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5――声

ズォーロリクスの見た目は少女に角が生えた感じです。

 普通、皆なら考えるだろう。

ここから化け物同士の壮絶な戦いが何分も何時間も続くのだと…


「消えろ!!ズォーロリクス!!!」


リゼの身体が消えた。いや、見えない程早く動いたのだ。

一瞬見えた。ズォーロリクスの身体を中心として、容赦無い全方向からの攻撃。完全に勝ちを確信した。

俺はズォーロリクスのことなどこれっぽっちも知らないが、勝った…と。それ程リゼを信用していた。


「…フフッ」


その瞬間奴は嗤っていたのだ。不気味だった…とてつもなく不気味だった。

猟奇的殺人ホラー映画とかに登場する殺人鬼やピエロの笑顔よりも不気味だった。吐き気がした。『アレ』はそういうものじゃないと本能が告げていた。

悪寒が…一気に背筋を駆け上がる。

 奴は全てを瞬間的に一瞥(いちべつ)し、手を少し振った。


「!?」

「あぁっ!」


レッソが思わず声を漏らす。リゼの四肢が飛んだ。いや、攻撃に使ったとかいう意味じゃない。物理的に飛んだのだ。その場にトルソーマネキンのようになったリゼが驚愕の表情を浮かべながら落ちる。四肢からは血液がとめどなく溢れ出す。

奴はまだ嗤っていた。

 そう、戦いなんてものは時間なんてかからない。そこには命と命のやり取り…取引が存在するだけだ。

 …実際、戦いは二秒足らずで決着が着いた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 どどどどど、どうしよう!!あんなの勝てる訳ねぇだろおお!!チートもいいところだろコンチクショー!!


「なんということだ…儂がいながら…こんな…」

「今回の騎士は雑魚ばかりか…すぐにでも魔龍様が復活するだろうね…うふふ…あはは…あはははははは」


ズォーロリクスがそう言って笑う。無邪気に、玩具を与えて貰った子どものように笑う。

その表情があまりにも幸せに満ちていて、それが正しいことなんだとさえ思えてくる。

だが本能がそれは違うと言い聞かせる。俺の本能を呼び覚ます。


―――――お前はこんな所でただ見ているだけなのか?


声が響く。違う。俺は世界を救うためにここにいる。


―――――お前には場違いでは無かったのか?


そう思っていた。でも違う。今の俺は騎士だ。封龍の騎士だ。他の誰でも無い…俺が封龍の騎士なんだ!


 その時、身体が動いた。背中を誰かに押された気がした。拘束はなぜか解かれている。

瞬時に最善策を…この状況を打開する策を考える。


 俺は将棋やチェスが好きだ。普通それらの対局は一手一手時間をかけて行うものだが、如何(いかん)せん俺には時間が無かった。

なぜかって?受験勉強さ。受験勉強もしながら好きなチェスや将棋もしていたので、必然的に対局の時間を短くするように努力した。

その結果、相手の一手を見てものの数秒で何百何千という手を考え付く能力が身に付いた。


「ユウさん!」

 カリィが叫ぶ。俺は切り取られたリゼの左腕へ向かう。赤い筋は血液だ。あの赤いボトルの中身は恐らく血液で、それを飲んでからリゼは攻撃に移ったのだろう。

吸血鬼は血を飲むと身体能力が上がるとか何かの本で読んだ気がする。

そして四肢からあふれ出る血液。あれこそがあの手足に血液が溜まっているという証拠ではないだろうか。

 俺は一番近くにあったリゼの左腕を掴むことに成功した。

奴はリゼの攻撃を瞬時に目で『目視』してから攻撃している。つまり…


「こういうことだ!」


俺は左の二の腕に隠していた小型のナイフでリゼの左腕を引き裂いた。そして勢いよく血が噴き出す。それをズォーロリクスめがけて放つ。


「なに!?」


俺という存在が攻撃してくるとは思ってもいなかったのだろう。しかも誰がこんな戦法を思いつくだろうか。

その相手の視界が一瞬血液だけになる瞬間を見逃さなかった。


「喰らえぇぇぇぇ!」


腰の短剣を奴の胸に突き刺す。血を出すために一気に引き抜き、距離を取る。


「ぬぐえあぁぁ…ぐぅぅ…」


胸を押さえ、手のひらから自らの血を溢すズォーロリクス。完全に致命傷だ。


「ふふふ…くくく…あはっ…あーっはっはっはっ」


こいつはどこまで不気味なのだろうか。また笑い出した。しかもあの無邪気な笑いだ。


「すごーい!こんなに私を出し抜いた『人間』は君が初めてだぁ!まだまだ私も未熟ということね…うんうん」


笑いながら頷くズォーロリクス。信じられない…あんなにも血を流しながら笑っている。常軌を逸している。

そこには正に『可愛らしい悪魔』と呼称するのがぴったりな存在がいた。


「まぁいいや。また遊ぼうね封龍の騎士たち。今度は全員しっかり殺してあげる!バイバーイ!」


そのまま一瞬で奴は消えた。そして悪寒が去った。本当に近くにはいないようだ。


 そんなことよりもリゼだ!


「リゼ!」


俺は駆けだす。リゼのもとに急いだがたどり着くやいなや笑われてしまった。


「あははははは!妾の腕をあんな使い方するなんて!やるじゃないか!初めてみたよあんな芸当!」


なんと、怒ってないのか。あんなことをされて。


「ん?あぁ、そういうことか。妾の手足を元の位置にくっつけてみせろ」


?…半信半疑でそうしてみた…すると


「あぁー!よっこらせっと!!」


なんとリゼは立ち上がったのだ!


「あれ?言ってなかったっけ?吸血鬼はこんな芸当もできるのだー。すごいだろぉ」


Vサインをこちらに向けて来るリゼ。その姿に安堵して…


「?…って!おいおい!何も泣くことないだろぉ!?」


泣いた。単純に良かったと。俺は彼女の笑顔を取り戻せたと。俺は誰かの役に立てたと。その事実全てに涙腺が耐えられなかった。


「……んー…ほらぁ~…よ、よーし…」


慣れない手つきでハグをしてくるリゼ。ただその温もりが暖かかった。俺の居場所はここだと確信させてくれる暖かさだった。

周りに他の三人がいたことを忘れていて後でからかわれたのは言うまでもない。


 そういえば…あの頭の声はなんだったのだろうか?


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 私たちは身構えていた。四人で『怪物』を取り囲んでいた。

どうしていいのかわからずにハサミに似た武器を構えるネリス。

静かに大剣を構えるヴァルター。

タルワールを構えるキース。

そして盾を構える私、シェリー。

中心にいるのは―――――アインス・レイローク。


 彼女はキョトンとしていた。


「皆さん、どうかなされましたか?」


赤い霧が立ち込める。

次はこっちサイドの話です。

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