるネックレス、HPを増強する指輪などを装備している。これらの品物は店で買ったのではなくて、冒険の中でアンジェロが自分で手に入れた物だ。
しかし、いわゆるデフォルト設定のままであり、職人の手によって更なる上級アイテムへと打ち直しーー加工--されていない。
当然ながら、装飾品も装備出来る数には限りがある。なので、出来る事なら性能が上の物を装備したいのは、冒険者なら誰でも同じ考えだろう。
アンジェロは、そういった装飾品を次々に調べていった。自分の視界に表示されるアイテムのステータス画面を眺めながら、能力の増減を確かめている。
例の店員が、羨望の眼差しでその光景を見ているが、アンジェロにはそれを装備した場合の自分の容姿まで、鏡を見ながら試着して確認する気は無い(もっとも、わざわざ自分の手で着けなくても、装備品の着脱はコマンドで簡単に可能なのだが)。デザインが気に入るかどうかなんて、それは性能次第でどうでも良い事だと考えている。
もっとも、装備で外見も変化するエルダー・テイルでは、装備出来るアイテムのデザインもきちんと練られているので、不評を買う様なデザインのアイテムはあまり無かった。
一部のアイテムーー主に呪われたアイテムなどーーは、意図的にそういうデザインにされている物もあるが、多くは外見も十分に考慮された作りになっている。さらに、打ち直す際に加工する職人がデザイン的にも手を加えている為、見栄えが悪い様な物は無かった(明らかに個人の感性と思われる、悪趣味な物はあったが……)。
アンジェロは、これまで身に着けていた装飾品を下取りという形で店員に渡すと、差額を払って新しいアクセサリーを購入し、その場で装備した。若干ではあるが、以前よりもステータスが上昇しているのが解る。それは、鎧や盾などの大掛かりな装備に比べると、取るに足りない微々たる量ではあるが、アンジェロにとっては十分に有り難いものだ。
それにしても、白一色(髪の色などは銀だが)で統一されているアンジェロが、まるで闇を凝縮させたかの様な漆黒の鞘の魔剣を背負っていると、反対色の効果--黒の反対色は赤でもあるが--もあって、尚更良く目立つ。
本来、安全な場所であるアキバの街中では、武装の必要など全く無いのだが、武士が常に帯刀しているのと同じ理由で、自らの気を常に引き締める為にアンジェロは魔剣を背負っている。それに、彼女の魔剣は一種のステータスシンボルでもあった。
それは、ある程度の地位や名のある侍が名刀を求める様な、ある種の見栄と言っても良い。その点において、この魔剣は格好の得物であった。
「アンジェロ」
不意にすぐそばで名前を呼ばれたので、その声のした方を見ると、いつの間にか小柄なアカツキがそばに居た。
「おっと、アカツキか。さすがだね、全然解らなかったよ」
アンジェロにそう言われると、
「当然だ。私は忍びだからな」
少し嬉しそうにアカツキが答えた。
「アンジェロは何をやってたのだ?」
アカツキに聞かれて、
「ん~、ちょっと買い物、かな。新しいアクセサリーをね」
アンジェロがそう答えると、
「おお」
と言って、少し興味深そうな顔になった。
「まあ、あたしの場合は、見た目のオシャレよりも特殊効果の実用性なんだけどね」
アンジェロはそう言うと、買って装備したばかりのイヤリングを指で軽く弾いた。
「ほうほう……」
「アカツキも、何か着けてみたらどう?これくらいなら邪魔にならないと思うけど」
アンジェロに言われてアカツキは、
「しかし、私は忍びだ。忍びがその様な物を身に着けるなど……」
少し口ごもって答えた。だが、
「何言ってんの。忍びである前に女の子でしょ?」
アンジェロにそう言われて、少し赤くなった。
(私がこういう物を身に着けたら、主君は何か感じるのだろうか)
アカツキは考えたが、シロエは人並み以上に鈍感な青年でもあるので、それ以前に気が付いてくれるかどうか怪しいものだった。にゃん太辺りに言われて、慌てて取り繕う姿が目に見える様だ。
「そうそう、アンジェロに用事があったのだ」
「あたしに?何かな?」
普通に戻ったアカツキにアンジェロが聞くと、
「私では無い。レイネシアが呼んでいる」
「レイネシアが?何だろ?」
「さあ?聞いてみると良いだろう。確かに伝えたぞ」
それだけ言うと、アカツキは姿を消した。
(はて?良く解らないけど、アカツキが言う様に聞いてみれば良いか)
そう思いながら、アンジェロはレイネシアが居る水楓の館へと足を向けた。
水楓の館は、現在のアキバの中心から少し離れた所にある、廃墟となったアキバのビル街を改造・改築したものである。もっとも、その面影は現在では全く無く、完全に新築した建物と言っても良い。
アンジェロは、今でこそ結構慣れた感覚で出入りしているものの、当初はやや少し抵抗があった。何せ、レイネシアの護衛やお目付けといった名目で、やたら女性が多く入り浸っているからだ。
入り口の侍女に用件を伝えると、アンジェロは中へと通された。この館には80程度の部屋があり、アンジェロはもちろんの事、全ての部屋を見て回った者は、冒険者にはおそらく居ないと思われた。もっとも、館の全てを知る必要も無いので、必要な事だけ覚えていれば、それで事足りる。
さすがに、侍女長のエリッサは館の構造を把握していると思われるが、ほとんどは使われないまま無駄に掃除と手入れだけはされている部屋ばかりだった。
勝手知ったる何とやらで、館の中へ入った後、アンジェロは自分でレイネシアの居る部屋へと歩いて行った。
ミスコンの描写と結果に納得が行かない方、居ましたらどうもすいません。また、間違いなどあれば訂正と修正をいたします。




