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4――初戦

二話と一話を修正したので、読んで頂けると嬉しいです。

 この世界では殺人に関しては日常茶飯事的にあちこちで行われている。

つい先日リゼが商人の頭を吹っ飛ばしたが、あれも道行く人からすれば「あーあ、まただよ」程度の認識でしかない。

ここでの殺人とは人を殺すか殺さないかの話では無い。

問題はその殺された人間がどのような人物かということが、罪に直結する。


 例えば、殺人鬼を殺したとしよう。これは英雄扱いされてむしろ褒美すら貰えるかもしれない。

だが、罪の無い一般市民を殺したとしたらどうなるだろう。例えこの人物が表面上だけ良い顔をしていたとしても、それは罪に問われるのだ。

 要するに、死んでもいい人間や死んだ方がいい人間を殺しても罪には問われず、死んだら困る人間や死ぬにはあまりに残酷な人を殺せば罪になる。


 ここでカリィの話に戻ると、どうやら彼女は後者のようだ。


「どんな奴を()っちまったんだい?」

「……貴族です。……何人殺したかは覚えていません…」


キースの問いにカリィが答える。貴族となれば相当やばい。


 この世界において貴族はかなり重要な役割を担っている。例えば国の上に立つ王の一族は当然貴族だし、町の運営をする金を提供しているのも貴族だ。

貴族の支援無しでやっている所もあるとは聞くが、それは小さな町や村ぐらいなもんだろう。カリィが続けて話す。


「私、毒の力が使えるんです。それで、ある屋敷で使用人をしていた時に誤って毒の力を使って旦那様を殺めてしまったんです。それでお坊ちゃんにそれがバレて…」

「それで教会に捕まった訳じゃな?」

「いえ、彼はそうはせずにむしろ素晴らしいと言って私の力をいいように使って何人もの貴族を殺して貴族界でかなり上の人物まで上り詰めました。」

「なるほど、お前の力を利用して権力を手に入れた訳か」

「はい…でもそんな生活が嫌になって私は逃げ出しました。そこを…彼が教会に知らせたのでしょう…捕まりました。当然死刑でしたが脱獄を繰り返して逃亡中に紋章が浮かび上がりました」


そう言って彼女は自らの首筋の右側を見せる。

なんというか、最後が一番強烈だったぞ。元々彼女は虫も殺せないような人間だろう。なんというか皮肉なもんだ。気にかけてやらないと。


 その時、いきなり馬車が止まった。


「なんだ?」


御者たちの声が聞こえる。


「うわぁ…これは酷い」

「食い荒らした跡みたいだな…」


馬車の前には男性の死体が二体と、女性の死体が一体横たわっていた。

その死体が酷く、食い荒らしたようにズタズタなのだ。


「このズタズタ加減はドラゴンかなぁ」

「いや、最近流行りの『食人マスク』かもよ」

「ひえー、おっかねぇー」


食人マスク?なんだそれは?


「なんだユウ。知らないのか?」


そういう顔をしていたようだ。素直に知らないことを告げて教えてもらう。


「三年以上前から世の中で恐れられている殺人鬼だ。犯行の時はいつも顔全体を黒いマスクで覆っているからその名前がついた。その殺しが残酷で、殺した後にそれを『食う』らしい」

「死体を食べる!?」

「あぁ、奴は食べるために殺人をしている」


シェリーの話に目を丸くする。カニバリズムというやつだろうか。そういえば歴史上の人物に女の血で風呂に入るようなやつがいた気がするがそんな感じなのだろうか。

とにかく注意することに変わりはない。


「それに奴は犯行をする時に必ず言う言葉がある」

「『食事の時間です。いただきます』ですよねぇ~」

「そうだ、よく知っているな」


なんとネリスがこの話題に入って来るとは。雰囲気的に苦手かと思っていたが…案外メンタルは強いのかも?


 それも悲鳴でかき消される。


「ぎゃああああ!」

「うわぁっ!…はぁっ!……ゴブリ…ぐああああ!」

「御者の声だ!出るぞ!」


シェリーの言葉に全員が反応して出る。そして周囲はゴブリンに囲まれていた。


「数は十五体といったところじゃな」

「各個撃破だ!行くぞ!」


そう言って目の前のゴブリンへ突撃する。

懐からナイフを取り出し、ゴブリンの目に狙いを定めて投げる。見事命中。対象が悶えているうちに腰に刺している剣で首を綺麗に切り取る。

うむ、我ながらスムーズな動きだ。

次に右側のゴブリンだ。奴の武器を剣で受け止めながら流し、急所に突き刺す。これもスピーディーかつ迅速な処理だ。


 俺が二体のゴブリンを処理した時、既に周りの戦闘は終わっていた。

騎士全員欠けること無くそこにはゴブリン十五体の死体と、御者二人の死体があった。


「くそっ!」


キースが近くのゴブリンの頭をサッカーボールのように蹴り上げる。

すかさず苛立ちの訳を言う。


「これで『足』を失った。馬車に乗っていれば今日か明日には大陸の北端にある港から特異点に向かえたんだ。この死体は(やっこ)さんの罠だったって訳だ。くぅ~!やられたぜ」


全く持ってその通りだった。馬はゴブリンを恐れて逃げてしまったし、ここからは野宿をしながら徒歩で向かうしかない。

北端の町まで一週間から十日はかかるだろう。


「まぁ、全員が生き残っているのが不幸中の幸いじゃない?こっちには戦闘経験の少ないどころか皆無みたいな人もいたんだし」


アインスが水分補給しながら冷静に言う。確かにこちらには現状での非戦闘員が三人もいた。それでこの結果は満足は出来ないが、良い方と捉えるべきだろう。


「さぁさぁ、時間は有限なんだ。とっとと馬車から荷物を降ろして北を目指すぞ」

「おじさんに言われなくてもそうするところだったよ」

「レッソぉ~」


また家族喧嘩だ。シェリーにまたもや一瞬で鎮められたが。

どうやら一癖も二癖もある奴ばかりだが、内部で分裂して争いに…なんてことは起きなさそうだ。

そうして俺たちは北を目指して歩き出した。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 えっと………なんでこんなことになったんだ?

俺たちは途中で二手に分かれてしまい、こっちの五人は手足を縛られている。


こちらのメンバーは俺、リゼ、ザット、レッソ、カリィだ。残りが向こうのメンバーである。

なぜこんなことになったのかは少し前に戻る。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ユウ!そっちは頼んだぞ!」

「任せろ!」


シェリーに言われて追いかける。

ドラゴンが民間人を攫って逃げたのだ。トカゲの足が六本になって四足歩行したみたいな容姿だ。

民間人が襲われているのに遭遇した俺たちは何体かのドラゴンを蹴散らした後に女性が二人人質になってしまった。

そしてそのドラゴンは別方向に逃げて行ったので二手に分かれたのだ。


「リゼ!ザット!レッソ!カリィ!来い!」


俺は近い四人を呼んだ。これで五:五で戦力も二手に分けられた。

そして追いかけたのだが…


 民間人とドラゴンはグルだったのだ。俺たちを二手に分断し、仕留め易くするための罠だった。

気づいた時には意識が遠のいていた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 こいつはマズイ。旅が始まった日に人類の終わりが決まるのは流石にまずすぎる。


「ドラゴン様。これで私たちの村は救ってくれるんですね?」


どうやら脅されてやったようだ。そしてリーダーだろう。人型のドラゴンだ。凄まじい程の悪寒がする。これほど悪意に満ちた存在があっただろうか。


「あぁ…救ってやるさ…その前にお前の首から下はどこだ?」

「え?」


女性の首から下は無かった。何が起こったのかわからないという表情で女性が絶命する。

なんてこった。殺された本人に気づかれないように殺すとは…相当殺しをしてきたドラゴンだ。

歴史にある『四柱』と言われるドラゴンかもしれない。


「救う訳など無いであろう。後で全てを凍りつかせ、彫刻にでもしてくれるわ」


町全体を凍りつかせるほどの魔力!…こいつは間違いない。四柱の…


「ズォーロリクス」


横でリゼが言った。


「ほう?」


ズォーロリクスと呼ばれた人型はリゼの方を真っ直ぐに見据える。


「貴様は、二百年前にもいたなぁ?また全てを失いに来たのかぁ?」

「全てを、いや………貴様を消すために来た!!!」


リゼが拘束を気合で解く。吸血鬼の力ってやべー。


「ほう。その程度で貴様を封じるのは無理か」

「そうよ、貴方をここで封じてあげるわ」


そう言って腰に付けた赤いボトルの中身を一気飲みする。その瞬間、彼女の身体に変化があった。


「グ…グギギ…ウグアアアアアアア!!!」


目の瞳孔は開き切り、爪はより鋭利に、腕や足や顔には赤い線が何本も浮かんでいる。


ヒュッ


 瞬きをするよりも短い時間、その一瞬でズォーロリクスの周りのドラゴンが肉塊に変わった。


「おっと」


驚いた素振りを奴はしているが、全く驚いていない。予想通り、といったところだろうか。


「次は貴方の番よ」


そう言ってリゼは手の中のドラゴンの頭を握りつぶす。

ズォーロリクスは不気味な(わら)いを浮かべて言う。


「果たしてそうかな?」


こちらでは正真正銘の化け物同士の対決が行われようとしていた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


…何が起こった。

ユウたちと別れて追いかけたドラゴンが罠で捕まったところまでは理解できる。

だがしかし、なんだこれは。これまでヴァーヘンハイア騎士団長としてあらゆる化け物じみた人物を見てきたがそれでも『アレ』は異常としか表現できない。


 目の前には宙に浮かび旋回する人間の血液。その中心に立つホムンクルス。

彼女は表情一つ動かさずに罠に嵌めた人間たちを殺した。


「…何?」


彼女の瞳には曇りなど一切無かった。

話の展開が早いかもしれませんね

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