6――水の魔術
また時間軸戻ります。
話はユウたちと二手に別れたところに戻る。
「くそっ、なんて速さだ」
目の前を走るドラゴンはトカゲのような容姿をしていた。とてつもなく足が速い。
「いつ使うかは迷っていたが…仕方ないね!喰らいな!」
そう言ってキースが懐から銃を取り出す。
って銃!?こんなもの滅多にお目にかかれるものじゃない。
銃はそれを作るコストがかかりすぎるため、一般には普及していない武器だ。
そしてコストを考えても余りある性能を発揮してくれる。
銃声が鳴り響き、トカゲ型ドラゴンの頭が吹っ飛び、血液が周りの植物を赤く染める。
すかさず人質になっていた女性の元へ駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
変だった。彼女の表情にはそれまで体験していた恐怖も、解放された安堵も無かったのだ。
「あーあ。コイツ死にやがったか。でもここならいいや!皆!獲物がかかったぞ!」
状況が全く飲み込めない。見る見るうちに二十人程度に囲まれてしまう。
「シェリー…コイツは罠だ…私たちを分断する罠だったって訳だ」
「ひえぇ…人間がド、ドラゴンと組むなんてことあり得るんですか?」
キースは冷静に判断している。そう私たちはまんまと嵌められたって訳だ。
ネリスの問いに先ほどの少女が答える。
「あり得るさ!私たちは故郷を守るためならなんだってする!そのためにはドラゴンと手を組むことも辞さない!!」
「ドラゴンが勝利し、魔龍が復活すればその故郷も必然的に失うと、なぜ気づかない!!」
「失いなんかしない!だって…だってズォーロリクス様はそれを約束してくれた!!」
会話は意味をなさない。完全にこの人間たちはズォーロリクスの手のひらで踊らされている。
伝えられている話が本当ならそのズォーロリクスというドラゴンは、人間を裏で操り、用済みになったら始末するという。
彼らも私たちを倒すことができれば用済みだろう。
ドラゴン側についたとはいえ、人間だ。彼らも故郷がドラゴンの脅威から遠のけば正気に戻るだろう。
そのためにも彼らをここでは殺さず、気絶させなければならない。
「シェリー、どいて。ここは私が適任」
そう言いながらアインスが前に出る。全員を一気に気絶させることなどできるのだろうか?
だが彼女の使った方法は予想に反していた。
「消え失せろ」
水を飲んで彼女は言い放った。その前になにやら言っていたが、私が理解できる言語ではなかった。
その瞬間…
「?…あ…ああああああああああああああああああっ!」
周りの人間が『萎んで』いく。表現ではなく、赤い液体が噴き出ながら萎んでいく。
やがてドラゴンに攫われたフリをしていた女以外がミイラのようになり、アインスの周りを液体が旋回しだした。
あの赤い液体は、人間の血液だ。アインスは人間の血液を抜き取ったのだ。
レイローク家は水を操る魔術が得意だという。彼女はその力を使ったのだ。
だがこれは…
「ひ、酷い…」
キースの言う通りだ。酷すぎる。非人道的だ。ネリスはショックなのか放心状態だし、いつも無表情のヴァルターでさえ苦い顔をしている。
だがこちらの感情を知ってか知らずか、彼女は振り向き言った。
「…何?」
彼女の瞳には曇りなど一切無かった。
「なぜ、殺した」
「それが最も迅速かつ的確な方法だったからよ」
いつの間にかあの女はどこかへ消えていた。
「人間だぞ」
「ドラゴンの言う通りにした時点で彼らはドラゴンと同じよ」
「気絶させるだけで十分だった」
「彼らを生かすことになんの意味があるの」
話しても無駄かもしれない。彼女には人間としての感情が無い。そういえば彼女は人間ではなかったな。
過去にあったこんな話を思い出した。
前々回の戦いで、裏切りがあったそうな。騎士はそれで二人減った。その裏切った奴の身体には紋章が無かったそうだ。
そいつは最初から騎士では無かった。最初から騎士を殺すことを目的として送り込まれたドラゴン側のスパイだったのだ。
「封龍の紋章を見せなさい」
「え?」
私は武器を構える。何も知らない子どものような表情をするアインス。そんな顔をされても引き下がらない。
「早く封龍の紋章を見せなさいアインス!さもなければ私たちはお前を殺さなくてはいけない!」
「え?え?どういうことですかぁ~?」
ネリスがようやく放心状態から戻ったが構っていられない。
人間を平気で殺すホムンクルス。彼女に紋章が無ければそれは…
「無理よ。私には封龍の紋章という名の紋章は無いもの」
…裏切り者、いや……初めから敵ということだ。
状況を察したのか、私以外の三人も武器を構える。
どうしていいのかわからずにハサミに似た武器を構えるネリス。
静かに大剣を構えるヴぁルター。
タルワールを構えるキース。
そして盾を構える私、シェリー。
彼女はキョトンとしていた。
「皆さん、どうかなされましたか?」
赤い霧が立ち込める。
血液が気体になったようだ。
私はもう一度訪ねる。
「もう一度聞く。返答次第では…」
「無いわ」
聞く前に言いやがった。
「無いものは無いもの」
開き直ったか。もう彼女の処遇は決まった。元々キースとも話していたではないか。
今回の騎士は人数がいつもより多い、と。
私は三人に向かって言った。
「殺せ!!」
ヴァルター、キース、私が一斉に切りかかり、少し遅れてネリスも攻撃する。
その状況になっても、アインスはなんとも不思議な顔をしていた。
何が起こったのかわからないというような顔をしていた。
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